JOURNEY『FRONTIERS』(1983)
1983年2月1日にリリースされたJOURNEYの8thアルバム。
「Who's Crying Now」(米4位)、「Don't Stop Believin'」(同9位)、「Open Arms」(同2位)、「Still They Ride」(同19位)とヒットシングルを連発し、アルバム自体もキャリア初の1位を獲得した前作『ESCAPE』(1981年)。現在までにアメリカのみで1000万枚以上のセールスを誇る名盤から約1年7ヶ月という、今から考えると非常に短いスパンで届けられたのがこの『FRONTIERS』というアルバムです。普通に考えたら、相当なプレッシャーが伴った制作だったのではと予想しますが、この時代ってそういったことを考える余裕もないくらい時間に追われ続けていたのかもしれませんよね。
アメリカンロックの大らかさとポップスとして通用するソフト感のバランスにもっとも優れた前作を経て、今作ではより洗練された上質なサウンドと、このバンドが本来持ち合わせていたハードロック/プログロック的な側面を(ちょうどアメリカでも人気爆発寸前だった)HR/HM視点で昇華させた作風でまとめ上げた印象。楽曲の方向性的には前作の延長線上にあるので、「ソフトでポップなJOURNEY」を期待するリスナーも十分に満足させるだけの内容に仕上がっているのではないでしょうか。
とはいえ、アルバムの冒頭を飾る「Separate Ways (Worlds Apart)」の若干シリアスで仰々しいイントロ、全体を覆う硬質さは「おや、前作とはちょっと違うかも?」と思わせるに十分な1曲。今聴くとチープなシンセリフですが、このあとにVAN HALEN「Jump」やEUROPE「The Final Countdown」がヒットすることを考えると、そのルーツと言えなくもないかな。事実、80年代半ばの“メンバーにキーボードがいた”洋楽カバーバンドはみんなこの「Separate Ways (Worlds Apart)」をコピー/カバーしていましたしね。
で、その若干シリアスな作風はミディアムバラード調の「Send Her My Love」、ダイナミックはハードロック「Chain Reaction」へと続いていきます。前作ではスティーヴ・ペリー(Vo)/ニール・ショーン(G)/ジョナサン・ケイン(Key)の三頭体制で楽曲制作を行ったことでバランスに優れていたわけですが、今作ではペリー&ケイン名義の楽曲も増え(「Separate Ways (Worlds Apart)」「Send Her My Love」「After The Fall」)、挙げ句ケイン単独名義によるピアノバラード「Faithfully」まで存在。ペリー/ケイン/スティーヴ・スミス(Dr)による「Back Talk」なんて曲も存在し、バンド内のバランス感が少しずつ崩れ始めていることにも気づきます。
アルバム前半は前作で得た成功をなぞろうとして若干空回りしている印象もありますが、「Edge Of The Blade」以降のアルバム後半ではニール・ショーンのカラーを強めたハードロック全開。ヘヴィバラード「Troubled Child」やパーカッシヴなドラミングが気持ち良い「Back Talk」、若干プログロック的で演奏陣のテクニカルさが際立つ「Frontiers」、ダイナミックなハードロック「Rubicon」と前半とはまた違った色合いで楽しめるはず。序盤にバラードタイプの楽曲を固めてしまったため、どこか軟弱な印象が付きまとう本作ですが、最後まで聴くとバンドの芯がしっかり伝わる良作なんですよね。
本作からは「Separate Ways (Worlds Apart)」(米8位)、「Faithfully」(同12位)、「After The Fall」(同23位)、「Send Her My Love」(同23位)といったヒットシングルも生まれ、アルバムもアメリカで最高2位(しかも9週連続)を記録。現在までにアメリカのみで600万枚以上を売り上げています。しかし、次作制作に向けて動き出そうとしたタイミングに、ロス・ヴァロリー(B)とスティーヴはバンドを脱退。メインソングライターの3人が残り、バンド活動を継続させることになります。
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