FASTER PUSSYCAT『WAKE ME WHEN IT'S OVER』(1989)
海外で1989年8月末、日本では1ヶ月遅れ同年9月末に発売されたFASTER PUSSYCATの2ndアルバム。全米トップ100入り(最高97位)を果たし50万枚以上のセールスを記録したデビューアルバム『FASTER PUSSYCAT』(1987年)からはチャートインするようなヒットシングルは生まれませんでしたが、今作では彼ららしいバラードナンバー「House Of Pain」が全米28位のヒットとなり、アルバムも全米48位&50万枚以上のセールスを記録しました。
プロデュースを手がけたのはBANG TANGO、LOVE/HATE、CINDERELLAなどを手がけるジョン・ジャンセン。薄っぺらくてグラマラスでスリージーなサウンドが良くも悪くも個性につながった前作から一変、本作では骨太で重心の低いハードロックサウンドが楽しめます。
演奏も決して上手ではないという印象だった彼らも、そのイメージを払拭しようと本作ではかなりプレイに力を入れたようで、そういったネガティブな部分があまり目に/耳に入ってきません。むしろオープニングの「Where There's A Whip, There's A Way」「Little Dove」での音の太さとタフさがにじみ出たプレイからは、同時期にリリースされたAEROSMITHの『PUMP』やMOTLEY CRUEの『DR. FEELGOOD』的な匂いすら感じられます。
最初にラジオだったかMTVだったかで先行シングルの「Poison Ivy」を聴いたとき、ぶっちゃけカバー曲だと思ったんですよ。それくらい、彼らにしては良くできた楽曲だと思ったから(実際、そういうタイトルの楽曲ありますしね)。ところが、アルバムを購入して気づいたのですが、これオリジナル曲なんですよね。びっくりしました。で、続く「House Of Pain」を聴いてもっとびっくりするわけですが。こんな素敵な曲が作れるんだ、作れるようなバンドになったんだ、と。
その後も「Gonna Walk」や「Pulling Weeds」など、リズムでかなり遊んでいる曲が並びます。で、思うわけですよ……「これ、ちゃんとライブで演奏できるのかな?」って(苦笑)。それくらい“出来過ぎ感”が強すぎる内容だったので。彼らの場合、褒めることや感心することを通り過ぎると心配になってくるんですよね……なぜでしょうか。
思えばこの頃から、80年代後半を覆っていた軽やかな空気を求める感覚は、どんどんヘヴィなものを欲するようになっていくわけで、1989年ってその転換期だったのかなと思っています。先に挙げたようなバンドのヒット作がまさにその幕開けを飾り、1991年にMETALLICAがブラックアルバムという“ヘヴィロックの教科書”を完成させてしまう。そこから、ハードロックバンドもヘヴィメタルバンドもそっち側に寄せていき、そんなことをしている間にシアトルからは新たな刺客が現れたと。そんな微妙な時期に生まれた、時代の徒花によるまさしく“時代の徒花”らしい1枚。パーティ感の強い「Slip Of The Tongue」「Tattoo」ですらヘヴィさを伴っているんですから、本当に面白い時代に生まれた名(迷?)作です。
▼FASTER PUSSYCAT『WAKE ME WHEN IT'S OVER』
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