FIVE FINGER DEATH PUNCH『F8』(2020)
FIVE FINGER DEATH PUNCHが2020年2月末に発表した、通算8作目のオリジナルアルバム。日本盤未発売。
2007年のデビュー以降、常にコンスタントにアルバムを発表してきた彼ら。本作以前には2年に1枚は新作を届けていますし、2013年に至っては年に2作も発表する多作ぶりを発揮しています。一番感覚が空いた6thアルバム『GOT YOUR SIX』(2015年)から7thアルバム『AND JUSTICE FOR NONE』(2018年)の間も、実は新録2曲入り(のちにリリースの『AND JUSTICE FOR NONE』にも収録)ベストアルバム『A DECADE OF DESTRUCTION』(2017年)を発表しているので、驚きの働きぶりを見せ続けているわけです。
前作『AND JUSTICE FOR NONE』から本作のリリース間隔も約1年9ヶ月と、ここ最近の他アーティストのスパンから考えると非常に短いもの。前作リリース前にはメンバーのドラッグ問題など不安要素を抱えていたようですし、本作制作前にはオリジナルメンバーのジェレミー・スペンサー(Dr)が健康面の問題でバンドを離れています。しかし、本作はそういったマイナス要素を払拭するほどパワフルで前向きで、新たな一歩が刻まれた意欲作に仕上がっています。
メンバーがさまざまなインタビューで語っているように、本作には“Rebirth”という思いが込められているとのこと。メンバーチェンジを経ての再生もあるでしょうけど、バンド内に不和を抱えていた前作制作時から一転、非常にポジティブな空気に満ちた今だからこその“再デビュー”感ももしかしたらあったのかもしれません。それくらい、本作で聴ける楽曲群には新しい“何か”をたくさん見つけることができるのです。
オープニングを飾るインスト「F8」はストリングスをフィーチャーした、非常にシリアスな作り。そこから5FDPらしいガッツのある「Inside Out」へと続くのですが、この曲ですらいつも以上にシリアスな雰囲気を感じ取れる。それくらいバンドとしての“シラフ”感がダイレクトに伝わるこの曲から、「Full Circle」「Living The Dream」とリード曲に続いていくのですが……うん、いつもと気合いが違うことが確かに伝わります。
そんな“いつもとの違い”は、「A Little Bit Off」あたりから端的に表れ始めます。どこかアナログテイストのアコースティック調歌モノですが、ボーカル処理にはデジタルな要素が加えられている。かと思えば、ラップメタルの現代的進化版「Bottom Of The Top」や彼ららしいグルーヴメタル「To Be Alone」、ギターとドラムのユニゾンプレイが気持ち良いメタルコアとグランジの融合のような「Mother May I (Tic Toc)」、再びストリングスをフィーチャーしたダークなパワーバラード「Darkness Settles In」、前曲の静寂を切り裂くようなパワフルなグルーヴが気持ち良い「This Is War」、浮遊感の強い空間系エフェクトがかかったギターとラップ調ボーカルとの相性も抜群な「Leave It All Behind」、90年代以降のUSメタルの血を引き継ぐ「Scar Tissue」と個性的な楽曲が次々繰り出されていきます。そして、(ボーナストラックを除く)ラストはメジャーキーの穏やかな歌モノ「Brighter Side Of Grey」で締めくくり。優しさや切なさを併せ持つ、明るく希望を持たせる終わり方は5FDPのアルバム史上で非常に稀なもので、こういった点からも彼らが新たなフェーズに突入したことが伺えます。
アルバム本編はここまでなのですが、一般流通しているCDデラックス盤やデジタル版にはさらに3曲のボーナストラックを収録。PANTERAフォロワー的でもあるオールドスクールなグルーヴメタル「Making Monsters」、文字通り5FDP流セラピーを音で表現した「Death Punch Therapy」、リード曲「Inside Out」のラジオ・エディット(冒頭に原曲にはないパートを追加。MVで使用されているバージョンです)と、こちらも単なるおまけ以上の魅力が備わった仕上がりなので、個人的にはアルバム本編を終えたらひと呼吸置いてから楽しむようにしています。
ぶっちゃけ、新ドラマーのチャーリー・エンゲン(Dr)が加わったことで、リズム面にどういった変化が生じたのか、という点においては今回は明確になっていませんが、それを抜きにしてもバンドとして本気で“再生”した感が伝わる、強烈に個性的な1枚。90年代以降のUSモダン・メタルの総決算のような内容であると同時に、2020年代のUSメタル・シーンの新たな幕開けを宣言するような1枚でもあると確信しています。
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