カテゴリー「Halestorm」の17件の記事

2023年2月13日 (月)

HALESTORM『HALESTORM』(2009)

2009年4月28日にリリースされたHALESTORMの1stアルバム。日本盤は『LOUD PARK 10』での初来日にあわせて、2010年10月27発売。

リジー(Vo, G)&アージェイ(Dr)のヘイルきょうだいを中心に1997年から活動を続けてきたHALESTORMですが、ジョー・ホッティンジャー(G)&ジョシュ・スミス(B)が加わった2003〜4年以降に活動が本格化。2005年には現在も所属するメジャーのAtlantic Recordsと契約し、翌2006年春には5曲入りライブEP『ONE AND DONE』をリリースします。

そこから地味なライブ活動を展開していき、ハワード・ベンソン(HOOBASTANKDAUGHTRYIN FLAMESなど)をプロデューサーに迎えてじっくり時間をかけて1stアルバムを完成させます。ミキシングエンジニアにクリス・ロード-アルジ、マスタリングエンジニアにテッド・ジェンセンという一流どころを起用し、ゲストプレイヤーにはのちにBON JOVIに加入するフィル・X(G/「Bet U Wish U Had Me Back」のみ)、楽曲制作のコライトには元EVANESCENCEのベン・ムーディー(G)やSIXX: A.M.のジェイムズ・マイケル(Vo)、現MOTLEY CRUEのジョン・5(G)、SLIPKNOTSTONE SOURコリィ・テイラー(Vo)、AEROSMITHなどとのコラボで知られるマーティ・フレデリクセンなど著名アーティストが顔を揃えており、いかにレーベルがこのバンドに力を入れているかが伺えます。

そのサウンド的には正当的なアメリカンハードロックが下地になっており、スピードよりもグルーヴ感やヘヴィさを重視したテンポからはすでに大モノ感すら伝わります。アメリカ人、基本的にこういったミドルテンポの楽曲が好きですものね。あと、クレジットを確認するとすべての楽曲はリジーを中心に執筆されているものの、どれも単独で書いたものではなく、より良いものへとまとめ上げるために複数のコライターが名を並べている。かなりいろんな思惑の働いた作品ではあるものの、だからこそデビューアルバムにも関わらず異常に完成度が高い。世が世ならHEARTみたいに産業ロック呼ばわりされそうですよね。

そうそう、僕が初めてこのアルバムを聴いたときの印象が、まさに80年代のHEARTだったんです。心地よいテンポ感でまとめられたアメリカンハードロックに、これまた心地よく響くリジーのボーカルが乗る。全体を通してラジオフレンドリーな作風で、ゆっくり時間をかけて丁寧に売っていこうとする、そういう姿勢が見え隠れしたんです。リスナーによってはそういった作風に嫌悪感を示すのかもしれませんが、捻くれ者な自分はこういう力の入った“売れ線”も大好物なので、当時からよく聴いていた記憶があります。

実際、このアルバムから「I Get Off」「It's Not You」「Familiar Taste Of Poison」「Bet U Wish U Had Me Back」といったラジオヒットが生まれ、アルバム自体も全米40位まで上昇。現在までに50万枚以上を売り上げるヒット作になりました。ここでの地道な成功があったから、続く2ndアルバム『THE STRANGE CASE OF...』(2012年)での大成功(全米15位、ミリオン獲得)へとつなげていけたんでしょうね。

 


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なお、本作リリースから10年後の2019年12月20日には、10thアニバーサリー・エディションもアナログ&デジタルで発売されています。こちらはCD未発売ということもあり、日本盤も発売されておりません。

本バージョンはアルバム本編11曲に加え、メジャー契約後の2006〜8年に録音された12ものデモ音源をボーナストラックとして収録。その多くが1stアルバム未収録で、音質こそ劣るもののメジャー感の強いアルバム本編とは異なるオルタナメタル/ポストグランジ的なテイストは非常に新鮮に響くはずです。

こうした歴史を踏まえつつこのデモテイクを、時系列に沿って追っていくと、どのような段階を踏んで完成度の高い1stアルバムへと到達していったか、その過程を確認できるはず。本編をしっかり楽しんだあとに、こちらもチェックしてみるといろいろ発見も多いと思いますよ。

 


▼HALESTORM『HALESTORM: THE 10TH ANNIVERSARY EDITION』
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2023年2月12日 (日)

HALESTORM JAPAN 2023@Zepp DiverCity(2023年2月7日)

Img_6594 昨年春に最新アルバム『BACK FROM THE DEAD』(2022年)を発表したHALESTORMの、2019年12月以来となる単独来日公演。僕は同年3月の『DOWNLOAD JAPAN 2019』で彼女たちのステージを初めて体験し、その男臭い演奏と意外にエンタメ色も備わった演出に一発で惹かれたクチでして。今作は出来がかなり地味だったものの、ライブだけはどうしても観ておきたくて友人にチケットを確保してもらい、いざお台場へと向かいました。

