カテゴリー「Hellacopters, the」の20件の記事

2024年3月17日 (日)

THE HELLACOPTERS『GRANDE ROCK REVISITED』(2024)

2024年2月16日にリリースされたTHE HELLACOPTERSのリイシュー作品。

本作は1999年5月に発売された3rdアルバム『GRANDE ROCK』のリマスター盤(フィジカルではDISC 1、配信ではDISC 2)と、本作制作前に脱退し現在バンドに復帰しているドレゲン(G/BACKYARD BABIES)のプレイを追加し、パーカッションとピアノ。新しいバッキングボーカルを加えたリミックス盤(フィジカルではDISC 2、配信ではDISC 1)からなる2枚組作品。旧譜の復刻盤ではあるものの、ある意味では再結成後に制作された8thアルバム『EYES OF OBLIVION』(2022年)に続く“準”新作と受け取ることもできます。

思えば『GRANDE ROCK』制作時はニッケ・アンダーソン(Vo, G)以外のパーマネントギタリストが加入前で、本作の大半でニッケがギター演奏を担っていました(一部でキーボーディストの“ボバ・フェット”ことアンダース・ボバ・リンドストロームもプレイ)。その後、本作を携えたツアーからロバート・ストリングことロバート・ダールクヴィストが正式加入し、2008年の解散までのラインナップが完成することとなります。

ドレゲン在籍時の初期2作(1stアルバム『SUPERSHITTY TO THE MAX!』、2ndアルバム『PAYIN' THE DUES』)とカバー曲のみで構成された7thアルバム『HEAD OFF』(2008年)は現在まで国内ストリーミング未配信。実は本作『GRANDE ROCK』のオリジナル盤も2022年頃までストリーミング未配信および廃盤状態でした。しかし、新作『EYES OF OBLIVION』のリリースを機に『GRANDE ROCK』は現在の所属レーベルであるNuclear Blast Recordsから再発、同時にストリーミング配信も開始されました。

さて、補足はこれくらいにして。本作をこういう形でリイシューした理由に、「もっとギターがヘヴィなミックスにしたかった」というニッケやメンバーの意思があったとのこと(上記のドキュメンタリー映像参照)。確かに、オリジナル盤は前2枚の荒々しさからすると少々落ち着いた、品の良い形にまとめられている印象があります。それが当時の彼らにとってはある意味では正解だったのかもしれませんが、リスナー視点でも以降の作品と比べて本作が若干“弱く”感じてしまう瞬間も多々あり、そういった意味では「曲は良いのにどこか物足りない」1枚だったとも言えます。

そんな問題を解消したのが、本作のリミックス盤ではないでしょうか。ドレゲン自身も過去に自伝で「俺があのアルバムでギターを弾いていたらどうなっていたのか」と発言していたようですし、ゼロから関われてはいないものの多少はそうした夢も実現できているのかなと。ギターの厚みや荒々しさに関しては、新たに制作されたリミックス盤はオリジナル盤とは比にならないほどのカッコよさで、「そうそう、『PAYIN' THE DUES』の“次”ってこれだよね!」と納得できる仕上がり。ギターのみならずボーカルの厚みにも変化が生じており、全体的な“装飾”もより派手になっている。そういう点では「1999年の音」ではなく「2020年代の音」なのかもしれませんが、誰もが夢想した“IFの世界”を“準”新作として楽しめるという意味では、ファンやロックリスナーに幸せを与えてくれる1枚だと思います。

オリジナル盤よりもきめ細やかにバージョンアップされたリマスター盤と、新たに制作されたリミックス盤をこういう形で聴き比べることができるのも非常に興味深いですし、これはなかなかの好企画ではないでしょうか。この調子で『SUPERSHITTY TO THE MAX!』や『PAYIN' THE DUES』も再発していただけないかな……あ、下手なリミックスやリマスターは大丈夫なので(むしろあの2枚はオリジナル盤が完璧すぎますからね)。

 


▼THE HELLACOPTERS『GRANDE ROCK REVISITED』
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2024年3月15日 (金)

