カテゴリー「Heart」の10件の記事

2022年11月27日 (日)

DISTURBED『DIVISIVE』(2022)

2022年11月18日にリリースされたDISTURBEDの8thアルバム。日本盤未発売。

ポップかつソフトな側面を強調した異色作『EVOLUTION』(2018年)から約4年ぶりのスタジオアルバム。2作目『BELIEVE』(2002年)から続いた5作連続全米1位記録は前作で途絶えてしまいましたが、それでも最高4位という好記録を残しており、まだまだ人気は衰えていないことを証明しています。

再始動後の2作……前々作『IMMORTALIZED』(2015年)と『EVOLUTION』を手がけたケヴィン・チャーコ(オジー・オズボーンロブ・ゾンビFIVE FINGER DEATH PUNCHなど)から、新たにドリュー・ファルク(PAPA ROACHFEVER 333DANCE GAVIN DANCEなど)をプロデューサーに迎えた本作は、アグレッシヴさが復調したヘヴィな楽曲を楽しむことができる1枚です。

ドリューは過去に彼が担当したアーティスト同様、本作でもソングライティングをサポート。歌メロは前作の流れを汲み非常にキャッチーですが、それを構築するサウンドそのものはかなり重々しく、彼らのパブリックイメージをなぞったようなスタイルは聴き手安心感を与えてくれることでしょう。また、歌詞の面でもコロナ以降の生活に対する怒りや葛藤が反映されており、中でも「Bad Man」はロシアのウクライナ侵攻に触発された1曲なんだとか。かと思えば、HEARTのアン・ウィルソン(Vo)をゲストに迎えた「Don't Tell Me」はダン・ドネガン(G)が自身の離婚をモチーフにしたとのことで、この約4年で変わってしまった日常(それは公的のみならずプライベートでも)に対する憤りがさまざまな形で表現されているようですね。

……ここまで書くと、非常に優れたメタルアルバムのように受け取れることでしょう。もちろん、全体を通して安心安全の1枚だと思います。ただ、それ以上でもそれ以下でもない。彼らの場合、金太郎飴的なマンネリ感が魅力であると同時に弱点でもあると思うんです。活動休止する前の後期作、特に5作目『ASYLUM』(2010年)ではそれが完全に裏目に出てしまっていましたが、本作にもその前兆のようなものが伺えて、ちょっと心配になってきます。

これ以上、新しいスタイルを望むのは難しいのかな。「Don't Tell Me」は前々作におけるカバー「The Sound Of Silence」の成功がもたらした産物かもしれません(事実、アン・ウィルソンは彼らの「The Sound Of Silence」を聴いてDISTURBEDと一緒に仕事してみたいと思ったそう)し、前作もそういった方向性を突き詰めてみようと思ったもののうまく機能しなかった。その結果、手っ取り早く原点回帰……と考えるのは邪推かもしれませんが、それを抜きに考えても本作は過渡期にある1枚なんじゃないでしょうか。

海外メディアの評価を目にすると、比較的自分と同じような声が見受けられ、みんな感じることは一緒なんだなと思いました。心に残るような強烈な1枚ではないものの、その隙間を埋めてくれるような補助的役割は十分に果たしてくれる。本当はそんなこと、バンドが望んでいないのは百も承知ですが、ここをうまく乗り越えて次作で完全復活を果たしてほしい……そういった意味では、次の9作目がバンドにとって真の勝負作かもしれません。

 


▼DISTURBED『DIVISIVE』
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2021年5月13日 (木)

HEART『BEAUTIFUL BROKEN』(2016)

2016年7月8日にリリースされたHEARTの16thアルバム。現在まで日本盤未発売。

2021年時点でのHEARTの最新アルバムは、既発曲のリアレンジ&リテイク8曲と新曲2曲で構成された準新作的な内容……と思っていたのですが、採用された既発曲の大半が『Bébé le Strange』(1980年)、『PRIVATE AUDITION』(1982年)、『PASSIONWORKS』(1983年)といった、『HEART』(1985年)で再ブレイクする前の低迷期からということで、ほぼ印象にない楽曲ばかり。なので、基本的には新曲と接するような気持ちで向き合えた1枚です(苦笑)。