2階席後方と、ステージから距離はあったもののかなり快適に観覧できる環境とあって(また、なぜか2階席のお客さんが立ち上がらなかったこともあって)、終始落ち着いてライブを楽しむことができました。まず、久しぶりにナマで見るリジー姐さんは髪がロングになっていて、その色っぽさがハンパない。短髪時代はその佇まいがジョーン・ジェットと重なり、“新世代のロックヒロイン”感が相当濃かったものの、色香が強くなったことでステージ上の華やかさが以前とはだいぶ異なりました。

……とヴィジュあるの変化はあったものの、そこはHALESTORM。いざライブがスタートすればその豪快な歌声とダイナミックな演奏で、一気に現実に引き戻される。姐さんのパワフルなボーカルは90分ものライブの間、一度もテンションが落ちることはなく、逆に曲が進むにつれてその熱量はどんどん上がっていくという。改めて類い稀なる喉の持ち主だなと圧倒されました。

ジョー・ホッティンジャー(G)はその粗暴(笑)なビジュアルとは相反し、随所随所で繊細さを伴うプレイも聴かせてくれるし、押し引きを心得ているからこそリジー姐さんとのギターコンビネーションも抜群。あの謙虚さがあるからHALESTORMはバランスよく活動を継続できているんでしょうね。かと思えば、アージェイ(Dr)は相変わらず派手なアクションを交えたドラミングが特徴的。無駄な動き(笑)の数々で、観る者を惹きつけ楽しませてくれる。その顕著な例が、ドラムソロコーナーでの巨大スティックを使ったプレイでしょう。方法こそ異なるものの、どこか往年のトミー・リーMOTLEY CRUE)と重なるものがあります。そして、そんな2人の間に入って地盤を固めるのが、ハットをかぶりクールな佇まいのジョシュ・スミス(B)。このバンド、4人のキャラクターや役割が見事にバラバラで、だからこそ4人の関係性が均等なんでしょうね。そういった意味でも、非常に“バンド”感の強さが伝わります。

あと、今回のステージを観てバンドの余裕といいますか、懐の深さを感じさせたのが序盤でのある出来事。ステージ前方でアピール(?)していた女性ファンにジョーが気づき、それをリジーに話しかけると、リジー姐さん即座にスタッフを通じて彼女をステージへと引き上げます。そしてマイクを渡された彼女と一緒に「Apocalyptic」を演奏するのでした。ステージに上げられた彼女はもともとHALESTORMのトリビュートバンドのシンガーだったこともあり、自身も歌える曲だったこともあって無事セッションすることができたわけですね。なんだかこういうの、GREEN DAYがお客を上げてギター弾かせるのとリンクして、微笑ましいなと思います。

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ライブ中盤はリジーのピアノ弾き語りによるバラードタイム。フロアに「スマホのライトで照らして」と声がけすると、幻想的な空間に一変。「Break In」「Dear Daughter」のメドレーに続いて、「Masa Itoに捧げるわ」の一言から「Raise Your Horns」へ。すぐ目の前に伊藤さんいらっしゃったので、なんとなく周りがクスクスしていたのが印象的でした。

Img_6604 随所でお客さんとコミュニケーションをとりながら、終始笑顔で進行していくライブ。ミドルテンポの楽曲中心なのはアルバム含め、これまでのライブから引き続きなのですが、そんな中で「Freak Like Me」みたいなリズム感の曲はやっぱり映えますね。そういう意味では、唯一のアップチューン「Love Bites (So Do I)」の出番が早すぎるといつも感じるのですが、まあそこに頼りすぎていないから序盤に披露しちゃうのかもね。あと、新作デラックス盤に追加公演された「Mine」みたいな曲は、ライブに入れると大きなフックとなるので東京公演でも披露してほしかったな(大阪ではやったみたいですが)。

公演ごとにセットリストをだいぶいじってくる彼女たちですが、次は東京でも複数公演やってほしいくらい。そのためには、さらにファンベースを広げる必要も生じてきます。なので、メタル系フェスではなくサマソニみたいな場への投入が、今後の課題なのかもしれません。

セットリスト
01. Back From The Dead
02. Love Bites (So Do I)
03. Wicked Ways
04. Apocalyptic
05. Bombshell
06. Amen
07. Break In / Dear Daughter [Lizzy Piano Solo]
08. Raise Your Horns [Lizzy Piano Solo]
09. Familiar Taste of Poison
10. Drum Solo
11. Freak Like Me
12. I Get Off
13. The Steeple
<アンコール>
14. Here's To Us
15. Psycho Crazy
16. I Miss The Misery

2022年11月19日 (土)

TOM KEIFER『THE WAY LIFE GOES』(2013)

