HAREM SCAREM『HAREM SCAREM』(1991)
1991年8月6日にリリースされたHAREM SCAREMの1stアルバム。日本盤は本邦デビュー作となった2ndアルバム『MOOD SWING』(1993年)のヒットを受け、1994年5月25日に発売されました。
『MOOD SWING』で広く知られることになったHAREM SCAREMですが、もちろん原点はこのアルバム。ピート・レスペランス(G)のテクニカルで派手なギタープレイと、DEF LEPPARDにも匹敵する厚みのあるコーラスワークが良いアクセントとなっていた2ndアルバムをイメージして本作に触れると、若干地味に聞こえるかもしれません。
楽曲の完成度は『MOOD SWING』にも匹敵する、良質なメロディアスハードロック/AOR的ハードロックといったところで、この路線が好きというリスナーにはたまらないものがあるはず。ですが、全体的に少々落ち着いた印象が強く、デビュー作のわりに“大人しすぎ”というイメージは否めません。特に派手さやダイナミックさが際立つ『MOOD SWING』と比べたら、そりゃあ(人によっては)見劣りするかもしれません。
実際、本作は外部ライターの手を借りて制作した楽曲も複数含まれています。職業ライターとのコライトでヒットを飛ばす手法は80年代後半から盛んだったので、このデビュー作もメジャーレーベルのそういう意思が働いたのでしょう。それ自体はまったく悪いことではないですし、実際「Hard To Love」や「Slowly Slipping Away」などの代表曲も同様の手法で完成したわけですから、否定できませんよね。
「Honestly」や「Something To Say」のような素晴らしいバラードも用意されているし、「Love Reaction」みたいに少々“時代”を感じさせるアレンジの楽曲もあれば、軽快な「All Over Again」や「Don't Give Your Heart Away」もある。全体のバランスは間違いなく良いんです。ただ、ここに1曲だけアップチューン(言ってしまえば「Change Comes Around」的なフックとなるナンバー)が含まれていたら、さらにインパクトが強まったのではないか……そんな気がしてなりません。
なんとなくですが、タイミング的にもNELSONのデビューアルバム『AFTER THE RAIN』(1990年)がアメリカでバカ売れしたことで、レーベルが同系統の作風を押し付けた……なんて想像も難しくありません。老舗レーベル(WEA)ならではの考えですよね。ところが、当のNELSONを送り出したGeffen Recordsはこの頃、すでにNIRVANAを仕込んでいたのですから、いかに先を読む力が大切かが伺えます。
良くも悪くも職人的作風で、ライブ云々よりもラジオやMTVでのヒットを狙ったかのような品の良さは、1991年という時代においてはマイナス方向に働いてしまったことは否めません。ですが、続く『MOOD SWING』が日本やアジア諸国で謎のヒットを飛ばすことになろうとは、この1stアルバムの時点では想像もできていなかったと多います。その結果、この良質なデビューアルバムも遅れて広まることになるのですから……リリースから3年を経て、ようやく報われたわけですね。
音楽に刺激を求める層には不向きかもしれませんが、純粋に良い曲、良い演奏、良い歌を楽しみたいというリスナーには最適な1枚。安心・安定を欲する方にこそ触れていただきたい良作です。
▼HAREM SCAREM『HAREM SCAREM』
(amazon:国内盤CD / 海外盤CD / MP3)