SAMI YAFFA『SATAN'S HELPERS, WARLAZER EYES & THE MONEY PIG CIRCUS』(2024)

2024年3月8日に配信リリースされたサミ・ヤッファの2ndアルバム。フィジカルは3月15日発売予定、日本盤は現在未発売。

HANOI ROCKSなどでお馴染み、現在は盟友マイケル・モンローのバンドメイトとして活動をともにしているサミ。40年以上におよぶ音楽キャリアにおいて初のソロアルバム『THE INNERMOST JOURNEY TO YOUR OUTERMOST MIND』を2021年9月に発表しましたが、本作はそれに続く2年半ぶりの新作となります。

レコーディングには前作にも携わったヤンネ・ハーヴィスト(Dr)、リンデ・リンドストローム(G/ex. HIM)、バートン(Key/ex. HIM)といった地元スウェーデンの仲間たちが全面参加。さらにHANOI ROCKSのメンバーでもあるナスティ・スーサイド(G)やマイケル・モンロー(Vo, Sax)、BACKYARD BABIESTHE HELLACOPTERSの一員でもあるドレゲン(G)、そしてマイケル・モンローのバンドメンバーでもあるリッチ・ジョーンズ(G)&スティーヴ・コンテ(G)といった気心知れた友人たちもゲスト参加しています。

前作で得た手応えをもとに、フィンランドやスウェーデン、スペインなどで断続的に、数年かけて制作されたという本作。基本路線は前作の延長線上にあるものの、まずはオープニングのタイトルトラックに驚かされるのではないでしょうか。マカロニウェスタンを彷彿とさせるスローブルースでじわじわと熱量を高めていくスタイルは、インパクトに欠けると受け取られてしまう可能性もゼロではありませんが、独特の世界観を提供するための入り口としてはいい味付けになっていると個人的には感じました。

パンキッシュなアップチューン「Silver Or Lead」や「Shitshow」、HANOI ROCKSやマイケル・モンローの楽曲として披露されても何ら違和感のないマイナーキーの「Hurricane Hank」や「Crashing Down」、レゲエテイストを取り入れた「Death Squad」などいかにもな楽曲が多数収録される中、レイドバックしたアコースティックアンバー「Down Home」、ファンキーさが際立つ「Chemical Life」、スカテイストを強めたダウナーな「Far Star」などはアルバムのフックとして良い方向に作用している印象を受けます。ぶっきらぼうながらも大人の色気が漂うサミのボーカルも前作以上に馴染み始めており、昨年9月に還暦(!)を迎えたにも関わらずミュージシャンとしてなおも進化を続けようとする彼の前向きな姿勢にただただ脱帽するばかりです。

アルバムのクロージングナンバー「Faster Than Time」のアットホーム感も相まって、前作以上にリラックスして楽しんでいる様子が伝わる本作。酒をたらふく浴びながらまったり楽しみたい、そんな空気感の1枚ではないでしょうか。せっかくなので、クラブ規模でのライブも観てみたいなあ。

 


▼SAMI YAFFA『SATAN'S HELPERS, WARLAZER EYES & THE MONEY PIG CIRCUS』
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2023年1月 4日 (水)

2022年総括

仕事始めのタイミングになりましたので、例年より数日遅いですが2022年のまとめ記事をアップしておきます。

昨年は「アルバム/シングル/楽曲と枠にこだわらず、20作品に縛る」形でまとめ、別途「HR/HM、ラウド編」で別エントリーを作っていましたが、今年はもうそういう枠を全部取っ払って(ジャンル分け面倒くさい)ひとつのエントリーに包括し、「ジャンル/アルバム/シングル/楽曲と枠にこだわらず、30作品に縛る」という形にさせていただきました。これなら一般総括の20作品の中からあえてメタル系を外したり入れたりと悩まなくて済むしね。

というわけで特に順位付けをせずアルファベット→50音順で30作品、掲載していきます。

 

Afterglow『独創収差』(楽曲)

 

