カテゴリー「Ihsahn」の10件の記事

2023年3月 4日 (土)

EMPEROR『EMPERIAL DARKNESS JAPAN TOUR 2023』@EX THEATER ROPPONGI(2023年3月2日)

Img_6700 今週はMEGADETH武道館公演でいい気分を味わいながらスタートしましたが、実はもうひとつ楽しみにしていたライブがありました。それがEMPERORの単独公演。前回観たのが2017年で『LOUD PARK 17』で、あのときは名作2ndアルバム『ANTHEMS TO THE WELKIN AT DUSK』(1997年)リリース20周年を記念して、同作完全再現ライブが展開されましたが、今回はキャリアを総括するようなベスト選曲とのこと。そんなの行かないわけにいかないじゃないですか。

会場のEX THEATER ROPPONGIはスタンド席の観やすさはもちろん、音もそれなりに良いのでお気に入りのハコ。チケット予約の際には情勢がどうなっているか不安もあったので、今回はスタンディングではなくスタンド席に。個人的にはこれが正解だったと思っています。

開演30分前に会場入り。客入りもまずまず、というかほぼ埋まっていたんじゃないかな。ビールを1杯ひっかけていたら、そろそろ開演時間……と思っていた18:58、開演2分前に会場が暗転。「早っ!」と思っていたら、外国人スタッフがステージに登場して、ライブの幕開けを告げるアナウンス。開演時間から何十分も遅れる外タレは星の数ほど観てきたけど、開演時間前にライブをスタートさせるバンドは初めて観たかもしれない。なんとなく、この勤勉さがイーサーン(Vo, G)のイメージとなんとなくリンクしていて、思わずニヤリとしてしまいました。

ライブは最終作『PROMETHEUS: THE DISCIPLINE OF FIRE & DEMISE』(2001年)からの「In The Wordless Chamber」からスタート。意外な1曲でかなり新鮮。タリム(Dr)が繰り出す狂気的なビート、派手な動きもせず黙々とトレモロリフを弾き倒すサモス(G)、長らくバンドをサポートし続けるセクトデーモン(B)とエイナル・ソルベルグ(Key)、そしてボーカルパートがないときは唯一ステージ上を動き続けるイーサーン。しかも、その風貌のジェントルマンぶりと歌唱時のスクリームとの落差にドキッとさせられたり、思わずニヤリとさせられたり。そのビジュアル含めてカッコいいったらありゃしない。

カッコいいといえば、彼らはそのシルエットだけで絵になるのも特徴的な点かな。暗めの照明や激しい点灯で顔がはっきり見えず、どちらかというとその佇まいが強く印象に残る彼らのステージですが、そういった神秘性も込みで惹きつけられるし、むしろビジュアルが音を邪魔しないからこそ、その音に没入できる。そこも含めて、改めて最高だなと思いました。


Img_6706 冒頭こそ4thアルバムの楽曲でしたが、以降は1stアルバム『IN THE NIGHTSIDE ECLIPS』(1994年)と2ndアルバム『ANTHEMS TO THE WELKIN AT DUSK』の楽曲中心。結局3rdアルバム『IX EQUILIBRIUM』(1999年)からは「Curse You All Men!」のみ、4thからも先の「In The Wordless Chamber」のみとかなり偏った“ベスト選曲”でしたが、リスナーが観たい/聴きたいEMPERORはまさにこれなので問題なし。

にしても、彼らのライブ。とにかく美しい。激しく暴力的な側面はもちろん備えつつも、全体を覆うシンフォニックな要素と、スクリームの合間に飛び込んでくるイーサーンのクリーンボイスによるメロウなパートに、心をわし摑みにされる瞬間が多々あり、気づいたら涙腺が緩んでいたほど。体は激しいサウンドに合わせて痙攣気味にヘドバンするものの、心で泣く。こんなメタルライブ、そうそうないですよ。さらに、MCではイーサーンの紳士的な挨拶(日本語の発音、完璧)に対し、オーディエンスはことあるごとに“EMPERORコール”を繰り返す。この関係性も観ていて素敵すぎて、胸が熱くなる。あれ、思っていたのと違うぞ?(笑)

