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2025年7月 6日 (日)

BLACK SABBATH / OZZY OSBOURNE: BACK TO THE BEGINNING(2025年7月5日)

Bttb オジー・オズボーンのステージを最初に観たのは、1991年10月の“引退”ツアー@日本武道館。ちょうどアルバム『NO MORE TEARS』をリリースした直後で、この日本公演から最後のワールドツアーが始まったんですよね。なので、自分にとってこれが最初で最後のオジーになる予定でした。あの時点でオジー42歳。今ならメタルをするには全然若いんですけどね。

で、その後に関してはご存知のとおり。最後の来日は2015年11月の『Ozzfest Japan 2015』になるのか。その2年前の『Ozzfest Japan 2013』BLACK SABBATHでの来日でしたしね。2015年秋は自身がメニエール病の影響で大きな音を浴びることを避ける生活をしていたのですが、無理をして最後のオジーのステージに間に合うように会場へ向かい、かなり後方から無理せぬスタンスで観覧したことを覚えています。

あれから10年。ついにオジーがステージから引退する日が来ました。しかも、ビル・ワード(Dr)を欠いた形でうやむやなうちに終幕したBLACK SABBATHもオリジナル編成で最後のステージを行う。そんな彼らを見送るように、ハードロック/ヘヴィメタル界隈の重鎮/レジェンドたちが一堂に会しする特別なイベントが7月5日、イギリスで行われる。そりゃ行きたかったですよ。チケットも取ろうかと思いましたよ。けど、現実的(仕事的)に無理なのはわかっていたので泣く泣く断念。

そうしたら、配信でも日本から観られることが発覚。ライブ自体は2時間のディレイが発生するものの、日本時間23時から約10時間にわたりほぼノーカットで夢のような“饗宴”を目撃することができ、しかもアーカイヴとして48時間残るので、無理して夜更かしすることもなく最後まで楽しめました。

以下の簡単な観覧メモは、この歴史的イベントを記録に残しておくためのもの。後日映像作品としてリリースされるかもしれないけど、それはそれ。単なる自己満足です(昨年秋以降のレポもまだちゃんとまとめてないのに、これだけ先に公開するというのもどうなのかと)。

目次
MASTODON
RIVAL SONS
ANTHRAX
HALESTORM
LAMB OF GOD
SUPERGROUP A
JACK BLACK, ROMAN MORELLO, REVEL IAN
ALICE IN CHAINS
GOJIRA
DRUM OFF
SUPERGROUP B
PANTERA
TOOL
SLAYER
FRED DURST (LIMP BIZKIT)
GUNS N' ROSES
METALLICA
OZZY OSBOURNE
BLACK SABBATH

 

MASTODON
主要メンバーのひとりブレント・ハインズ(G, Vo)が今年脱退して、新体制でのステージ。正直ブレントの離脱はかなり痛いと思うのですが、この日披露された3曲を観る限りではなんとかやれそうな予感。といっても、自身のオリジナル曲は2曲のみでしたから、ちゃんとした判断は難しいところですが。最後にサバス「Supernaut」カバーは予想外の選曲。途中からダニー・ケアリー(TOOL)、マリオ・デュプランティエ(GOJIRA)、そしてエロイ・カサグランデ(SLIPKNOT、ex. SEPULTURA)というドラマー3名が加わり、かなりパーカッシヴなアレンジで独自性を打ち出していました。うん、良き良き。

セットリスト
1. Black Tongue
2. Blood And Thunder
3. Supernaut

 

RIVAL SONS
個人的には好きなバンドだったけど今回バンド単体で出演する中ではもっとも人気も知名度も低いような気がするし、彼らはどちらかといえばLED ZEPPELIN寄りなのかなと思ったけど、この日演奏したオリジナル曲とサバス「Electric Funeral」カバーの相性も悪くなく、これはこれでアリだったな。

セットリスト
1. Do Your Worst
2. Electric Funeral
3. Secret

 

ANTHRAX
表に「Sabbath Bloody Anthrax」、裏に「666」とサバスにおける各パートのメンバー名が記載されたお揃いのTシャツ姿で登場した彼らは、いきなり「Indians」で自分たちらしいペースで空間を作り込んでいく。持ち時間15分と決して長くはない中、しっかりと“War Dance”でのモッシュパートも確保して暴れ放題。2曲目にひたすらヘヴィなサバスカバー「Into The Void」をお見舞いして、たった2曲という潔さでステージを去っていきました。

セットリスト
1. Indians
2. Into The Void

 

HALESTORM
本日唯一の女性アーティストを含むHALESTORM。リジー姐さん(Vo, G)の華やかさと毒々しさがいい感じで伝わるファストチューン「Love Bites (So Do I)」で場の空気を温めると、8月発売の新作からの「Rain Your Blood On Me」を先行披露。ここで新曲か……と思ったものの、これはこれで今日という日にぴったりな選曲なのかな。で、気になるカバーですが……セッション以外では唯一オジーソロから、しかもマニアックな「Perry Maison」という選曲。で、これがリジー姐さんのパワフルボイスにぴったり。実は密かにザック・ワイルド(G)が飛び入りするんじゃないかと思ってたけど、そういったサプライズなしで終了。

セットリスト
1. Love Bites (So Do I)
2. Rain Your Blood On Me
3. Perry Mason

 

LAMB OF GOD
最初に登場したドラマーを見て「あれ、クリス・アドラーじゃない」と気づく。そうか、クリスってだいぶ前に脱退したんだっけ。いきなり「Laid To Rest」から始まるのでテンション上がるも、その後にステージに姿を現したランディ・ブライ(Vo)のビジュアルに衝撃を受ける。なんでこんな“おとっつぁん”姿に……(苦笑)。しかも、線が細いから音のわりに軟弱に見えてしまう。悲しい。けど、音は最高の一言で、「Redneck」含め「まあこの2曲だよね」という選曲にニンマリ。が、その後のサバス「Children Of The Grave」では“歌う”ことに注力するがあまり……うん。シャウトだけで攻めてもよかったんじゃないかな。ランディの風貌と相まって、ちょっとだけずっこけたのはここだけの話。

セットリスト
1. Laid To Rest
2. Redneck
3. Children Of The Grave

 