ARCHITECTS『the classic symptoms of a broken spirit』(アルバム/レビュー

 

asmi「PAKU」(楽曲)

 

DEF LEPPARD『DIAMOND STAR HALOS』(アルバム/レビュー

 

Foi『HER』(アルバム)

 

GREYHAVEN『THE BRIGHT AND BEAUTIFUL WORLD』(アルバム/レビュー

 

THE HELLACOPTERS『EYES OF OBLIVION』(アルバム/レビュー

 

Ho99o9『SKIN』(アルバム/レビュー

 

IBARAKI『RASHOMON』(アルバム/レビュー

 

ITHACA『THEY FEAR US』(アルバム/レビュー

 

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2022年7月 5日 (火)

2022年上半期総括

恒例となった上半期ベスト。ここ1〜2ヶ月は激務に伴い連続更新をストップさせるタイミングが何度かあり、6月末からも不定期更新が続いておりますが、これだけはやっておかないとと思い、記録として残すことにしました。

今年は例年の「洋楽5枚、邦楽5枚」を崩して、このサイトで紹介した作品の中から10作品をピックアップする形を取りました。最後に、次点5作品も紹介しております。年末の年間ベストに関しては例年どおりの形で行うと思いますが、時間がない今はこういう形で進めさせてください。

 

DEF LEPPARD『DIAMOND STAR HALOS』(amazon)(レビュー

 

FONTAINES D.C.『SKINTY FIA』(amazon)(レビュー

 

THE HELLACOPTERS『EYES OF OBLIVION』(amazon)(レビュー

 

HO99O9『SKIN』(amazon)(レビュー

 

IBARAKI『RASHOMON』(amazon)(レビュー

 

NOVA TWINS『SUPERNOVA』(amazon)(レビュー

 

PAUL DRAPER『CULT LEADER TACTICS』(amazon)(レビュー

 

RECKLESS LOVE『TURBORIDER』(amazon)(レビュー

 

VENOM PRISON『EREBOS』(amazon)(レビュー

 

ZEAL & ARDOR『ZEAL & ARDOR』(amazon)(レビュー

 

そして、以下5作品が次点となります。

 

BLOODYWOOD『RAKSHAK』(レビュー
GREYHAVEN『THIS BRIGHT AND BEAUTIFUL WORLD』(レビュー
MICHAEL MONROE『I LIVE TOO FAST TO DIE YOUNG!』(レビュー
PORCUPINE TREE『CLOSURE / CONTINUATION』(レビュー
SOUL GLO『DIASPORA PROBLEMS』(レビュー

2022年4月 2日 (土)

THE HELLACOPTERS『EYES OF OBLIVION』(2022)

2022年4月1日にリリースされたTHE HELLACOPTERSの8thアルバム。

スタジオアルバムとしては全曲マイナーなガレージロックのカバーで構成された7thアルバム『HEAD OFF』(2008年)以来14年ぶり、全曲オリジナル曲で構成された新作としては6thアルバム『ROCK & ROLL IS DEAD』(2005年)以来約17年ぶり。2016年の再結成後には1996年当時の未発表曲を現編成でレコーディングした「My Mephistophelean Creed / Don't Stop Now」を発表しているものの、まさかここまでたどり着くとは想像もしていませんでした。

レコーディング参加メンバーはニッケ・アンダーソン(Vo, G/IMPERIAL STATE ELECTRICLUCIFERENTOMBED)、ドレゲン(G, Vo/BACKYARD BABIES)、ロバート・エリクソン(Dr)、アンデス・“ボバ”・リンドストローム(Key)の2ndアルバム『PAYIN' THE DUES』(1997年)時の布陣。正式ベーシストは不在で、レコーディングではニッケがプレイし、ライブではIMPERIAL STATE ELECTRICやTHE DATSUNSのドルフ・デ・ボーストが参加しているようです。

プロデュースは4thアルバム『HIGH VISIBILITY』(2000年)以降すべての作品を手掛けてきたチップス・キーズビー(BACKYARD BABIES、MICHAEL MONROE、SPIDERSなど)が引き続き担当。ゲストとして、ニッケの別バンドLUCIFERのヨハナ・サドニス(Vo)がコーラスとして参加しています。