ライブは終始気持ちよかった。序盤、音量が若干抑えめかな?と思ったものの、気づいたらかなりの音圧で、MEGADETHのとき以上に耳に圧迫感を感じたし、サモスのギター音量が若干小さめだったものの、それ以外のバランスは良好。キーボードのエイナルが自分のパートがないとき、持ち場を離れてエアドラムをしまくっているのも可愛らしくて良し。あ、「I Am The Black Wizards」のときにイーサーンのギターから音が出なくなるトラブルがありましたが(続く「Inno A Satana」まで若干引っ張った)、それ以外は文句なしの90分でした。

改めて実感したのは、「Curse You All Men!」が個人的には一番好きな曲だということと、「Inno A Satana」と「Ye Entrancemperium」はいつ聴いても問答無用でアガるという事実。イーサーンは「また会おう!」と約束してくれたので、次の来日も楽しみに待ちたいと思います。

セットリスト
Intro
01. In The Wordless Chamber
02. Thus Spake The Nightspirit
03. The Loss & Curse Of Reverence
04. The Acclamation Of Bonds
05. With Strength I Burn
06. Curse You All Men!
07. Cosmic Keys To My Creation And Times
08. Towards The Pantheon
09. The Majesty Of The Night Sky
10. I Am The Black Wizards
11. Inno A Satana
Outro: Opus A Satana
<アンコール>
12. Into The Infinity Of Thoughts
13. Ye Entrancemperium
Outro: The Wanderer

 

2022年5月11日 (水)

IBARAKI『RASHOMON』(2022)

2022年5月6日にリリースされたIBARAKIの1stアルバム。

IBARAKIはTRIVIUMのフロントマン、マシュー・キイチ・ヒーフィー(Vo, G)によるブラックメタル主体のソロプロジェクト。このブラックメタルプロジェクト自体は10年ほど前から構想があったそうで、当時はMRITYUというプロジェクト名でノルウェースタイルのブラックメタルを表現しようとしていたんだとか。ところが、ノルウェーブラックメタルの当事者であったイーサーンEMPEROR)に助言を求めたところ、「ノルウェー人でない君が、ノルウェーのスタイルをやる必要はない」というアドバイスを受けたことで、マシュー自身のルーツでもある日本にスポットを当てた形での創作活動に着手することを決意したんだそうです。

プロジェクト名のIBARAKIは「茨城」や「茨木」ではなく、「茨鬼」を表します。これは平安時代に京都を荒らし回ったとされる鬼の中にいた茨木童子(いばらきどうじ)を指し示し、アルバムタイトルの『RASHOMON』はそのものズバリ「羅生門」を意味するワード。全10曲におよぶ収録曲は、インストの1曲目を除くすべてが英詞で歌われていますが、タイトル自体は「儚き必然」「迦具土」「茨木童子」「地獄太夫」「魂の崩壊」「悪夢」「木漏れ日」「浪人」「須佐之男命」「海賊」とすべて日本語。かつてTRIVIUMとして『SHOGUN(将軍)』(2008年)というアルバムを発表し、その中に「Kirisute Gomen(斬り捨て御免)」という楽曲も含まれていましたが、今回は奇を衒った日本語詞も含まれていないようです。

プロデュースを手がけたのは、先に登場したイーサーン。彼は「Tamashii No Houkai」「Akumu」でコライトを務めたほか、「Tamashii No Houkai」「Rōnin」でリードギター、「Susanoo No Mikoto」ではボーカルも披露しています。また、レコーディングにはコリィ・ビューリュー(G)、パオロ・グレゴリート(B)、アレックス・ベント(Dr)といったTRIVIUMの面々のほか、「Akumu」にはネルガル(Vo/BEHEMOTH)、「Rōnin」にはジェラルド・ウェイ(Vo/MY CHEMICHAL ROMANCE)といった豪華ゲストも参加しています。

