THE JEEVAS『ONE LOUDER (EP)』(2002)
KULA SHAKERというバンドについて今更説明する必要もないでしょう。'90年代中盤、ブリットポップ・ムーブメント末期に現れ、胡散臭いインド崇拝に「時代の徒花」的空気を読み取り嫌悪した人も多かったバンド。そして「THE STONE ROSES以降」をOASISと共に最も具体的な形でサウンド化したバンド。それが自分にとってのKULA SHAKERでした。STONE ROSESというバンドに何の思い入れもない俺が、'90年代のイギリスから現れたギターロックバンドの中で、MANIC STREET PREACHERS、THE WiLDHEARTSらと一緒に肩入れしたバンド。それがKULA SHAKERであり、クリスピアン・ミルズというシンガー/ソングライター/ギタリストだったのです。
そんなKULA SHAKERは1996年にデビュー。同年秋にファーストアルバム「K」を日本先行でリリースし、日本盤が25万枚という新人としては異例のセールスを記録。同年12月の初来日公演は大盛況を収め、俺もリキッドルームに3日間連続で通ったものでした。
'97年初頭にはDEEP PURPLEでお馴染みのカバー曲(オリジナルはジョニー・サウス) "Hush" をリリースしたものの、NMEに掲載されたナチス崇拝と誤解されるような発言が波紋を呼び、イギリス国内ではバンドに対するバッシングが起こる。そしてその頃からKULA SHAKERはひっそりと影を潜める。
'98年前半にはイギリス限定で新曲 "Sound Of Drums" がリリースされるものの、日本盤リリースには至らなかった為、大きな話題にはならず。
そして'99年2月。アルバムからの先行カットとなるシングル "Mystical Machine Gun" と共に、約2年半振りとなったセカンドアルバム「PEASANTS, PIGS & ASTRONAUTS」が発表されます。地味で難解ともいえる内容に動揺したファンも多かったようですが、それでも日本国内で約15万枚ものセールスを記録。6月には2度目となるジャパン・ツアーも決行され、俺も1日だけZepp Tokyoで楽しませてもらいました。
ヨーロッパでの夏フェスに幾つか出演した後、事件は起こります。1999年9月、クリスピアン・ミルズがKULA SHAKER脱退を声明、それによってバンドは解散。あまりにも急な出来事に、当時の俺は言葉を失い、酷く落ち込んだものです。
その後、プロデュースチームのTHE DUST BROTHERSと共にレコーディングに入ったとか、2000年夏にはこの年初めて開催されることとなった「SUMMERSONIC」にソロとして初出演するとか(結局レコーディングに専念することを理由にキャンセルされてしまいましたが)、今後はソロアーティストとしてやっていくんだな、とばかり勝手に思い込んでいました。また、それが彼らしいとも‥‥
しかし2002年。自体は急転します。いきなりバンド組んで、春にはツアースタート。7月に日本限定でEPをリリースし、その2週間後には「FUJI ROCK FESTIVAL」で来日‥‥何が何やらですよ、全く。
このシングル「ONE LOUDER」は、そんな来日記念盤となった、クリスピアンの新バンド・THE JEEVASの初音源となる1枚です。がしかし、このシングルがまた厄介な代物だったりします。
まず最初に、このシングルはあくまで日本向けに作られたものであり、それ以外の国では(勿論本国イギリスでも)リリースされていないという事実。つまり、ここに収められた3曲は日本でしか聴けないということになります。
更にこれら3曲は、アルバムレコーディング前からあったかなり古めの曲で、この後にリリースされることとなるファーストアルバム「1-2-3-4」とはスタイルや方向性がかなり違っていること。言い換えれば「最も過去のスタイル(=KULA SHAKER)に近い曲」をアルバム前に持って来て処分した、とも取れるわけで(実際、その後のアルバムではKULA SHAKERとはかなりかけ離れた、シンプルでレイドバックしたスタイルを提示しているし)。
最初にタイトルトラック "One Louder" がスピーカーから流れ始めた瞬間、俺は大きくガッツポーズしたのを覚えてます。何だよクリス、やりやがったな!!って。それがKULA SHAKERを薄めたようなものでも、俺にとっては「クリスピアンが帰って来た!」という事実だけで十分だったんですよ、少なくとも2002年の7月半ばの時点では。あのワウがかかったギターのフレーズを聴いただけでね‥‥
勿論他の2曲もそのスタイルをなぞった路線と言っていいでしょう。"Red" の怪しげというか胡散臭さもモロにKULA SHAKER時代のそれだし、ブルージーでワイルドな "Stoned Love" もしかり。多分KULA SHAKERのファースト「K」に収録されていても何ら違和感がない楽曲達なわけですよ。悪い訳がない。
‥‥けどさ。クリスピアンはKULA SHAKERを脱退してまでやりたかったことがこれなの?という疑問を持ったのも正直な感想。単純にキーボードが入ってないKULA、マリファナから解放されたKULAといったイメージで、特に目新しさは皆無。曲の良さとクリスピアンがそこで歌ってギターを弾いているという事実が光っているのみ。リズム隊の個性はこれといって感じられず‥‥勿論、この3曲だけで判断するのは酷ですけどね。
ところがさ。本当の衝撃はこの2週間後に待ち受けていたわけよ。そう、初来日‥‥フジロックでのステージですよ。前半は殆どが当時未発売のファーストアルバム「1-2-3-4」からの曲‥‥そりゃいろんな意味で衝撃ですわな。で、後半でKULAの曲をバンバンやるんだから。しかもトリオ編成で‥‥これもいろんな意味で衝撃。心中複雑ですよ。
とまぁこんな感じで、ほんの一瞬ですがこの俺をぬか喜びさせてくれたのが、このシングルの3曲。ホント、いい夢見させてくれたよ‥‥
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