2013年4月30日にリリースされた、元CINDERELLAトム・キーファー(Vo, G)による1stソロアルバム。日本盤は同年5月22日発売。

トムのスタジオ新作音源は、CINDERELLAのラスト作となった4thアルバム『STILL CLIMBING』(1994年)以来、実に19年ぶり。ちょうど『STILL CLIMBING』制作前後からトムの喉の不調もあり、何度か手術も経験。バンドはその間に不定期ながらもライブを行なっていますが、トム自身はこのソロアルバムに向けて2003年頃からゆっくりと準備を進めていたようです。

Warner Music傘下のインディーズレーベル・Merovee Recordsから発表された本作は、グレッグ・モロウ(Dr)、マイケル・ローズ(B)、トニー・ハーレル(Key)という手練の一流ミュージシャンたちをバックに迎えて制作。また、曲ごとに元バンドメイトのジェフ・ラバー(G/2021年没)、パット・ブキャナン(G,Harp)、ゲイリー・バーネット(G)、ロン・ウォレス(G)、エタ・ブリット(Cho)などゲストプレイヤーも多数参加しており、要所要所で適度な華やかさの感じられる音作りとなっています。

全体的な方向性としては、CINDERELLA時代の3rdアルバム『HEARTBREAK STATION』(1990年)でのアーシーかつレイドバックしたアメリカンロック、カントリーロックを下地に、オーソドックスな楽曲群を楽しむことができます。「Fool's Paraside」のような楽曲こそあるもののハードロック的側面は薄く、そういった点でも完全に“『HEARTBREAK STATION』のその先”と言えるような仕上がりです。

トムのボーカルは中音域の地声を中心にしつつも、キメるべきポイントではしっかりジャニス・ジョプリンばりのしゃがれたハイトーンも聞かせてくれる。初期のように終始ハイトーンでがなるのではなく、ナチュラルな地声で歌い通す中に時折ハイトーンが飛び込んでくるからこそ、良いアクセントになっている。喉のコンディションを維持するという点においても、このバランス感は大事なのかもしれません。もっとも、この穏やかな土着的サウンドの上では無理にシャウトする必要も感じられませんしね。

聴く人によっては地味で引っ掛かりのない1枚に感じられるかもしれない。しかし、『HEARTBREAK STATION』で展開されたR&Bを通過したロックンロールやアコースティック色の強いカントリー路線にも一定の理解を示したリスナーなら、本作は十分に理解してもらえるはず。これ!というキメの1曲が存在しないことだけは難点ですが、それでもリラックスしながら聴く分には文句なく楽しめる1枚だと思います。

なお、本作はリジー・ヘイル(HALESTORM)をフィーチャーしたCINDERELLA「Nobody's Fool」のセルフカバーやジョー・コッカーのカバーで知られるビートルズ「With A Little Help From My Friends」などボーナストラック3曲に、特典映像を収録したDVDを付け、アートワークを変更した形で2017年10月20日に再リリース。現在サブスクなどではこちらのバージョンが流通しています。アルバム本編14曲はそのまま変わらずなので安心ですが、終盤になって急に経路の違う名曲中の名曲「Nobody's Fool」が飛び込んでくるのでびっくりするかもしれません。

にしても、リジーは本当に良いシンガーですね。往年のトムに匹敵する、いや、彼とは違う魅力を兼ね備えたパワフルボーカルは本当に魅力的ですし、それに応えるトムも全盛期には及ばないものの、テクニックと味わい深さで本領発揮。サウンドこそハードロックですが、この世界観自体は非常にゴスペルチックなものも感じられ、改めて素晴らしい曲だなと実感させられます。一方の「With A Little Help From My Friends」はジョー・コッカー版アレンジで、THUNDERBON JOVIなど手垢が付いたカバー。こちらも原曲およびアレンジが最高すぎるので、最終的には先の「Nobody's Fool」とともにアルバム本編の印象を消してしまうのが難点。頑張れ、トム・キーファー。

 


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2022年5月 9日 (月)

HALESTORM『BACK FROM THE DEAD』(2022)

2022年5月6日にリリースされたHALESTORMの5thアルバム。日本盤は同年5月11日発売予定。

オリジナルアルバムとしては全米8位を記録した前作『VICIOUS』(2018年)から約3年9ヶ月ぶり。新録曲からなるデジタルEP『REIMAGINED』(2020年)をその期間に挟んではいるものの、コロナ禍の影響もありスパンとしては過去最長となってしまいました。

プロデュースを務めたのはカバーEP『REANIMATE 3.0: THE COVERS EP』(2017年)、前作『VICIOUS』から引き続きニック・ラスクリネクツ(ALICE IN CHAINSMASTODONKORNなど)。かつ、今回はコ・プロデューサーとしてスコット・スティーヴンズ(SHINEDOWNDAUGHTRYNEW YEARS DAYなど)も名を連ねており、ストリングス・アレンジメントのほかアコースティックギター(「Terrible Things」)でも制作に参加しています。