リテイク楽曲でもっとも新しい2曲が、オープニングを飾るタイトルトラック「Beautiful Broken」(2012年発売の前作『FANATIC』デラックス盤にのみ収録)と、2003年発売のライブ作品『ALIVE IN SEATTLE』で初公開された「Heaven」。前者は本作中もっともハードエッジな楽曲で、90年代以降のHEARTのハードサイドをそのまま進化させたような仕上がりです。また、ゲストボーカリストとしてMETALLICAのジェイムズ・ヘットフィールドが参加しており、聴けばすぐにおわかりいただけるのではないでしょうか(笑)。とにかくカッコいい1曲です。また、後者はこれが初のスタジオ音源化となる、うねりまくったサイケデリックロック。こういう楽曲をやらせたら右に出る者がいないってくらい、HEARTにぴったりな“ムーディな”1曲ですよね。

再録曲の多くはモダンなテイストが加えられ、完全に“今の曲”として生まれ変わっています。ブルージー&ジャジーなテイストの「Johnny Moon」やストリングスをフィーチャーしたZEP風「City's Burning」は“大人のハードロック”という表現がぴったりな仕上がりで、普通にカッコいい。オープニングの「Beautiful Broken」以外はミドルテンポでじわじわ攻める作風なので、即効性は弱いかもしれませんが、これくらい味わい深い作品のほうが今の彼女たちには合っているんでしょうね。

また、新曲2曲のうち「Two」はナンシー・ウィルソン(Vo, G)がリードボーカルを担当。この曲はかのNe-Yoが提供した楽曲で、昨今のアコースティックスタイルの延長線上にあるポップな仕上がり。もうひとつの「I Jump」もアコースティック主体ですが、こちらはストリングスも取り入れられており、もうちょっとサイケロック色が強いアレンジかな。こういう曲こそアン・ウィルソン(Vo)のハイトーンにぴったりですよね。

80年代のような派手さは皆無ながらも、二度目の復活作となった『JUPITERS DARLING』(2004年)から良い流れを作っているように感じられる今のHEART。80's HR/HMも90年代のグランジも飲み込んだ今のHEART、実はかなり機能性の高いロックバンドだと思うんです。若いリスナーにはこの機会にぜひ、本作や『FANATIC』、前々作『RED VELVET CAR』(2010年)あたりをしてもらいたいところです。

 


▼HEART『BEAUTIFUL BROKEN』
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2021年5月12日 (水)

NANCY WILSON『YOU AND ME』(2021)

2021年5月7日にリリースされたナンシー・ウィルソンHEART)初のソロアルバム。日本盤は海外に先駆け、同年4月28日に発売。

ソロ名義では1999年にライブアルバム『LIVE AT McCABES GUITAR SHOP』を発表しているものの、スタジオアルバムはキャリア45年にしてこれが初めて。もともと2020年HEARTとしての大々的なツアーが予定されていたところ、新型コロナウイルスの影響で中止に。その空いた時間をソロアルバム制作に充てたらどうかと周りから提案されたことにより、重い腰を上げついに制作に乗り出したとのこと。レコーディングにはHEARTのメンバーを中心に、サミー・ヘイガーダフ・マッケイガンGUNS N' ROSES)、テイラー・ホーキンス(FOO FIGHTERS)といったゲストミュージシャンがリモートにて参加したそうです。

全体的にアコースティック中心な作風は近年のHEARTにも通ずるものがあり、これは想定内かなと。そんな中、ダフ&テイラーが参加した「Party At The Angel Ballroom」やオリジナル曲「The Inbetween」「The Dragon」、PEARL JAMのカバー「Daughter」などロックテイスト強めの楽曲も含まれており、安心安定の内容を楽しむことができます。特に前者はかなり生々しいサウンドで録音されており、HEARTの良き時代を思うかべることができるはずです。