■SUPERGROUP A
さあ、お待ちかねのセッションタイム! まずはリジー・ヘイル(Vo)、デヴィッド・エレフソン(B/ex. MEGADETH)、ヌーノ・ベッテンコート(G/EXTREME)、ジェイク・E・リー(G/RED DRAGON CARTEL)、マイク・ボーディン(Dr/FAITH NO MORE)、アダム・ウェイクマン(Key)で「The Ultimate Sin」。ジェイク、元気そうでよかったけど、ヌーノのほうが目立ってた気が。にしても、リジー姐さんはこういうパワフルな曲歌うの合ってるね。続く「Shot In The Dark」ではリジー&ヌーノOUT、デヴィッド・ドレイマン(Vo/DISTURBED)IN。ドレイマン、こういう曲意外と合うんだなと再確認。ソロはヌーノがいない分、ジェイクのプレイをしっかり味わえました。

3曲目「Sweet Leaf」はジェイクOUT、ヌーノ&スコット・イアン(G/ANTHRAX)IN。ジュニア(エレフソン)とスコット・イアンが同じ曲を演奏してるの、個人的にグッときた。にしても、ヌーノはメロウな曲もこういうヘヴィな曲もそつなくこなしながら、しっかり自分色に染めていくのさすがですね。4曲目「Believer」はドレイマン、エレフソン&マイクOUT、ウィットフィールド・クレイン(Vo/UGLY KID JOE)、フランク・ベロ(B/ANTHRAX)&スリープ・トーケンII(Dr/SLEEP TOKEN)IN。これまた不思議な組み合わせですが、SLEEP TOKENのドラムがいいグルーヴ生み出してやんの。いいじゃない。そして、最後の「Changes」はウィットフィールド&スコットOUT、ヤングブラッド(Vo)IN。事前告知されていなかったヤングブラッドの登場に会場沸きまくり。ちょうど新作『IDOLS』が全英1位獲得した直後だけに、すごくいいタイミングでしたね。にしても彼、ここまで声量おばけか!ってくらいに全身で歌いまくってたの、カッコよかったな。バックのメンツとの相性も抜群でした。

セットリスト
1. The Ultimate Sin
2. Shot In The Dark
3. Sweet Leaf
4. Believer
5. Changes

 

 

■JACK BLACK, ROMAN MORELLO, REVEL IAN
転換タイミングにステージ上に2人の少年が登場して、そのまま幕間映像へと続くのですが、これがオジーに扮したジャック・ブラック(映画『スクール・オブ・ロック』の人ね)が「Mr. Crowley」を歌うという映像。ギターをトム・モレロ(G/RAGE AGAINST THE MACHINE)の息子ローマン・モレロ、ベースをスコット・イアンの息子レヴェル・イアン、ドラムを日本人ドラマーYOYOKAが担当し、同曲の有名な映像を見事に(かつ大袈裟に)完全再現していました。これぞ完全に『スクール・オブ・ロック』! 面白かった!

セットリスト
1. Mr. Crowley

 

ALICE IN CHAINS
久しぶりにバンドとして動いている姿を観た。ショーン・キニー(Dr)が先日から体調不良でお休みしていましたが、この日は無事ステージ復帰。いきなり「Man In The Box」から始まったけど、配信におけるサウンドミックスが激悪で、ジェリー・カントレル(G, Vo)のボーカル/コーラスが一切聴こえない始末。しかも、続く「Would?」ではジェリーのリードボーカルから始まるのにまったく聴こえない。途中でうっすら聴こえてきた気がするけど、こんなんじゃ彼らの魅力半減。さらに、サバスカバーでは途中で音声がまったく聴こえなくなる大トラブル。途中で復旧したものの、配信組にとってはAICが軽視されているように映っても仕方ないような扱いでした(その後、ガンズ終了後の幕間映像で音声完全版の「Fairies Wear Boots」が再配信されましたが、にしてもねえ?)。

セットリスト
1. Man In The Box
2. Would?
3. Fairies Wear Boots

 

GOJIRA
「Stranded」のオープニングのあのギターの音色を聴いた瞬間、「あ、GOJIRAきた!」とテンション上がる。が、直前のAIC同様ミックスがダメダメで、ボーカルがあまり聞き取れない。加えて、カメラワークもどんどん悪くなっている印象が強くて、早番(笑)があんないい仕事ぶりだっただけに「遅番、なってねえな!」とぼやき始める自分。「さすがにもうパリオリンピックネタは引っ張らないよね」と思ってたら、3曲目「Mea Culpa (Ah! Ça ira!)」では原曲同様にマリナ・ヴィオッテイを連れてきて(あの映像こそなかったものの)完全再現。イギリスでフランス革命の曲やるの、おもろすぎ。で、最後はサバスカバー「Under The Sun」。これは選曲も演奏もよかったな。いつかスタジオ音源出していただきたい。

セットリスト
1. Stranded
2. Silvera
3. Mea Culpa (Ah! Ça ira!)
4. Under The Sun

 

■DRUM OFF
このあたりからセッションパート2に突入。まずは「Drum Off」と称してチャド・スミス(RED HOT CHILI PEPPERS)、ダニー・ケアリー(TOOL)、トラヴィス・バーカー(BLINK-182)のトリプルドラム、ルディ・サーゾ(B/ex. QUIET RIOT)、トム・モレロ(G)、ヌーノ・ベッテンコート(G)という布陣で「Symptom Of The Universe」インストセッション。随所にドラマー3人がソロをぶち込んでくるスリリングな構成は、非常に贅沢でした。

セットリスト
1. Symptom Of The Universe

 

■SUPERGROUP B
続いて本格的なセッションパート再び。ビリー・コーガン(Vo/THE SMASHING PUMPKINS)、トム・モレロ(G)、アダム・ジョーンズ(G/TOOL)、K.K.ダウニング(G/KK'S PRIEST、ex. JUDAS PRIEST)、ルディ・サーゾ(B)、ダニー・ケアリー(Dr)という布陣で何やるかと思えば、いきなりプリースト「Breaking The Law」! 会場大盛り上がりで〈Breaking The Law!〉連呼しやがるし。サバスやオジー以外のカバー、ありなのか。続いて同じメンツでサバス「Snowblind」。前の曲といい、ビリーのボーカル厳し目だけど、トムが“歯ギター”弾いてる後ろではっちゃけてる絵は面白かった(笑)。

