HURRICANE『SLAVE TO THE THRILL』(1990)
1990年にリリースされたHURRICANEの3rdアルバム。日本盤は同年5月下旬に発表されていますが、Wikipediaによると海外盤は同年7月下旬発売。この頃は日本盤がこれだけ前倒しで先行リリースされることも不思議ではありませんでしたが、これ本当に合ってるのかなあ。日本盤のリリース日は間違いないので、もしかしたら海外のリリース日が間違っているのかもしれませんね(当時のこういうデータって曖昧だから)。
さて。本作はスマッシュヒットを記録した前作『OVER THE EDGE』(1988年)に続くアルバムですが、前作を携えたツアー後にロバート・サーゾ(G)が脱退。レコーディングに当時マーク・エドワーズ(Dr)の交通事故で活動継続が難しくなり解散したLIONのダグ・アルドリッチ(G)を迎えて制作しました。
ケリー・ハンセン(Vo)、トニー・カヴァーゾ(B)、ジェイ・シェレン(Dr)にダグという編成で、マイケル・ジェイムズ・ジャクソン(KISS、L.A. GUNS、ARMORED SAINTなど)をプロデューサーに迎えて完成させた本作。ボブ・エズリンが携わることでフックの多かった前作とは異なり、ストレートなアメリカン・ハードロックアルバムに仕上がっています。
これ、ダグの影響なんでしょうかね……と思ったけど、ソングライティング・クレジットに目をやるとバンド以外の名前が曲ごとにたくさん並んでいるんです。インタールードを除く全11曲、バンド単体で書き下ろした楽曲は3曲のみ。ほかはすべて職業ライターが携わった楽曲で、中には前任ギタリストのロバート・サーゾの名前が入った楽曲も(前作からのアウトテイクなのか、脱退前に作っていた未発表曲なのか)。かと思えば、「Next To You」や「Smiles Like A Child」のようにバンドがまったく関わっていない外部ライターの書き下ろし曲も含まれています。
今思うとこれ、レコード会社のテコ入れだったんじゃないかな……前作がBillboardのTOP100入り(最高92位)する中ヒットだったこともあり、もうひと山当ててやろうと意気込んだ結果、BON JOVIやAEROSMITHのようにバンドとコライトさせてみた、なんならHEARTみたいにバンドが関わってない曲もやらせてみた、と。
けど、その結果は大外し。正直、バンドの良い面が相当削ぎ落とされてしまっているように思います。もちろん、いい曲もあるんですよ。「Temptation」のような前作の延長線上にあるマイナーキーの佳曲(前作収録の「I'm On To You」を書いたジェフ・ジョーンズとバンドとの共作)や、風変わりな空気感が前作の流れにある「10,000 Years」(これ、ロバート・サーゾが関わった曲なんですよね)とか。それに、カラッとしたメジャーキーの楽曲も、今聴いてみるとそこまで悪いわけではない。だけど、それをHURRICANEっぽいかと言われると……うん。
あと、ダグってこの頃はリフメイカーとしてもソングライターとしても、不器用な人だなと思ったり。正直、本作のギタリストがダグである必然性がまったく感じられないんですよ。そこも勿体ない要素のひとつ。B級からA級へとシフトするために必要な要素として、一流のギタリストだけが足りなかったわけです。セールス的にも前作に及ばず、チャートでも最高125位止まりで終了。残念ですね。
結局、ダグがLION時代の盟友カル・スワン(Vo)とBAD MOON RISINGを結成するために、意外とあっさりとHURRICANEを脱退。残された3人もバンド継続を諦め、1991年に解散を発表しました。2000年にはケリーとジェイがメンバーをギタリスト&ベーシストを一新してHURRICANEを再結成。2001年には唯一のアルバム『LIQUIFURY』をリリースしていますが、数年で再び解散。そして2010年にはロバート&トニーがボーカルとドラムに新メンバーを迎えて再々結成(笑)。こちらの3代目HURRICANEは音源のリリスこそありませんが、Facebookを見る限りでは現在も活動を続けているようです。
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