また、本作には先の「Daughter」以外にもブルース・スプリングスティーン「The Rising」、サイモン&ガーファンクル「The Boxer」、THE CRANBERRIES「Dreams」といったカバー曲も用意。「The Boxer」ではサミー・ヘイガーとのハーモニーを味わえるほか、「Dreams」ではナンシーのバンドROADCASE ROYALEのメンバーでもあるリヴ・ウォーフィールドとのコラボレーションを楽しむことができます。

さらにアルバム終盤には、昨年亡くなったエディ・ヴァン・ヘイレン(VAN HALEN)に捧げたアコースティック・インストゥルメンタル曲「4 Edward」も用意。エディっぽいフレージングを含む、アルバムのクロージングにぴったりな1曲と言えるでしょう。

さすがに現在67歳の彼女に「These Dreams」や「There's A Girl」のようなハードロックチューンを求めるのは酷ですし、そもそも2021年の今、彼女にそういったスタイルを求めるリスナーもそう多くないはず。特に90年代以降のHEARTはアコースティックをひとつの武器としているので、このアルバムで聴けるスタイルは非常に自然なものであり、バンドの作品からの流れで楽しむことができるはずです。と同時に、ナンシーが歌うスプリングスティーンやPEARL JAM、THE CRANBERRIESというのも非常に興味深く、バンドとは違ったテイストを味わえるのではないでしょうか。

ハードなテイストはアン・ウィルソンが中心で歌うHEARTに任せて、ソロはこれくらい肩の力が抜けていていいのでは……という、納得の1枚です。

 


▼NANCY WILSON『YOU AND ME』
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2020年4月 5日 (日)

ALICE IN CHAINS『SAP』(1992)

ALICE IN CHAINSが1992年2月に発表した4曲入りEP。日本盤は海外からだいぶ遅れ、初来日公演に合わせて1993年10月下旬に初リリースされました。

1stアルバム『FACELIFT』(1990年)のツアーを終えたバンドは、キャメロン・クロウ監督による映画『シングルス』のために新曲を制作することになりスタジオ入り。ここで翌1992年初夏に発表される「Would?」(のちに2ndアルバム『DIRT』にも収録)や、『DIRT』収録曲の「Rooster」、そしてこの『SAP』収録曲を含む10曲前後のデモが完成します。バンドはこの機会を無駄にすることなく、1991年11月に再びスタジオ入り。PEARL JAMのデビューアルバム『TEN』(1991年)を手がけたばかりのリック・パラシャーとともに、4〜5日でこのEP収録曲をレコーディングしたのでした。

“樹液”を意味するタイトルの本作(アルバムジャケットが、まさに樹液を採取する様を表現したものです)は、まさにバンドの根幹となる歌に焦点を当てた楽曲が並び、それらをシンプルなアコースティックサウンドで表現するという、その後のALICE IN CHAINSにとって必要不可欠なスタイルがここでひとつ完成します。

レコーディングには同郷シアトル出身のHEARTからアン・ウィルソンがゲスト参加。またSOUNDGARDENクリス・コーネルMUDHONEYのマーク・アームといった気心知れた仲間たちも加わり、リラックスした環境の中で制作されたことが伺えます。

アン・ウィルソンはオープニングトラック「Brother」で主張の強い歌声を響かせ、ジェリー・カントレル(G, Vo)が初めてリードボーカルを担当した「Am I Inside」でも美しいコーラスを聴かせてくれます。また、クリス&マークが参加した「Right Turn」はALICE IN CHAINS、SOUNDGARDEN、MUDHONEYの合体ということで“ALICE MUDGARDEN”名義による楽曲となり、それとわかるボーカルを耳にすることができます。

アコースティック主体といいながらも、「Got Me Wrong」では適度に歪んだギタープレイも楽しむことがで、その不穏なメロディ運び含め、続く『DIRT』や『JAR OF FLIES』(1994年)への布石を見つけることができるはず。たった4曲しか収録されていないものの、実はバンドの歴史上非常に重要な作品ではないかと思っています。

なお、本作のCDではラストナンバー「Am I Inside」終了後にお遊びナンバー「Love Song」を隠しトラックとして収録しています。こちら、Apple Musicなどでは単独楽曲として聴くことができますが、Spotifyでは未収録。できれば配信版でも隠しトラックとして通してほしかったですね。