3曲目は「Flying High Again」。メンツはサミー・ヘイガー(Vo)、ヌーノ・ベッテンコート(G)、ヴァーノン・リード(G/LIVING COLOUR)、ルディ・サーゾ(B)、チャド・スミス(Dr)、アダム・ウェイクマン(Key)。ステージ上のアメリカ人率の高さとファンクメタル(死語)率の高さといったら……。こういう曲は確かにサミーの歌にも合うし、このメンツで演奏したらなんだか“VAN HAGAR”っぽく聞こえてきますね。で、ヴァーノンとトムが入れ替わってサミーの持ち曲「Rock Candy」(MONTROSEの代表曲)を披露。さすが自身の持ち曲とあって、サミーはさっきよりも歌えてる。カラッとしたアメリカンハードロックがどんより空気のバーミンガムに響き渡る絵、面白い。

5曲目は名曲「Bark At The Moon」。メンツは“Papa V Perpetua”ことトビアス・フォージ(Vo/GHOST)、ヌーノ・ベッテンコート(G)、ヴァーノン・リード(G)、ルディ・サーゾ(B)、トラヴィス・バーカー(Dr)、アダム・ウェイクマン(Key)。てっきりジェイクが弾くもんだと思ってたら、まだまだ体力的に不安定なのでしょうか、ヌーノがジェイクに敬意を表しながらオリジナルに忠実なプレイを見せてくれます。ここではトビアスのボーカルの存在感(やっぱり80'sカバーは彼に合ってる!)とトラヴィスの躍動感の強いドラミングが見どころだったかな。

最後のブロックは想像を超えたセッションが展開。ヌーノ、トム、ルディ、トラヴィスにアンドリュー・ワット(G/著名プロデューサー。オジーの近作をプロデュース)、ロニー・ウッド(G/THE ROLLING STONES)、そしてスティーヴン・タイラー(Vo/AEROSMITH)という布陣で「Train Kept A Rollin'」を披露。もうなんでもありだな(笑)。スティーヴン、ツアーは引退したものの単発ならまだまだ歌えそうですよね。そして、ロニーとトラヴィスが去り、チャドが再度加わって、ラストは「Walk This Way」〜「Whole Lotta Love」というエアロやスティーヴンソロでよくやるメドレー。本当はロバート・プラント(LED ZEPPELIN)を呼びたかったのかな、とか邪推したけど、まあこれはこれでロック/ハードロック/ヘヴィメタルの50年以上に及ぶ歴史の総括としてアリかもしれませんね。

セットリスト
1. Breaking The Law
2. Snowblind
3. Flying High Again
4. Rock Candy
5. Bark At The Moon
6. Train Kept A Rollin'
7. Walk This WayWhole Lotta Love

 

PANTERA
ライブもいよいよ後半戦。さすがにリアルタイムで起きていると眠気が酷かった(苦笑)。印象的なリフレインSEに導かれるようにフィル・アンセルモ(Vo)&レックス・ブラウン(B)のオリメンにザック・ワイルド(G)&チャーリー・ベナンテ(Dr/ANTHRAX)という再集結後お馴染みの4人で「Cowboys From Hell」からライブスタート。あれ……さっきよりさらに音のミックスが酷くなってる……ほぼザックのギターしか聞こえない(笑)。しかもライン直みたいな音の質感だから臨場感皆無で、ザックの粗が目立ってしまう。これは勿体ない。ラストのサバス「Electric Funeral」カバーでなんとかバランスが形になり、ザックの本領発揮と言わんばかりのプレイを楽しむことに集中できましたが、PANTERAとしてのステージを満喫するまでには至らなかったな。彼らはやっぱり生で楽しんでこそなのかもしれない、と実感しました。

セットリスト
1. Cowboys From Hell
2. Walk
3. Planet Caravan
4. Electric Funeral

 

TOOL
明るい中でのTOOLのライブっていうのも新鮮ですが、こうやって観ると皆さん改めて……歳取りましたね。でも、演奏や歌、パフォーマンスはバキバキで「Forty Six & 2」という長尺曲で見事に惹きつけてくれる。かと思えば、サバスカバーは「Hand Of Doom」というマニアックぶりを見せて、こちらもTOOLらしい解釈が加わっていて好印象。その流れから「Ænema」へと続く構成も非常にナチュラルで、“普通の”TOOLのステージとして楽しめました。が、予想通りとはいえ25分で3曲は多いのか、少ないのか(笑)。

セットリスト
1. Forty Six & 2
2. Hand Of Doom
3. Ænema

 

SLAYER
再始動後、初見。全体的に若干テンポがゆっくりめに感じられたけど、それはスピードよりも重さを取ったと良き方向に解釈しました。トム・アラヤ(Vo, B)、全然声出てるじゃん。シャウトも活休前と変わらず。ブランクをまったく感じさせません。持ち時間30分近くということもあって、ここから一気に曲数が増えます(単にTOOLが長尺曲ばかりだったのもあるけど)。SLAYERのサバスカバーは意外な「Wicked World」。トムが珍しくベースを指弾きして、落ち着いたトーンで歌っているのが面白かった。そこからイントロダクションなしで「South Of Heaven」へとつなぐアレンジも絶妙で、さらにこの曲のエンディングから「Wicked World」へと戻る構成もいろいろ考えられててよかった。ラストは「Raining Blood」「Angel Of Death」の力技でダメ押し。まだまだやれるよ。もっとライブ見せてくれ。

セットリスト
1. Disciple
2. War Ensemble
3. Wicked World
4. South Of Heaven 〜 Wicked World
5. Raining Blood
6. Angel Of Death

 

■FRED DURST(LIMP BIZKIT
SLAYERからガンズへの転換時に映像にて。アコギとチェロを携えたアコースティック編成で、1オクターブ下で歌唱。あれだ、「Home Sweet Home」カバーと同じ手法だ。こういう編成でカバーする以上は、会場で披露するよりも収録はベストだったのでしょうね。

セットリスト
1. Changes

 

GUNS N' ROSES
アクセル・ローズ(Vo)、スラッシュ(G)、ダフ・マッケイガン(B)のオリメンに、リチャード・フォータス(G)、新加入のアイザック・カーペンター(Dr)という最小編成でのステージ。いきなりピアノの前に座ったアクセルが、サバス「It's Alright」からステージ開始。これは以前からライブのみで披露してきたから予想がついたけど、その後の「Never Say Die」「Junior's Eyes」「Sabbath Bloody Sabbath」は意外だったな。ま、前者2曲はガンズっぽさが感じられる選曲だったので納得。「Sabbath Bloody Sabbath」はアクセルのシャウトがビシッと決まればカッコいいんだろうけど、今の彼の歌声はファルセット中心だからどうにもソフトになりがち。かつ、この日はイヤモニの影響だろうか、バンドの音と歌がズレまくり。これはいただけなかった。お客さんも地味なサバス曲が続いたせいか、盛り上がりがイマイチのように映ったけど、ラスト2曲の代表曲連発で帳消しに。まあなんにせよ、アクセル御大がとても楽しそうだったのでよかったです(小学生の作文並み感想)。

