TOMMY LEE『ANDRO』(2020)
2020年10月16日にリリースされたトミー・リー(MOTLEY CRUE)の3rdソロアルバム。日本盤未発売。
トミーのソロ名義による新作としては『TOMMYLAND: THE RIDE』(2005年)以来15年ぶりですが、別名義のMETHODS OF MAYTHEMをソロ作品としてカウントすれば『A PUBLIC DISSERVICE ANNOUNCEMENT』(2010年)以来10年ぶりのアルバムとなります。そう考えると、意外と出てないんですよね。
今回のアルバムに先駆けて、トミーは6月5日にまず「Knock Me Down」「Tops」という2曲のリードトラックを配信。この2曲はそれぞれにキルヴェイン、プッシュ・プッシュというヒップホップ系アーティストをメインゲスト(ボーカル&ラップ)に据え、トミー自身は(ボーカルやラップは交えつつも)ドラムやプロデュースに徹するにとどまっています。つまり、自身の個を強くアピールするよりも曲ごとにボーカルや(それに合わせて)音楽性が変わるという、作品性に強くこだわった内容に仕上がっています。
基本的にはMETHODS OF MAYHEM寄りのヒップホップ中心の作風で、ゲストアーティストもPAV4Nやショーティー・ホーロゥ、ミッキー・アヴァロン、ブルック・キャンディ、ムーン・バウンス、キング・エレ・ノワ、ルーカス・ロッシーなど国籍/性別もそれぞれ異なるヒップホップ/エレクトロ/ロック/SSWなどをフィーチャー。ベースを残しつつも、曲ごとに表情を変えていくその作風は1本芯が通っており、ボーカルの異なるオムニバス盤/プレイリスト風ではあるもののスルスルと聴き進めやすさや親しみやすさが備わっています。
先のリード曲2曲で免疫ができていたし、なによりトミーがソロ活動でロックやハードロック的なスタイルをやるとも思えないので(笑)、このスタイルは納得できるのですが、意外とエレクトロ色やR&B/ソウルのテイストが強めなのには驚かされました。元ROCK STAR SUPERSTARのフロントマン、ルーカス・ロッシーが歌う「Your Dancy」はどこかプリンスっぽさがあって「これ、いいじゃない」と思っていたら、そのプリンスの名曲「When You Were Mine」をルーカスのボーカルでカバーしているし。最初、このカバーの存在に気づいておらず、曲を聴き進めているうちに「あれ、この曲聴いたことあるな……あ、プリンスだ!」と気づかされたくらい、この流れに馴染んでいます。
アルバムはタイラ・ヤーウェとポスト・マローンのコラボ作にトミーがドラムで参加した「Tommy Lee」で締めくくり(ストリーミング版には未収録)。そういえばトミーとポスト・マローン、過去にも共演していますものね。納得の組み合わせですが、自身の名前を冠したこの曲がラストなんだと思うと、やっぱりこの人の我の強さを実感させられます(笑)。
なお、アルバムにはこのほかBUCKCHERRYのジョシュ・トッドも「Hot Fudge Sundae」にフィーチャーされていますが、彼はボーカルではなくナレーションでの参加。ハードロックリスナーは過剰な期待をしないように。
というわけで、アルバム自体はHR/HMからかなりかけ離れた内容ですが、「このへんのジャンルも多少は聴くよ」というリスナーにはとっつきやすい1枚ではないでしょうか。僕はかなり気に入っており、リリース日以降移動中に聴きまくっております。
▼TOMMY LEE『ANDRO』
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