カテゴリー「Harem Scarem」の7件の記事

2021年12月28日 (火)

HAREM SCAREM『HAREM SCAREM』(1991)

1991年8月6日にリリースされたHAREM SCAREMの1stアルバム。日本盤は本邦デビュー作となった2ndアルバム『MOOD SWING』(1993年)のヒットを受け、1994年5月25日に発売されました。

『MOOD SWING』で広く知られることになったHAREM SCAREMですが、もちろん原点はこのアルバム。ピート・レスペランス(G)のテクニカルで派手なギタープレイと、DEF LEPPARDにも匹敵する厚みのあるコーラスワークが良いアクセントとなっていた2ndアルバムをイメージして本作に触れると、若干地味に聞こえるかもしれません。

楽曲の完成度は『MOOD SWING』にも匹敵する、良質なメロディアスハードロック/AOR的ハードロックといったところで、この路線が好きというリスナーにはたまらないものがあるはず。ですが、全体的に少々落ち着いた印象が強く、デビュー作のわりに“大人しすぎ”というイメージは否めません。特に派手さやダイナミックさが際立つ『MOOD SWING』と比べたら、そりゃあ(人によっては)見劣りするかもしれません。

実際、本作は外部ライターの手を借りて制作した楽曲も複数含まれています。職業ライターとのコライトでヒットを飛ばす手法は80年代後半から盛んだったので、このデビュー作もメジャーレーベルのそういう意思が働いたのでしょう。それ自体はまったく悪いことではないですし、実際「Hard To Love」や「Slowly Slipping Away」などの代表曲も同様の手法で完成したわけですから、否定できませんよね。

「Honestly」や「Something To Say」のような素晴らしいバラードも用意されているし、「Love Reaction」みたいに少々“時代”を感じさせるアレンジの楽曲もあれば、軽快な「All Over Again」や「Don't Give Your Heart Away」もある。全体のバランスは間違いなく良いんです。ただ、ここに1曲だけアップチューン(言ってしまえば「Change Comes Around」的なフックとなるナンバー)が含まれていたら、さらにインパクトが強まったのではないか……そんな気がしてなりません。

なんとなくですが、タイミング的にもNELSONのデビューアルバム『AFTER THE RAIN』(1990年)がアメリカでバカ売れしたことで、レーベルが同系統の作風を押し付けた……なんて想像も難しくありません。老舗レーベル(WEA)ならではの考えですよね。ところが、当のNELSONを送り出したGeffen Recordsはこの頃、すでにNIRVANAを仕込んでいたのですから、いかに先を読む力が大切かが伺えます。

良くも悪くも職人的作風で、ライブ云々よりもラジオやMTVでのヒットを狙ったかのような品の良さは、1991年という時代においてはマイナス方向に働いてしまったことは否めません。ですが、続く『MOOD SWING』が日本やアジア諸国で謎のヒットを飛ばすことになろうとは、この1stアルバムの時点では想像もできていなかったと多います。その結果、この良質なデビューアルバムも遅れて広まることになるのですから……リリースから3年を経て、ようやく報われたわけですね。

音楽に刺激を求める層には不向きかもしれませんが、純粋に良い曲、良い演奏、良い歌を楽しみたいというリスナーには最適な1枚。安心・安定を欲する方にこそ触れていただきたい良作です。

 


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2020年3月12日 (木)

HAREM SCAREM『CHANGE THE WORLD』(2020)

2020年3月上旬に発表されたHAREM SCAREMの15thアルバム。日本盤は同年3月25日にリリース予定。

前作『UNITED』(2017年)からほぼ3年ぶりに発表された本作は、来年2021年にデビュー30周年を控えた彼らにとって、大きな節目となる1枚。2013年の再結成以降はハリー・ヘス(Vo)とピート・レスペランス(G)の2人が中心となり楽曲制作を含む活動を続けており、ダレン・スミス(Dr, Vo)はレコーディングではドラムを叩かずにクレイトン・ドーン(Dr)がプレイ。ダレンはコーラスのみで参加し、MVやツアーではドラムをプレイするという形がとられています。

