2018年5月28日 (月)

INXS『WELCOME TO WHEREVER YOU ARE』(1992)

1992年8月にリリースされた、INXSにとって通算8枚目のスタジオアルバム。前々作『KICK』(1987年)および前作『X』(1990年)で本格的な全米ヒットを記録し、それまで低調だったイギリスでもついにブレイクを果たした彼らでしたが、90年代に入ると彼らのような派手なスタジアムロックバンドに対する風当たりが強くなり始めます。U2がダンスミュージックに傾倒し始め、DEPECHE MODEはよりオルタナ色を強めていったこの時期、INXSはというとキラキラしたダンサブルなスタジアムロックから少し違った方向へと進み始めます。

このアルバム、一聴すると若干地味に聴こえるかもしれません。確かに「What You Need」や「New Sensation」のような突き抜けた派手さはないです。が、1曲1曲が鬼のようにめちゃめちゃ精密に作り込まれており、そういった楽曲がずらりと並ぶことで一種異様な空気感を作り上げています。

まず、オープニングの小楽曲「Questions」からしていつもと違う雰囲気を醸し出している。どこかワールドミュージック的でもあるこの曲から流れるように続くのは、ワイルドな「Heaven Sent」。派手さはあるけどこの並びで聴くとどこか地味に聴こえるから不思議です。でも90年代前半にこういった“ど真ん中”のアリーナロックを高らかに鳴らすことに、なんの迷いも感じない彼らの姿勢、素晴らしいです。

かと思うと、「Communication」や「Not Enough Time」のように落ち着いた大人の雰囲気のミディアムチューンがあったり、クラブミュージックに特化したダンスチューン「Taste It」もある。そして“大人なロック”「All Around」で前半を締めくくる。

後半は、どうしてこんな曲がこのタイミングに完成したんだ?と驚きを隠せない「Baby Don't Cry」からスタート。ストリングスやブラスを大々的にフィーチャーしたこの異色のポップチューンを、彼らはOASISが誕生する数年前にすでに完成させていたんですよね。そこから落ち着いた雰囲気のポップナンバー「Beautiful Girl」へとつなげ、ダンサブルな「Wishing Well」、キャッチーなメロのロック「Back On Line」、ハウス調のビートが新鮮な「Strange Desire」と続き、最後は宗教チックなダークさを持つスローチューン「Men And Women」でアルバムは終了します。

よく聴けば前作『X』からの流れをよりミニマムな方向へと推し進めた作品であることは理解できるのですが、『KICK』で得たものを血肉にしつつも新しい道を歩みだしたことが感じられるのではないでしょうか。そして、ロックなのにポップ、ポップなのにロックで頭からケツまで一切の無駄がない作風……個人的には、これ以上完璧に作り込まれたロックアルバムはないんじゃないか?と当時思ったほどです。

このアルバムがリリースされた頃に組んでいた自分のバンドで、メンバー間で「こういうバンドになりたい。このアルバムが理想」とよく話していたことをよく覚えています。今でもキャッチーなロックアルバムに触れるときは、心のどこかでこのアルバムを比較対象として聴いてしまっているところがあるかもしれません。本当に、それくらいお気に入りの1枚です。

なお、本作は全米では最高16位とトップ10入りを逃し、シングルヒットも「Not Enough Time」の28位、「Beautiful Girl」の46位が最高。一方、イギリスでは本作で初のチャート1位を獲得したほか、「Heaven Sent」(31位)、「Baby Don't Cry」(20位)、「Taste It」(21位)、「Beautiful Girl」(23位)と数多くのヒット曲を生み出しています。思えばBON JOVIのようなバンドがアメリカで苦戦した90年代、イギリスではアルバムやシングルがバカ売れしていたんですよね。この傾向についても、いつか改めて触れられたらと考えています。



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投稿: 2018 05 28 12:00 午前 [1992年の作品, Inxs] | 固定リンク

2018年5月21日 (月)

INXS『LISTEN LIKE THIEVES』(1985)

