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2018年11月24日 (土)

FREDDIE MERCURY『MESSENGER OF THE GODS: THE SINGLES』(2016)

2016年9月にリリースされた、フレディ・マーキュリーのシングルコレクションアルバム。フレディのソロアルバムは、生前に残した『MR. BAD GUY』(1985年)とオペラ歌手モンセラ・カバリエとのコラボ作『BARCELONA』(1988年)の2枚のみで、それ以外のアルバムはすべて彼の死後に制作されたもの。『THE FREDDIE MERCURY ALBUM』(1992年)を筆頭に、数々のコンピ盤が発表されていますが、今作はフレディの生誕70周年を記念してシングルの表題曲とカップリング曲を2枚のディスクにまとめたものになります。

収録内容は実に幅広く、QUEENのデビュー前にラリー・ルレックス名義で1973年に発表された「I Can Hear Music」(THE BEACH BOYSのカバー)から始まり、映画『メトロポリス』のサウンドトラックに提供された「Love Kills」(1984年)、「I Was Born To Love You」や「Made In Heaven」などといった『MR. BAD GUY』からのヒットシングル(この2曲はのちにQUEENバージョンも制作)、ミュージカル『タイム』に使用された「Time」(1986年)、『BARCELONA』からのシングル、アルバム未収録だったソロシングル「The Great Pretender」、そしてフレディの死後に発表されヒットした「In My Defence」(ミュージカル『タイム』より)や「Living On My Own」のリミックス(1993年に全英1位獲得)など、全13枚のシングルがカップリング含め網羅されています。

『MR. BAD GUY』や『BARCELONA』収録曲は各アルバムのレビューを読んでいただけばいいし、それ以外の曲も『FREDDIE MERCURY SOLO』に収録されているものが多いので、ここでそういった曲の解説はあえて避けておきます。

映画『ボヘミアン・ラプソディ』の中では、フレディのソロがバンドの及ぼした悪影響が表現されており、パーティ三昧だったレコーディング期間を目にするに“いかにも失敗”だったように描かれています。もちろんこれはストーリー的にも、絆を再確認するクライマックスを盛り上げるために必要な描写だったわけですが、じゃあ本当にフレディのソロが駄作ばかりかというと……聴いていただけばおわかりのとおり、QUEENの『HOT SPACE』(1982年)期をサウンド的により推し進めたポップソングが目白押しなわけですよ。その究極形が、「Living On My Own」のリミックスだと個人的には思っています。

もちろんフレディのソングライターとしてのセンスはしっかり証明されていると思うし、「Time」や「The Great Pretender」のようなスタンダートナンバー的な楽曲では彼のシンガーとしての資質が余すところなく表現されている。『BARCELONA』なんてまさにそんな作品集ですし、死後にヒットした「In My Defence」はそれがベストな形でパッケージされた1曲ですしね。

シングルコレクションとはいえ、本作は時系列を無視した構成になっています。アルバムとして楽しむことを想定した曲順だと思うのですが、至るところからフレディのエネルギーを感じ取ることができるし、その歌の深みにじっくり浸ることができるはず。QUEENとはまた違った形で、シンガーとしてのフレディの魅力を堪能できる、手軽な1枚ではないでしょうか。

P.S.
ストリーミングでは肝心の「In My Defence」や「Time」など、デイヴ・クラーク楽曲がすべて聴けない状況です。残念極まりない……。



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2001年11月24日 (土)

FREDDIE MERCURY『FREDDIE MERCURY SOLO』(2000)

自分がロックというものと出会ってから、既に20年以上もの月日が流れた。その間、有名・無名を含めても何百人というアーティスト達がこの世を去っていった。一番古い記憶だと、やはりジョン・レノンだろうか。ジョンの死は自分の人生の中でもかなり鮮烈な記憶として残っている。そして、それに匹敵する程の衝撃を与えたアーティストの死。それは1991年1月のスティーヴ・クラーク(DEF LEPPARD)であり、今回紹介するQUEENのフレディ・マーキュリーであった。特にフレディが亡くなった1991年11月24日は、別の意味でも忘れられない日となった。