さて、再結成後3作目のオリジナル新作、名盤『MOOD SWINGS』(1993年)の再録盤『MOOD SWINGS II』(2013年)を含めれば4作目のスタジオアルバムとなる本作。前作でもバンドとしての充実ぶりを存分にアピールしていましたが、そのポジティブな空気は本作からも存分に感じ取ることができます。

とにかく、1曲1曲の完成度が高い。しっかり過去のHAREM SCAREMらしさを感じさせつつ、単なる焼き直しでは終わらない(つまり、マンネリを一切感じさせない)圧倒的に作り込まれた楽曲群がずらりと並んでいます。オープニングナンバーであるタイトルトラック「Change The World」の壮大さ、そして楽曲の端々から伝わるポジティブさからは問答無用の凄みが伝わるはずです。

「Aftershock」や「The Death Of Me」といったマイナーキーの“らしい”ハードロックもあれば、「No Man's Land」のように凝ったアレンジのメランコリック・ナンバーもあるし、「In The Unknown」みたいな哀愁味を漂わせたミディアムナンバー、「Riot In My Head」で味わえる疾走感の効いたハードチューン、「Mother Of Invention」や「No Me Without You」のようにスケール感の大きなバラードも存在する。「Fire & Gasoline」みたいに若干ダークさを残したアップチューンや、“これぞHAREM SCAREM!”と太鼓判を押せる王道ナンバー「Swallowed By The Machine」まであるんだから、そりゃ満足しないわけがない。

要するに、HAREM SCAREMというバンドが過去に残してきた諸作品のいろんなフレイバーが、この1枚に凝縮されていると受け取ることができるわけです。そういった集大成感が非常に強い作風にも関わらず、しっかり新しい作品としてアップデートされている。正直、この手のバンドはサウンドメイキングで現代的な味付けをすることだってできるはずですし、そうすることで“今っぽさ”を表現しないとどんどん古臭くなってしまう可能性だってある。なのに、彼らはそういった味付けに一切手を出すことなく、いい曲といい演奏といい歌といいハーモニーだけで勝負し(いや、「だけ」って簡単に言うけど、その当たり前の要素がすべて揃っていること自体が奇跡なんですが)、結果そこで毎回“勝ち”続けている。その苦労は相当なものがあるはずなのに、それすら一切感じさせないくらい涼しい顔をしている(ように見える)。職人技といえる技術で30年近くにわたり戦い続けてきたわけですものね。脱帽モノです。

「これ!」という突出しまくった圧倒的名曲はないかもしれないけど、どれもが85点以上の高品質。そういう文句の付けどころのない充実の1枚です。

 


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2018年4月21日 (土)

HAREM SCAREM『VOICE OF REASON』(1995)

カナダ出身の4人組バンドHAREM SCAREMの3rdアルバム。前作『MOOD SWINGS』(1993年)がここ日本で高く評価されたこともあり、続く今作にも大きな期待が寄せられましたが、いざ完成したアルバムは大方の期待を裏切るような作風でした。

グランジやモダンヘヴィネス系がロックシーンに台頭し、メロディアスでビッグプロダクションがぴったりな“産業ハードロック”が時代遅れと言われ始めた時期に登場した『MOOD SWINGS』は、そういったガヤを吹き飛ばすほど完成度の高い1枚でした。特にここ日本では後追いで発売されたデビューアルバムも人気を博し、HAREM SCAREMといえばこの2枚!みたいなイメージが出来上がったタイミングに届けられた、待望のニューアルバム……きっと多くのファンが「HAREM SCAREMよ、おまえもか!」と落胆したんでしょうね。

『MOOD SWINGS』と比べたらだいぶ落ち着いた、全体を覆うダークめな空気感は確かに90年代前半特有のものだったのかもしれません。しかし、別に彼らはグランジのおこぼれをもらおうと思ってこういうサウンドにシフトチェンジしたわけではなく、あくまでこの要素も自分たちのルーツの中に存在しているものとして、前作と違うものを目指した結果がこれだっただけなんじゃなかろうか。今にしてもるとそう思うわけです。

さて、本当にこのアルバムは“HAREM SCAREMらしくない”作品なのでしょうか?