全10曲(日本盤ボーナストラック除く)で34分半というコンパクトな内容は、往年のクラシックロック的であると同時に現代的でもある。そもそも2ndアルバム『PAYIN' THE DUES』なんて30分にも満たなかったし、3rdアルバム『GRANDE ROCK』(1999年)だって38分。本来の姿に戻っただけなのです。

肝心の内容は、リードトラック「Reap A Hurricane」のときに書いたように、ニッケが語るところのThe Beatles meets Judas Priest or Lynyrd Skynyrd meets the Ramones but the best way to describe this album is that it sounds like The Hellacopters today.」的内容。「Reap A Hurricane」を聴き、このコメントを読んで僕は「初期2作と中後期のハイブリッド」と予想しましたが、まさにそういう仕上がりでした。ぶっちゃけると、もうちょっと初期2作のカラーが強いかな?とも思ったのですが、意外と中後期のレイドバック路線の延長線上にある流れで、『ROCK & ROLL IS DEAD』や『HEAD OFF』に続く正統的新作だと断言できます。つまり、時期を限定せずTHE HELLACOPTERSの新作を常に楽しんできたリスナーには、問答無用で楽しめる1枚なのです。

序盤はミディアムから若干アップテンポといったタイプの楽曲が中心で、3曲目にブルージーなミディアムスローナンバー「So Sorry I Could Die」が来るあたりに新境地的印象を覚えます。かと思えば、続くタイトルトラック「Eyes Of Oblivion」から再びギアを入れ直し、ニッケ&ドレゲンのツインギターがカッコいい「Positively Not Knowing」、イントロが確かにJUDAS PRIESTっぽんだけど軽快なメジャーキーが斬新な「Tin Foil Soldier」、グルーヴィーなアップチューン「Beguiled」、キャッチーなメロディを含む王道ガレージロック「Try Me Tonight」と新しさと従来の路線が混在している。バンドとして、そして表現者として常に成長を続けていることを窺わせる、文句なしの傑作ロックアルバムです。

日本盤にはボーナストラック5曲を追加し、トータル51分という長尺さ。オリジナル新曲「Don't Hold On」のほか、THE BEATLES「Eleanor Rigby」、STRING DRIVEN THING「Circus」、G.B.H.「I Am The Hunted」、THE BROGUES「I Ain't No Miracle Worker」という本編以上にバラエティに富んだ楽曲群を楽しむことができます。ぶっちゃけ、この5曲だけを抜き出してEPとして売り出すことだってできるのに、なんて太っ腹なんだ。ここでは完全にTHE HELLACOPTER節が備わった「Eleanor Rigby」が出色の仕上がり。聴くまでは不安だったけど、一番ツボでした。

さてさて。こうなると生で彼らのステージを観たいですよね。最後の来日は2001年1月でよかったのかしら……期待しても、いいですよね?

 


▼THE HELLACOPTERS『EYES OF OBLIVION』
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2021年12月18日 (土)

THE HELLACOPTERS『REAP A HURRICANE』(2021)

2021年12月17日にデジタルリリースされたTHE HELLACOPTERSの新曲。

2008年に一度解散したものの、2016年にニッケ・アンダーソン(Vo, G/IMPERIAL STATE ELECTRICLUCIFERENTOMBED)、ドレゲン(G, Vo/BACKYARD BABIES)、ケニー・ホーカンソン(B)、ロバート・エリクソン(Dr)、アンデス・“ボバ”・リンドストローム(Key)という2ndアルバム『PAYIN' THE DUES』(1997年)時の布陣で再結成を果たしたTHE HELLACOPTER。その後、ケニーがすぐに脱退し、サミ・ヤッファMICHAEL MONROE、ex. HANOI ROCKなど)などがツアーメンバーとして参加するものの、現在はパーマネントのベーシスト不在という4人編成で活動を継続しています。

