JEFF BUCKLEY『GRACE』(1994)
1994年8月23日にリリースされた、ジェフ・バックリィ生前唯一のスタジオアルバム。日本盤は同年9月8日発売。
1960年代に活躍したSSW・ティム・バックリィの実子として知られるジェフですが、早世だった父親ティム(享年28歳)と同じくジェフ自身も1997年5月29日に30歳の若さで急逝。1993年11月にライブEP『LIVE AT SIN-É』でメジャーデビューしてから、4年経たずしてこの世を去っています。
もちろんリリース当時からそこそこ高い評価を獲得していたこの『GRACE』ですが、やはり1997年の逝去後以降その評価は異常に高まり、現在まで名盤として広く知られることになります。実際、本作リリース時はBillboard 200でも最高149位と低調に終わり、売り上げも50万枚に満たなかった。しかし、その後の評価向上により現在は100万枚を超えるセールスにまで達しています。また、2004年には未発表だったデモ音源などを追加したCD2枚組の“Legacy Edition”も発売。2007年にはなぜかオーストラリアなどでチャート急上昇し、イギリスではシングル「Hallelujah」が最高2位を記録し、アメリカでも同曲がDigital Songランキングで1位という快挙を成し遂げました。
名手アンディ・ウォレス(NIRVANA、SLAYER、ブルース・スプリングスティーンなど)がプロデュース&ミックスを担当したそのサウンドは、オルタナ/グランジを通過した非常に90年代的な質感。ギターを軸にしたシンプルでモノトーン調のバンドアンサンブルも当時の空気感が反映されたもので、ジェフの歌声が変幻自在でカラフルなものだけに、程よいバランスで対比が成立しています。
タイトルトラック「Grace」や「Last Goodbye」「Eternal Life」などを聴くと、PEARL JAMや“90年代以降”のRED HOT CHILI PEPPERSを筆頭とした土着的なUSオルタナティヴロックとの共通点がたくさん見つけられるし、ジェフのボーカルも曲に合わせてパワフルさやエモーショナルさが増している。かと思えば、「Lilac Wine」やレオナード・コーエンの名曲をカバーした「Hallelujah」などのスローナンバーでは、ファルセットを多用した繊細な歌声を響かせる。このストレートに訴えかける彼のボーカルこそ本作最大の聴きどころであり、リリースから25年以上経った今も変わらず愛聴しているのもその功績が大きいのではないでしょうか。
もちろん、楽曲の良さは大前提ですし、演奏の素晴らしさもまた然り。こういったお膳立てがすべて完璧に揃っているからこそ、ジェフがのびのびと歌うことができた。まあ、最終的にはすべてのピースがかっちりと噛み合っているからこその名盤なのかな。序盤のムーディな空気感から徐々に熱量が高まっていき、「Dream Brother」でクライマックスを迎え、彼の死後に再発された際に追加された「Forget Her」でエンドロールが流れる。そんな一編の短編映画を音で楽しむような、そんなストーリー性を強く感じさせる1枚だと思います。
個人的には「Dream Brother」で締めくくる構成に慣れていましたが、現行のストリーミングなどで聴ける「Forget Her」終わりも悪くないな……最近はそう思えています。また、「Forget Her」で終わることで長く愛聴してきたアルバムに新たな光を与え、再び新鮮に楽しむこともできている。個人的には全然アリなボートラでした。
▼JEFF BUCKLEY『GRACE』
(amazon:国内盤CD / 海外盤CD / 海外盤アナログ / MP3)