アルバム自体は完全なるブラックメタルというよりは、マシューなりにブラックメタルを解釈したダークサイド強調のヘヴィメタルといった印象。随所にブラックメタル的アプローチやブルータルなテイストを楽しむことができますが、それと同じくらいメランコリックなクリーンパートも用意されており、そのバランス感含めさすがTRIVIUMのフロントマンといったところでしょうか。ぶっちゃけ、ブラックメタル度の高さを求めて触れると面食らうかもしれませんが、TRIVIUMのリスナーや幅広くヘヴィメタルを愛聴する方なら安心して楽しめる1枚だと思います。

壮大かつドラマチックなオーケストレーションやプログロック的な曲構成は間違いなくイーサーンによる功績が大きいでしょうし、そこにスリリングな王道メタルの要素と日本的情緒に満ちたメロディが備わっているのは確実にマシューならでは。つまり、どちらか一方だけではダメな、奇跡的なバランスのもとに生まれた1枚と言えるでしょう。そこにネルガルやジェラルド・ウェイといったバラエティ豊かなフィーチャリングゲストが加わることで、ブラックメタル中心に活動しているアーティストには真似できないカラーが生まれている。まさにオリジナティに満ちた傑作メタルアルバムではないでしょうか。

個人的にはこれをブラックメタルと呼ぶのはちょっと違う気もしますし、むしろブラックメタルを下地に新たなエクストリームメタルを完成させたと言ったほうが正しいと思うのですが、いかがでしょう。まあ最終的には、聴いた人が判断すればいいだけの話ですよね。内容自体は完璧すぎるくらいによく出来た1枚なので、メタルやラウドな音楽を愛聴する方々には真っ先に触れていただきたいです。

 


▼IBARAKI『RASHOMON』
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2021年10月 9日 (土)

TRIVIUM『IN THE COURT OF THE DRAGON』(2021)

2021年10月8日にリリースされたTRIVIUMの10thアルバム。日本盤はボーナストラック2曲(ライブ音源)を追加し、同年10月20日発売予定。

昨年4月に2年半ぶりの新作『WHAT THE DEAD MEN SAY』(2020年)を発売したばかりのTRIVIUMですが、新型コロナウイルスの影響でライブ活動がままならず、気づけば同年6月から次作の楽曲制作に突入していたとのこと。そのまま秋にはレコーディングに入り、過去2作を担当したジョシュ・ウィルバー(GOJIRALAMB OF GODSONS OF TEXASなど)をプロデューサーに迎え、締め切りを気にすることなくじっくり作り上げたとのことです。

今回のアルバムはアートワークや曲名から、なんとなくファンタジックな神話性を感じさせますが、実のところは架空の神話を昨年世界中に起こった大きな出来事=コロナ禍に照らし合わせて制作していったんだとか。ただし、「In The Court Of The Dragon」というタイトル自体は、アメリカの作家ロバート・W.チャンバースのショートストーリーから名付けられたそう。そのストーリー自体、恐怖や不確実性に満ちたもので、まさに我々が昨年から直面している出来事とリンクすることから、それを直接的に描くのではなく別のルートで表現したそうです。

そういったテーマやメッセージ性の強さに比例するように、サウンド自体も非常にアグレッシヴさに満ちたものに仕上がっています。前作『WHAT THE DEAD MEN SAY』でさまざまな経験を得た上での原点回帰を試み、見事な形で作品化させたTRIVIUMでしたが、本作ではその経験をさらにブラッシュアップさせることで、よりブルータルさを増し、よりドラマチックにスケールアップした楽曲群を制作。アルバム冒頭を飾るインスト「X」では、7thアルバム『SILENCE IN THE SNOW』(2015年)のオープニングトラック「Snøfall」を制作したイーサーンEMPEROR)が再び作曲・トラック制作を手がけており、アルバムの不穏さを際立たせます。そこからアルバムを象徴するタイトルトラック「In The Court Of The Dragon」へとなだれ込むのですが、これがもう最高の一言。2ndアルバム『ASCENDANCY』(2005年)や4thアルバム『SHOGUN』(2008年)の頃を思わせるアグレッションとプログレッシヴさを兼ね備えた良作で、この時点でガッツポーズを取ってしまったリスナーは少なくないはずです。

