HELLOWEEN『MASTER OF THE RINGS』(1994)
1994年夏にリリースされたHELLOWEENの6thアルバム。日本盤は同年8月24日発売。Wikipediaでは海外盤は7月8日リリースとあるのですが、これが正しいかどうかは不明。日本初盤帯に「日本先行発売」と記されているので、海外でのリリースは8月末以降の可能性が高いですね。
前作『CHAMELEON』(1993年)を携えたツアーを終えたあと、マイケル・キスク(Vo)とインゴ・シュヴィヒテンバーグ(Dr)がバンドを離れ、残されたマイケル・ヴァイカート(G)、ローランド・グラポウ(G)、マーカス・グロスコフ(B)は新たにアンディ・デリス(Vo/ex. PINK CREAM 69)、ウリ・カッシュ(Dr/ex. GAMMA RAY)を迎えた新編成でアルバムを制作。気心知れたトミー・ハンセンとともに起死回生の1枚を完成させます。
前々作『PINK BUBBLES GO APE』(1991年)、前作『CHAMELEON』で正統派ヘヴィメタル路線から徐々に離れていったHELLOWEENでしたが、そうした嗜好の強かったキスクが抜けたことで再びパワーメタル路線が復活。アンディ・デリスという“歌える”シンガーを得たことで、そういったスタイルにPINK CREAM 69あたりがやりそうなメロディアスハードロックのテイストも加わった、1本芯が通りつつもバラエティ豊かな作風へとシフトします。
シンフォニックなSE「Irritation (Weik Editude 112 in C)」からアップテンポの歌モノメタル「Sole Survivor」へと続く構成は、どこか『KEEPERS OF THE SEVEN KEYS: PART II』(1988年)を彷彿とさせるものがあるし、王道疾走メタル「Where The Rain Grows」はこれぞHELLOWEENという十八番的1曲。かと思えば、アンディが作詞作曲した「Why?」はHELLOWEENに新たな魅力を与えているし、ローランド書き下ろしの「Mr. Ego (Take Me Down)」はこれまでにないタイプのミディアムヘヴィチューンに仕上がっている。遊び心の強い「The Game Is On」はやはりヴァイカート作かとニヤリとさせられたと思えば、PINK CREAM 69でやっても違和感のないバラード「In The Middle Of A Heartbeat」やひたすら突っ走る「Still We Go」で新しいHELLOWEENを提示する。各ソングライターのカラーが色濃く表れつつも、アンディが歌うことでアルバムに統一感を持たせ、「これが1994年のHELLOWEENだ!」と高らかに宣言するという、ある意味力技の1枚と言えるでしょう。
初めて聴いたときは「いいアルバムだけど、これをHELLOWEENと呼んでいいものか……」という違和感も残りました。しかし、そんな迷いも数回リピートしたことには払拭され、気づけばHELLOWEENのキャリア中1、2を争う傑作にまで昇格。今でも聴く頻度の高いアルバムのひとつです。
このアルバムが当時、日本で数10万枚も売れたことは決して忘れてはならないし、HELLOWEENが真の意味でトップバンドの仲間入りを果たせたのは本作の功績が大きい。本来なら本作のあとか次作『THE TIME OF THE OATH』(1996年)のタイミングに日本武道館に立っておくべきだったよな……と、改めて思わずにはいられません。BON JOVIがミリオンヒットするなど、HR/HMが日本でバカ売れした90年代半ばは夢のような時代でしたよね……(遠い目)。
そんな、あの頃メタルファンなら誰もが聴いていた名作を2021年現在、日本ではストリーミングサービスはおろかデジタル配信もされていないという事実。悲しいったらありゃしない。ぜひ『PINK BUBBLES GO APE』から『BETTER THAN RAW』(1998年)までの諸作品と『KEEPER OF THE SEVEN KEYS: THE LEGACY』(2005年)の、国内未配信のアルバムを各種ストリーミングサービスでも楽しめるようにしてもらいたいところです。
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