今回は彼の死について語るのではなく、彼のバンドを離れてのソロ・ワークについて、昨(2000)年10月にリリースされた『FREDDIE MERCURY SOLO』という3枚組ボックスセットを通して紹介していきたいと思う。

このボックスセットはフレディが生前残した2枚のオリジナル・ソロアルバムと、幻のテイクやシングル・オンリーの曲、フレディの死後に発表されたリミックス曲を収録したボーナスディスクの計3枚から構成されている。最大の売りは、暫く廃盤となり手に入らなかった初のソロアルバム『MR.BAD GUY』(1985年)がここで楽に聴けるようになったことだろうか。フレディの死後にQUEEN名義で発表された『MADE IN HEAVEN』というアルバムには、このソロアルバムから数曲、ボーカルトラックのみを残してバックをブライアン・メイ、ジョン・ディーコン、ロジャー・テイラーの演奏に差し替えて「QUEENの新曲」として発表されているが、ここではそのオリジナルを聴くことができる。まぁ自分と同世代やそれ以上の年代の方にとってはこっちのオリジナルの方に愛着があって、QUEENヴァージョンにはちょっと違和感が‥‥なんて人が多いかもしれない(実は最初、自分もそのひとりだったりしたのだが)。

そしてこのボックスのリリース前に急に廃盤になった、1988年発表のクラシック作品『BERCELONA』もリマスターされ、再びここで聴けるようになった。オペラ界の大御所、モンセラ・カバリエとのデュエット作とも呼べるこの1枚は、ロック/ポップサイドを求めるファンには少々辛い作品かもしれないが、QUEENというバンドの根底にあるものを改めて再確認することができる、非常に興味深い1枚なのではないだろうか? 特にリリース当時よりも、フレディの死後の1992年にバルセロナで行われた夏季オリンピックのテーマ曲として話題になった事の方が記憶に残っているかもしれない。

さらに、今回のボックスセットにボーナスディスクと称され追加された7曲入りディスク。これはちょっと貴重な音源も含んでいるので、上の2枚を既に持っている人にもオススメだ。

まず1曲目の「I Can Heare Music」。これは名義としては「ラリー・ルーレックス」という偽名でリリースされているものの、間違いなくフレディ・マーキュリーのボーカルである。1972年頃、当時QUEENのファーストアルバムをレコーディングしてる最中に録音されたものだそうで、楽曲自体はBEACH BOYSのカヴァー。聴いてお判りの通り、フィル・スペクターを彷彿とさせる「ウォール・オブ・サウンド」を再現したオールディーズっぽさが新鮮だ。更にブライアン・メイもそれと判るギターでゲスト参加、ロジャー・テイラーもパーカッションで参加している。QUEENではここまでオールディーズっぽい要素が表出することもなく、またソロでもこういった要素はあまり見受けられなかったので、今回のリリースによるCD化は正直有り難い。これはかなり面白い。

続く「Love Kills」は、正真正銘のフレディ・マーキュリー初のソロシングルとなった1曲。映画『メトロポリス』の主題歌としてリリースされたもの。後のファーストソロと同系統のエレポップ。元々は1984年のQUEENの『THE WORKS』の際に書かれた楽曲で、当時は使用されず後にこの映画の為に録音され、1984年10月にリリースされることとなった。古臭さは拭えないが、意外と今聴くと新鮮なのも確か。メロディは如何にもフレディらしいもので、潤いのあるポップな佳曲。ギターレスな点に違和感を感じるQUEENファンの気持ちもよく判るのだが。

3曲目「The Great Pretender」は1992年にリリースされた編集盤『THE FREDDIE MERCURY ALBUM』の1曲目にも収録された、プラターズの名曲カヴァー。これはマジで素晴らしいアレンジ&パフォーマンスだと思うのだが、如何だろうか? 我々がイメージする「ゴージャスなフレディ・マーキュリー」を見事に演じきった、快心の1曲。1987年2月にシングル化、トップ5入りするヒットとなった。