その後もブラストビートを多用したブルータルな楽曲、王道ヘヴィメタルらしいメロディアスなナンバーなどが豊富に用意。アルバム中盤に置かれた“いかにも”なメタルバラード(と呼んでいいですよね?)「The Shadow of The Abattoir」のドラマチックさも文句なしですし、前のめりな楽曲で終わると思いきや、ラストはヘヴィ&メロディアスで後半にかけてドラマチックに展開するミドルチューン「The Phalanx」で豪快に締め括る。この少し余韻を残すエンディングもさすがの一言です。

全体を通してスクリームとクリーンボーカルのバランスも絶妙ですし、これはアグレッシヴなTRIVIUMが好きなリスナー、メロウなテイストのTRIVIUMが好きなリスナー両者を納得させる1枚ではないでしょうか。本作はコロナ禍がなければ生まれなかった作品かもしれませんが、10作目という節目に最高傑作と呼ぶにふさわしいアルバムを完成させたのですから、世の中悪いことばかりじゃないなと少しだけ思ってしまいました。

2021年という時代に「ヘヴィメタルとは?」と問われたら、真っ先に提示したいアルバムです。

 


▼TRIVIUM『IN THE COURT OF THE DRAGON』
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2021年6月28日 (月)

LEPROUS『COAL』(2013)

2013年5月20日にリリースされたLEPROUSの3rdアルバム。日本盤は同年10月2日発売。

EMPERORイーサーン(Vo, G)の義理の弟にあたるエイナル・スーベルグ(Vo, Syn)が在籍しているつながりから、2011年のイーサーン初来日公演でバックバンドを務めたLEPROUS。この時点ではLEPROUSは2枚のアルバムを発表していましたが、どちらも日本未発売。2013年のイーサーン再来日に合わせて、本作にてついに日本デビューを飾ることになります。

僕もこのタイミングに初めてLEPROUSの音に触れたのですが、「なるほど、イーサーンのソロ作品にも通ずる聴きごたえのあるアヴァンギャルドなプログミュージックだな」という印象を受けたことをよく覚えています。エクストリームミュージックの範疇にあるサウンドで、メタリックな質感はあるもののヘヴィメタルそのものではなく、かといってかつてのプログレッシヴロックとも質感が異なる。要所要所で独特な変態性(褒め言葉)が感じられ、それがついついクセになって、気づいたら何度もリピートしている。そんな中毒性を持った不思議な1枚なんです。

全8曲(日本盤ボーナストラック除く)で約56分、7〜9分台の長尺曲が大半を占める構成はかつてのプログレそのものなのですが、オープニングトラック「Foe」で見せる特異性、続く「Chronic」でのオルタナロックとエクストリームミュージックの融合、モダンメタルとプログレッシヴロックがバランスよくミックスされたタイトルトラック「Coal」から間髪入れずに続く浮遊感の強い「The Cloak」という曲構成など、とにかく“アルバム・オリエンテッド”なイメージが強い作風からは、目の前の音とじっくり腰を据えて向き合うべきだという主張が伝わってきます。

ギターに比重を置きすぎないアレンジであったり、「The Valley」で聴けるDjent的なリズム遊びや音の隙間を効果的に用いたアンサンブル、“これぞ北欧”と言いたくなるほど透明感の強いエイナルのボーカルワークなど、USやUKの同世代プログバンドとは一線を画する存在感は、すでにこの時点で完成されていたんだなと、久しぶりに聴き返して強く実感しました。タイプは異なるけど、現在の立ち位置含めOPETHTOOLあたりにもっとも近い存在なんじゃないでしょうか。

なお、本作のラストを飾る超大作「Contaminate Me」には盟友イーサーンがゲストボーカルで参加。楽曲自体もっともエクストリームミュージック色が強く、その中で彼らしいスクリームを楽しむことができます。さらにイーサーンは「Chronic」でストリングスのアレンジも手がけており、どのようにしてLEPROUSをフックアップしようかという当時の良好な関係が伺えます。