僕、そこが常々疑問だったんです。だってこれ、めっちゃ良いアルバムじゃないですか? 確かに『MOOD SWINGS』は完璧なまでに時代と逆行した、80年代に思いを馳せた完全無欠のハードロックアルバムだったと思います。では、今作はどうかというと、逆に時代に寄り添いつつ自分たちがやりたいことに全力でトライした。やろうとしたこと自体は『MOOD SWINGS』もこの『VOICE OF REASON』もほぼ同じだったはずなんです。ただ、作品をまとめ上げるうえでのベクトルがまったく逆だっただけ。それによって、当時グランジのように粗暴なサウンドに拒否反応を示していた従来のHR/HMリスナーから敬遠されてしまった。そういう不幸な1枚だったのではないでしょうか。

オープニングを飾る「Voice Of Reason」からシングルカットされた「Blue」、さらに冒頭のピアノの音色が醸し出す切なさが半端ない「Warming A Frozen Rose」という流れも非常に気持ち良いし、なによりもその「Blue」はHAREM SCAREMらしさに満ち溢れた完成度の高い1曲ですし。アルバム後半も「Breathing Sand」を筆頭に、どこかシアトリカルなテイストが感じられる楽曲が多く、本当に聴き応えのある作品。イントロこそダークだけど、「Candle」もメロディアスかつダイナミックな1曲ですし……なんでこれが嫌われなくちゃいけないんだろう……。

1stアルバム『HAREM SCAREM』(1991年)と2枚目『MOOD SWINGS』のインパクトが強かった、しかもその2枚のイメージが強かったおかげで、3枚目のトライが受け入れられなかった。すべて時代のせいなのか、それとも……今こそ再評価してほしい1枚です。あと、デジタル配信もぜひお願いします!

 


▼HAREM SCAREM『VOICE OF REASON』
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2017年6月10日 (土)

HAREM SCAREM『UNITED』(2017)

今年で結成30周年を迎えるカナダのHRバンド、HAREM SCAREMが4月にリリースした通算14作目のスタジオアルバム。2008年に一度解散し、2013年に再結成を果たした彼らは同年に名作2ndアルバム『MOOD SWINGS』のリテイクアルバム『MOOD SWINGS II』を発表し、翌2014年には新曲のみのオリジナルアルバム『THIRTEEN』を制作と再始動後も順調に活動を重ねています。

3rdアルバム『VOICE OF REASON』(1995年)でダークなサウンドに傾倒し始め日本のファンをがっかりさせ、5th『BIG BANG THEORY』(1998年)あたりからパワーポップ寄りの楽曲にも着手し始めたHAREM SCAREMですが、再結成後は多くのファンが望む“1st〜2ndアルバム路線”を踏まえつつ大人になったバンドの姿を見せています。この最新作でもその方向性は変わっておらず、むしろその純度がより高くなっているように感じられました。

