GTR『GTR』(1986)
ASIAを脱退したスティーヴ・ハウ(G)が、元GENESISのスティーヴ・ハケット(G)と結成した、プログレ界の新たな“スーパーグループ”GTR。彼らが1986年夏に発表した唯一のスタジオアルバムが本作『GTR』です。
ボーカルにはのちにPHENOMENAやマイク・オールドフィールドの作品に参加するマックス・ベーコン、ベースには同じくマイク・オールドフィールド流れのフィル・スポルディング、ドラムには元MARILLIONで幅広いジャンルでも活躍するセッションプレイヤーのジョナサン・ムーバーを迎えていますが、ギタリスト2名以外の知名度はそこまで高いものではありません。だからこそ、どんなサウンドになるのか未知数だったところもあると思うんです。
僕はMTVで先行シングル「When The Heart Rules The Mind」を観て(聴いて)、そのASIA譲りのドラマチックなハードロック調サウンドに心惹かれ、アルバムに手を出しました。シンガーのマックス・ベーコンが高音を張り上げて歌うタイプだったので、HR/HMリスナーにもかなり親しみやすかったんじゃないでしょうか。僕自身、ASIA以上にそっちの感覚で楽しめましたし。
それに、シンセはあくまで味付け程度で若干後ろに引っ込め、ギター2本を軸にした“適度にプログレッシヴ”なアレンジは、産業ロックやプログレポップとは呼び難いもの。いや、そんなことないか。とにかく、ボーカルとギターが豪快で、全体のトーンにも統一感が感じられる。しかも途中に登場するギターインスト(それぞれスティーヴ・ハウ、スティーヴ・ハケットによる2分程度の作品)がアルバム中で良いアクセントとなっているのも、また良いんですよね。
大半の楽曲はハウ&ハケットのペンによるもので、曲によってマックスや他メンバーが携わっているんですが、2曲目の「The Hunter」のみASIAのジェフ・ダウンズによる作品。かといって、ASIAっぽいかと言われると、全然そんなことないんですけどね。ちなみに、後年ASIAもこの曲をセルフカバーしているので、聴き比べてみてはいかがでしょう。ASIA版はジョン・ペインの歌声のせいもあって、全然印象が異なりますから。
YESらしさも、(ポップになる前の)GENESISらしさも混在しつつ、プログレッシヴなハードロックとして機能するクオリティの高い1枚。残念ながら全米11位と、ASIAほどの成功を収めることなく、バンドはこの1作で解散を迎えてしまいました。あのまま続いていたらどんな作品を作っていたのか想像もつきませんが、30年以上経った今も忘れ去られることなくこうやって本作を楽しめるのは、このバンドにとってはある意味幸せなことなのかもしれませんね。