海外で1985年10月にリリースされた、INXS通算5枚目のスタジオアルバム。前作では“時の人”ナイル・ロジャースをプロデューサーのひとりに迎え「Original Sin」などのヒットシングルを生み出しましたが、今作ではSEX PISTOLSやROXY MUSIC、QUEENなどを手がけてきたイギリス人プロデューサー、クリス・トーマスとともに制作。全米11位という過去最高位を叩き出し、200万枚以上を売り上げるヒット作となりました。また、シングル「What You Need」は初の全米トップ10入り(最高5位)を記録したほか、「This Time」(全米81位)、「Listen Like Thieves」(全米54位)というスマッシュヒットも生まれました。

“ファンクがかったニューウェイヴサウンド”を信条としていた彼らでしたが、前作ではそのファンキーさがナイル・ロジャースの功績によりさらにニューヨーク寄りの音となっていました。が、今回は大御所イギリス人プロデューサーとの作業というのも影響してか、豪快なハードロックやパンクロック的なカラーも表出し始めています。それがまさにヒット曲「What You Need」であり、同じくシングルカットされた「This Time」や「Listen Like Thieves」でもあるわけです。

ほかにも「Kiss The Dirt (Falling Down The Mountain)」や「Biting Bullets」あたりもロック色が強まっていますが、ところどころにニューウェイヴの香りも感じられます。このバランス感は、本作から2年後に発表される大傑作『KICK』(1987年)で本格的に開花することになります。そういう意味では、本作は『KICK』の習作と捉えることもできそうです。

にしても、全体的にどの楽曲もコンパクトにまとまっているところにも、次作との共通項が見え隠れしていて興味深くないですか? 「Same Direction」のみ5分近くありますが、大半は2〜3分前後ですからね。

アメリカでシングルカットされた3曲のみシリアスさが強い印象で、それ以外はどこか陽気さすら感じられるのも興味深いポイント。そういった意味では、先の3曲が若干浮き気味な気がしないでもないですが、このアンバランスさも今となっては愛おしく感じられるのですから不思議なものです。だって、マイケル・ハッチェンス(Vo)を含む編成での新作やライブは、今後望めないわけですからね……。

個人的には「What You Need」「Listen Like Thieves」「Kiss The Dirt (Falling Down The Mountain)」という冒頭3曲の流れと、「This Time」を経て「Three Sisters」「Same Direction」「One X One」「Red Red Sun」の後半〜エンディングの流れが非常に気に入っています。



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投稿: 2018 05 21 12:00 午前 [1985年の作品, Inxs] | 固定リンク

2017年5月19日 (金)

INXS『KICK』(1987)

オーストラリア出身のロックバンドINXSが1987年秋に発表した、通算6枚目のオリジナルアルバムにして最大のヒット作。本作からは唯一の全米No.1ヒットとなった「Need You Tonight」のほか、「Devil Inside」(全米2位)、「New Sensation」(全米3位)、「Never Tear Us Apart」(全米7位)といった楽曲がシングルカットされ、アルバム自体も全米3位まで上昇し、600万枚以上のセールスを記録しました。

アメリカでのINXSの評価というと、80年代序盤に「The One Thing」(全米30位)、「Original Sin」(全米58位)という小ヒットがありましたが、本格的なブレイクとなると『KICK』の前作にあたる『LISTEN LIKE THIEVES』(1985年)からシングルカットされた「What You Need」(全米5位)からということになるのでしょうか。どちらかというとニューウェーブ以降の黒人的ダンサブルな楽曲を軸だったINXSが、ワイルドなハードロック色を取り入れた「What You Need」でブレイクしたというのも興味深い話で、『LISTEN LIKE THIEVES』からの他のシングルも「This Time」「Listen Like Thieves」と同系統だったことから、この路線変更はそれなりに成功を収めたと判断できるかと思います。

しかし、『LISTEN LIKE THIEVES』に続く本作『KICKS』は決して前作の延長線上にある作風とは言い難い、どちらかというとINXSの根幹にある「ブラックミュージックをベースにしたダンサブルなロック」をより洗練したものでした。リードシングルとなった「Need You Tonight」のミニマルなビート+印象的なギターリフ+セクシーなボーカルという作風は、ある種80年代のINXSの究極型と言えるかもしれません。またこの曲は続く「Mediate」とのメドレー形式になっており、MVもモノクロベースでセクシーな前半(「Need You Tonight」)とボブ・ディランのパロディ風後半(「Mediate」)とメドレー形態で楽しいものでした(現在YouTubeではそれぞれ別個でアップされてるんですね)。そもそもハードロック調の「What You Need」もベースにはダンスミュージックが見え隠れしますし、そういう意味では「Need You Tonight」が初の全米1位を獲得したのも頷けますよね。