そんなTHE HELLACOPTERSが2022年4月1日に、『HEAD OFF』(2008年)以来14年ぶりとなるニューアルバム『EYES OF OBLIVION』をNuclear Blast Recordsからリリースすることをアナウンス。この発表にあわせて、アルバムからのリード曲として実に17年ぶりのオリジナル新曲「Reap A Hurricane」を配信リリースしたのです(※2016年の再結成直後に発表した7インチシングル「My Mephistophelean Creed / Don't Stop Now」は1996年に書き下ろした未発表曲を、2016年に正式レコーディングしたもの。純粋なオリジナル新曲ではないので割愛しました)。17年ぶりというのは、『HEAD OFF』が全曲カバー曲だったため、そのひとつ前のオリジナルバム『ROCK & ROLL IS DEAD』(2005年)以来だからなんですね。

さて、待望の新曲。アメリカで相次いで竜巻が発生しているタイミングでこのタイトルの新曲を発表してしまうという、なんともタイミングがアレですが……楽曲自体はドレゲンが脱退して以降、特に4作目『HIGH VISIBILITY』(2000年)や5thアルバム『BY THE GRACE OF GOD』(2002年)、そして『ROCK & ROLL IS DEAD』といった作風の延長線上にあるスタイルかなと。爆走ロックンロールを武器としたデビュー作『SUPERSHITTY TO THE MAX!』(1996年)や続く『PAYIN' THE DUES』などドレゲン在籍時と比べるとスピードを抑えた作風は、まさに中後期のそれと言えるでしょう。

しかし、リフワークは中後期というよりは初期のそれに近い印象もあり、このへんはドレゲンのカラーが加わったからこそなのかな。録音の質感も整理されクリアになった中後期よりも初期のそれに戻っている感があるので、そういった意味では初期2作と中後期のハイブリッド感が楽しめる1曲とも言えるでしょう。

「初期2作と中後期のハイブリッド」という点においては、実は3rdアルバム『GRANDE ROCK』(1999年)的でもあるのかな。実は、今回のNuclear Blast Recordsとの契約を機に、ここ日本ではストリーミングサービス未配信だった同作が、この新曲と同タイミングで配信スタートしているんです。これって偶然なのか、それとも……(この先、1stや2nd、そして解散前のラスト作『HEAD OFF』や数々のコンピ盤も国内サブスク解禁されることを願っております)。

そして、気になるニューアルバム『EYES OF OBLIVION』の内容ですが……この1曲だけでは想像も難しいところですが、ニッケによるとThe Beatles meets Judas Priest or Lynyrd Skynyrd meets the Ramones but the best way to describe this album is that it sounds like The Hellacopters today.」なんだとか。やはり「初期2作と中後期のハイブリッド」というのは、あながち間違ってないのかもしれませんね。

 


▼THE HELLACOPTERS『REAP A HURRICANE』
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LUCIFER『LUCIFER IV』(2021)

2021年10月29日にリリースされたLUCIFERの4thアルバム。

ドイツ人女性シンガーのヨハナ・サドニス(ex. THE OATH)を中心に結成されたLUCIFER。ANGEL WITCHのアンドリュー・プレスティッジ(Dr)や元CATHEDRALのギャリー・エニングス(G)などが在籍してきましたが、現在はニッケ・アンダーソン(Dr, G, Key/THE HELLACOPTERSENTOMBEDIMPERIAL STATE ELECTRIC)、ライナス・ビョークランド(G)、マーティン・ノルディン(G)、ハラルド・ジョットブラード(B, Key)という編成で活動中です。

前作『LUCIFER III』(2020年)から1年7ヶ月という短いスパンで届けられた本作。前作発表直後にコロナ禍に突入してしまったこともあり、同作を携えたツアーを本格的には行えず、結果として彼らは再びスタジオに戻ることでバンドとしてのアイデンティティを維持します。