2021年8月27日には待望のニューアルバム『APHELION』のリリースも控えています。新境地を打ち出しながらも好評を博した前作『PITFALLS』(2019年)を超える傑作になるのか、今から発売が楽しみでなりません。

 


▼LEPROUS『COAL』
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2020年9月14日 (月)

IHSAHN『PHAROS』(2020)

2020年9月11日にリリースされたイーサーンEMPEROR)の最新EP。

今年2月に発表された『TELEMARK』に続く、EP二部作の第2弾。前作はイーサーンが今も生活の拠点とするノルウェーの故郷・テレマルク(Telemark)をタイトルに冠し、自身のルーツであるブラックメタルの側面を強調させた内容に仕上げられていましたが、今作はその対極にあるソフトな側面……メロウなテイストを重視した作品集に仕上げられています。

全編でデス声を耳にすることができた前作から一変、今回は穏やかでメロディアスなボーカルを軸に、プログレッシヴロック的なテイストを強めた楽曲群が満載。およそヘヴィメタルからはかけ離れた、ジャジーでAOR的な香りもそこはかとなく感じられ、改めてイーサーンというミュージシャン/アーティストの懐の深さを体感することができるはずです。

個人的にグッときたのは、タイトルトラックのM-3「Pharos」。この曲ではクラシックからの影響を強く伝わってくるアレンジで、そこに大人びた味付けが散りばめられている、前作『TELEMARK』からは想像もできないような1曲。しかし、聴けばこれもイーサーンの色であることは明確で、いかに彼がソロ作品でメタルやプログレを基盤に、幅広いジャンルに挑んでいたかがこの1曲からご理解いただけるのではないでしょうか。

そんなクライマックスのあとには、今回もカバーが2曲用意されています。ひとつはPORTISHEADの「Roads」。90年代UKトリップホップの代名詞的バンドをここで取り上げるのも、なるほどと頷けるものがありますが、この曲がリリースされた当時ってイーサーンはEMPERORでの活動真っ只中だったはず。そう考えてみると、非常に面白いものがありますね。仕上がりも、しっかり原曲とイーサーン双方の「らしさ」が感じられるベストなものなので、原曲を知らない方はぜひ聴き比べてみるといいですよ。女性ボーカルをイーサーン流に解釈した歌唱法もたまらないです。

で、最後の1曲はa-haの「Manhattan Skyline」。そうきたか!と最初は驚きましたが、この曲ではイーサーンはリードボーカルではなく、代わりにLEPROUSのエイナル・スーベルグ(Vo, Key)が歌っているんです(イーサーンはサブでハモりなどを担当)。原曲に忠実なアレンジも好印象ですし、何よりも2人の美しく切ない歌声がぴったりなんです。このカバーを最初に聴いたとき、「ズルいわ……」と何度思ったことか。完璧な組み合わせによる、完璧な選曲。今年聴いたカバー曲の中でも突出した完成度だと思います。

『TELEMARK』と『PHAROS』、本来なら両作の収録曲をバランスよくミックスし、さらにその中間に位置する楽曲なんかも作ってトータル性の高いフルアルバムを作っていてもおかしくないのに、こうやって両極端に振り切った、タイプの異なる2作品を作ることに今回は重きを置いた。それにより、イーサーンの異端性がより際立ったわけですから、この実験は大成功だったと断言できます。特に、昨今サブスクを意識してあえてフルアルバムを作らないアーティストも増えていますし、こういう形で定期的に高品質の小作品を量産してくれるのなら、リスナーとしてもありがたい限りです。

ですが、イーサーン先生。今度はこの2枚をごちゃ混ぜにして、さらに訳のわからない異色作の完成を期待しています。だって、それをやれちゃう人なわけですからね。

 


▼IHSAHN『PHAROS』
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2020年2月19日 (水)

IHSAHN『TELEMARK』(2020)

2020年2月中旬にリリースされた、イーサーンEMPEROR)の最新EP。日本盤未発売。

7thアルバム『ÁMR』(2018年)からほぼ2年ぶりの新作にあたる今作は、今年発売が予定されているEP二部作の第1弾。彼が現在も生活しているノルウェーの故郷・テレマルク(Telemark)をタイトルに冠し、自身の音楽ルーツの根本のあるブラックメタルからの影響を表現した作品集に仕上げられています。