セットリスト
1. It's Alright
2. Never Say Die
3. Junior's Eyes
4. Sabbath Bloody Sabbath
5. Welcome To The Jungle
6. Paradise City

 

METALLICA
サバス、オジー前の単体出演としてはトリを務めるのは、当然のようにMETALLICA。SEなしでステージに登場すると、「Hole In The Sky」といういかにも彼ららしい選曲からスタート。新作に入っていても違和感ないくらいに馴染んでた。そこから「Creeping Death」で一気にギアが入り、「For Whom The Bell Tolls」と自分たちらしいモードに引き摺り込んでいく流れもさすがの一言。会場の盛り上がり、一体感も(主役であるその後の2組を除けば)この日一番だったように感じました。今回、彼らはもう1曲サバスカバーを用意したのですが、それが「Johnny Blade」という意外な1曲。ガンズといいMETALLICAといい、こういうときにファンが求める初期曲から“外して”くるのが実にらしくていいです。にしても「Johnny Blade」、こうやって聴くといい曲だなという再発見があってよかった。そして「Battery」「Master Of Puppets」の連発でフィニッシュ。ガンズも彼らも最新モードを無理してねじ込まず、この場にいるメタルヘッズが何を求めているかに100%応えているのがさすがでした。

セットリスト
1. Hole In The Sky
2. Creeping Death
3. For Whom The Bell Tolls
4. Johnny Blade
5. Battery
6. Master Of Puppets

 

OZZY OSBOURNE
いよいよメインアクトの時間。恒例となったオープニングSE「Carmina Burana」に乗せて玉座に座ったオジーが床から迫り上がると、会場の熱量も一気に高まる。オジーの「I can't hear you! Are you ready?」を合図に、ライブは「I Don't Know」からスタート。この日のバンドはザック(G)、トミー・クルフェトス(Dr)、アダム・ウェイクマン(Key)に90年代前半を支えたマイク・イネズ(B/ALICE IN CHAINS)という特別編成。ルディ・サーゾやロバート・トゥルヒーヨ(METALLICA)といった歴代ベーシストがいるんだから、彼らでもよかったのにね。もはやカエル跳びもバケツ水掛けも期待できない御年76歳のオジーですが、それでも今できる全力でステージに臨んでくれているその姿に涙が溢れそうになります。時ににこやかに嬉しそうな表情を浮かべるオジーですが、手拍子を促す際の動きがぎこちなかったりと、いろいろパーキンソン病の症状も表れている中、足をバタバタさせ、今にも立ち上がりそうなその動きからは彼の生命力の強さがしっかり伝わります。

選曲的には1st『BLIZZARD OF OZZ』(1980年)から4曲、6th『NO MORE TEARS』(1991年)から1曲と、2大ヒット作収録曲中心。今のオジーが歌える曲、体力的に最後まで維持できそうな曲と考えるとこの5曲でしょうね。いいんです、散々聴きまくって飽きがきそうな楽曲群ですが、オジーが生で歌うこれらの5曲はこの日が最後でしょうから。「Mr. Crowley」や「Mama, I'm Coming Home」では感傷的な気持ちに浸ってしまい、珍しく涙腺が刺激されましたし、特に後者を歌う際のオジーのどこか感極まっている様子にももらい泣きしてしまう始末。会場のお客さんもしっかり泣いてましたもんね……。ラストの「Crazy Train」ではランディ・ローズ(G)の演奏シーンとザックのソロがリンクして、そこでまた涙腺やられる。まさかオジーのライブでこんな気持ちになる日が来るとはね。自分も歳取ったなあ……(遠い目)。

セットリスト
1. I Don't Know
2. Mr. Crowley
3. Suicide Solution
4. Mama, I'm Coming Home
5. Crazy Train

 

BLACK SABBATH
いよいよ宴も終わりの時間です。空もいい感じに暗くなった中、サバスの歴史を紹介するようなドキュメンタリータッチの映像に続いてバンドロゴが浮かび上がる。そして、デビューアルバム『BLACK SABBATH』のイントロダクションともいえる鐘の音と雨音が会場中に響き、続いて無数ものサイレンの音からステー上にオジー、トニー・アイオミ(G)、ギーザー・バトラー(B)、ビル・ワード(Dr)とメンバー4人の姿が浮かび上がり、ライブは「War Pigs」からスタート。オジーはここでも終始玉座に座ったままですが、先ほど同様いい感じにオーディエンスを煽り続けます。ビルのドラムは多少もたり気味でミスヒットも多いものの、このスウィング感あってこそのサバスだと改めて実感させられます。ギーザーはしばらく見ない間に老けまくったなと思うものの、トニーの容姿は10年前となんら変わらず。この4人だからこそ生み出せる極上のグルーヴに乗せて、オリジナルサバスらしい重々しい「War Pigs」が繰り出されていきます。

この4人だからこそのグルーヴがより活きるのが、2曲目「N.I.B.」。シンプルな8ビートのようで微妙に跳ね気味でスウィングするリズムは、このバンドがジャズやブルースの流れを汲んでることが大きいんでしょうね。なので、普通に演奏したらただただ流れていってしまいがちなんですよ(と変に力説)。この日の演奏も実にオリジナルサバスらしいもので、冒頭のギーザーのベースソロからトニーの若干泣き気味のソロ、随所にキメを取り入れながらブレイクするドラム、単調ながらも耳に残るオジーのキャッチーな歌。この曲が収録されたデビューアルバムの時点で、彼らのスタイルはほぼ完成されていたようなものです(そしてこのスタイルはのちにMETALLICAらに引き継がれていく、と)。

3曲目「Iron Man」ではだらしない半裸(笑)のビルがバスドラでリズムを刻む中、トニーの重々しいリフが重なっていく。今まで聴いた中で一番スローで一番ヘヴィな「Iron Man」かもしれないな。どの曲も原曲に忠実なアレンジで、1音1音を4人が大切にしていることが伝わってくる、そんな演奏でした。あと、最後の曲に入る前、オジーが挨拶をするんだけど、ちょっと涙ぐんでたのが印象的でしたね。