基本的にヨハナとニッケが大半の楽曲を制作するスタイルは前作と同様ですが、今作では今年新加入のライナスとマーティンもソングライティングに参加。70年代のクラシックロックやガレージロック、ブルースロック、ハードロック、サイケデリックロック、プログレッシヴロックなどからの影響を下地に、ヨハナの気怠くも艶やかな歌声と、ソングライティング面に強く打ち出されたニッケの趣味(KISSTHIN LIZZYなど)が絶妙なバランス感でミックスされた、古臭くも新鮮という個性的な1枚に仕上がっています。

曲によってはRAINBOWBLACK SABBATHあたりからの影響も見つけられ、それらがレイドバックすることによって新たな個性を生み出している。かつ、熱すぎず冷たすぎずというヨハナのボーカルが乗ることで、オリジネーターとは異なるものへと進化。このアルバムからは、上記のようなルーツの匂いを漂わせながらも、ド直球で似ている(パクっている)ものは皆無。テイストや方向性がルーツバンドを踏襲してはいても、ヨハナのセンス、ニッケのセンスによって上書き保存されているので、結果先のように「古臭くも新鮮」という作品に仕上がるわけです。

例えば、GRETA VAN FLEETを筆頭とするクラシックロック・リバイバル的スタイルの若手新人バンドと比較すると、もともとキャリアのあるミュージシャンが集まったLUCIFERはちょっと違うのかもしれない。しかし、結果として慣らされている音や生まれてくる楽曲は、GRETA VAN FLEETの対抗馬として十分に通用する個性を備えている。確実に違う枠だってわかってはいるんだけど、むしろGRETA VAN FLEETリスナーにこそ触れてほしいと思わずにはいられない。同バンドに対するヨーロッパからの回答、なんていうのは安直でしょうかね。

怪しげな空気をまとうインスト「The Funeral Pyre」や、ピアノをフィーチャーしたメランコリックな「Nightmare」など変化球が随所に用意されているし、怪しいコード感のバラード「Orion」や初期サバス的なリフワークと伸びやかなメロディラインの相性も抜群な「Phobos」など、アルバム後半に進めば進むほどクセの強い楽曲が増えていく構成も、一度聴いたらドツボにハマってしまう魅力を秘めている。強烈な一撃はないタイプのバンドですが、70年代のピュアなハードロックやクラシックロック・リバイバルの流れに興味を持っている方なら、絶対にドストライクなはず。個人的には過去3作を軽く超える、LUCIFERの最高傑作だと信じてやみません。

だいたい、LED ZEPPELINもBLACK SABBATHもタイトルに“4/IV”が付いた作品(4作目のアルバム)はどれも傑作でしたし、その方程式でいけばLUCIFERの4作目も最高に決まってる。問答無用で気持ちよく楽しめるし、THE HELLACOPTERSなどニッケのロックンロールサイドがお気に入りのリスナーにもうってつけ。2020年代の新たなスタンダードとなるべくして生まれた傑作です(国内ではストリーミング配信されていないことだけが玉に瑕ですが)。

 


▼LUCIFER『LUCIFER IV』
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2018年10月 7日 (日)

THE HELLACOPTERS『HEAD OFF』(2008)

2008年4月にリリースされたTHE HELLACOPTERSの通算7枚目にあたるスタジオアルバム。本作リリース前には同年での解散もされており、これがラストアルバムになることも事前にアナウンス済み。そんな中届けられたこのアルバムは、どこからどう聴いてもTHE HELLACOPTERS以外の何者でもない。誰もがそう、思ったはずです。いや、「でした」が正しいかな。

4thアルバム『HIGH VISIBILITY』(2000年)から6thアルバム『ROCK & ROLL IS DEAD』(2005年)までの3作をメジャーのUniversal Recordsから発表しましたが、ラスト作はインディーズに戻ってのリリース。国内盤も初期3作などを発表してきたトイズ・ファクトリーから発売されました。なんだか、最後の最後で原点回帰的で泣かせる、なんて当時は思ったものです。

