FIGHT『WAR OF WORDS』(1993)
今回のテーマは「モダンヘヴィネス/ラウドロック好きにもアピールするHM/HR」ということで、元JUDAS PRIESTのボーカリスト、ロブ・ハルフォードがバンド脱退後に結成したFIGHTの、1993年に発表した1stアルバム『WAR OF WORDS』を取り上げたいと思います。
正直、今回のテーマで取り上げるべき作品は山ほどあります。今後第2弾、第3弾としてこのテーマを続けると思いますが、まず最初に「ヘヴィメタルの象徴」というべきシンガーが何故モダンヘヴィネス路線へと進んでいったのか……このへんを考えてみると、非常に面白いのではないでしょうか。
JUDAS PRIESTは1990年秋にバンド史上(当時)もっともアグレッシヴな作品『PAINKILLER』をリリースし、起死回生を果たします。若手メタルバンド(MEGADETHやPANTERAなど)とツアーに回ったり「OPERATION ROCK'N'ROLL」というパッケージツアーではアリス・クーパーやMOTORHEAD、METAL CHURCHらと全米をサーキットしたりして、約1年近くに及ぶ長期ツアーを成功させました。
1992年頃、とある映画のサウンドトラックにロブはPANTERAのメンバーをバックに「Light Comes Out Of Black」というモダンヘヴィネス寄りの楽曲を発表。同じ頃、プリーストはファストナンバーを集めたベスト盤の制作に乗り出す……のですが、どこでどうなったか、1993年に入ってロブがソロアルバムを作っていること、そしてそれがバンド・FIGHTへと変化していくこと、さらにプリースト脱退へとつながっていきます。
そうして出来上がった作品が、この『WAR OF WORDS』というアルバム。先のPANTERAとの共演が確実にきっかけになった、非常に当時のモダンヘヴィネス勢に影響を受けた作品となっています。もちろん、そうはいってもそこはメタルゴッドのこと、冒頭からいきなりハイトーンボイス炸裂の「Into The Pit」からスタートし、そのままノリのいい名曲「Nailed To The Gun」で『PAINKILLER』以降のリスナーのハートを鷲掴みにします(この2曲は最近のHALFORDのツアーでも演奏されているので、自分のキャリアの中でも残すべき名曲だという思いがあるのでしょう)。が、その後はミディアム~スローテンポのヘヴィな曲が続きます。
90年代前半のロックシーンを支えたのは、METALLICAやPANTERAといったラウドロック寄りのメタル勢と、NIRVANAやPEARL JAM、SOUNDGARDEN、ALICE IN CHAINSといったシアトルからのグランジ組だったのはご存じでしょう。1990年前後までのロックシーンを支えてきたHM/HRバンドはすでに時代遅れとなり、次々とレーベルから契約を切られるか、音楽性のシフトチェンジを強いられる。そんな中、IRON MAIDENを脱退したブルース・ディッキンソンはソロになって「SKUNK WORKS」というグランジ・プロジェクトを始めたり、再結成したDOKKENはTHE DOORS的な色合いを見せつつも、実はPEARL JAMのHM版だったという復活を遂げる(しかもそこそこ成功してしまう)。MOTLEY CRUEはボーカルが代わったことをいいことに、『DR. FEELGOOD』から大衆性を薄めたハードコアなヘヴィロックを我々に打ち出す……そう、一時代を築いたメタルバンドたちは皆、生き残るために必死だったのです。
しかし、このロブの音楽的進化(あえてこう呼ばせてもらう)には、そういう「必死さ」「切羽詰まり感」があまり感じられなかった。むしろ、『PAINKILLER』をさらに一歩押し進めた/モダンにしたような魅力さえ見え隠れするのですから。コアなプリーストファンからは否定されそうですが……もしロブがプリーストを脱退していなかったら、あの時期にJUDAS PRIESTは『WAR OF WORDS』に比較的近い作風のモダンヘヴィネス系アルバムを作っていたのではないだろうか? その後のプリーストが『PAINKILLER』という名作から7年も経ってから『JUGULATOR』という、時代遅れスレスレのモダンヘヴィネス系アルバムを発表したことからも、そのことが伺えるような気がしてなりません(逆に『JUGULATOR』というアルバムは、発表があと3年早かったらきっと名盤と呼ばれていたのかもしれないけど)。
ロブという人は、周りのブレイン(パートナー)さえしっかりしていれば、かなりの実力を発揮するアーティストだと思うのです。プリーストしかり、FIGHTのファーストしかり、今回のHALFORDしかり。しかし、FIGHTは2ndアルバム『A SMALL DEADLY SPACE』をリリース後に空中分解してしまいます。ファーストでのイニシアティヴを握っていたのがロブ本人で、周りの若手メンバーはそれをサポートする形で出来たのがあの名盤でしたが、セカンドではそれが逆転してしまった気がするのです。若手が引っ張る形でロブはそれに自分の色をつける……結果出来たのが、ヘヴィでスロウな曲が中心の、訴えるものが少ない中途半端な作品だった。その後ロブは、トレント・レズナー(NINE INCH NAILS)のレーベルから2WOというバンドでデビューするものの、ここでもボブ・マーレットという人間が出しゃばったため、どの層に訴えているのかが不明の中途半端な1枚を残して解散(ここのギタリストが、後にMARILYN MANSONに加入することとなるジョン・5)。ロブ自身にそういうモダンロックへの憧れのようなものが強くあるのだと思うし、『TURBO』でシンセギターを導入したり、『RAM IT DOWN』『PAINKILLER』で速い曲を多めに入れたりスラッシュ寄りになったりという時代感覚は、ロブのみならずほかのプリーストメンバーにも兼ね備わってるものなのかもしれない。ただ、それが若手よりもちょっとだけずれているだけで(笑)。いや、その「ズレ感覚」が結果オーライとなって、名作を作ってこれたのだと思うのだけど。
昨今のヒップホップ寄りモダンヘヴィネスとは違うものの、PANTERAやその手のハードコアな路線が好きな人に、間違いなくアピールする作品だと思います。個人的にはプリースト脱退後のロブの仕事の中ではHALFORDのファーストとどっこいどっこいで好きな作品なので(音楽性が違うため、どっちのほうが好きとは選べない)。