 


▼ALICE IN CHAINS『SAP』
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2019年9月26日 (木)

HEART『DESIRE WALKS ON』(1993)

1993年11月に発売された、HEART通算11作目のオリジナルアルバム。日本盤は同年10月末に前倒しで先行リリースされています。

『HEART』(1985年)を筆頭に、『BAD ANIMALS』(1987年)『BRIGADE』(1990年)と産業ハードロック路線を突き進んできた彼女たちですが、ちょうどシーンがHR/HMブームからグランジ/ヒップホップ主体へと移行し始めたこともあり、HEART自身もここで軌道修正が入ります。

まず、外部ソングライター主体の楽曲群が、アン(Vo)&ナンシー(Vo, G)のウィルソン姉妹が中心になって書き下ろされた楽曲へとシフト。とはいえ、曲によっては外部ライターがサポートで入っており(あるいは、外部ライターが書いたものをアン&ナンシーが手を加える)、過去3作の“らしさ”は良い意味で損なわれていません。

ですが、そこまで産業ロック臭がしないんですよ、このアルバム。それは「アン&ナンシーがやりたいことをやった、趣味に走った」楽曲が中心になっているからかもしれません。

アルバムはカナダのDALBELLOが1985年に発表した「Black On Black」をリアレンジした「Black On Black II」から激しくスタート。原曲はシンセポップ色の強いアレンジですが、本作では名曲「Barracuda」を彷彿とさせるアグレッシヴさが際立つハードロックチューンへと生まれ変わっています。うん、良いオープニング。

かと思えば、トラッド色が際立つアコースティックチューン「Back To Avalon」があったり、産業ロック路線のミディアムバラード「The Woman In Me」もある。LED ZEPPELINの影響下にあるオリエンタルなハードロックナンバー「Rage」もあれば、美しいピアノバラード「In Walks The Night」、ハードロック調バラード「My Crazy Head」といった聴かせる曲もしっかり用意されている。

ボブ・ディランのカバー「Ring Them Bells」には同郷のALICE IN CHAINSからレイン・ステイリー(Vo)がゲスト参加し、DEF LEPPARDブライアン・アダムスでおなじみのプロデューサー、ジョン・マット・ラング書き下ろしの「Will You Be There (In The Morning)」では従来のHEARTらしさとマット・ラングらしさが融合した新境地を見せてくれる。「Voodoo Doll」や「Anything Is Possible」といったミディアム/アコースティック曲を挟みつつ、最後は再び「Desire Walks On」というハードロックナンバーで締めくくる。

「ロックバンドHEARTが帰ってきた!」と言ってしまえばそれまでですが、この方向転換はバンドをこの先も続けていく上で、このタイミングにやるべきことだった。そう、旧来のHR/HMバンドが死滅し始めたこのタイミングに。チャート的には全米48位と過去3作に及びませんでしたが、それでも50万枚以上は売り上げている。「Will You Be There (In The Morning)」も全米39位のヒットにつながりましたしね。

時代が変わろうがHEARTはまだまだ続いていくんだ……このアルバムは、そんな力強い宣言のような1枚だったのかもしれません。とはいえ、彼女たちが再びHEART名義でオリジナルアルバムを発表するのは、ここから11年も先のことになってしまうのですが……。

 


▼HEART『DESIRE WALKS ON』
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2019年2月28日 (木)

HEART『BRIGADE』(1990)

1990年3月に発表された、HEART通算10作目のオリジナルアルバム。再ブレイクのきっかけとなったメガヒット作『HEART』(1985年)、それをフォローアップする『BAD ANIMALS』(1987年)の流れを汲む“80’s路線”の最終作で、全米3位まで上昇し200万枚を超えるヒット作となりました。また、本作からは「All I Wanna Do Is Make Love To You」(全米2位)という代表曲が生まれたほか、「I Didn't Want To Need You」(同23位)、「Stranded」(同13位)、「Secret」(同64位)がシングルカットされています。