前作『THIRTEEN』も決して悪いアルバムではなかったし、むしろ好きな作品ではあったんですが、今作はとにかく1曲1曲の完成度が無駄に高い。アルバムによっては1曲くらい「う〜ん、個人的に好みじゃなけど、こういう曲が好きなリスナーもいるしな……」という曲が入っていてもおかしくないところを、今作はどの曲も両手をあげて大歓迎したくなる良曲ばかり。適度にハードで適度にポップ、そしてメロディやサウンドから爽快感が感じられるハードロックと表現すればいいのでしょうか……90年代の彼ら(主に1st〜2ndあたり)に感じられた“ビッグプロデュース”はそこにはなく、地に足のついた等身大のサウンドで、ファンが求めるサウンドと「大人になった今だから表現できるサウンド」をバランス良く融合させている。そこには攻めのハードロックもあれば、パワーポップ調のゆるやかな楽曲もあり、無駄にバラードで水嵩を増すようなこともしない。11曲全45分という適度な長さも功を奏し、何度もリピートしたくなる極上のハードロックアルバムに仕上げられているのです。

イントロの時点で若干ダークで激し目の楽曲なのかと不安にさせておいて、メインリフが入ると豪快かつ爽快感のあるキャッチーなハードロックで聴き手を喜ばせてくれる「United」から、続く「Here Today Gone Tomorrow」「Gravity」と、とにかく頭から心を鷲掴みにされっぱなし。その後もこのテンションを崩すことなく、ドラマチックなラストナンバー「Indestructible」で締めくくる。個人的には2000年代に入ってからの彼らのアルバムでもっとも気に入っています。こういう良質なアルバムがジャンルの分け隔てなく、もっといろんなリスナーに「いいね!」と言ってもらえるような時代が戻ってくるといいな。

 


▼HAREM SCAREM『UNITED』
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2017年3月20日 (月)

RED DRAGON CARTEL『RED DRAGON CARTEL』(2013)

HAREM SCAREM、オジー・オズボーンと続いたので(『TRIBUTE』は3月19日に紹介しようとは決めていましたが、その前にHAREM SCAREMを取り上げるというこの流れは意図的ではありませんでした)、今回はその2つが絶妙な形で合体したRED DRAGON CARTELを紹介したいと思います。

RED DRAGON CARTELはオジー・バンドの二代目ギタリスト、ジェイク・E・リーがBADLANDSの2ndアルバム『VOODOO HIGHWAY』(1991年)以来22年ぶりに本格始動させたバンドRED DRAGON CARTELの1stアルバム。日本では2013年12月、海外では2014年1月にリリースされています。アルバムではHAREM SCAREMのドラマー、ダレン・スミスが大半の楽曲でボーカルを務めていますが、4曲でゲストボーカルも採用。「Feeder」にはロビン・ザンダー(CHEAP TRICK)、「Wasted」にはポール・ディアーノ(元IRON MAIDEN)、「Big Mouth」にはマリア・ブリンク(IN THIS MOMENT)、「Redeem Me」にはサス・ジョーダンと男女/ジャンル問わずさまざまなシンガーがジェイクの楽曲を歌っています。

1曲目「Deceive」の冒頭、オジーの「Bark At The Moon」を彷彿とさせるカミソリギターリフに歓喜したHR/HMリスナーは非常に多いのではないでしょうか。僕も間違いなくそのひとりで、それにつづくダレンのハスキーなボーカル含め非常にカッコよくて「これは期待できる!」とすぐに確信。もちろんその確信に間違いはなく、曲によってはインダストリアル調のアレンジを含むものもありますが、基本的にはジェイクのキャリアを知っている人なら納得できるものばかりでした。しかもBADLANDSで傾倒したブルースロックではなく、オジー・バンド在籍時を思わせる楽曲やプレイも豊富で、「ようやくこっちの畑に戻ってきてくれた!」とアルバムを聴き進めるうちに頰が緩んでいったものです。

「Wasted」でのモダンなアレンジはどことなく最近のオジーにも通ずるものがあるし、「War Machine」なんて完全にBLACK SABBATHリスペクトなアレンジだし。そりゃそうだ、本作のエグゼクティヴ・プロデューサー&ミキサーはオジーの近作を手がけるケヴィン・チャーコなんだから。それにザックはオジーの代表作『BARK AT THE MOON』(1983年)、『THE ULTIMATE SIN』(1986年)のメインソングライターでもあるわけで、“オジーっぽさ”がゼロなわけない。ダレンがライブでもボーカルを務めていることから、この形態がバンドとしては正しいんだろうけど、アルバム制作時はそこまでパーマネントなものとしては考えてなかったから、こういう作品になったのかもしれないですね(そのダレンも一時、バンドを脱退していますし。ますますバンド感が薄いような)。