イーサーンは今回のEP二部作に関して、OPETHの『DELIVERANCE』(2002年)と『DAMNATION』(2003年)を例に挙げて「ノルウェーの音楽が持つふたつの側面」を表現したいと発言しており、今作では『DELIVERANCE』的なブルータルさ(=“動”)を前面に打ち出したスタイルに挑んだと考えられます。となると、続く次作では『DAMNATION』にも通ずるドラマチックな側面(=“静”)を表現するのかしら。あえて1枚のアルバムという形にまとめるのではなく、テーマが異なるふたつの小作品でまとめるというのは、作り手側としても偏った側面に集中することができるでしょうし、聴き手側にも心の余裕を与えてくれるので、現在のようなサブスク全盛の音楽シーンに合ったやり方かもしれませんね。

聴いてもらえばおわかりのように、本作に収録された5曲では大々的に部落セクションがフィーチャーされています。前半3曲(「Stridig」「Nord」「Telemark」)がオリジナル曲で、各曲とも至るところからEMPERORにも通ずるブラックメタルらしいブルータルさ、そしてプログレッシヴ・ロック的な曲展開を楽しむことがでます。かつ、ブラスがフィーチャーされることで全体的に柔らかさも加わっており、不思議と聴きやすくなっている印象も受けます。ブラックメタルが持つ特有の冷たさと、管楽器の温かみがミックスされたこの不思議な感覚、クセになりますね。それと、この手の音楽にブラスがミックスされると前衛的な方向に進みがちですが、こうやってキャッチーさを与えてくれる要因にもなるんだと、その意外さにも驚きを隠せません。

また、歌詞の面でも今回は初めてノルウェー語で書き下ろされており、デス声で歌っているからなんとなく聴き取りにくいものの(笑)、そういった点でもイーサーンが本作に対して込めた故郷への思いが伝わってきます。そういった要素も、本作が持つ温かみにつながっているのかもしれませんね

後半2曲はカバー曲で、レニー・クラヴィッツ「Rock And Roll Is Dead」とIRON MAIDEN「Wrathchild」という異色のセレクト。ともに原曲に忠実なアレンジで、このブラスを含む編成にぴったりな選曲となっています。特に前者はイーサーンの音楽性を考えると異色中の異色かもしれませんが、もしかしたらこの曲をやりたいがためにブラス導入したんじゃ?なんて探ってしまうほどにぴったりな1曲。しかも、このご時世に「ロックンロールは死んだ」なんて彼が歌うのもまた痛快ですし。こういったカバー曲を収録できるのも、フルアルバムではなくEPというスタイルならではこそ、うん、やっぱり今回のリリース形態は間違っていないと思います。

EP第2弾がどのタイミングで発表されるのかはわかりませんが、前作『ÁMR』リリース時(そもそも国内盤未発売でした……)には叶わなかった来日公演をぜひ2作揃った時点で実現させてほしいものです。今はEMPERORよりもソロアーティストのイーサーンを観たいんですよ、ええ。

 


▼IHSAHN『TELEMARK』
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2018年12月26日 (水)

2018年総括(番外編):HR/HM、ラウドロック編

隔月の奇数月に「リアルサウンド」さんにて、HR/HMやラウドロックの新譜キュレーション記事を書いているのですが、2018年のまとめ記事となる年間ベスト10紹介エントリー「西廣智一が選ぶ、2018年ラウドロック年間ベスト10 ネガティブな話題の中にも豊作が揃った1年」が12月25日に公開されました。

基本的には順位を付けるのは苦手なのですが、ここでま毎回思い切って1位から10位まで順番をつけて10枚紹介しています。今年に関しては上位3作品に関しては不動なのですが、4位以降は日によって変動があると思うので、セレクトの際に泣く泣く10枚から落とした準候補10枚を加えた20枚を紹介する意味で、SpotifyとApple Musicに記事と同名のプレイリストを作成しました。

