GARY MOORE『HOW BLUE CAN YOU GET』(2021)
2021年4月30日にリリースされたゲイリー・ムーアの18thアルバム。日本盤は海外に先駆け、同年4月28日に発売。
2011年2月6日、58歳という若さでこの世を去ったゲイリーが生前最後に発表したオリジナルアルバムは、2008年発売の『BAD FOR YOU BABY』でした。その後、数々の未発表ライブ音源が制作されてきましたが、未発表スタジオ音源で構成された“新作”は今作が初となります。
本作に収録された楽曲の録音時期はそれぞれ異なるようで、クレジット(プロデューサーやレコーディング参加メンバー)から推測するに大半の楽曲が『BACK TO THE BLUES』(2001年)期にレコーディングされ、ドラムのループやプログラミングを多用した「Looking At Your Picture」のみおそらく90年代後半に制作されたものなんじゃないでしょうか。この曲のみ、プロデュースがゲイリー&イアン・テイラーという90年代の諸作品によく見られた連名ですし(ほかの楽曲はゲイリーとクリス・タンガリーディスのプロデュース)。
収録曲は全8曲と少なめですが、6〜7分台の楽曲が半数を占めるためトータル44分という、フルアルバムとして成立するボリューム。その内容も、これまでライブ音源でしか聴くことのできなかったフレディ・キング「I'm Tore Down」のスタジオテイクや、『OLD NEW BALLADS BLUES』(2006年)収録のエルモア・ジェイムス「Done Somebody Wrong」の別テイク(おそらく『OLD NEW BALLADS BLUES』制作よりも前に収録されたテイク)、アルバムタイトルにも用いられたB.B.キング「How Blue Can You Get」といったブルースのカバーソングや、『CORRIDORS OF POWER』(1982年)リマスター盤に追加収録された「Love Can Make A Fool Of You」の別アレンジバージョン(同曲はもともと坂上忍に提供されたもので、のちに浜田麻里もカバー)、アイルランドのチャリティアルバム提供曲で本人名義の作品には未収録だった「Living With The Blues」、そして「Parisienne Walkways」「Still Got The Blues」などの名曲にも匹敵する泣きのバラード「In My Dreams」などのオリジナル曲など、過去のブルースアルバムと肩を並べる仕上がりとなっています。
とにかく、先行配信された「In My Dreams」や「Love Can Make A Fool Of You」「Living With The Blues」といった泣きのバラードナンバーの仕上がりが本当に素晴らしく、なぜこれらが今まで未発表だったのかが不思議に思えてきます。こういった楽曲(およびリアレンジ)は手癖で書けるよ、手癖で弾けるよってことだったのかもしれませんが、結局我々が彼に望むプレイや楽曲ってこういう泣きメロのスローナンバーだった気がするんですよね。そういった意味では、本作は楽曲のバランス、ボリューム含めベストと言えるものであり、亡くなってから10年経った今こうした作品が届けられたことでよりフラットに楽しめるのではないでしょうか。
いわゆる没後の未発表曲集ではあるものの、問答無用のニューアルバムとして成立する本作。後ろ向きで懐古主義な1枚ではありますが、もはや叶わぬ夢を叶えてくれたという意味では非常に貴重かつ重要な作品ではないでしょうか。8曲に絞られたのか、これ以上発表するに値するテイクはなかったのかはわかりませんが、おそらくこれが正真正銘最後の“ニューアルバム”だと思うので、心して向き合いたいと思います。
▼GARY MOORE『HOW BLUE CAN YOU GET』
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