BLACK SABBATHおよびオジーの生涯最後のライブで歌われたラストナンバーは「Paranoid」。わー、この曲でもこんな感傷的な気分になるのかと完全に喰らってしまいました。ビルのドラムはボロボロだけど、なぜか今まで聴いた中で一番響く「Paranoid」だった。そしてエンディング。打ち上がる花火を見上げるオジーのシルエットは、すべてやり切ったという満足感よりもどこか寂しげに映りました。

セットリスト
1. War Pigs
2. N.I.B.
3. Iron Man
4. Paranoid

このほか幕間映像にはマリリン・マンソンジョナサン・デイヴィスKORN)、JUDAS PRIEST、シンディ・ローパー、ドリー・パートンなどの著名人からのメッセージも。そういえば、ジョナサンやフレッド・ダーストは告知ポスターに名前が載っていたものの、結局会場には来なかったんですね。直前にキャンセルとなったウルフギャング・ヴァン・ヘイレンのようにいろいろあったのでしょう(察し)。

さて、約10時間にわたる配信をたっぷり観たわけですが(TOOL以降はアーカイブで視聴)……このジャンルにおいて、今後ここまでの規模感のイベントは今後二度とないんじゃないかな、と思わせられるくらいの最終回感濃厚な1日でしたね。きっとMETALLICAあたりが引退するときは、これに匹敵するようなイベントを開けるかもしれないけど、充実度や多くを納得、圧倒させるという点ではこの世代が最後なのかもしれませんね。そういう意味でも、このイベントは「HR/HMのお葬式」のようにも映りました(ちょっとネガティブすぎか)。

その一方で、事前のフォトセッションで重鎮たちが一同に会すした際、ラーズ・ウルリッヒは「まるでヘヴィメタルのサマーキャンプだな!」と嬉々として発言していたのも印象的で。当事者的にはこれくらいポジティブなお祭り感覚なであり、その温度差がリスナー視点とはまた違っているのも面白かったです。

2025年1月31日 (金)

2024年総括

(本記事は2024年末にメモとしてまとめたものを再構築し、新たに公開したものです)

ちょっと遅くなってしまいましたが、2024年のまとめ記事を公開したいと思います。昨年同様、「ジャンル/アルバム/シングル/楽曲と枠にこだわらず、30作品に縛る」という形で、特に順位付けをせずアルファベット→50音順で30作品を掲載していきます。

 

ALCEST『Les Chants de L'Aurore』(AL/amazon

 

Aoooo『Aoooo』(AL/amazon

 

AURORA『WHATE HAPPENED TO THE HEART?』(AL/amazon

 

BRING ME THE HORIZON『POST HUMAN: NeX GEn』(AL/amazon

 

BUCK-TICK『スブロサ SUBROSA』(AL/amazon

 

THE CURE『SONGS OF A LOST WORLD』(AL/amazon

 

IDLES『TANGK』(AL/amazon

 

JUDAS PRIEST『INVINCIBLE SHIELD』(AL/amazon

 

Ken Yokoyama『Indian Burn』(AL/amazon

 

KNOCKED LOOSE『YOU WON'T GO BEFORE YOU'RE SUPPOSED TO』(AL/amazon

 

LEPROUS『MELODIES OF ATONEMENT』(AL/amazon

 

LINKIN PARK『FROM ZERO』(AL/amazon

 

MÖTLEY CRÜE『CANCELLED』(EP/amazon

 

OPETH『THE LAST WILL AND TESTAMENT』(AL/amazon

 

PALEDUSK『PALEHELL』(EP/amazon

 

PEARL JAM『DARK MATTER』(AL/amazon

 

polly『Hope Hope Hope』(AL)

 

RIDE『INTERPLAY』(AL/amazon

 

ST. VINCENT『ALL BORN SCREAMING』(AL/amazon

 

TAYLOR SWIFT『THE TORTURED POETS DEPARTMENT』(AL/amazon

 

THE YELLOW MONKEY『Sparkle X』(AL/amazon

 

ZAZEN BOYS『らんど』(AL/amazon

 

ZEAL & ARDOR『GREIF』(AL/amazon

 

エルスウェア紀行『ひかりを編む駐車場』(AL)

 

楠木ともり『吐露』(EP/amazon

 

櫻坂46『I want tomorrow to come』(EP/amazon

 

鈴木愛奈『initium』(EP/amazon

 

トゲナシトゲアリ『棘ナシ』(AL/amazon

 

日向坂46『君はハニーデュー』(Song)

 

乃木坂46『歩道橋』(Song)

 

以下、候補に上がった作品もメモとして残しておきます。

・BLEACHERS『BLEACHERS』
・CATEGORY 7『CATEGORY 7』
・Crossfaith『AЯK』
・FONTAINES D.C.『ROMANCE』
・FRIKO『WHERE WE'VE BEEN, WHERE WE GO FROM HERE』
・HEAD PHONES PRESIDENT『In the Abyss』
・MANNEQUIN PUSSY『I GO HEAVEN』
・THE SMASHING PUMPKINS『AGHORI MHORI MEI』
・キタニタツヤ『ROUNDABOUT』
・米津玄師『LOST CORNER』

加えて、2024年において特に印象的だったライブも5本ほど挙げておきます。

2024年2月13日:QUEEN + ADAM LAMBERT@東京ドーム
2024年7月30日:TURNSTILE@Zepp DiverCity
2024年8月18日:BRING ME THE HORIZON@ZOZOマリンスタジアム(SUMMER SONIC 2024)
2024年9月29日:IRON MAIDEN@ぴあアリーナMM
2024年11月24日:櫻坂46@ZOZOマリンスタジアム

 

2024年8月22日 (木)

2024年上半期総括

「そういえば年間ベスト上半期分まとめてなかった」

そう気づいたのは8月に入ってからのこと。例年7月頭に公開していた同エントリーですが、振り返ると昨年も8月11日更新なんですよね(笑)。コロナ禍を経て日常を取り戻し始めた2023年以降、別の意味で時間感覚がズレ始めていることに気付かされます。

ということで、通常より1ヶ月半以上遅れてとなりますが、ここに記録として残しておきたいと思います。今年も昨年同様に「洋楽5枚/作品、邦楽5枚/作品」という形で、アルバムにこだわらずシングル/EP/単曲含む10作品を紹介していきます。

 

AURORA『WHATE HAPPENED TO THE HEART?』(AL/amazon

 

BLEACHERS『BLEACHERS』(AL/amazon

 

BRING ME THE HORIZON『POST HUMAN: NeX GEn』(AL/amazon

 

JUDAS PRIEST『INVINCIBLE SHIELD』(AL/amazon

 

PEARL JAM『DARK MATTER』(AL/amazon

 