改めて、20枚を紹介しておきますね(基本的には順位は付けていませんが、先のリアルサウンドさんで1〜10位と順位付けしているため、便宜上20までナンバリングしておきます)。


01. DEAFHEAVEN『ORDINARY CORRUPT HUMAN LOVE』(レビュー
02. VOIVOD『THE WAKE』(レビュー
03. ALICE IN CHAINS『RAINIER FOG』(レビュー
04. Crystal Lake『HELIX』
05. AZUSA『HEAVY YOKE』(レビュー
06. IHSAHN『ÁMR』(レビュー
07. JUDAS PRIEST『FIREPOWER』(レビュー
08. SIGH『Heir to Despair』
09. LOVEBITES『CLOCKWORK IMMORTALITY』(レビュー
10. ARCHITECTS『HOLY HELL』(レビュー
11. CORROSION OF CONFORMITY『NO CROSS NO CROWN』(レビュー
12. FEVER 333『MADE AN AMERICA』(レビュー
13. GHOST『PREQUELLE』(レビュー
14. THE STRUTS『YOUNG & DANGEROUS』(レビュー
15. MANTAR『THE MODERN ART OF SETTING ABLAZE』
16. NINE INCH NAILS『BAD WITCH』(レビュー
17. NOTHING『DANCE ON THE BLACKTOP』(レビュー
18. SHINEDOWN『ATTENTION ATTENTION』(レビュー
19. SLEEP『THE SCIENCES』
20. CHTHONIC『BATTLEFIELDS OF ASURA』


最初の10曲が「リアルサウンド」さんで紹介した10枚から。一応順位どおりに楽曲を並べています。で、後半の10曲が選から漏れた10枚から。こちらは基本的には順不同ですが、まあ大体こんな並びかなと。基本的には当サイトで紹介した作品、あるいはキュレーション連載で紹介した作品ばかりですが、個人的にはこういう1年だったのかなとこれを聴いて振り返っているところです。

せっかくなので、この20枚から漏れた「今年よく聴いたHR/HM、ラウドロック系アルバム」も紹介しておきます。こちらはアルファベット順に並べています。


・BEHIMOTH『I LOVED YOU AT YOUR DARKNESS』
・BURN THE PRIEST『LEGION: XX』(レビュー
・COHEED AND CAMBRIA『THE UNHEAVENLY CREATURES』
・Crossfaith『EX_MACHINA』
・DIMMU BORGIR『EONIAN』(レビュー
・DIR EN GREY『The Insulated World』
・Graupel『Bereavement』
・GRETA VAN FLEET『ANTHEM OF THE PEACEFUL ARMY』(レビュー
・HALESTORM『VICIOUS』(レビュー
・HER NAME IN BLOOD『POWER』
・JONATHAN DAVIS『BLACK LABYRINTH』(レビュー
・LOUDNESS『RISE TO GLORY -8118-』(レビュー
・MICHAEL SCHENKER FEST『RESURRECTION』(レビュー
・OBSCURA『DILUVIUM』
・A PERFECT CIRCLE『EAT THE ELEPHANT』
・SAXON『THUNDERBOLT』(レビュー
・SHINNING『X - VARG UTAN FLOCK』
・SKINDRED『BIG TINGS』(レビュー
・SURVIVE『Immortal Warriors』
・THERAPY?『CLEAVE』(レビュー
・U.D.O.『STEELFACTORY』(レビュー
・UNITED『Absurdity』
・VENOM『STORM THE GATES』(レビュー
・陰陽座『覇道明王』

2018年7月 1日 (日)

2018年上半期総括(アルバムベスト10)

恒例となった上半期ベスト。ひとまず7月1日現在の10枚を紹介したいと思います。バランスとしては洋楽5枚、邦楽5枚というセレクトで順位など関係なし。今回はあえてミニアルバムやEPを外し、フルアルバムのみをピックアップしました。