気になる内容ですが、3枚目の『GRANDE ROCK』(1999年)から顕著になりだした「ガレージロック+ソウルミュージック」的なスタイルの究極形と言いたくなるような楽曲ばかり。速さにこだわるのではなく、メロディとグルーヴを追求した結果がこのスタイルなんでしょうね。ガレージロックとしてのカッコ良さを保ちながらも、要所要所が“黒っぽく”てセクシー、そしてメロディアスで男臭い。ロックファンが追い求めるセンチメンタリズムがすべてここに詰まっている、と言っても過言ではないと思います。

THE HELLACOPTERS、最後に“らしい”アルバムで幕を降ろすんだな。そう、僕を含め誰もが最初にそう思ったのではないでしょうか。一部のディープなガレージロックマニアを除いて……。

これ、発売後にネタ明かしされたのですが、実はこのアルバム、(日本盤ボーナストラック「Same Lame Story」を除く)全曲(いわゆる)B級ガレージロックバンドのカバーだったのです。詳細はWikipediaを見てもらうとして、僕自身が当時知っていたバンド名はTHE PEEPSHOWS、NEW BOMB TURKS、THE BELLRAYS、GAZA STRIPPERSくらい。とはいっても、バンド名は知っていてもこれらの楽曲は知らなかったのですが……。

にしても、THE HELLACOPTERSが「偏見なく聴いてほしい」という理由でその詳細を明かさなかったこと、そして「俺らみたいなバンドのアルバムを通じて少しでもカバーしたバンドに金が入れば」という心意気。それを最後にやるか?という点含めて、すごいバンドだなと当時は呆気に取られたものです。

今も別にカバーアルバムと思って接していないし、純粋にTHE HELLACOPTERSのアルバムの1枚として楽しんでおります。だって、普通にカッコいいもの。それ以外の言葉、必要ないでしょ?



▼THE HELLACOPTERS『HEAD OFF』
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2018年6月12日 (火)

IMPERIAL STATE ELECTRIC『IMPERIAL STATE ELECTRIC』(2010)

2008年にTHE HELLACOTERSを解散させたニッケ・アンダーソン(Vo, G)が新たに結成したバンド、IMPERIAL STATE ELECTRICの2010年発表の1stアルバム。

当初はバンド解散後にたくさん曲を書き溜めたニッケがスタジオに入り、自身がほとんどの楽器を演奏しつつアルバムを制作していたのですが、そこにいろんな仲間が加わり、気づけばバンドスタイルになっていた……ということで、本作では1曲(「Together In The Darkness」)だけニッケのほかにトビアス・エッジ(G, Vo)、ドルフ・デ・ボースト(B, Vo / THE DATSUNS)、トーマス・エリクソン(Dr)という現在まで続く布陣でレコーディングされています。

THE HELLACOTERSという究極のロックンロールバンドを終了させたニッケが、次にどんなアクションを起こすのか。ロックファンならきっと誰もが注目したはずです。多くのリスナーは“第二のTHE HELLACOTERS”の登場を望んだことでしょう。

しかし、ニッケはTHE HELLACOTERS的でありながらも、さらに自身のルーツのひとつ……KISSRAMONESなどといったポップサイドの色合いが強い作風に取り組みます。そもそもバンド形態やのちのライブ演奏を想定せずに、好き勝手に作り込んだのが本作であって、そりゃあTHE HELLACOTERSみたいになるわけがない。バンドマジックだとかそういったことよりも、ソングライターとして高みを目指した……そんな心算で制作していたのに、気づけば「やっぱりバンド、楽しーっ!」っていう事実に気づかされる。そういった意味では、本作はIMPERIAL STATE ELECTRICというバンドのプレデビュー作、あるいはプロトタイプ的作品かもしれません。

冒頭の「A Holiday From My Vacation」や「Lord Knows I Know That It Ain't Right」「Resign」で聴けるポップネスに、きっと誰もが驚くことでしょう。しかし、このカラーもニッケがTHE HELLACOTERSで表出させていたものであり、ここではその一面を特化させただけ。「Throwing Stones」のような疾走感の強いロックチューンも存在するものの、全体的にはテンポを抑えめにして、良質のメロディとアレンジの妙で聴かせる技術に磨きをかけている。そんな印象を受けます。

