HAREM SCAREM『CHANGE THE WORLD』(2020)
2020年3月上旬に発表されたHAREM SCAREMの15thアルバム。日本盤は同年3月25日にリリース予定。
前作『UNITED』(2017年)からほぼ3年ぶりに発表された本作は、来年2021年にデビュー30周年を控えた彼らにとって、大きな節目となる1枚。2013年の再結成以降はハリー・ヘス(Vo)とピート・レスペランス(G)の2人が中心となり楽曲制作を含む活動を続けており、ダレン・スミス(Dr, Vo)はレコーディングではドラムを叩かずにクレイトン・ドーン(Dr)がプレイ。ダレンはコーラスのみで参加し、MVやツアーではドラムをプレイするという形がとられています。
さて、再結成後3作目のオリジナル新作、名盤『MOOD SWINGS』(1993年)の再録盤『MOOD SWINGS II』(2013年)を含めれば4作目のスタジオアルバムとなる本作。前作でもバンドとしての充実ぶりを存分にアピールしていましたが、そのポジティブな空気は本作からも存分に感じ取ることができます。
とにかく、1曲1曲の完成度が高い。しっかり過去のHAREM SCAREMらしさを感じさせつつ、単なる焼き直しでは終わらない(つまり、マンネリを一切感じさせない)圧倒的に作り込まれた楽曲群がずらりと並んでいます。オープニングナンバーであるタイトルトラック「Change The World」の壮大さ、そして楽曲の端々から伝わるポジティブさからは問答無用の凄みが伝わるはずです。
「Aftershock」や「The Death Of Me」といったマイナーキーの“らしい”ハードロックもあれば、「No Man's Land」のように凝ったアレンジのメランコリック・ナンバーもあるし、「In The Unknown」みたいな哀愁味を漂わせたミディアムナンバー、「Riot In My Head」で味わえる疾走感の効いたハードチューン、「Mother Of Invention」や「No Me Without You」のようにスケール感の大きなバラードも存在する。「Fire & Gasoline」みたいに若干ダークさを残したアップチューンや、“これぞHAREM SCAREM!”と太鼓判を押せる王道ナンバー「Swallowed By The Machine」まであるんだから、そりゃ満足しないわけがない。
要するに、HAREM SCAREMというバンドが過去に残してきた諸作品のいろんなフレイバーが、この1枚に凝縮されていると受け取ることができるわけです。そういった集大成感が非常に強い作風にも関わらず、しっかり新しい作品としてアップデートされている。正直、この手のバンドはサウンドメイキングで現代的な味付けをすることだってできるはずですし、そうすることで“今っぽさ”を表現しないとどんどん古臭くなってしまう可能性だってある。なのに、彼らはそういった味付けに一切手を出すことなく、いい曲といい演奏といい歌といいハーモニーだけで勝負し(いや、「だけ」って簡単に言うけど、その当たり前の要素がすべて揃っていること自体が奇跡なんですが)、結果そこで毎回“勝ち”続けている。その苦労は相当なものがあるはずなのに、それすら一切感じさせないくらい涼しい顔をしている(ように見える)。職人技といえる技術で30年近くにわたり戦い続けてきたわけですものね。脱帽モノです。
「これ!」という突出しまくった圧倒的名曲はないかもしれないけど、どれもが85点以上の高品質。そういう文句の付けどころのない充実の1枚です。
▼HAREM SCAREM『CHANGE THE WORLD』
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