基本的な作風は、ダイナミックでミドルテンポのハードロックサウンドを軸にリジー・ヘイル(Vo, G)のボーカルを効果的に届けるアレンジという前作の延長線上にあるもの。前々作『INTO THE WILD LIFE』(2015年)でのスタイルをよりヘヴィなものへと昇華させたのが前作だったとすると、今作はその『VICIOUS』でのスタイルをよりブラッシュアップさせたものと受け取ることができます。

と同時に、歌を効果的に聴かせつつも各楽器パートの主張もより強くなっているように感じれ、バンド感が今まで以上に伝わる作品でもあるのかなと。中でもリジー&ジョー・ホッティンジャー(G)のギタリストとしての存在感は過去イチと言えるもので、リフワークはもちろんのこと、ちょっとしたソロプレイに至るまで耳に残るフレーズが今まで以上ではないでしょうか。今まではリジーの歌に引っ張られているところも多分にあったのでしょうが、先にも述べた“バンド感”の向上により一人ひとりの役割により重みが増した。それもこれも、コロナ禍の影響でツアーができなかったり、面と合わせて曲作りやレコーディングが難しかったりする状況に陥ったことも大きいのかな。

リジーは本作の制作に関して、「新型コロナウイルス(が問題となる)約3ヶ月前にアルバムの制作をスタートしたの。ロックダウンが実施されたあとは、ライブもツアーもできなくなってしまって、とても憂鬱な気持ちになり、自己喪失に陥ってしまった。このアルバムは、私がその深い底から抜け出すストーリーを描いています。メンタルヘルス、放蕩、サバイバル、救済、再発見、そして人間への希望、という旅を体験できると思うわ」とコメントを残していますが、そうしたリジーの思いをメンバーが汲み取ったのか、あるいは同じタイミングに同様のことを感じていたのか、なんにせよロックダウンなどを経てじっくり時間をかけて完成させただけある、充実度の高い1枚と言えるでしょう。

「Back From The Dead」や「The Steeple」といったリード曲はもちろんのこと、パワフルな歌と演奏でグイグイ引っ張るドラマチックなアレンジの「Wicked Ways」、豪華なストリングス隊をバックにリジーが繊細かつ力強く歌い上げる「Terrible Things」あたりは本作のハイライト。特に後者は直近のEP『REIMAGINED』での試みがうまく反映されている印象を受けます。

ただし、全体を通して同じようなテンポ感(ミドルテンポ、もしくはミディアムスロー)が続くことがあり、若干の平坦さを覚えるのも確か。「Terrible Things」や「Raise Your Horns」のようなスローバラードは良いアクセントになっているものの、1曲くらいアップテンポの楽曲があったらアルバムとしてもう少し変化がつけられたんじゃないかな(あるいは「Wicked Ways」タイプの楽曲をもうひとつ、中盤以降に置くとか)。とはいえ、このダークさや閉塞感も“2020年以降”の世の中を反映させたものと言えるので、先のリジーのテーマを考えると致し方ないのかな。

このバンドの場合、楽曲のバリエーションがある程度パターン化してしまっているので、もしこのスタイルを維持していくのであれば、今後はいかにアレンジで勝負できるかが鍵になりそうです。

 


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2021年3月30日 (火)

EVANESCENCE『THE BITTER TRUTH』(2021)

2021年3月26日にリリースされたEVANESCENCEの5thアルバム。日本盤は同年3月24日に先行発売。

スタジオ作品としてはオーケストラとのコラボアルバム『SYNTHESIS』(2017年)から3年4ヶ月ぶり、全曲新曲で構成されたオリジナルアルバムとなると『EVANESCENCE』(2011年)から約9年半ぶりの新作。随分と時間が経ってしまった感がありますが、良くも悪くも「Bring Me To Life」(2003年)の幻影を断ち切るには十分だったのではないかと思います。

プロデュースを担当したのは、前々作『EVANESCENCE』を手掛けたニック・ラスクリネクツ(ALICE IN CHAINSCODE ORANGEDEFTONESHALESTORMなど)。メインソングライターのひとりだったテリー・バルモサ(G)に代わり2015年に加入した女性ギタリスト、ジェン・マジューラ(G)を含む新編成で取り組んだ、真のデビュー作と言えるでしょう。大半の楽曲はエイミー・リー(Vo)、トロイ・マクロウホーン(G)、ティム・マッコード(B)、ウィル・ハント(Dr)の4人が中心となり制作されており、そこにジェンや、ウィル・B.ハントなるドラマーのウィル・ハントと同名のプログラマー/プロデューサー(前作『SYNTHESIS』のプロデュースはこちらのB.ハントのほうが担当したようです。同名なので、クレジット上では“B”を付けているみたいですね)、ニックなどが加わりまとめあげたと推測されます。

メロディの抑揚が以前の作品と比べて弱いせいもあってか、ダークが際立ちつつも、どこかこじんまりした印象を与える本作。それでも随所にこのバンドらしい美メロが散りばめられており、一定以上の完成度は保っていると思います。実際、フックになるような楽曲も少なくないですし、アルバム本編12曲を通して聴いたときの印象も決して悪くありません。個人的には中盤から終盤にかけての流れや楽曲の配置の仕方が、従来のEVANESCENCEらしいと思いましたし、序盤でちょっとした違和感を残しつつも後半にかけて“らしさ”を提示する流れは決して嫌いじゃありません。