アルバムはINXS版「We Will Rock You」と呼べる「Guns In The Sky」から始まり、そのまま極上のダンスロック「New Sensation」(これこそ「What You Need」をより洗練させた究極型かなと)、「Devil Inside」、「Need You Tonight」へと続きます。さらにディープなソウルバラード「The Loved One」や「Never Tear us Apart」、軽妙な1曲「Mystify」、適度に現代的な「Wildlife」、ひたすらワイルドでダイナミックなロックンロール「Kick」、ファンキーなギターフレーズとラップ調ボーカルが気持ち良い「Calling All Nations」、ラストにふさわしいアップテンポの「Tiny Daggers」と、全12曲でトータル39分という非常にコンパクトで聴きやすい内容。ロックバンドのアルバムとしては完璧すぎる構成、内容ではないでしょうか。

もしROLLING STONESが80年代に誕生していたら、きっとこんなオリジナルアルバムを作ったんじゃないか、なんてことを当時思ったりもしましたが、それくらい当時のINXSは「僕ら世代のストーンズ」と言いたくなる存在(少なくとも自分にとっては)。一時期こんなバンドを作りたいと思ったし、20代前半の自分にとってお手本となっていたのはこのアルバムでした。



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投稿: 2017 05 19 12:00 午前 [1987年の作品, Inxs] | 固定リンク

2004年9月 8日 (水)

とみぃ洋楽100番勝負(20)

●第20回:「What You Need」 INXS('85)

 オーストラリアのバンドっていうと、'80年代はMIDNIGHT OILとこのINXSが一番有名なんでしょうね(ま、一応AC/DCもそうだけど、その後イギリスに移ってるしね)。実際、俺が初めて知ったオーストラリアのバンドがINXSで、その切っ掛けとなったのがこの曲のヒットだったわけですよ。あの写真を切り貼りしたかのようなPVね。あーやっぱりMTV世代で良かった、俺。

 この曲のヒットの前から彼等は既にそこそこ英米でも売れていた存在だったんですが、いきなりこの曲が全米トップ3入りしちゃったもんだから、その勢いでアルバムもそこそこヒットして、続く「KICK」というアルバム及び "Need You Tonight" は共に1位を記録しちゃうんですよね。恐るべし。

 INXSってバンド、ある時期は本気で理想的なバンド像だったんですよ、俺にとって。ROLLING STONES程黒っぽくなくて、適度にハードで都会的。けどそんなにスマートでもなくて、田舎者が頑張ってカッコつけてる「ダサカッコ良さ」‥‥その微妙なラインが出せたのは、やはりオーストラリアっていう土地柄なんでしょうね。彼等がアメリカやイギリスに移住してたら恐らくもっと隙のない音作りをしてたはずだし(そういう意味では大ブレイク後の'90年代の作品にはその香りがするんですが)。

 この曲はひとことで言っちゃえば、ハードロック。続くシングル "Listen Like Thievs" にしろ、同曲を含むアルバム「LISTEN LIKE THIEVES」からのファーストシングルとなった "This Time" にしろ、どこかそういったハードロック的な重厚さを感じるんですね。けど、黒っぽいという。その色がなかなか普通のハードロックバンドには出せないわけですよ。やはりそこは彼等が元々ハードロックバンドではないからなんでしょうね。

 残念ながら'98年頃にボーカルのマイケル・ハッチェンスの自殺によって、事実上活動休止状態となってしまった彼等。現在アメリカにて新人ボーカルのオーディションを行っているなんて噂もありますが‥‥思い出を大切にして欲しいな、と。一度も生で観れなかったから、余計にそう思うんですよ、俺は‥‥



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投稿: 2004 09 08 12:00 午前 [1985年の作品, Inxs, 「100番勝負」] | 固定リンク | コメント (0) | トラックバック