QUEEN + PAUL RODGERS『THE COSMOS ROCKS』(2008)
2008年9月15日にリリースされた、「QUEEN + PAUL RODGERS」名義唯一のスタジオアルバム。日本盤は同年9月17日発売。
それまでも何度か共演経験のあったブライアン・メイ(G, Vo)とポール・ロジャース(Vo/ex. FREE、ex. BAD COMPANY)でしたが、2004年にフェンダー・ストラトキャスター発売50周年イベントで一緒になったことを機に、ロジャー・テイラー(Dr, Vo)を含む3人でのコラボレーションを画策。2005年に入り、先の名義によるワールドツアーを開催し、1986年の『Magic Tour』以来19年ぶりとなるQUEENを冠したライブツアーが実現しました。
ここ日本にも同年10月に訪れており、当方も10月30日の横浜アリーナ公演を訪れております。同じタイミングには、同ワールドツアーをパッケージ化したライブ作品『RETURN OF THE CHAMPIONS』(2005年)もリリースされ、ここでひと段落かなと思っていたら、活動はさらに続き、今度は完全新作を完成させるに至りました。
全13曲すべてが書き下ろし楽曲で、それぞれがブライアン、ロジャー、ポールの単独名義で制作されています。クレジットを見ると、ブライアンが3曲、ロジャーが6曲、ポールが5曲というバランス。3分の2がQUEENで残りがFREEもしくはBAD COMPANYと受け取ることもできますが、どの曲も“らしい”多重ハーモニーとブライアンのギターオーケストレーションが加えられることで、“それっぽく”聴こえてくるから不思議です。あと、「Still Burnin'」みたいに過去の楽曲をサンプリングする(ここでは「We Will Rock You」のリズムパターン)ことで「QUEEN」らしく聴かせることに意識的なポイントも散見されます。
しかし、やはりボーカリストがまったく異なると、最終的には似て非なるものになってしまう。もともとフレディ・マーキュリーのように華のある歌い手ではないポールですから、どうしても地味で小さくまとまってしまう。「Cosmos Rockin'」みたいに従来のQUEENがやっていそうなロックンロールナンバーも、ポールが歌うと不思議とこじんまりした形に落ち着く。言い方は悪いですが、力技で突き抜けるような爽快感は皆無です。が、ポールの節回しなど含め、深みのある歌唱スタイルは聴き込めば聴き込むほど味わいが伝わってくる。と同時に、ポールに引っ張られるようにブライアンのギタープレイもQUEENではあまり見せなかったフリーキーさーを見せてくれる。「Voodoo」あたりで披露されるフレージングは、まさにそういった好演の代表例ではないでしょうか。
QUEENもポールも、もともとブラックミュージックの影響下にあるロックを独自の形で昇華させてきたアーティスト。そのアプローチこそそれぞれ異なるものの、こうしてひとつに融合することで、“第3の解釈”をここに封じ込むことができたのではないでしょうか。もちろん、それはQUEENそのものではないし、もっと言えばFREEでもBAD COMPANYでもポールのソロとも違う。どっちつかずと言ってしまえばそれまでですが、僕は本作を「QUEENとソウルフルなロックを題材にした化学反応を楽しむ場」と受け取るようにしています。なので、リリースされた当時よりも大人になった今のほうが、フラットな気持ちでこの良作と向き合えているのではないかな。
なお、本作には今は亡きテイラー・ホーキンス(FOO FIGHTERS)が「C-lebrity」のバックコーラスで参加しています。いかにもブライアン・メイらしいエッジの効いたハードロックは、今聴いても抜群にカッコいいですね。
▼QUEEN + PAUL RODGERS『THE COSMOS ROCKS』
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