演奏面でも非常に工夫されており、前々作『EVANESCENCE』以上に“バンド”感が強まっている。“エイミー・リーwithバンド”だった初期2作と比べたら、そりゃあエイミーが後ろに引っ込んでいるように映るかもしれませんが、これが今のEVANESCENCEの在り方であり、バンドを長生きさせるための処世術なんだろうなということが伝わってきます。

何度かリピートしても、やはり「Use My Voice」から本編ラストの「Blind Belief」までの流れ(および各楽曲)が文句なしの仕上がりなので、若干薄味な序盤と帳消しという点ではやはり及第点かな。

実は昨年2月中旬、エイミーが和楽器バンドとのライブ共演(およびコラボ新曲制作)のために来日した際、大阪でのライブ前日に和楽器バンドとエイミーの座談会のほか、エイミーの単独インタビューも担当したのですが(こちらは翌月に控えた『DOWNLOAD JAPAN』や、春から始まるWITHIN TEMPTATIONとの欧州ツアーについても伺っていたのですが、コロナの影響でいろいろな予定が狂ったため、現在まで未公開のまま)、その際にニューアルバムの進行についても聞いており、「ほぼ完成しているけど、残り数曲をツアーの手応えを経てから完成させて、秋には発表したい。それまでには新曲も随時リリースしていきたい」という話をしてくれていました。

そう考えると、このアルバムって当初予定していた内容とは少し違うものになったのかなと思うんです。もっと言えば、コロナの影響がもろに反映された愛用/作風だなと。抑揚の弱さや本作以前と比べて質感の異なるダークさは、まさにその一環だろうと感じます。「Use My Voice」にはリジー・ヘイル(HALESTROM)やテイラー・モムセン(THE PRETTY RECKLESS)、シャロン・デン・アデル(WITHIN TEMPTATION)などの女性ボーカリストがゲスト参加していますが、これらもリモート(データのやり取り)で制作されたものでしょうし。きっと、これらのバンドとツアーをしていたらまた違った仕上がりになっていたかもしれないし、もっと言えばこの曲は生まれなかったかもしれない……そう考えると、つくづく難しい世の中になったものだなと感じます。

コロナの影響を差し引いても、本作は特別ずば抜けたアルバムとは言い難いかもしれません。しかし、どうしても2021年という“withコロナ”の時代に生まれたという事実は加味して考えないといけない。半年後、1年後に世の中がどう変わっているかわかりませんし、実はそんなに大きな変化はないのかもしれない。それでも、本作は時間が経つにつれて響き方が変わってくるんじゃないだろうか……そんな気がしてなりません。だから、一方的に否定できないし、嫌いになれない。そんなふうに、いろんなことを考えさせられる1枚なんです。

聴けば聴くほど語るべきことがたくさん見つかる。時が経てば経つほど、たくさん語りたくなる。そんな不思議なアルバムです。

 


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2020年8月19日 (水)

HALESTORM『REIMAGINED』(2020)

2020年8月14日にデジタルリリースされた、HALESTORMの最新EP。CDでのフィジカルリリース予定は今のところなく、海外アナログ盤が同年8月28日に発売されるようです。

HALESTORMはこれまで、フルアルバムとフルアルバムの合間に『REANIMATE: THE COVERS EP』と題したカバーEPを3作発表しています。どれもバンドのルーツを感じさせる選曲だったり、直近のヒットチャートを賑わせたポップソングを彼ら流にカバーしていたりと非常に興味深い内容で、個人的にもオリジナルアルバム同様に愛聴してきました。

現時点での最新アルバム『VICIOUS』(2018年)発売から2年経ち、そろそろ次のカバーEPの出番かなと思っていたら、ここで新たな挑戦が。リジー・ヘイル(Vo, G)が語るところによると、「ここ10年くらい面白半分で、アルバムとアルバムのリリースの間にカバーEPを出してきて、でも今回は大きく変えてみようって決めたの。1曲だけカバー曲で、あとはHALESTORMの楽曲を新たに作り直したバージョンを収録している」とのことで、全6曲中5曲が既発曲のリアレンジバージョンとなっています。

新たな解釈が施された楽曲群は、「I Miss The Misery」「I Am The Fire」「Mz. Hyde」などの代表曲をアコースティック・ベースでスロー&バラード調のアレンジに変身。かといってアンプラグド風になっているわけではなく、あくまで「ロックバンドがスタジオに集まって、肩の力を抜いてセッションしている」感じのアレンジかなと。バンドの主張はそこまで強くなく、あくまでリジーのシンガーとしての表現力を改めて知らしめるための、貴重なサンプルとして楽しめる作品かなと思いました。