過去2作を手がけたロン・ネヴィソン(オジー・オスボーン、http://www.tmq-web.com/europe/index.html、KISS、SURVIVORなど)から離れ、今作ではリッチー・ズィトー(CHEAP TRICKBAD ENGLISHPOISONMR. BIGなど)がプロデュースを担当。前作『BAD ANIMALS』以上にツルツルにブラッシュアップした産業ロックサウンドで構築された、非常に高品質なロック/ポップアルバムに仕上げられています。

また、恒例となった外部ソングライターの起用もさらに強化され、DEF LEPPARDブライアン・アダムスで知られるジョン・マット・ラングを筆頭に、ホリー・ナイトやアルバート・ハモンド、ダイアン・ウォーレン、トム・ケリー、ビリー・スタインバーグなどそうそうたるメンツが参加。さらに、HEART初期作品からおなじみのスー・アニスにくわえ、メンバーのデニー・カーマッシ(Dr)のMONTROSE時代の盟友であるサミー・ヘイガー(当時はVAN HELEN在籍)や、そのサミーのソロバンドのメンバーであるジェシ・ハームズなどの名前もクレジットに見つけることができます。

先に「非常に高品質なロック/ポップアルバム」と書きましたが、もちろんハードロック的側面を持つ楽曲も残っています。それはオープニングの「Wild Child」やブラスサウンドをフィーチャーした「Talk, Dark Handsome Stranger」、ヘヴィなミドルナンバー「The Night」あたりから感じることができるでしょう。しかし、それも“80年代のAEROSMITH”的範疇に収まるもの、と言えばなんとなくご理解いただけるのではないでしょうか。その“適度さ”や“程よさ”はある一定の枠からはみ出しておらず、そこに物足りなさを感じるリスナーもいるかもしれません。

とはいえ良曲目白押しなので、そういった点では貶しようが一切なし。アン・ウィルソン(Vo)の圧倒的な歌声も健在だし、「All I Wanna Do Is Make Love To You」みたいにロック/ポップス両サイドで完全無敵な存在感を示す1曲も存在する。完全にやり切った感の強い1枚なんじゃないでしょうか。そういった意味では(タイミング的なものもありますが)、僕的にはAEROSMITHの『PUMP』(1989年)と並ぶ傑作だと思っています。



▼HEART『BRIGADE』
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2018年8月16日 (木)

HEART『BAD ANIMALS』(1987)

1987年6月にリリースされた、HEART通算9作目のスタジオアルバム。ロン・ネヴィソン(オジー・オズボーンEUROPE、SURVIVOR、KISSなど)を迎えた前作『HEART』(1985年)でシングル/アルバムともに初の全米No.1を獲得し、本格的な大復活を遂げたHEARTですが、続く本作ではその延長線上にある非常に高品質かつエレガントなハードロックアルバムを提供してくれました。

80年代半ばに入り、いよいよアメリカでのHR/HMブームが本格化していく中、HEARTはロン・ネヴィソンという“わかっている”人をブレインに、適度なハードさと適度な甘さ、ポップさを兼ね備えたバランスの良いヒット作を作り上げましたが、いよいよブームに突入した1987年、バンドはそのハードさと甘さ/ポップさの両軸のうち後者へと傾倒し始めます。

その結果が、先行シングルにして最大のヒット曲となった(全米1位のみならず、この年のBillboard年間チャート2位に君臨した)「Alone」や、「Who Will You Run To」(全米7位)、「There's The Girl」(全米12位)、「I Want You So Bad」(全米49位)といったポップサイドの楽曲群ではないでしょうか。この4曲すべてが外部ライターの手によるもの(「There's The Girl」のみ、この曲を歌うナンシー・ウィルソンの名もクレジット)であり、アルバム全体でも10曲すべてに職業作家がソングライティングに携わっています。

もちろん、バンドがメインになって書いたであろうヘヴィな「Bad Animals」なども含まれており、こういった楽曲がアルバム内でも良いアクセントにはなっているものの、本作の軸は間違いなくポップでメロウな楽曲たち。そこにクリアで高品質なサウンドが組み合わさることで、いよいよCDを中心としたデジタル時代へと足を踏み入れた音楽業界において、かなりクオリティの高いハードロックアルバムを完成させた……そういった意味で、本作の果たした役割は非常に大きなものがあると思います。特に本作と同じ年に発表されたKISSの『CRAZY NIGHTS』と、翌年リリースのEUROPEの4thアルバム『OUT OF THIS WORLD』(1988年)は、80年代後半のロン・ネヴィソン・ワークスにおける重要作と言えるでしょう。