4曲目「Living On My Own」はファーストソロ『MR.BAD GUY』に収録された同曲を、フレディの死後新たにリミックスしたバージョン。前述の編集盤『THE FREDDIE MERCURY ALBUM』からのシングルという形でカットされ、このリミックスバージョンは当時のクラブシーンでもヒットを記録した結果、ソロとしては初のナンバー1ヒットとなる(皮肉なことに、彼の死後に)。サウンド的にはオリジナルよりもかなり現代的なリアレンジがなされていて、リミックスバージョンの発表から8年経った今聴いても、古臭さを感じさせない。意外と今のクラブでかけても違和感なく踊れるかも。

5曲目「In My Defence」は1985年にミュージカル『タイム』の為にデイヴ・クラークが書き下ろした楽曲。発表当時はサントラの1曲として登場したものの、フレディの死後、先の編集盤『THE FREDDIE MERCURY ALBUM』リリースの際に先行シングルとしてカットされ、4位まで上昇するヒットとなっている。そのままQUEENの1曲としても通じるほどの普遍性を持った名バラードで、特にボーカルパフォーマンスの凄まじさに鳥肌が立つ。ちなみにこのボーカルトラック。一発撮り即OKだったそうだ。感動的な超名曲。ファン以外をも唸らす1曲ではないだろうか?(ちなみにこのボーナスディスクの音源は、今回のリリースに際してリミックスされたものだ)

6曲目「Time」も同じくミュージカル『タイム』の為の楽曲。当初この曲はフレディ以外の人間が歌う予定だったが、先の"In My Defence"のボーカルパフォーマンスにデイヴ・クラークがノックアウトされ、急遽唄うことになったそうだ。この曲も今回新たにリミックスされている。

最後は「Love Kills」のロック・ミックス・バージョン。ライヴでの歓声を被せ、シンセの代わりにギターをメインにしたアレンジがより「QUEENのフレディ」を色濃く表現してるように思う。ピコピコしたエレポップバージョンもいい味出していたが、こっちのバージョンもより大きなノリを持った好バージョンだ。

ちなみに以上7曲の内、1曲目と4曲目、7曲目以外は先の編集盤『THE FREDDIE MERCURY ALBUM』に収録済みだったので、既に持ってる人にとってはダブりが生じて新鮮さが余り感じられないのかもしれないが、全音源新たにリマスターされているので、音質的には飛躍的に向上している。オマケにしても豪華な選曲なので、これはこれでお得感が強いと思うのだが。特に1曲目「I Can Heare Music」はここでしか聴けない音源なわけだし。

こうやって3枚のディスクを通してフレディ・マーキュリーというシンガー/ミュージシャンを改めて考察してみたわけだが、勿論ソロだけでなくQUEENというバンドも理解しないことには彼の本来の姿は見えてこないだろう。しかし、逆に言えばQUEENだけでは見えてこない面というがあるのも事実。現にモンセラ・カバリエの事なんて、あの共演がなければ我々は知りもしなかったわけだし。映画音楽に数多く携わっている点も興味深いし(そういえば、QUEENでも映画音楽に数多く関わっているし)。

既に彼がこの世を去ってから10年が経った。自分にとってはあっという間の10年だったような気がする。彼が亡くなる前の10年と亡くなった後の10年を比べた場合、残念ながら亡くなってからの方が評価が高いような気がする。それは仕方ないことなのかもしれない。と同時に、「ああ、エイズで死んだバイ(セクシャル)ね?」と彼を軽視する音楽ファンも未だに多い。如何に彼が類い希なる才能を持ち合わせたミュージシャン/シンガーだったか、この3枚組からだけでも相当な収穫があると思うのだが‥‥俺がここまで言うんだから、レンタルでもいいんで、ちょっと手を伸ばして欲しいな。俺の音楽感とか人生観とか歌に対する姿勢とか、そういう価値観を全て変えてくれたのがこの人だったのだから(残念ながら、それも彼の死後のことだったのだが)。