その表現力が単にロックシンガーとしてだけでなく、もっと普遍的なボーカリストとしてのものであることがよくわかるのが、本作唯一のカバー曲「I Will Always Love You」でしょう。ご存知、ホイットニー・ヒューストンが映画『ボディガード』で披露しメガヒットした、ドリー・パートンのカバー曲(つまり、本作ではカバーのカバーということになるのかな)。彼女の歌がより際立つシンプルな演奏&アレンジで表現されることで、歌の力をより感じることができるはずです。こういうリジーもいいですね。

そしてもうひとつ、「Break In」の再構築バージョンではゲストシンガーとしてEVANESCENCEのエイミー・リーをフィーチャー。過去に2バンド一緒にツアーした経験から親交を深めてきたリジーとエイミーですが、今年5月にはリジーのYouTubeプログラムでもこの曲をデュエットしていました。つまり、本作への布石だったわけですね。コロナ禍前にレコーディングされたそうですが、リジーはこの制作を振り返り「2人一緒の部屋で、最初から最後までのフルパフォーマンスで収録したの。エイミーが参加することで、単なるラブソングから、お互い団結して支え合う声明へと、この楽曲に新しい意味をもたらした。今は大変な世の中だけど、今作がみんなの楽しみや希望となってくれてたらうれしいなと思っている」とコメントを寄せています。とにかく2人の声の相性も抜群ですし、最高のリメイクと言えるでしょう。

今後もこの『REIMAGINED』シリーズが続くのかどうかはわかりませんし、続いたとしても毎回必ずこういったアレンジとも限らないでしょう。でも、リメイクとカバーという2つの“お遊び”を手に入れたことは、おそらく来年あたりには届くであろうニューアルバムにも少なからず影響を与えるのではないでしょうか。何にせよ、しばらくはこれを聴いて彼らの次のアクションを待ちたいと思います。

 


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2020年8月 2日 (日)

SHINEDOWN『THE SOUND OF MADNESS』(2008)

2008年6月にリリースされたSHINEDOWNの3rdアルバム。日本盤は同年10月に発表されています。

デビューアルバム『LEAVE A WHISPER』(2003年)が全米53位、続く2作目『US AND THEM』(2005年)が同23位と着実に順位を上げ続け、両作ともアメリカで100万枚を超えるセールスで成功を収めたSHINEDOWN。この3rdアルバムはその人気を確実な形で決定づけるものとなり、全米8位まで上昇したほか、「Second Chance」(全米7位)、「Sound Of Madness」(同85位)、「If You Only Knew」(同42位)、「The Crow & The Butterfly」(同97位)といったヒットシングルまで生み出しました。結果、アルバムは全米のみで200万枚を超える、現時点までで最大のヒット作となりました。

PEARL JAM以降の陰りのある土着型ポスト・グランジ的スタイルで人気を博した彼らですが、新たにロブ・キャヴァロ(GREEN DAYMY CHEMICAL ROMANCE、GOO GOO DOLLSなど)をプロデューサーに迎えた本作ではそのダークさを払拭し、強靭なハードロックサウンドと適度な湿り気を持つメロウなミディアム/スローナンバーを武器に、一気にメインストリームへと躍り出ることになります。

とにかく、モダンなアメリカン・ハードロックとしてかなり細部にまで神経の行き届いた作り込みで、「詰め込みすぎず、かといってスカスカでもない」バンドアンサンブルとブレント・スミス(Vo)の「高音域の伸びが良い」ボーカルが非常に気持ちいいんです。アルバム構成もアップチューンとミディアムナンバーでの緩急の付け方が非常に上手で、適度な緊張感を持って楽しむことができるスリリングな作風はさすがの一言。「Devour」や「Cry For Help」のようなアゲ曲ではしっかり気持ちを高揚させ、ストリングスなどを効果的に取り入れたミディアムバラード「Second Chance」や「The Crow & The Butterfly」ではロックとしての強度とポップソングとしてのクオリティが両立されているんですから、完璧としか言いようがありません。

2000年代半ばのUSロックシーンはGREEN DAYが『AMERICAN IDIOT』(2004年)をバカ売れさせ、カナダ出身のNICKELBACK『ALL THE RIGHT REASONS』(2005年)で1000万枚級のメガヒットを達成し、MY CHEMICAL ROMANCEが『THE BLCK PARADE』(2006年)で一時代を築き上げるなど、新たな潮流が生まれ始めていた時期。このSHINEDOWNも今作にて、間違いなくその仲間入りを果たすことになるわけです。

しかし、この成功がのちにブレントに大きなプレッシャーを与えることになり、以降の苦悩が現時点での最新作『ATTENTION ATTENTION』(2018年)にて描かれることになるわけです。

なお、この『THE SOUND OF MADNESS』は2010年にボーナストラック9曲とボーナスDVDを追加したデラックス・エディションも発売されています。このボートラの中にはリジー・ヘイル(HALESTORM)をフィーチャーした「Breaking Inside」なども収められているので、あわせてチェックしてみてください。