オジーやサバスが好き、特にジェイク時代が好きという人なら間違いなく気に入る1枚。オジーっぽい曲を女性ボーカルが歌うと……という興味深い試みも楽しめますし。バンドっぽさは本当に希薄だけど、HR/HMファンならジェイク・E・リーというアーティストの実験の場として素直に受け入れられるはずです。



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2017年3月18日 (土)

HAREM SCAREM『MOOD SWINGS』(1993)

カナダの4人組HRバンドHAREM SCAREMが1993年にリリースした2ndアルバムにして、ここ日本でのデビュー作『MOOD SWINGS』。発売から20年以上経った現在も、このアルバムが放つ魅力はまったく色褪せていません。

1993年というと世の中的にはHR/HMが完全に“過去のもの”に成り下がり、アメリカやヨーロッパではNIRVANAPEARL JAMSMASHING PUMPKINSALICE IN CHAINSといったグランジバンド、そのフォロワー的に登場したSTONE TEMPLE PILOTSなどがチャートやツアーで成功を収めていた時期、翌1994年4月にカート・コバーン(NIRVANA)が自殺したのと同じ頃から少しずつシーンは停滞していくことになるのですが、90年前後に活躍したHR/HMバンドの多くはセールス面で相当の苦戦を強いられ続けます。その結果、グランジ寄りのサウンドを取り入れ始めたり、ひどい場合はメジャーレーベルからドロップし(契約解除され)たり……しかし、ここ日本では少しだけ状況が異なりました。そう、日本ではまだHR/HMは死んでいなかったのです。

そんな状況下で発表された『MOOD SWINGS』というアルバム。とにかく冒頭2曲(「Saviors Never Cry」「No Justice」)のパワフルかつメロディアスなスタイルに、一発でノックアウトされたのをよく覚えています。ギターソロが死に絶えた時代にここまで弾きまくるか!というピート・レスペランスのプレイは圧巻だし、ハスキーさがいい味を出しているハリー・ヘスのボーカルも気持ちいい。楽曲はDOKKENが一番良かった頃を彷彿とさせつつも、アレンジやコーラスワーク、サウンドプロダクションからはDEF LEPPARDの影響が強く感じられる。なんだこれ、本当に1993年のアルバムか!?と最初は疑ったほどです。

ポップで軽やかな「Stranger Than Love」が終わると、本作のハイライトである「Change Comes Around」へ。5分という決して長くはない時間の中にHR/HMの起承転結がぎっしり詰め込まれたこの曲は、ボーカルも演奏もメロディもアレンジも「これが僕たちの求めるHR/HMのカッコよさだ!」と力説したくなるほどで、リリースから何年経とうがアンセムなのに変わりない。いやぁ、今もこの曲聴いてますが、ライブでの盛り上がりが目に浮かびますよ……。

もちろんその後も“かゆいところに手が届く”楽曲群目白押し。ソウル&ブルースフィーリング抜群な「Jealousy」、80年代の残り香が感じられる「Sentimental Blvd.」、ギターインスト「Mandy」からモダンなハードナンバー「Empty Promise」、歌と同じくらいギターも主張し続けるバラード「If There Was A Time」、“声”のみで構成された異色作「Just Like I Planned」、冒頭のギタープレイが鳥肌モノのダイナミックなHRチューン「Had Enough」……本当、捨て曲一切なし。