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FREDDIE MERCURY & MONTSERRAT CABALLE『BARCELONA』(1988)

「ロックバンドQUEENのシンガー/ポップシンガーとしてのフレディ・マーキュリー」をイメージして手を出すと痛い目を見る、非常に難解且つ評価の難しいクラシカルなボーカル作品、というイメージの強いこのソロ第2作目。フレディがシンガーとして最も憧れていたオペラ界の重鎮、モンセラ・カバリエとの共演を実現させたという意味では、フレディの長年の夢を1枚の作品として記録した非常に重要なアルバムという風に解釈できる。が、いくらQUEENでオペラチックな要素が強く出色していようが、オペラそのものを好きこのんで聴くロックファンは少ないだろう。そういう意味では、俺が唯一持っているオペラ作品集という事になるのだが(笑)。

実際、この共演についてフレディは1984年頃から考えていたらしい。そして1986年頃のテレビインタビューでもオペラに対する情熱、とりわけカバリエに対する愛情を熱く語っていたという。そして幸運にもそのコメントがカバリエ本人の元に届き、QUEENのマネージメントがふたりの対面をセッティングした。そして意気投合したふたりはアルバム制作へと乗り出すのだった。

実は今聴くと、意外とQUEENとの共通点や要素が多い事に改めて気付かされる。それはサウンドプロデュースに末期QUEENを支えたデヴィッド・リチャーズとマイク・モーランが関わっている点が大きく関係している。味付けやアレンジ等は『INNUENDO』と比較的近いものを感じるし、幾多にも重なったオペラコーラスはQUEENまんまだし、判る人が聴けば純粋に「QUEENのフレディ」が作った作品として評価することが出来るはずだ。ただ、ブライアンのあの印象的なギターワークとロジャーの力強いドラムビートがない点を除けばの話だが。

1曲目「Barcelona」は1992年のバルセロナ・オリンピックでも散々耳にしたことと思うので、ご存じの方が多いと思う。当時はしっかりとPVまで作られた程の力の入れようで、ちょっと驚いた‥‥というよりも、高校生だった俺は引いた記憶が(苦笑)。純粋なロック小僧だった俺にはまだ早かったようだ。続く2曲目「La Japonaise」はフレディお得意の日本語歌詞が登場する、間違ったアジア解釈が登場するアレンジが絶妙な(笑)迷曲。その他の曲のも共通することだが、その後のQUEENのアルバム‥‥特に『INNUENDO』への伏線となるアイディアが幾つも垣間見れるのだ。既にこの頃にはHIVに感染している事をフレディ自身が認識していたはずなのだ‥‥世界最高峰のバンドの一員、そして音楽家としての夢の実現。ある意味、この作品でフレディは音楽家としての夢を全うしてしまったのかもしれない。

それにしても、シンガーとしてのフレディの引き出しの多さ、テクニシャン振りには舌を巻く。歌唄いを目指してる方がもしこれを読んでいたら、悪いことは言わない。ジャンルが違うからと言わずに、是非この作品を手にして欲しい。シンガーとは本来、こういうものなのだといういいお手本になるだろうから。

最後に、モンセラ・カバリエのフレディに対する評価を紹介しよう。

「『BARCELONA』はフレディの素晴らしい音楽的才能のサンプルだと思うわ。彼はただのポピュラー・シンガーじゃなく、ピアノを弾いて私のために作曲できるミュージシャンなのね。彼は違った音楽のスタイルを一緒にする新しい方法を発見したわ。彼が、この分野の第一人者で、唯一の人なのよ。」



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FREDDIE MERCURY『MR. BAD GUY』(1985)