Crossfaith『AЯK』(AL/amazon

 

PALEDUSK『PALEHELL』(EP/amazon

 

THE YELLOW MONKEY『Sparkle X』(AL/amazon

 

キタニタツヤ『ROUNDABOUT』(AL/amazon

 

櫻坂46『自業自得』(EP/amazon

 

今年上半期、特に洋楽勢は良作揃いだったと思います。泣く泣く15枚まで絞った中で最終的に上記5枚を選んだのですが、PEARL JAMとBMTH以外は日によって変動があるかもしれません。ちなみに、次点となった10枚は下記のとおりです。

BEYONCE『COWBOY CARTER』
DUA LIPA『RADICAL OPTIMISM』
FRIKO『WHERE WE'VE BEEN, WHERE WE GO FROM HERE』
THE JESUS & MARY CHAIN『GLASGOW EYES』
KNOCKED LOOSE『YOU WON'T GO BEFORE YOU'RE SUPPOSED TO』
THE LAST DINNER PARTY『PRELUDE TO ECSTASY』
MANNEQUIN PUSSY『I GOT HEAVEN』
MICK MARS『THE OTHER SIDE OF MARS』
RIDE『INTERPLAY』
THE SMILE『WALL OF EYES』

 

国内勢に関しては下記の7作品(楽曲単位含む)が次点となります。

イヤホンズ『手紙』
サバシスター『覚悟を決めろ!』
トゲナシトゲアリ『雑踏、僕らの街』(楽曲)
日向坂46『君はハニーデュー』(EP)
雪国『pothos』
THE BAWDIES『POPCORN』
Ken Yokoyama『Indian Burn』

2024年3月 9日 (土)

JUDAS PRIEST『INVINCIBLE SHIELD』(2024)

2024年3月8日にリリースされたJUDAS PRIESTの19thアルバム。

英米ともに5位という好記録を打ち立てた前作『FIREPOWER』(2018年)からちょうど6年ぶりの新作。その間にジャパンツアー(2018年11月)オジー・オズボーンの代役として急遽実現した『DOWNLOAD JAPAN 2019』でのヘッドライナー(2019年3月)と2回の来日が実現していますが、2020年以降はコロナ禍によりしばらく表立った動きが取れず。2021年には結成50周年を祝してコンピレーションアルバム『REFLECTIONS - 50 HEAVY METAL YEARS OF MUSIC』やボックスセット『50 HEAVY METAL YEARS OF MUSIC』を発表し、ツアーも始めてみたもののリッチー・フォークナー(G)がライブ中に救急搬送される大事件があり、一度動きが止まってしまいます。

しかし、リッチーの回復を待ってバンドは新作制作に突入。前作にも携わり、グレン・ティプトン(G)の代わりにツアーでギターをプレイしたアンディ・スニープ(ARCH ENEMYKILLSWITCH ENGAGEMEGADETHなど)が全体のプロデュースを務め、アルバム本編ラスト2曲(ボーナストラック除く)「Sons Of Thudner」「Giants In The Sky」のみ共同プロデューサーとしてプリーストの諸作品を手掛けてきたトム・アロムが名を連ねています。

オープニングを飾るリードトラック「Panic Attack」のイントロで、エレクトリック調SEからのスコット・トラヴィス(Dr)が叩く電子ドラム(エフェクトのかかったタムタム?)に「おおっ、『TURBO』(1986年)オマージュか!?」と驚くものの、楽曲自体は彼ららしいスピード感のあるメタルチューン。王者の風格すら感じさせるこの曲から、「The Serpent And The King」「Invincible Shield」のスピードナンバー3連発には圧倒されられるはず。しかも、3曲ともしっかりタイプが異なっており、かつ過去の楽曲の香りをさせつつもそれがセルフパロディで終わっていない。「The Serpent And The King」は新たなキラーチューンになり得るほどの輝きを放ち、「Invincible Shield」は『BRITISH STEEL』(1980年)期を思わせる要素が詰まっている。ああ、この時点で完全に前作を上回りましたわ。

その後も『KILLING MACHINE』(1978年)期を彷彿とさせるミドルヘヴィな「Devil In Disguise」、『SCREAMING FOR VENGEANCE』(1982年)あたりに収録されていても不思議じゃないメロウな「Gates Of Hell」と、とにかく良曲揃い。中盤以降はミディアムテンポで変化をつけながらじっくり聴かせるのですが、とにかく70年代から80年代の黄金期、さらには『PAINKILLER』(1990年)で迎えた変革期、そして『ANGEL OF RETRIBUTION』(2005年)ロブ・ハルフォード(Vo)が復帰して以降の流れもしっかり汲みつつ、50年以上のキャリアを総括しながらも現代的で刺激的で聴き応えのある新作に取り組む。その姿勢に脱帽の一言です。

ロブは昔みたいに金切り声だけで押しまくることなく(年齢的にそれも厳しいのですが)、魅力的な中音域を効果的に聴かせるメロディライン作りに励み、それがここ数作の中でもっともうまく作用している。ギターに関してもリフ、ソロ、ツインリードなど理想的なメタルフレーズを豊富に散りばめているものの、決して「あれ、これ以前聴いたことある?」とは思わせない。これを50年選手が実現させている事実に、ただ驚くばかりです。

あと、今作は(アルバム本編に関して)仰々しいメタルバラードが皆無なのも興味深かったな。強いて言えば「Trial By Fire」や「Giants In The Sky」あたりはその部類なのかもしれないけど、無理してバラードと呼ばなくてもいいミドルヘヴィチューンだしね。この潔さも素敵だし、ボーナストラックを除けば全11曲で約52分程度というトータルランニングもちょうどいいし、流れも完璧。最後までまったくダレず飽きず楽しめる傑作です。

ブック仕様パッケージのデラックス盤およびデジタル/ストリーミング版には、3曲のボーナストラックが追加されているのですが、こちらはアルバム本編よりほんの少しだけクオリティが落ちる気がしないでもないけど、それでも彼らの水準的にはかなり高いほう。ただ、どれもミディアムテンポなので蛇足に関してしまうかも。そんな中、ラストの「The Lodger」は80年代の「(Take These) Chains」(『SCREAMING FOR VENGEANCE』収録曲)や「Some Heads Are Gonna Roll」(『DEFENDERS OF THE FAITH』収録曲)を手掛けてきたボブ・ハリガン・Jr.作のバラード調ナンバー。これは本編に入っていてもよかったんじゃないかな?という気がしないでもないけど、緊張の糸が途切れてしまう可能性もあるのでなくて正解だったのか。まあ、ボーナストラックとして気楽に楽しんでいきたいと思います。

こうなると、2019年3月以来となる日本公演が非常に気になるところ。いや、こんな充実作を前にしたら早く新曲を生で聴きたくなるでしょ。ロブは「19という数字は中途半端なので、早く20作目に着手したい」なんて言ってるけど、その前に新作ツアーでお待ちしていますよ?