そういえば本作発売20周年を記念して、2013年には再レコーディングアルバム『MOOD SWINGS II』もリリースされていますが、最初に聴くならまずはオリジナルのこちらから。日本では続く3rdアルバム『VOICE OF REASON』(1995年)の評価が非常に低いですが、僕としては本作と同じくらいに好きな作品です。なので下手にベスト盤などに手を出すよりは、『MOOD SWINGS』と『VOICE OF REASON』の2枚を中古でゲットしたほうがいいと思いますよ。

 


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2000年9月24日 (日)

HAREM SCAREM『RUBBER』(1999)

今回のテーマは「ギターポップ系好きにもアピールするHM/HR」ということで、(ある意味)今は亡きHAREM SCAREM「RUBBER」('99)を取り上げたい。今は亡き、というのは最後に説明するとして‥‥このバンドの簡単な歴史から。

カナダで結成されたHAREM SCAREMはセカンドアルバム「MOOD SWING」で日本デビューを果たした。ファースト~セカンドの彼等の音楽性は、DEF LEPPARDから影響を受けた、何重ものコーラスを重ねたメロディアスな楽曲に、全盛期のDOKKENを意識したガッツィーなサウンド(特にジョージ・リンチを彷彿とさせるピート・レスペランスのギタープレイ)が特徴で、それが日本でウケたというわけ。ところが彼等は続くサード「VOICE OF REASON」でその音楽性を変えてしまう。当時流行のオルタナ/ヘヴィロックの色を取り入れるのだ。が、そこはメロディアス指向の彼等。やっぱ歌メロやコーラスは健在。けど、評価は散々。このアルバムで初来日を果たす。そして4作目「BELIEVE」では初期の音楽性に戻ったかのような楽曲を用意し、5作目「BIG BANG THEORY」ではハードさを若干後退させた、CHEAP TRICKやFOO FIGHTERSにも通ずるようなポップでパンキッシュな楽曲を披露する。そしてこの6作目「RUBBER」にたどり着くわけだが‥‥ここでも彼等は大冒険というか、大きな賭けに出る。その大きな賭けについて説明しよう。

現在の彼等はここ日本でのみ大人気、といっても過言ではない。カナダではセカンド当時は爆発的に売れたと聞いているが、サードでのセールス的失敗辺りからカナダ国内での人気も失速していく。「HAREM SCAREMってメタルでしょ? もう流行んないよ」てな理由で。さぁ、ここからが本題。(笑)何故俺がこのアルバムを選んだかがよくご理解いただけると思う。

アーティストとして、彼等は自分達のやりたい音楽をやる。長年続けていけば、趣味やその時やりたい事なんて変わっていくのは当たり前だ。ところが1度あるスタイルで成功してしまうと、それ以外の新しい事を始めると「ああ、あなた達は変わってしまった。ファンなんてもうどうでもいいんですね?」と言って離れていくファン。当然レコードセールスも落ち、ライヴの観客動員も減るわけだ。下手をすりゃ契約さえも切られてしまう‥‥ん、どこかで似たような事書いたなぁ、俺。どのアーティストの時だったっけ?(笑)

要するに、彼等は「VOICE OF REASON」での失敗によって、周りからプレッシャーをかけられたわけだ。そこで彼等は日本のファンを意識した作りの「BELIEVE」を意に反して(?)作り、そしてそれがまたバカ売れしてしまうわけだ(とは言っても、ここ日本でだけね)。しかし彼等に拘りがなかったわけではない。前作での音楽性を持った実験的楽曲を日本盤シングルのC/W楽曲として収録、本国カナダ盤ではアルバムの2曲と差し替えてこれらの実験的楽曲を収録している。如何に彼等が日本贔屓にしてるかがお判りいただけるだろうか?