QUEENのアルバムでいえば『THE WORKS』(1984年)と『A KIND OF MAGIC』(1986年)の間、1985年にリリースされたのが、このフレディ・マーキュリー初のソロアルバム。プロデュースにはフレディと共に、そのQUEENの2作を手掛けたMACKが当たっている。サウンド的にはその2作や同じMACKプロデュースの『HOT SPACE』(1982年)に共通する「シンセを多用したエレクトロサウンド」がメインで、時々挿入されるギターオーケストレーションがモロにブライアン・メイを彷彿とさせるものだったりして、結局ソロで何がやりたかったのかのピントがぼやけてるような‥‥曲に関していえば、間違いなく「QUEENのフレディ・マーキュリー」が書いた楽曲で、その後QUEENでも再録音される「Made In Heaven」や「I Was Born To Love You」等はまんまである。

確か当時、QUEENが70年代程のヒットをあげられなかったり音楽的にこれまでとは全く違った方向性に向かっている事が原因で、メディアやファンの間で「QUEEN解散」の噂が飛び交っていて、それを後押しするかのようにフレディのソロがリリースされたのだった。

基本的にここにある音楽は、QUEENが80年代前半にやってきたことの延長線上にあると言っていいだろう。勿論、この頃のQUEENにもヘヴィでロックンロールしてる要素はあった。そういった楽曲でヒットも飛ばした。そしてそれらがフレディというよりも、ブライアンの要素だということも明らかだった。あの当時は中学生だった俺には理解できなかったことだが、もしかしたらQUEENとしての軌道修正を行う為にバンドは一旦ストップし、フレディは『HOT SPACE』等でやろうとしたことの完成型をこのソロアルバムでやり遂げようとしたのではなかったのだろうか? 本人が亡くなってしまった今となってはその回答を得ることは出来ないが、何となくその後のQUEENの充実振りを考えると、そう思えてならない。そしていい意味でこれらの要素も消化したQUEENが生み出したのが『INNUENDO』を筆頭とした後期の傑作だったのかもしれない。そう考えると、やはりこのソロアルバムはQUEENファンにとって避けては通れない、非常に重要な1枚ということになる。

やはりフレディという人は、ロックアンセムを唄う人というよりは、孤高のポップシンガーといった方が似合っている。この軽快でダンサブルで、それでいてソウルフルな歌の聴けるアルバムを聴けば聴くほど、唯一無二の存在だったのだなぁ‥‥と感慨深くなる。サウンド的には2001年の現在聴くとちょっとキツい面も多いのだが、逆にこの下世話さが「QUEENのフレディ・マーキュリー」そのものだったのだと思う。



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1998年11月24日 (火)

QUEENと僕(改訂版)

今年も11月24日が来て、過ぎていく。

もう何度目だろうか? この時期になると、とても切なくなる。11~1月というのは、僕にとって大切なミュージシャンが多く亡くなっている。特にこの11月24日には特別な想いがある。同じ年の同じ日に、アメリカとイギリスをそれぞれ代表するバンドのメンバーが亡くなったのだから。そのうちのひとりが、僕の「シンガーとしての心の師匠」フレディ・マーキュリーであり、彼が在籍したのが自分にとって大切なバンドのひとつQUEENである。

QUEENの音楽性を考えるとき、必ずあの「カメレオンのように変化し続けるサウンド」を思い浮かべることだろう。実際、多くのミュージシャンが自分たちの音楽性の変化を「QUEENみたいな幅広い音楽性」「QUEENは常にひとつの場所に留まってはいなかったろ?」と例え、あるときはそれを免罪符にする。では、一体どれだけのバンドがQUEENに近づけていたのだろう?