ですが、激しさを求めるリスナーには本作はちょっと不向きかもしれません。ドラマチックな「Alone」や「I Want You So Bad」、アルバムラストを飾るにふさわしい「RSVP」などバラード系楽曲にばかり耳が行き、疾走感のあるハードロック皆無な本作は、前作を気に入った人にはちょっとインパクトは弱いかも。もちろん、アルバムとしての完成度は異常に高いので、今聴いても存分に耐えうる内容なのですが……。このバンドに何を求めるかでその評価が大きく逆転する、ある種の問題作かもしれませんね。



▼HEART『BAD ANIMALS』
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2017年8月13日 (日)

V.A.『SINGLES: ORIGINAL MOTION PICTURE SOUNDTRACK』(1992/2017)

1992年秋に全米公開された映画『シングルス(SINGLES)』のサウンドトラックアルバム。日本では先にサントラがリリースされ、映画は翌1993年春に公開されました(単館ではなかったものの公開劇場数は少なく、どこも小規模劇場での公開だったと記憶しています)。

シアトルを舞台にしたラブストーリーなのですが、当時のシアトルといえばグランジブームまっただ中。主人公のひとりであるクリフ(マット・ディロン)がロックバンドをやっていることなどもあり、劇中にはALICE IN CHAINSやクリス・コーネル(SOUNDGARDEN)、エディ・ヴェダー(PEARL JAM)なども登場します。

サントラは映画公開に先駆けて1992年6月にUS発売(日本では9月発売)。内容は当時人気のグランジバンドやシアトル出身のレジェンドたちの楽曲で大半が占められ、全13曲中11曲が当時未発表曲でした。リードトラックとしてALICE IN CHAINSの新曲「Would?」(同年9月発売の2ndアルバム『DIRT』にも収録)が公開されるやいなや、大反響を呼んだのをよく覚えています。

ALICE IN CHAINS、PEARL JAM、SOUNDGARDEN、MUDHONEYSMASHING PUMPKINSといった当時ど真ん中のバンドから、SCREAMING TREES、MOTHER LOVE BONEというグランジ黎明期のバンド、THE REPLACEMENTSのポール・ウェスターバーグ、HEARTのアン&ナンシー姉妹の別ユニットTHE LOVEMONGERS、ジミ・ヘンドリクスといったレジェントたちまで。さらにはクリス・コーネルのソロ曲まで含まれているのですから、当時のグランジシーンを振り返る、あるいはシアトルのロックシーン(メタルは除く)に触れるという点においては非常に重要な役割を果たすコンピレーションアルバムだと思います。

そのサントラ盤が、発売から25年を経た2017年に、未発表テイクや劇中で使用されたもののサントラ未収録だった楽曲を集めた2枚組デラックスエディションで再発。ディスク1は当時のままで、ディスク2にその貴重な音源がたっぷり収められています。

ここには、マット・ディロンが劇中で所属していたバンド・CITIZEN DICKの楽曲「Touch Me, I'm Dick」(MUDHONEY「Touch Me, I'm Sick」のパロディカバー)や、のちにSOUNDGARDENの楽曲として発表される「Spoonman」のクリス・コーネルソロバージョン、ALICE IN CHAINやSOUNDGARDENのライブ音源、TRULYやBLOOD CIRCUSの楽曲、マイク・マクレディ(PEARL JAM)のソロ曲などを収録。おまけ感の強いものから本気で貴重なテイクまで盛りだくさんの内容で、ここまでを含めて映画『シングルス』をしっかり振り返れるのかな?と改めて思いました。

映画自体は観ても観なくても大丈夫ですが(笑)、1992年という時代の節目を追体験したいのなら、NIRVANAやPEARL JAMのオリジナルアルバムだけではなく、ぜひ本作も聴いていただきたいと、あの当時をリアルタムで通過したオッサンは強く思うわけです。サントラと思ってバカにしたら、きっと痛い目を見るよ?