 


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2020年5月 2日 (土)

V.A.『RONNIE JAMES DIO: THIS IS YOUR LIFE』(2014)

2014年4月初頭にリリースされた、ロニー・ジェイムズ・ディオのトリビュートアルバム。日本盤は海外に先駆け、同年3月下旬に発売されました。

2010年5月にがんのためこの世を去ったディオを追悼すべく、メタル界の重鎮から次世代バンドまで幅広い層が一堂に会したこのアルバム。全14曲(ボーナストラック除く)中、本作のために録音された未発表テイクは10曲と単なる埋め合わせ的アルバムでないことが伺えます。

そのラインナップもロブ・ハルフォードJUDAS PRIEST)やグレン・ヒューズ(ex. DEEP PURPLE)、SCORPIONSMOTÖRHEAD、ビフ・バイフォード(SAXON)といった大御所からMETALLICAANTHRAX、DOROなど直接的なフォロワー、そしてHALESTORM、コリィ・テイラー(SLIPKNOTSTONE SOUR)、KILLSWITCH ENGAGEなどの次世代アーティスト、さらにはヴィニー・アピス、ダグ・アルドリッジ、ジェフ・ピルソン、ルディ・サーゾ、クレイグ・ゴールディ、サイモン・ライト、スコット・ウォーレンといったDIOオールスターズまで、世代的にもかなり広いものとなっています。

本編ラストに収められたDIO「This Is Your Life」(1996年の『ANGRY MACHINES』収録曲)を除く13曲中、RAINBOWナンバーを選んだのが5組、BLACK SABBATHナンバーが3組、DIOナンバーが5組とやはりRAINBOWへの人気が集中。METALLICAに至ってはメドレー形式で4曲取り上げてますからね。ズルいわ(笑)。

サバス曲は当然すべて80年代の……と思いきや、オニ・ローガン(Vo/ex. LYNCH MOB)は『DEHUMANIZER』(1992年)からの「I」を選ぶ通ぶりを発揮。こちらはジミー・ベイン(B)やローワン・ロバートソン(G)といった旧DIO組も参加しています。この曲、こうやって聴くと思ったほどモダンなテイストが少なくて、80年代のディオ・サバスを踏襲してたんだねと気づかされます。

1曲ずつ解説していたらキリがないので割愛しますが、ANTHRAX「Neon Knights」におけるジョー・ベラドナのモノマネぶりが相変わらず最高なことと、SCORPIONS「The Temple Of The King」が完全に自分のものと化していること、METALLICAメドレーの強引ぶりなどは特筆すべきものがあるかなと。もちろん、ほかの楽曲も最高なので、原曲を知らないリスナーでも楽しめるはずです。

なお、日本盤にはSTRYPERによる「Heaven & Hell」、DIO DISCIPLES(DIO最終ラインナップのディオ抜き)による「Stand Up And Shout」を追加収録。ストリーミングなどのデジタルバージョンではHATEBREEDのフロントマン、ジャスタによる「Buried Alive」を聴くことができます。ここはぜひ、日本盤を手に入れておきたいところです。

 


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2020年4月 7日 (火)

IN THIS MOMENT『MOTHER』(2020)

IN THIS MOMENTが2020年3月下旬に発表した7thアルバム。

2005年結成以来、紅一点のマリア・ブリンク(Vo)のパワフルかつ妖艶な歌声を軸にしたメタルコア/ゴシックメタル・サウンドで人気を拡大し続けている彼ら。メジャーのAtlantic Records移籍以降に発表した『BLACK WIDOW』(2014年)、『RITUAL』(2017年)ではブレント・スミス(SHINEDOWN)、ロブ・ハルフォードJUDAS PRIEST)をフィーチャーした楽曲が話題になったことも記憶に新しく、特に『RITUAL』ではフィル・コリンズのカバー「In The Air Tonight」も注目を集めました。

前作『RITUAL』から約3年ぶりとなる新作は、2ndアルバム『THE DREAM』(2008年)からタッグを組むケヴィン・チャーコ(オジー・オズボーンFIVE FINGER DEATH PUNCHDISTURBEDなど)がプロデュースを続投。出世作となった4thアルバム『BLOOD』(2012年)あたりから表出し始めたインダストリアル・メタルのテイストはより強固なものとなり、このバンドがストレートなヘヴィメタル/メタルコアを信条としていた初期のスタイルはもはや完全に過去のものになってしまったんだなと、ちょっと寂しさを覚えたりします。

