fra-foa『宙の淵』(2001)
昨年だったか、「ポストCoccoは誰?」というような話題をした事があった。確かにCoccoというアーティストは唯一無二の存在であって、それに続くフォロワー的存在ってのはなかなか見当たらない。椎名林檎に対する矢井田瞳、宇多田ヒカルに対する倉木麻衣のような存在がいないのだ。もっとも、あんなアーティストが簡単に10も20も出てきてもらっても困る。
ソロアーティストとなると、皆無に等しいだろう。ではバンドでは? Coccoに匹敵するようなヘヴィなサウンドに繊細なメロディを乗せ、独特な歌詞を吐く、そんなバンド‥‥ひとつだけ心当たりがあった。それが今回紹介するfra-foaだ。
1話 真昼の秘密
2話 プラスチックルームと雨の庭
3話 夜とあさのすきまに
4話 ひぐらし
5話 澄み渡る空、その向こうに僕がみたもの。
6話 君は笑う、そして静かに眠る。
7話 青白い月
8話 月と砂漠
9話 宙の淵
さて、以上のタイトル、一体何のタイトルだろう? 一見するとドラマのサブタイトルのようにも見れるが、実はこれ、このfra-foaのファーストアルバム「宙の淵」収録曲の全タイトルだ。コンセプトアルバムではないものの、こうやって「1話、2話」と連続性を持たせる事によって、1曲1曲をピックアップするよりも全体を通して聴きたくなるような仕組み?になっている(特に頭数曲は曲間が殆どなく、ずっと1曲が続いているような錯覚に陥る)。実際に先日行われたワンマンライヴでも、この曲順通りでライヴが行われたそうだ。CD時代になったここ15年くらいの間に、1曲目から順を追ってアルバムを聴き通すという行為が希薄になってきてるように感じていたので(実際、俺も買ったばかりのアルバムを飛ばし飛ばし聴くことが多い)、このタイトルを最初見た時には「おおっ!」と唸ってしまった。
さて、俺がこのバンドを知ったのは昨年の初夏だっただろうか? 深夜番組のCMで彼らのデビュー曲"月と砂漠"の一部を耳に(目に)した。(本庄まなみ+ELT持田香織)÷2といったルックスの三上ちさ子(Vo.)と相反するようなグランジチックなヘヴィサウンド‥‥一聴してCoccoを思い浮かべたものだ。
そしてその年の秋に、雑誌「rockin'on Japan」で三上のインタビューを読んだ。そこではセカンドシングル"青白い月"の歌詞の背景について語られていた。この楽曲というのが‥‥彼女の兄が幼い頃に亡くなったという実体験を元に作られているそうだ。不謹慎だが、ちょっとこの箇所が非常に気になったのも確か。そしてラジオでこの楽曲をフルコーラス聴く。かのスティーヴ・アルビニをエンジニアに迎えたこの曲‥‥それまでCocco的と感じていた俺は、ここで自分の間違いに気付く。ここにあるのは情念とかそういった類のものではない。「ぼくはここにいるよ。わたしはここにいるよ。」というメッセージ。ただそれだけなんじゃないだろうか? そう思えてきたのだ。
そして今日、アルバムを手にしたわけだが‥‥その気持ちは確信に変わった。「わたしはここにいる。ここにいることに気づいて。」というメッセージ。それは丁度マンガ「MONSTER」に登場するヨハンとアンナのようでもある。たまたまここ数日読みふけっていたからイメージが重なったのかもしれないが、そう思えてならないのだ。幼い頃の実体験やトラウマのようなものがこのアルバムの中では唄われている。それは人によっては「パンドラの箱」のように開けてはいけない、封印したい過去かもしれない。しかしこのバンドの全楽曲の作者である三上ちさ子は、言葉にして、歌にして表現する事によって自分自身の存在を証明しているように感じる。「そしてわたしはここにいる。気づいて」と‥‥
アルビニが数曲の録音に関わっている事もあってそのサウンドは一時期のグランジのようでもあるが、あそこまでモノトーンというわけでもなく、もっとカラフル‥‥どちらかというとRADIOHEAD以降といった感じだろうか。フリーキーなプレイや不協和音のフィードバック等にその片鱗を伺わせる。そう、サウンド自体は斬新というわけではない。しかし、ここに三上の言葉が乗ることによって、そして彼女が唄い叫び囁くことによって、これら9曲は独自の輝きを放つ。それは人によっては眩い程の輝きを放つあまり、目を背けたくなるものかもしれない。けど、これが現実。気づいてあげなきゃ。「きみはそこにいたんだね?」って。
アルバムブックレットの最後に、彼女はこう述べて閉めている。
たとえ 一瞬でも
自分たちの音に
触れてくれた事に、
感謝します。これら 愛すべき音のうち
どれか一つでも
ある瞬間 その心の中に
生命が宿る事を 願って・・・。
残念ながら先日、Coccoは音苦活動の停止宣言を発表した。事実上の引退という事だろう。fra-foaはCoccoではないし、そのフォロワーというわけでもない。彼女の代用品になんてなり得ないのだ。けど‥‥彼女のファンにも手にとって欲しい1枚でもある。そしてダーク/ゴス路線のヴィジュアルロックが好きな人にも是非聴いてもらいたい。一体どういう反応をするのだろうか‥‥?
そして、これを読んだあなたにも‥‥
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