さて、そうやって紆余曲折しながら、彼等はひとつの結論に達する。日本ではある程度の変化も認めてもらえた。しかし本国カナダやアメリカでは「HAREM SCAREMはHM/HRバンド」というイメージが定着してしまい、そこから如何に離れた音楽を提供しても、聴いてくれさえしない。だったらいっそのこと、バンド名を変えて1から出直してみよう、と‥‥つまり、彼等はHAREM SCAREMという成功を収めたバンド名を捨ててまで、音楽的に成長したかったし、セールス的にも成功したかったのだ。その新しいバンド名こそが、今回紹介したアルバムのタイトルにもなっているRUBBERなのだ。

この「RUBBER」というアルバムは'99年秋にここ日本で先行発売された。但しこの時点では、日本でのみ今後もHAREM SCAREMという名で活動していく、と宣言していたはずだ。実際にアルバムのライナーノーツにもそう書かれている。同年12月には初のホール公演も含んだジャパン・ツアーも大成功を収めた。この時のライヴ写真を見て驚いた人も多いだろう。既に彼等のステージ衣装には、メタルの「メ」の字も存在しない。非常にファッショナブル‥‥5年前だったらブリット・ポップ系に括られたはずだ。そして今年、日本以外ではRUBBERとしてアルバムをリリースしたようだ。アルバムリリースに際して、日本盤を更にリミックスしているようだ。ところが、ここでドラマーであり最後の「メタル者」(唯一の長髪であり、ライヴでは裸でプレイしていた)のダレン・スミスが脱退してしまう。脱退理由は判らないが、恐らく今後の活動や音楽性で意見が分かれたのではないだろうか? 他のメンバーとの違いを見れば一目瞭然のような気もするが‥‥

この夏には昨年の日本公演を収めた「LAST LIVE IN JAPAN」という意味深なタイトルのライヴ盤もリリースされた。何故ラストライヴなのか‥‥そう、いよいよ彼等はここ日本でもバンド名をRUBBERと名乗り変える事にしたのだ。ある意味これはダレンの脱退も影響しているのかもしれない。このライヴ盤には音楽性を今のようなギターポップ系の音に変えてからの楽曲‥‥アルバムで言えば「BIG BANG THEORY」「RUBBER」の2枚‥‥しか収められていない。ボーナストラックとして新録の新曲とSQUEEZEのカバーが収録されている辺りにも、今後の彼等の決意のようなものが感じられる。

正直、「猿メタル」というコーナー的には前作「BIG BANG THEORY」の方が向いていると思う。適度にハードでパンキッシュ、時々登場するHR的アプローチも全く嫌みがない。昔からのファンからすれば物足りないのかもしれないが、俺はよく聴いたアルバムだ。しかし、上のような複雑な事情を知ってしまうと、やはり「どこまで行ってもメタルはのけ者なのかな‥‥」と感じてしまうわけだ。この「RUBBER」というアルバム、なかりの意欲作だ。いつかは取り上げたいと思っていた作品だが、こういう形で取り上げる事になるとは‥‥音的には前作よりもハードさを抑え、カントリー色なんかも取り入れはじめている。ある意味NELSONの最新作にも通ずるものがあるし(このアルバムもギターポップ系好きにはお薦めした作品だ)、TFCの最近のアルバムを好む人にもアピールすると思っている。

確かに「rockin'on」あたりを愛読しているコアなギターポップ/ハードポップ好きには「ひねくれ具合が足りない」と拒絶されるかもしれない。パンク色も弱いし。けど、純粋によい楽曲が詰まったアルバムと考えればTFC「GRAND PRIX」「SONGS FROM NORTHERN BRITAIN」にも共通する空気があるはずだ。

未だにBURRN!でしか取り上げられる事のない彼等だが、心機一転した今、「RUBBER」というバンド名は覚えていた方がいいかもしれない。来年以降の注目株だと俺は確信している。そして、彼等はQUEENのように今後もどんどん成長していって欲しい。「あの彼等にもこんな時代が~」とか言われるような存在になって欲しい。その為には、まず皆さんがこのアルバムを手に取ること。全てはここから始まるわけだから‥‥



▼HAREM SCAREM『RUBBER』
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