まあ過去の思い出に浸っても意味がないので、新作の話題を続けます。ミディアム/スロウナンバーを軸に、エレクトロ/インダストリアル色を強めたゴシックメタル・サウンドはもはやこのバンドの大きな武器と呼べるものであり、そういった楽曲群に乗せられたキャッチーなメロディもさらに磨きがかかっている。ぶっちゃけ、ここで展開されている歌/音/メロディって今のメタルシーンにおいて王道と呼べるものだと思うんです。ゼロ年代こそオルタナティヴな存在だったIN THIS MOMENTが、テン年代に発表した過去3作で得た経験を最高の形で昇華させた、2020年代のスタートにふさわしい新たなスタンダード。それが本作『MOTHER』という傑作ではないでしょうか。

時にパワフルに歌い上げ、時に気怠さを表現するマリアの歌唱法は、もはやスクリームで攻撃性をプッシュしていた過去と完全に決別しているし、むしろそういったスクリームは味付け程度に使われるのみ。うん、それでいいんだと思います。

フィーチャリング・ボーカルの採用やカバー曲のピックアップなど、前作でN成功をそのまま踏襲している点も本作の注目点。カバー曲として選ばれたのがQUEEN「We Will Rock You」という手垢つきまくりの1曲なのは当初「?」でしたが、その曲をリジー・ヘイル(HALESTORM)、テイラー・モムセン(THE PRETTY RECKLESS)の女帝3人で歌い分けると知り、妙に納得。うん、それなら全然あり! で、これがまたカッコいいわけですよ(ボーカルパフォーマンスが)。

サウンドによる直接的な激しさを求めるリスナーには刺激が足りないかもしれませんが、ボーカルワークで感情に訴えかける激しさが表現されているという点においては、本作は志向の1枚だと断言できます。ロックやメタルがチャート的に衰退気味な今、こういう作品こそ広く親しまれてほしいと願っております。

 


▼IN THIS MOMENT『MOTHER』
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2020年2月18日 (火)

MARK MORTON『ETHER』(2020)

2020年1月中旬にリリースされた、マーク・モートン(G/LAMB OF GOD)の最新EP。配信限定で、日本盤未発売。

昨年2月に初のソロアルバム『ANESTHETIC』を発表したマーク。同作はLAMB OF GODでは表現しきれないアーティスティックな側面、ソングライターとしての貪欲さを追求し、楽曲ごとに多彩なシンガーを迎えて表現するという手法が取られました。

続く今作も同じく、楽曲ごとに異なるシンガーをフィーチャーした作風。しかし、前作と異なるのはそのサウンドメイキングの手法で、今回はアコースティックギターをベースにした楽曲作り/アレンジが全面的に施されています。

全5曲中、マーク・モラレス(SONS OF TEXAS)が2曲、ハワード・ジョーンズ(LIGHT THE TORCH、ex. KILLSWITCH ENGAGE)、リジー・ヘイル(HALESTORM)、ジョン・カーボン(MOON TOOTH)がそれぞれ1曲ずつ参加。マーク・モラレスはMARK MORTON BANDのツアーでもフロントマンを務めたこともあり、今回2曲歌うことになったんでしょうね。

全編アコースティックがメインといいつつも、楽曲によってはエレクトリックギターもふんだんに使用されています。が、それはあくまで味付け程度。エレキがメインになることはなく、あくまで前面に打ち出されるのはアコギの音色とシンガーの歌声なわけです。

一方で、スクリームと歌い上げるイメージが強いハワードは「Love My Enemy」という楽曲でファルセットを取り入れた強くも優しい歌声を聞かせてくれます。あ、この曲のみエレキが大活躍していて、派手なギターソロも楽しめます。これは例外中の例外ですね。

ジョンが歌う「The Fight」は打ち込みリズムをフィーチャーした穏やかな1曲。アルバムの中でいうと、箸休め的な楽曲かな。けど、こういった地味めの楽曲が不思議とアメリカではヒットするからあなどれない。

そして、本作で注目してほしいテイクのひとつがリジー歌唱による「She Talks To Angels」。THE BLACK CROWESが90年代初頭にヒットされた楽曲で、原曲に比較的近いアレンジが施されています。リジーのボーカルもしゃリジーのボーカルもしゃがれた低音からパワフルな高音まで幅広く楽しめ、かつマークのスライドプレイも堪能できる、本作の肝かなと。

さらに、マーク・モラレスは適材適所という言葉がぴったりで、どんな楽曲もそつなく歌いこなす印象かな。適度なスモーキーさが良い味を出しています。オリジナル曲「All I Had To Lose」もさすがの一言ですが、ラストを飾るPEARL JAMのカバー「Black」も歌とアコギのみというシンプルなアレンジが功を奏し、曲の良さとシンガーの魅力を最大限に引き出しているんじゃないかな。

にしても、「She Talks To Angels」と「Black」という1990〜1991年の楽曲を選ぶあたり、さすが自分と同年代と思わずにはいられません。フルアルバム『ANESTHETIC』がソングライターとしての主張だとしたら、今回のEPはプレイヤー/ミュージシャンとしての主張が込められているのかな?なんて、この作風とカバーの選曲から感じ取ってしまいまいた。うん、ナイスな企画盤だと思います。

 


▼MARK MORTON『ETHER』
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