HUASKA『THE BIBLE OF THE BOSSA-METAL』(2016)
このバンド、去年まで全然知らなくて。夏にこの日本企画のベストアルバムが発売されるタイミングに初めて知ったんです。
日系ブラジル人メンバーを中心に結成された、ブラジル・サンパウロの5人組ロックバンドなんですが、その音楽性が非常に個性的でして。メタルやラウドロックとボッサやサンバなどの南米音楽をミックスした、いわゆるミクスチャーメタルの範疇に入るサウンドを信条としていて、リズム隊&ギターは完全にメタルのそれなんですが、そこにクラシックギターやパーカッション、メタルとはかけ離れた朗々と歌うボーカルが加わると、不思議な世界観が展開されるわけでして。例えばブラジル出身のSEPULTURAが1996年に発表したアルバム『ROOTS』で挑戦したサウンドは「メタル側からブラジリアンルーツミュージックへの接近」でしたが、このHUASKAはどちらかというと「ブラジリアンルーツミュージック側からメタルサイドへの接近」に近いのかな。適度な激しさがあるけど、基本的な軸の部分はメタルというよりもラテン音楽ですしね。
本国ではこれまでに4枚のオリジナルアルバムと1枚のEPを発表しているようで、このベストアルバムはそれらから抜粋された楽曲が中心。とにかく聴いていて気持ちいい楽曲ばかりで、メタル特有の高揚感とラテンならではのハッピー感が絶妙なバランスでミックスされている。しかも、思った以上に暑苦しくなく、メタルとは無縁なオシャレ感もどことなく感じられて、思わず笑ってしまう。かといって、ギャグで終わっておらず音楽としてしっかり成立しているんだから……本当に面白い存在です。
バンドによってはこういうサウンド、空気感の楽曲をアルバムの中に1曲だけ入れるケースがあると思うんです。でも彼らの場合、アルバム全編がこれ。シャウトやスクリームもなければ、グロウルも皆無。テクニカルなギターソロはないけど、もの悲しげなアコースティックギターの音色は満載。最高じゃないですか(笑)。もうね、1曲目「Chega de Saudade」の(ボッサとしての)王道感でギャフンと言わされてしまうわけですよ。あとはもう、なすがまま。爽やかなボサノバにモダンメタル特有のザクザクしたギターリフが挿入される「Samba de Preto」なんかもいいですよね。
いわゆるオールドスクールな王道メタルしか認めないという人にはオススメしませんが、オルタナティヴロック〜ミクスチャーロック、2000年代以降のメタル/ラウドロックに抵抗がない世代ならスルスル聴けて楽しめるんじゃないでしょうか。ぜひ一度、生で観てみたいものです。
▼HUASKA『THE BIBLE OF THE BOSSA-METAL』
(amazon:国内盤CD)