 


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2024年3月 5日 (火)

KK'S PRIEST『THE SINNER RIDES AGAIN』(2023)

2023年9月29日にリリースされたKK'S PRIESTの2ndアルバム。

デビュー作『SERMONS OF THE SINNER』(2021年)からちょうど2年ぶりの新作。前作はEX1 Recordsからのリリースでしたが、今作ではNapalm Recordsへと移籍。その結果、日本盤も今作からビクター配給となりました。

参加メンバーは前作から変わらずK.K.ダウニング(G/ex. JUDAS PRIEST)、ティム・“リッパー”・オーウェンズ(Vo/SPIRITS OF FIRE、A NEW REVENGE、ex. JUDAS PRIEST、ex. ICED EARTH、ex. YNGWIE MALMSTEEN'S RISING FORCEなど)、A.J.ミルズ(G)、トニー・ニュートン(B)、ショーン・エルグ(Dr)の5人。プロデュースは引き続きK.K.が担当し、ミックスおよびマスタリングを“現代メタルシーン最高峰のデンマーク人エンジニア”ことヤコブ・ハンセン(ARCH ENEMYDIZZY MIZZ LIZZYVOLBEATなど)が手掛けています。

全9曲(日本盤ボーナストラック除く)ですべて“歌モノ”。前作が全10曲で内1曲が短尺インスト(オープニングSE)だったので、ボリューム的にはほぼ一緒なのですが、前作はトータルで約50分あったの対して今作は約40分と非常にコンパクト。そういえば、前作は8〜9分の長尺曲が2曲もあったんでした。それと比べたら、今作は4分台の楽曲が中心で、長尺曲もラストの「Wash Away Your Sins」の約6分半のみ。

ティムの暑苦しいハイトーン&スクリームとK.K.の「弾きすぎ!」ってくらい詰め込みすぎなギタープレイのせいもあって、前作は50分という尺が長く感じられたのですが、今作はどうでしょう。基本的なスタイルはまったく変わっておらず、序盤3曲でやはり聴き疲れを感じずにはいられません。そういったところに好き嫌い分かれるところもありますが、ただタイトルトラック「The Sinner Rides Again」以降の後半で多少変化が付けられており、なんとか途中離脱することなく最後まで楽しめました。

そういった意味では、個人的ハイライトはラスト2曲の「Pledge Your Souls」「Wash Away Your Sins」かな(とはいえ、「Wash Away Your Sins」はエンディングをフェードアウトで終わらせず、もうちょっとやり方あったんじゃなかろうか)。ティム、もうちょっと緩急を付けた歌い方をしたらシンガーとしてパーフェクトなのに、この怒り一辺倒な歌い方がワンパターンすぎて本当に勿体ない。K.K.の指示もあるのかもしれないけど(この人が一番怒りに満ちているでしょうから)、これじゃあいつまで経っても“本家”には勝てないし、“ある時期”の二番煎じに甘んじたままではないでしょうか。

そろそろ“らしさ+α”でオリジナリティを確立させないと、短命に終わってしまう気もするんだけどなあ。けど、オールドスクールなメタルファンの皆さんはそういう変化を求めてないんですかね。メタル作品としてはクオリティは高いんだろうけど、今の自分の趣味嗜好からはちょっとだけズレる1枚かもしれません。

 


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2023年3月14日 (火)

JUDAS PRIEST『STAINED CLASS』(1978)

1978年2月10日にリリースされたJUDAS PRIESTの4thアルバム。

『SIN AFTER SING』(1977年)から10ヶ月のスパンで届けられた、Columbia Records移籍第2弾アルバム。前作はDEEP PURPLEのロジャー・グローバー(B)のプロデュースでしたが、今作はバンドとデニス・マッケイ(トミー・ボーリン、CURVED AIR、BRAND Xなど)が全体をまとめあげ、最後にレーベル側から「シングル向きの曲を用意しろ」と迫られ、新たにSPOOKY TOOTHの「Better By You, Better Than Me」をジェイムズ・ガスリーのプロデュース下でレコーディングしています。

作風的には『SIN AFTER SING』の流れを汲むものの、全体を通してメタリックさが増しており、ハードロックバンドとしての純度が非常に高い1枚に仕上がっています。前作制作時はドラマー不在だったことで、サイモン・フィリップスがサポート参加しましたが、今作からはレス・ビンクスが正式メンバーとして参加。オープニングを飾る「Exciter」のイントロで聴かせる派手なドラミングや、曲を通して気持ち良く響くスピード感の強いリズムは、このバンドのレベルを一気に引き上げたと言っても過言ではありません。そういった意味では、本作(および「Exciter」)はバンドからのハードロック宣言だったのかもしれませんし、そこから12年後に『PAINKILLER』(1990年)でこのオープニングのオマージュのようなメタルチューン「Painkiller」を生み出したのも意図的なものだったんだろうなと気付かされます。

前作の延長線上にある「White Heat, Red Hot」や「Stained Class」「Savage」、カバーながらも本作の色に見事に染め上げられている「Better By You, Better Than Me」、2ndアルバム『SAD WINGS OF DESTINY』(1976年)の頃を思わせつつもよりメタリックに進化した「Saints In Hell」、その後のスタイルとの共通点も豊富に見つけられるラストナンバー「Heroes End」など、続く『KILLING MACHINE』(1978年)『BRITISH STEEL』(1980年)のプロトタイプのような作風は、サウンドから伝わる時代感を意識させしなければ十分に楽しめる内容だと思います。

また、本作には先の「Exciter」にも匹敵する名曲「Beyond The Realms Of Death」も収録。7分近くにおよぶこの大作は、のちにパワーバラードと呼ばれるスタイルの先駆けでもあり、イントロで表現された繊細さと泣きの要素、緩急/強弱が効果的なロブ・ハルフォード(Vo)のボーカルなど無駄が一切存在しな完璧な1曲といえます。現在でも頻繁にライブで披露されていますが、さすがにダウンチューニングだったりキーを下げていたりなど原曲の魅力には及ばないものの、それでも感動的な空気は伝わるはずです。

