JACK WHITE『ENTERING HEAVEN ALIVE』(2022)
2022年7月22日にリリースされたジャック・ホワイトの5thアルバム。
今年4月に発売された『FEAR OF THE DAWN』(2022年)から約3ヶ月のスパンで届けられた、今年2作目のスタジオアルバム。ここ数年、長きにわたり作曲とレコーディングに時間を費やしてきたジャックですが、影響かテーマやムードの異なる2枚のアルバムを完成させるに至りました。
『FEAR OF THE DAWN』が実験性を孕んだファンキーなガレージロックに徹底した内容だったのに対し、今作は冒頭の「A Tip From You To Me」から内省的な雰囲気を漂わせています。それは続くアコースティックナンバー「All Along The Way」然り、ピアノとストリングスが織りなすピースフルな「Help Me Along」然り。ジャックらしい豪快さこそ感じられませんが、ジャックらしい抒情性が大々的にフィーチャーされた聴き応えのある1枚に仕上がっています。
中盤には『FEAR OF THE DAWN』の流れを汲みながらも本作のテイストでまとめ上げたファンキーな「I've Got You Surrounded (With My Love)」、ブルージー&ソウルフルな「Queen Of The Bees」も存在しますが、後半に差し掛かると再びサイケデリックなピアノバラード「A Tree On Fire From Within」、アーシーでソウルフルなミディアムチューン「If I Die Tomorrow」、ダークで落ち着いた雰囲気の「A Madman From Manhattan」、バイオリンをフィーチャーした軽快な「Taking Me Back (Gently)」など、じっくり腰を据えて向き合うべき楽曲が並びます。
なるほど、2枚のアルバムは地続きのようで両極端な方向を目指した、タイプの異なるアルバムなわけですね。ともにTHE WHITE STRIPESから続く、自身のルーツに忠実なガレージロックを奏でていたことに対し(これが大きな軸)、『FEAR OF THE DAWN』ではそこから“ロックが到達できる未来”を見据えた革新性が追求され、今回の『ENTERING HEAVEN ALIVE』ではエヴァーグリーンなスタンダードを可能な限り突き詰めた。この振り切り方、2枚の対極加減には本当に驚かされたと同時に、圧倒させれました。
まもなく『FUJI ROCK FESTIVAL '22』の中日ヘッドライナーとして来日しますが、ライブで戦う上での派手な武器となるのは、間違いなく『FEAR OF THE DAWN』収録曲。大音量で聴けば聴くほど味が広がる、即効性の強いナンバーばかりと言える。しかし、今作収録曲はフェスなどで披露されることはあっても、本当に意味で力を発揮するのはベッドルームやリビングにてひとりで向き合う瞬間。大きめの音で鳴らすのもいいですが、できるならばヘッドフォン、イヤフォンで没入するのがベストでしょう。
改めて、2枚組としてまとめるのではなく個別の2作品として分けたことは、商業的に正しかったのか否かはわかりませんが、こうして時間を置いて個々に触れたことで両作の芯の部分にじっくり触れることができた。そういう意味では、3ヶ月を空けての連続リリースは正解だったのではないでしょうか。個人的には『FEAR OF THE DAWN』でフェスに向けて気持ちを昂らせ、フェス後に『ENTERING HEAVEN ALIVE』でチルアウトする。この流れで楽しんでもらいたいと思っています。
▼JACK WHITE『ENTERING HEAVEN ALIVE』
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