前のバンドのイメージが強いからこそ、新たな挑戦に対して最初は拒否反応が生じてしまうのは仕方ないことかもしれません。しかし、これが出来の悪いアルバムかと問われると、まったくそんなことはなく。むしろ聴きやすくて、あっという間に最後まで聴けてしまう、そんな1枚ではないでしょうか。

なお、日本盤のみボーナストラックとしKISS「All American Man」のカバーを追加。この曲をセレクトするあたりからも、ニッケがここで何をやりたかったのかが伺えるはずです。アーシーなアレンジを施したこのカバーバージョンも、なかなか素敵です。

 


▼IMPERIAL STATE ELECTRIC『IMPERIAL STATE ELECTRIC』
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2018年6月10日 (日)

DREGEN『DREGEN』(2013)

BACKYARD BABIESのリードギタリスト兼ボーカリスト、ドレゲンが2013年10月に発表した初のソロアルバム。当時BYBは活動休止中で、どれ元は2011年半ばにMICHAEL MONROEに加入。ちょうど2013年8月にはギタリスト&ソングライターとして参加した2ndアルバム『HORNS AND HALOS』がリリースされたばかりでした。

Universal Music傘下のSpinefarm Recordsと契約して発表された本作は、THE WANNADIESのフロントマンであるパール・ウィクステン(Vo)との共同プロデュースで制作。ニッケー・アンダーソン(THE HELLACOPTERSIMPERIAL STATE ELECTRICENTOMBED)がドラム(3曲のみ)、ベース、リズムギターで、カール・ロックフィスト(MICHAEL MONROE)がドラムで、サミ・ヤッファ(MICHAEL MONROE、ex- HANOI ROCKS)がベースで参加しており、ダンコ・ジョーンズ(DANKO JONES)や女性シンガーのティティヨもゲストボーカルでフィーチャーされています。

ドレゲンというと、キース・リチャーズ系譜のナチュラル・ボーン・ロックンロールギタリストというイメージがありますが(それは間違いではないのですが)、実はソングライターとして非常に器用な人であることが本作で証明されています。その片鱗は、もちろんこれまでのBYBのアルバムでも感じられましたし、直近のMICHAEL MONROEのアルバムでも存分に発揮されていました。

が、本作で聴ける楽曲の幅広さは想像以上のものがあります。BYBを彷彿とさせるメロウなミディアムナンバーが中心ではありますが、例えばTHE HELLACOPTERS〜初期BYBお約束の疾走チューンが皆無なことに、きっと多くのファンが驚くのではないでしょうか(本編ラストの「Mojo's Gone」を疾走ナンバーと捉えれば1曲ある、ということになりますが、これはもっとKISSみたいなアップチューンという認識で、ガレージロックのそれとは異なるイメージ)。

ソングライティングにニッケも加わっているにも関わらず、そういった楽曲がないといのは、おそらくドレゲンもニッケもソングライターとしてあの頃よりも成長/進化しているから、そして今表現したいものがそこにはないから……なんじゃないかなと勝手に想像しています。

じゃなかったら、渋いスローブルース「Flat Tyre On A Muddy Road」や、ドロドロしたファンクチューン「6:10」にまで挑戦しないと思うし。むしろ、THE HELLACOPTERSやBYBにたどり着く前の、もっとガキの頃に愛聴したロックやポップス、ブルースといったルーツミュージックを、今の表現力で形にしたらこうなった、と言ったほうが正しいのかもしれません。

正直、このアルバムを聴いたとき、そしてソロツアーに専念するためにMICHAEL MONROEをすぐに脱退したときには、「ああ、ドレゲンはもうBYBではなくソロでやっていくんだな」……なんて思ったものです。しかし、そこから1年後にはBYBとしてスタジオ入り。2018年中には早くも再始動後2作目となるアルバムもリリースしてくれそうですし、そういった意味ではこのソロアルバムは良い意味での“ガス抜き”だったんでしょうかね。

 


▼DREGEN『DREGEN』
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