THE HELLACOPTERS『OVERDRIVE』(2025)
2025年1月31日にリリースされたTHE HELLACOPTERSの9thアルバム。
ニッケ・アンダーソン(Vo, G/IMPERIAL STATE ELECTRIC、LUCIFER、ENTOMBED)、ドレゲン(G, Vo/BACKYARD BABIES)、ロバート・エリクソン(Dr)、アンデス・“ボバ”・リンドストローム(Key)にサポートメンバーとしてドルフ・デ・ボースト(B/THE DATSUNS、IMPERIAL STATE ELECTRIC)を迎えた5人で、2022年4月に約14年ぶりのアルバム『EYES OF OBLIVION』、2024年2月には3rdアルバム『GRANDE ROCK』(1999年)のリイシュー作『GRANDE ROCK REVISITED』を発表するなど、精力的に制作を続けてきたTHE HELLACOPTERS。2024年5月には2曲入りシングル『STAY WITH YOU』もリリースしており、「これはニューアルバム発売間近か?」と期待を煽る中、非常にいいペースでこの約3年ぶりのオリジナルアルバムが届けられたわけです。
ところが、今作発売に伴う最新のアーティスト写真を見ると、そこにはドレゲンの姿がないのです。新作のブックレットを確認すると、メンバーとしてはバンドに残っているものの「In Absentia(不在): Dregen」と表記されており、この新作の制作には携わっていないことがわかります。というのもドレゲン、2023年に指を怪我してしまい、しばらくギターが弾けない状態なんだとか(2023年夏以降のライブでは77というバンドのギタリスト、LG・ヴァレタがプレイしているとのこと。今作にも一部参加)。2024年末にはリハビリも始まっているとのことで、相当の大怪我だったようですね。
プロデュースは前作まで大半の作品を手掛けてきたチップス・キーズビー(BACKYARD BABIES、MICHAEL MONROE、SPIDERSなど)のもとを離れ、ニッケ自身が初めてトータルプロデュースを担当。大半の楽曲をニッケが書き下ろし(これは前作から引き続きなので、ドレゲンがいる/いないは関係なし)、リード曲「(I Don't Wanna Be) Just A Memory」をドルフ単独、「Doomsday Daydreams」をニッケとドルフの共作で制作しています。アー写にその姿が収められていたり、単独名義での制作楽曲が採用されたりと、もはやドルフはサポートメンバーの域を超えた存在のようです。
前作は全10曲(日本盤ボーナストラック除く)で34分強というコンパクトな内容でしたが、今作も全11曲(日本盤ボーナストラック除く)で40分という聴きやすさ。大半の楽曲が2分台後半から4分強で、ラストナンバー「Leave A Mark」のみ5分半前後(この曲はラストトラックにふさわしく、終盤に長尺のソロパートが豊富に用意されているのも大きい)。ロックンロールはこれくらいでいいんです。
さて、内容に関して。基本的には前作で示した「初期2作と中後期のハイブリッド」の延長線上にあるのですが、今作はよりポップさが際立った仕上がり。あと、直近で3rdアルバム『GRANDE ROCK』の一部パートをドレゲンのプレイで録り直したことなども影響してか、このアルバムとの共通点も少なくない(まあ、要するに中後期のカラーってことですけどね)。加えて、前作の日本盤ボーナストラックとして収録されたカバー曲(のちにこれらをまとめたEP『THROUGH THE EYES OF...』を海外でリリース)にTHE BEATLES「Eleanor Rigby」がピックアップされていましたが、今作にはそのへんの色合いも含まれているのが興味深かったです。
アップチューンと呼べるものは4曲目「Wrong Face On」と6曲目「Faraway Looks」のみで、あとはミディアムでじっくり攻める形が中心。オールディーズやソウルミュージックからの影響が濃厚な楽曲も多く、そんな中に爽快感の中にメランコリックさも伝わる「(I Don't Wanna Be) Just A Memory」(この曲がいいフックになっている!)や往年のKISSを思わせるキャッチーなメジャーチューン「Do You Feel Normal」、ブルージーな中に中期THE BEATLES的サイケデリック感を散りばめた「The Stench」などはアルバムの中で良いアクセントとなっており、単調になりがちなこの手の作品に起伏を与えてくれます。
熟成された感の強いサウンドと楽曲群は、もしかしたら初期〜中期の彼らを愛聴する方には多少退屈に思えるかもしれませんが、聴き応えという点においては近作の中でも突出したものがあるのではないでしょうか。地味ながらも気付けばリピートしている、そんなスルメ作です。
なお、日本盤のみのボーナストラックにはヴァン・モリソン「Wild Night」、アル・スチュワート「What's Going On?」の各カバーを用意。このセレクトからも、本作で彼らがやりたかったことが感じ取れるかもしれませんね。今のところこの2曲はサブスク未配信なので、できることなら日本盤CDをゲットすることをオススメします。
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