と同時に、QUEENの古くからのファンもその変化に、迅速についていけたのだろうか? 僕の世代に関して言えば、答えはノーだと思う。初期のグラマラスなヴィジュアルと「Bohemian Rhapsody」のようなオペラチックな楽曲のイメージ、それ以後(特に80年代以降)の「ポップなヒットシングル量産バンド」的なイメージが、どうにも結びつかなかったのだ。だって、リアルタイムでは後者のQUEENしか知らない世代なのだから。

* * * * *

1992年2月にあのGUNS N' ROSESが東京ドーム3日間という、HR/HM系アーティストとしては異例の日本公演を行った。初日、中日はハプニングも続出し、あのアクセル・ローズが袖に引っ込む場面も目に出来たようだ。最終日はヴィデオ収録され、当時衛星放送で録画放送され、そののちセル・ヴィデオとして世界中でリリースされた。残念ながら僕はその頃、イギリスに留学中だったためライヴには足を運べなかったのだが、後日友人が録画した衛星放送のヴィデオを借りて観ることができた。僕が体験した1988年12月の初来日と比べたらまったく別のバンドになっていたが、それでも十分カッコ良かった。

注目の場面はアンコール時に訪れた。アクセルがアカペラで何やら歌いだしたのだ。この頃から彼らは即興で、自分たちが影響を受けたアーティストの曲のさわりを、チラッと披露する機会が増えていた。アクセルは2~3曲歌ったのだが、それらは我々日本人には余り馴染みのない曲ばかりだった。しかし、1曲だけ耳に残るメロディの曲があった。「Sail away little sister~」と歌っているように聞こえた。でも、曲名が判らない。

しばらくの間、この曲が誰の、何という曲なのか?で僕の周りは持ち切りだったが、その答えは数ヶ月後に雑誌で明らかになる。QUEENの「Sail Away Sweet Sister」という曲だった。まったく知らなかった僕。1980年リリースのアルバム『THE GAME』に収録されている、ブライアン・メイがヴォーカルをとるマイナーな曲だった。QUEENといえばメジャーなシングル曲しかしらなかった僕には「何故アクセルはこの曲を?」という疑問でいっぱいになった。

さて、なぜアクセルはこの曲を知っていたのか? 理由は簡単。このアルバムがQUEENのアルバムの中で、アメリカでもっとも売れた作品だからだ。70年代、彼らはアメリカで数々のヒット曲、ヒットアルバムを生み出してはいるが、No.1シングル/アルバムは1枚もなかった。ところが80年代に入り、彼らは2曲のNo.1ヒット曲とその2曲を含むNo.1アルバムを生み出すことになる。それがこの『THE GAME』なのだ。

このアルバムからは「Crazy Little Thing Called Love」「Another One Bites The Dust」といったNo.1ソングのほかにも2曲のシングルヒットが生まれた。1位になった2曲はそれ以前の彼らのイメージからするとまったく異質のものだった。プレスリーばりのロカビリーナンバー(前者)に、ファンキー/ソウルフル/ディスコ調で間違ってブラック・ミュージック専門ラジオ局で流されそうな後者。「グラマラスでオペラティック」な70年代のQUEENの面影はそこにはなかった。初期の世界観が好きだった日本人が困惑するのも、もっともか。しかし、アメリカでは違った。アメリカ人は純粋に「曲の良さ」に気づき、従来のQUEENのイメージに捕らわれず、それがヒットへとつながった(……のかもしれない)。だから、アクセルがこのアルバムのナンバーを口ずさんだとしても、決して不思議なことではない。もっとも、アクセルは生涯の名盤に『QUEEN II』を選ぶようなマニアだし、その選曲のセンスは“いかにもマニア”と言えなくもないけど。

* * * * *

いかに最初に与えるイメージが大きいか? それがあとあとまで響くか? それはどのバンドにも言えることだろう。METALLICA然り、U2然り、MANIC STREET PREACHERS然り。僕のような80年代半ばに“リアルタイムのQUEEN”と出会い、初めて聴いたフレディの歌声はソロ曲で、最初に出会った新譜が『A KIND OF MAGIC』という世代なら、なおさらQUEENの本質になかなかたどり着けないのかもしれない。

