BON JOVI『WHAT ABOUT NOW』(2013)
2013年3月中旬に発表されたBON JOVIの12thアルバム。
前作『THE CIRCLE』(2009年)から3年4ヶ月ぶり、新曲を含むベストアルバム『GREATEST HITS』(2010年)から数えても2年4ヶ月と、現代においては比較的短いスパンで届けられた本作。10thアルバム『LOST HIGHWAY』(2007年)から続く記録を更新し、連続3作/通算5作全米1位という快挙を成し遂げました。しかし、セールス的には世の中の流れに沿うように下降気味で、アメリカでは初めてゴールドディスク(50万枚以上)獲得ならず、世界的にもトータル150万枚と前作から半減する結果となりました。
リッチー・サンボラ(G, Vo)曰く「ロックンロールに回帰した、至るところに大合唱できるようなコーラスがあって“これぞBON JOVI”って内容」だった前作『THE CIRCLE』は、全体のトーンが暗めで落ち着いた大人のハードロックを展開したBON JOVIでしたが、続く今作では前作のテイストを少し残しつつも9thアルバム『HAVE A NICE DAY』(2005年)や『LOST HIGHWAY』で顕著だった「レイドバックしたカントリーロックテイスト」が復活。全体の空気感もポジティブさに満ちたもので、『LOST HIGHWAY』がお気に入りというリスナー(そう多くないかもしれませんが)には好意的に受け入れられる内容かと思います。
でも、このテイストってBON JOVIというよりもジョン・ボン・ジョヴィ(Vo)個人のものなんじゃないか?という気もしていまして。実際、ソングライティングのクレジットに目をやると、ジョン単独およびジョンと外部ライターとの共作による楽曲が全12曲中7曲と過半数を占め、海外デラックス盤だと全15曲中10曲がジョン単独制作に近い楽曲(日本盤は全17曲と最多収録曲数なのですが、さらに1曲増えて11曲がジョン単独制作に近い楽曲)になるわけです。これ、現時点での最新作『THE HOUSE IS NOT FOR SALE』(2016年)とほぼ同じ流れなんですよね。そう考えるとこの2作って、いろいろ共通点や似ているポイントも多くないですか?
リッチーとの共作(およびジョン&リッチー+外部ライター)曲が少ないのは、リッチーのアルコール依存症治療も大きく影響しているのでしょうか(2011年の来日時はそのため不参加)。また、本作の完成前後にリッチーが3rdソロアルバム『AFTERMATH OF LOWDOWN』(2012年)に取り掛かったことも大きかったのかな。のちにリッチーはこのアルバムの楽曲に対して「もっと練り込むべきだった。もうひと手間かけるべきだったのでは」と疑問を呈していましたが、バンドのアルバムとして考えるとその声も頷ける気がします(自身がソングライティングに思うように参加できなかったからこその、外側からの貴重な意見ですよね)。
そういう意味でも、本作はジョンのソロ色が強く表出し始めた最初のアルバムであり、結果リッチーはバンドを離れることになってしまうわけです。もちろん、それだけが理由ではないと思いますが。
そんなネガティブな要素を孕む本作。確かにザッと聴く限りでは突出した1曲が少ない、全体像がぼんやりとした印象のアルバムかもしれません。また、特に日本盤は全17曲と無駄に曲数が多いのも災いして、なかなか通して聴く気の起きない1枚でもあるんですよね(苦笑)。
でも、リリースから7年を経た今聴くと、(『THE HOUSE IS NOT FOR SALE』を通過したせいもあってか)意外と楽しめる1枚なんですよね。ボーナストラックを除く12曲入りアルバムとして接すれば、そこまで悪い印象は受けないし、確かにジョンのソロ色は強いけど、しっかりリッチーの個性も感じられるし、バンドとしてのアンサンブルもしっかり“らしさ”を主張している。ここにキラーチューンが1曲含まれていたら、もうちょっと高く評価されていた1枚なのかなと、改めて思いました。
あと、デラックス盤のボーナストラックにバンド以外の楽曲(ジョンやリッチーのソロ名義による楽曲)を入れるのは如何なものかと思いました。この行為も本作に対するネガティブイメージを後押ししているような気がしてなりません。だって、AEROSMITHにスティーヴン・タイラーやジョー・ペリーがソロで制作した楽曲は収録されていないし、ストーンズだってミックやキースはバンドとソロの間に一線を引いている。そりゃバンド崩壊するわ……。
リッチーファンのは後味の悪い1枚かもしれませんが、80〜90年代のスタイルにとらわれないBON JOVIのリスナーなら肩の力を抜いて楽しめる良作だと思います。散々ひどいこと書いてきましたが(苦笑)、まずは難しいこと考えずに触れてみてはどうでしょう。
▼BON JOVI『WHAT ABOUT NOW』
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