ちなみに、本作のデラックスエディションが発売されたのが5月19日(海外)。クリス・コーネルが亡くなったのがその前々日の17日ということもあり、真の意味での“グランジの終焉”を実感させる1枚になってしまったことも付け加えておきます。



▼V.A.『SINGLES: ORIGINAL MOTION PICTURE SOUNDTRACK』
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2017年5月12日 (金)

HEART『HEART』(1985)

アン(Vo)&ナンシー(G, Vo)のウィルソン姉妹が中心のロックバンド、HEARTが1985年に発表した大ヒット作品。プロデューサーには70年代にTHIN LIZZY、UFOなどを手がけ、80年代に入るとSURVIVORやMICHAEL SCHENKER GROUPの諸作で知られるロン・ネヴィソンを迎えた、バンドの立て直しを図って制作された1枚です。アルバムタイトルにバンド名を冠するところからも、その覚悟が感じ取れますしね。

70年代後半にブレイクするものの、80年代に入ってからは大きなヒットに恵まれず、メンバーも脱退。そんな中訪れたHR/HMブームに便乗……というわけではなかったでしょうが、結果として当時のMTV主流の売り方やHR/HMブームにうまく乗ることができ、結果として初の全米No.1を獲得。現在までに500万枚以上を売り上げており、また本作からは「What About Love」(全米10位)、「Never」(全米4位)、「These Dreams」(全米1位)、「Nothin' At All」(全米10位)、「If Looks Could Kill」(全米54位)と5枚のシングルヒットも生まれています。

ロン・ネヴィソン特有のリヴァーブの効いた質感とアリーナロックを彷彿とさせるドラムサウンド、ハードだけど耳障りの良いギター、適度に採用されたシンセ、そしてあくまでボーカルが軸というミックス。ハードロックを基盤にしながらもポップスとしても通用する作風は、ときに「産業ロック」と揶揄されたりもしますが、リリースから30年以上経った現在聴いても色褪せることのない名作であることは否定しようがありません。

ドライブ感の強いHRナンバー「If Looks Could Kill」から始まり、ヒットシングル3連発(「What About Love」「Never」「These Dreams」)へと続く流れも良いし、そこからまたヘヴィな「The Wolf」へと戻り、後半(アナログB面)もポップさとハードさをミックスしたバランスの良い楽曲が並ぶ。アン・ウィルソンのボーカルも絶好調だし、その合間に登場するナンシー・ウィルソンの癒し度が高い歌声も箸休め的にちょうど良い(その箸休めのはずだった「These Dreams」が初の全米No.1シングルになってしまうわけですが)。楽曲自体もバンドメンバーが軸になって書いたもののみならず、ジム・ヴァランスやホーリー・ナイト、マーティン・ペイジ、バーニー・トーピンなど外部ライターによる楽曲も多数収録。そういった外部ライターによる楽曲がシングルヒットしてしまうというのも、まぁ皮肉っちゃあ皮肉ですけどね。

これだけ素晴らしい作品なのに、いまだにリマスター化されていないのが残念。質感や録音レベルが当時のままということもあって、CDやデジタルで聴いたときに若干の迫力不足は否めません。続く『BAD ANIMALS』(1987年)以降の作品含め、ぜひリマスター盤の発売をお願いしたいところです。



▼HEART『HEART』
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2017年1月 8日 (日)

個人的に気になるメタル系職業作家15選

先日KIX『BLOW MY FUSE』を紹介した際、知人が文中に登場したテイラー・ローズやボブ・ハリガンJr.といった職業作家に興味を持ったらしく、「デズモンド・チャイルドやホリー・ナイトあたりは調べたことあるんですが、メタル職業作家の存在すごく気になります」というコメントをいただきました。