だけど、結局最後は曲の良さだ。曲が良ければ、どんなイメージだろうがそれらをねじ伏せてしまうんじゃないだろうか。もちろんその曲がその人の趣味の範疇じゃなかったら、それはもう不幸としか言いようがないが。

正直、『A KIND OF MAGIC』というアルバムは大好きだ。だって、ハードロックもあればポップスもダンスもあるし、オペラとはいわないけど壮大かつクラシカルなバラードもある。最初こそ“ロックバンド”として捉えるのは難しかったけど、それも後日、同作のツアーの模様が深夜フジテレビで放送されたのを観て「ああ、ロックバンドじゃないか」と納得させられた。これが、最後の来日(1985年春)に間に合わなかった狭間の世代の不幸である。

これからQUEENを聴こうという人は、まず下手な先入観を持たずに触れてほしい。手っ取り早くベスト盤がいいだろう。初期の超有名ヒット曲満載の『GREATEST HITS』(1981年)もいいが、それよりも今回は80~90年代のヒットシングルを網羅した『GREATEST HITS II』(1991年)を先に聴いてもらいたい。いかに彼らが素晴らしいソングライター集団だったかを追体験できる、お手頃な内容なので。これを聴けば、いかにイギリスのミュージシャンたちが直接/間接的にQUEENから影響を受けているかが伺えるはずだ。何せ彼らは「イギリスの国民的ヒーロー」なのだから。

* * * * *

最後に、個人的な想い出話をふたつばかり。フレディの亡くなる数週間前に、僕はある友人から1枚のCDを譲り受けた。もう聴かないからといって僕の手元に渡ったそのアルバムは、QUEENの『INNUENDO』(1991年)だった。その年の頭にリリースされてはいたが、当時は激しい音楽が好みだったので、あまり興味を持てず無視していた。もちろん、雑誌で「往年のQUEEN節、復活!」と騒がれていたのは知っていたが。

アルバムを聴いた。ビックリした。正直な話、鳥肌が立った。それくらいの衝撃だったのだ。まさかQUEENを聴いてこんな衝撃を受けるとは。僕にとって、正に「完璧/完全無欠」の1枚だった。1曲1曲が際立っていて、捨て曲一切なし。そしてラスト2曲、「Bijou」「The Show Must Go On」。悲しいくらいに名曲。と同時に、何かを悟ってしまった。「まさか、これで解散とか!?」……そう感じさせるくらいに悲しく、そして前を向いている曲だった。

数週間後、“事実上の”解散となったQUEEN。フレディは生前、残された最大の力を振り絞ってあの曲を歌い上げたのだろう。そう考えると、無性に切なくなってしまった。そして「もっと早く、彼らの良さに気づいておけばよかった」と。その後ゆっくり時間をかけて、彼らのオリジナル・アルバムを買い揃えたのは言うまでもない。

もうひとつの想い出は、翌1992年11月24日のこと。偶然にも1年前にあの“不運な出来事”があったその日に、僕らのバンドはライヴを行うことになった。僕はこの偶然を見逃さなかった。意図したわけじゃないのに、って。そこでバンドのメンバーにある提案をした。「1曲でいいからQUEENの曲をカヴァーしてみないか?」と。しかしその願い空しく、提案は却下された。だが、僕は諦めなかった。当日、僕がアコースティック・ギターを持つ曲が2曲あった。その内の1曲の前に、僕がMCをとる場所があった。

当然、やってしまったわけだ。ギター1本で「Love Of My Life」を。練習したかいがあった。最初はアカペラで、途中からギターをつま弾きながら。フル・コーラスとはいかなかったが、それで十分だった。その日のお客のうち、何人かが気づいてくれた。その日、僕はQUEENのトレードマーク(『GREATEST HITS II』のジャケット参照)が入ったTシャツを身に付けていたから。後にも先にも、QUEENの曲をカヴァーしたのはこれが最初で最後だった。



▼QUEEN『GREATEST HITS II』
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