COURTNEY BARNETT『TELL ME HOW YOU REALLY FEEL』(amazon)(レビューはこちら

IHSAHN『ÁMR』『SPIRIT』(amazon)(レビューはこちら

JUDAS PRIEST『FIREPOWER』(amazon)(レビューはこちら

MANIC STREET PREACHERS『RESISTANCE IS FUTILE』(amazon)(レビューはこちら

STARCRAWLER『STARCRAWLER』(amazon)(レビューはこちら

brainchild's『STAY ALIVE』(amazon

HER NAME IN BLOOD『POWER』(amazon

エレファントカシマシ『WAKE UP』(amazon

おとぎ話『眺め』(amazon

けやき坂46『走り出す瞬間』(amazon

2018年6月27日 (水)

IHSAHN『ÁMR』(2018)

ノルウェーが誇る伝説のブラックメタルバンドEMPEROR。そのフロントマンであるイーサーン(Vo, G)による通算7作目のソロアルバム。前作『ARKTIS.』(2016年)からちょうど2年ぶりの新作となります。

4作目の『EREMITA』(2012年)以降の作品同様、本作もドラム以外のパートをほぼイーサーンひとりで担当し、そのドラムのみトビアス・アンダーソンが叩いております。また、本作では2曲目「Arcana Imperii」のみギターソロでフレドリック・オーケソン(OPETH)、「Where You Are Lost And I Belong」のドラム打ち込みをAngell Solberg Tveitanなる人物が担当しています。

これまでの作品同様、ブラックメタル的スタイルを残しつつも、シンフォニックメタルやプログレッシヴロック的手法も大々的に取り入れられており、EMPEROR後期の延長線上にありながらも、その作風をさらにモダンにしたスタイルが展開されている、と言ったほうが正しいのでしょうか。イーサーンのボーカルこそデスボイスとクリーンボイスが混在する手法で、そこにEMPERORの名残が感じられるかもしれませんが、例えば2000年代半ば以降のOPETHあたりが好きな人になら間違いなくアピールする1枚だと思います。

冒頭の2曲「Lend Me The Eyes Of Millennia」「Arcana Imperii」やラストの「Wake」は“EMPERORのイーサーン”をイメージさせる作風ですが、「Sárm」や「Twin Black Angels」のエモーショナルさ/穏やかさはどこか往年のプログレを彷彿とさせ、本作の中でも程よいフックになっています。こういう楽曲で全体に起伏をつけているからこそから、ダークでアグレッシヴな「Wake」が最後に来ることでドラマチックさが強調される。そんな印象を受けました。

ギターの歪み方もブラックメタルのそれとは一線を画するし、ドラムのチューニングもふくよかさを感じさせ、とてもメタルのそれとは思えない。また、要所要所にフィーチャーされるストリングスサウンドも非常に効果的で、イーサーンのクリーンボイスによるハーモニーとの相性も抜群です。そういった健やかな要素が、暗雲立ち込めるブラックメタル・マナーの合間に飛び出すことで、ハッと現実に引き戻される感覚。そこが気持ち良いんですよね。

11曲で60分近くあった前作『ARKTIS.』と比べて、本作は全9曲で約43分(デラックス盤ボーナストラック「Alone」を除く)というトータルランニングも聴きやすさ、聴いたときの心地よさに拍車をかけている気がします。彼のソロ作はどれも好きですが、今の自分に一番フィットするという点においては、今作は過去のアルバムの中で一番好きな作品。個人的な年間ベストに入れておきたい、2018年における重要な1枚です。



▼IHSAHN『ÁMR』
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2016年7月 4日 (月)

2016年上半期総括

ひとまず7月4日現在の10枚を。本当は洋邦5枚ずつにしたかったんだけど、洋楽が絞りきれず6枚に。Radioheadを外してでもこういうセレクトしたかったんでしょうね、今の心境的に。

Adrian Younge「Something About April II」

Anohni「Hopelessness」

David Bowie「Blackstar」

Deafheaven「New Bermuda」(日本盤2016年発売)

Ihsahn「Arktis.」

Savages「Adore Life」

ATATA「Joy」

BOOM BOOM SATELLITES「LAY YOUR HANDS ON ME」

D.A.N.「D.A.N.」

金子ノブアキ「Fauve」

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