実際80年代後半、特にBON JOVIAEROSMITHの大ヒット以降こういった職業作家の存在はメタル系アーティストにとっても欠かせない存在になっています。90年代に入ると、SCORPIONSオジー・オズボーンといった大御所ですら採用し始めるわけですからね。それまでバンドの力だけですべてをまかなおうとしていたところ、「もっといい曲を!」というバンド自身の姿勢から積極的に、もしくはレコード会社からの圧力からイヤイヤこういったアクションに移行するようになったのかもしれません。

また、職業作家の楽曲をアーティストが取り上げるケースには幾つかのパターンがあり、

①作家が以前発表した楽曲をカバー。
②作家とアーティストが共作(アーティストが書いた楽曲をテコ入れする、あるいは逆のケース)。
③プロデューサーとして制作に加わり、楽曲制作にも携わる。
④作家が書いた新曲をそのまま取り上げる。

の4つが考えられるかと。現在のメタルシーンでは多くの場合②が主流だと思いますが、まれに④で大ヒットを飛ばすケースも見受けられます(AEROSMITHの「I Don't Want To Miss A Thing」など)。

そこで今回は、CDのブックレットでよく目にする作家さんをピックアップしつつ、その中から個人的にピンとくる方々をここで紹介。作家の特性を上記の①〜④で分類し、代表曲な楽曲を紹介していきたいと思います。

 

<70年代〜>

●ラス・バラード(特性:①②)
この人の場合は楽曲提供というよりも、彼が自身のバンドや他のアーティストに提供した曲をメタル系アーティストがカバーしたことにより、その名が知られるようになったと言ったほうがいいかもしれません。きっかけはグラハム・ボネット期のRAINBOWがカバーした「Since You Been Gone」ですよね。RAINBOWは続くジョー・リン・ターナー期にも「I Surrender」をカバーしてますし。そのRAINBOWの数年前に、当時KISSのエース・フレーリーもラス・バラッド作「New York Groove」をカバーして全米トップ20入りのヒットを記録。KISS自身も90年代に「God Gave Rock And Roll To You」を「God Gave Rock And Roll To You II」と改題してカバーしてますしね。

それと今回いろいろ調べて初めて気づいたのですが、NIGHT RANGERが最初の解散前に発表したアルバム『MAN IN MOTION』(1988年)からのリード曲「I Did It For Love」もラス・バラッド作。加えて、これも全然気にしてなかったんですが、BAD ENGLISHのラストアルバム『BACKLASH』(1991年)収録曲「So This Is Eden」はジョン・ウェイト(Vo)、ジョナサン・ケイン(Key)との共作曲。時代的に90年代に入ってからの作品なので、世の中的に職業作家との共作が当たり前になった時期にそれまでのカバーとは違った形でのコラボレーションが実現したわけです。

代表作品:ACE FREHLEY「New York Groove」「Into the Night」、BAD ENGLISH「So This Is Eden」、GRAHAM BONNET「Liar」「S.O.S.」、KING KOBRA「Dream On」、KISS「God Gave Rock And Roll To You II」、NIGHT RANGER「I Did It For Love」、PETER CRISS「Let Me Rock You」「Some Kinda Hurricane」、RAINBOW「Since You Been Gone」「I Surrender」

 

●リチャード(リッチー)・スパ(特性:①②④)
AEROSMITH「Chip Away The Stone」の作者として知られる彼は、もともとソングライター兼ギタリストとして活動していたアーティスト。ソロアーティストとして70年代にアルバムも発表しており、この中からジョニー・ウィンターが「Stone County Wanted Man」をカバーしています。また、エアロにはその後も楽曲提供を幾つかしているだけでなく、ジョー・ペリーが脱退した際にはレコーディングにも参加(1979年のアルバム『NIGHT IN THE RUTS』収録の「No Surprize」「Mia」)。それ以外に目立った共演は、元BON JOVIのリッチー・サンボラの2ndソロアルバム『UNDISCOVERD SOUL』(1998年)での共作ぐらい。メタル系以外では、P!NKやMIKAといったアーティストにも楽曲提供しています。

代表作品:AEROSMITH「Chip Away The Stone」「Lightning Strikes」「Amazing」「Pink」、OZZY OSBOURNE「Back On Earth」、RICHIE SAMBORA「Hard Times Come Easy」

 

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