FEEDER『TORPEDO』(2022)
2022年3月18日にリリースされたFEEDERの11thアルバム。
『TALLULAH』(2019年)から約2年7ヶ月ぶりのオリジナルアルバム。前作は全英チャート最高4位と、6thアルバム『SILENT CRY』(2008年)以来(8位)のトップ10入り、大ヒット作の5thアルバム『PUSHING THE SENSES』(2005年)以来(2位)のトップ5入りと大きな成功を収めました。
この結果を受けて、グラント・ニコラス(Vo. G)とタカ・ヒロセ(B)は早くも次作の制作に突入。その作業は2020年初頭まで続き、大まかなミックス作業まで完了しました。しかし、ロックダウン下におけるこれらパンデミック前に書き下ろされた楽曲はどこかリアルに響かず、結局多くの楽曲をボツにして、2020年以降の生活がリアルに反映されたダーク&ヘヴィな楽曲を新たに書き下ろすことになります。
当初は従来のFEEDERらしく、キャッチーでアンセミックな楽曲が多数含まれていたそうです(おそらく、新たに完成した本作における「When It All Breaks Down」や「The Healing」タイプに近いのかな?)。そういった王道ナンバーをあえて外してでも入れたかった楽曲……それがおそらくタイトルトラック「Torpedo」や「Magpie」のようにヘヴィなギターリフ&地を這うような重々しいリズムを持つ楽曲群だったのでしょう。もちろん、こういったタイプのサウンドは彼らが初期から持ち合わせていた要素のひとつであり、突然変異でも何でもありません。ある意味ではコロナ禍での生活が、バンドを覆うムードを一周させたのかもしれません。
また、ある意味では前作『TALLULAH』が原点回帰ともいえる、広い意味での“FEEDERらしさ”を取り戻したアルバムだとしたら、そこで得た手応えがさらにバンドをピュアな方向に導いた。しかも、パンデミックという困難な状況が引き金となって……。
もちろん、全編ダーク&ヘヴィというわけではありません。アルバム冒頭を飾る「The Healing」の“これぞFEEDER”といえる壮大なノリは、バンドの人気をピークにまで引き上げた4thアルバム『COMFORT IN SOUND』(2002年)や続く『PUSHING THE SENSES』の時期を彷彿とさせるものがあります。しかし、曲が中盤に進むと突然ダーク&ヘヴィなアレンジに突入する。終盤で再び冒頭の大らかなノリへと回帰しますが、このアレンジも2020年以降の生活を通過したからこそと言えるかもしれません。
もちろん「Torpedo」「Magpie」を筆頭に、「Decompress」「Slow Strings」のようにダークさの漂う楽曲も多いですが、中には「Hide And Seek」「Wall Of Silence」「Born To Love You」など暗雲立ち込める中でも光を見出そうとするような楽曲も含まれている。これらの楽曲からは「今の世界の状態をそのまま反映したような暗い作品にはしたくなかった。もちろん僕も人間だから、曲を制作するうえで周囲の状況には少なからず影響される。それでもこの作品がみんなの心に届いて、歌詞に共感してもらえたら嬉しい。きっと困難を乗り越える手助けになれると思う」というグラントのコメントどおり、閉鎖的状況をどうにか抜け出そうとする強い意志も伝わり、結局ただ混沌とした日常を額面どおりに綴ったわけではなく、その根底にはしっかりと「生き抜こう」というポジティブさが備わっている。だからこそ、重苦しさが全体を覆う本作を聴き終えても気持ちが滅入ることなく、次のアクションへとつながる“きっかけ”を与えてもらえたような前向きを覚えるんです。
ある意味では逆説的な手法かもしれませんが、それも軸に何事にも折れないポジティブさ備わっているからできること。だって、このバンドがどれだけ大変な状況を生き抜いてきたのか……知っていますよね? そんなFEEDERからの、パンデミック下をサバイブしたリスナーへの「生存確認の共有」と、次世代へ向けた新たな第一歩がこのアルバムではないでしょうか。
前作も大好きだったけど、今作はそれ以上にお気に入りであり、彼らのキャリア中3本指に入るような会心の1枚だと断言します。
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