「Exciter」と「Beyond The Realms Of Death」のインパクトが強いことで、ほかの楽曲の印象が弱いという感想もありますが、『SIN AFTER SING』で得た経験が新メンバー獲得によってさらに良い方向へと作用し始めた、“きっかけ”の1枚として評価してほしい良作です。

 


▼JUDAS PRIEST『STAINED CLASS』
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2021年10月15日 (金)

JUDAS PRIEST『REFLECTIONS - 50 HEAVY METAL YEARS OF MUSIC』(2021)

2021年10月15日にリリースされたJUDAS PRIESTの最新コンピレーションアルバム。

本作はバンド結成50周年を記念して、同日に全世界3000セット限定で発売されたCD42枚組ボックスセット『50 HEAVY METAL YEARS OF MUSIC』から既存曲/テイクと未発表ライブ音源が抜粋されたハイライト盤。全16トラック中7トラックが未発表音源となっており、トータル80分という非常にボリューミーな内容となっています。

いわゆるベストアルバムやグレイテストヒッツとは異なり、その選曲は非常にマニアックなもの。だって、本作には「Breaking The Law」も「Metal Gods」も「You've Got Another Thing Comin'」も「Freewheel Burning」も「Turbo Lover」も「Painkiller」も入っていないんですから。その代わり、3rdアルバム『SIN AFTER SIN』(1977年)から「Let Us Prey / Call For The Priest」、6thアルバム『BRITISH STEEL』(1980年)から「You Don't Have To Be Old To Be Wise」、8thアルバム『SCREAMING FOR VENGEANCE』(1982年)から「Fever」、9thアルバム『DEFENDERS OF THE FAITH』(1984年)から「Eat Me Alive」、12thアルバム『PAINKILLER』(1990年)から「All Guns Blazing」、最新作『FIREPOWER』(2018年)から「Never The Heroes」と、マニアックながらも隠れた名曲たちが選出されており、改めてこのバンドの懐の深さを実感できるのではないでしょうか。

また、既存のライブテイクは「Dissident Aggressor」が『A TOUCH OF EVIL: LIVE』(2009年)から、「Out In The Cold」が『PRIEST... LIVE!』(1987年)から、「Running Wild」が『UNLEASHED IN THE EAST』(1979年)から。こちらのセレクトも通好みで良いんじゃないでしょうか。「Dissident Aggressor」のみここ10年くらいのライブテイクで、ロブ・ハルフォード(Vo)も以前のようにハイトーンが出ない状態ですが、これくらいなら全然アリという内容。問題ありません。

で、気になる未発表ライブ音源。「Victim Of Changes」や「The Green Manalishi (With The Two Pronged Crown)」「Bloodstone」は1980〜82年の録音、「Beyond The Realms Of Death」に至っては1979年のライブ音源ということで、音質や録音状態は決して良好とは言えないものも含まれています。このへんはもうマニアのためのものといったところでしょうか。そんな中でも、「Beyond The Realms Of Death」はニューヨークのThe Mudd Club公演からのテイクで、ほかのライブ音源がホールやアリーナ会場での録音と考えると非常に貴重な1曲ではないでしょうか。ロブのボーカルパフォーマンスもごきげんですしね。そんな貴重な1曲から「The Hellion / Electric Eye」(1986年録音)へ続き、「Sinner」(1988年録音)で締め括る流れは最高の一言。なんだかんだ、終盤には人気曲が並ぶので、最後は安心して聴き終えることができるはずです。

僕自身、3000セット限定のボックスセットを買おうかどうか迷っている間にソールドアウトしていたので、今はこのコンピを聴いて気を紛らわせているところ(笑)。初心者がベスト盤に手を出すなら『METAL WORKS '73-'93』(1993年)や『THE ESSENTIAL JUDAS PRIEST』(2006年)あたりが最適ですが、そこからさらに一歩深みにハマりたかったら、本作はそのマニアックさ含めてオススメではないでしょうか。意外にも、ここ20年くらいに出たコンピの中では一番リピートしている1枚です。

 


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2021年10月 8日 (金)

JUDAS PRIEST『POINT OF ENTRY』(1981)

1981年2月下旬にリリースされたJUDAS PRIESTの7thアルバム。リリース初出時、UK盤と日本盤およびUS盤はジャケットが異なりましたが、最近はUKオリジナル盤のアートワークに統一されています。あの遠近感含め意味不明な荒野&道路のジャケットの印象で覚えているリスナーも少なくないはずです(笑)。

前作『BRITISH STEEL』(1980年)が、ちょうど同時期にイギリスから勃発したNew Wave Of British Heavy Metal(=NWOBHM)ムーブメントとリンクし、全英4位/全米34位という過去最高順位を記録。また、同作から「Living After Midnight」(全英12位)、「Breaking The Law」(同12位)、「United」(同26位)といったヒットシングルが生まれたことも手伝い、本国イギリスではロニー・ジェイムズ・ディオが加入したBLACK SABBATH、パンクとハードロックを見事な形でミックスさせたMOTÖRHEADらとともに、新世代バンドたちと共闘することになります。

そして、そのメタルの新たな波はアメリカにも飛び火。『BRITISH STEEL』がアメリカでも高評価を得たことで、バンドは次のターゲットをアメリカのマーケットに定めます。

前作でのソリッドなスタイルはそのままに、シンプルなアレンジ/作風はさらに強調され、かつメロディの親しみやすさもより強めていく。アルバム冒頭を飾る3曲(「Heading Out To The Highway」「Don't Go」「Hot Rockin'」)はまさにその方向性を象徴するような楽曲ではないでしょうか。

その一方で、やたらとソフトな印象が強まった「Turning Circles」、ブルースロック的な方向性の「Desert Plains」など、アメリカナイズされた楽曲もしっかり用意。「Don't Go」「Hot Rockin'」のキャッチーさも今思えば、その方向性にある2曲なんですけどね。「Solar Angels」もイントロこそヘヴィさを醸し出していますが、歌メロのわかりやすさはこの一環といえるものでしょう。

ただ、本作の残念なところは、後半に進むにつれて印象に残る曲が少ないこと。序盤の力の入れようと比較すると、より明確かと思います。あと前作では「Rapid Fire」や「Steeler」のように、アルバムの冒頭とラストを疾走感の強いメタルチューンで固めていましたが、今作にはそれが足りない。それ以外の要素は比較的『BRITISH STEEL』の延長線上にあるものなんですが、そのモノ足りなさも本作の低評価につながってしまったのは、致し方ないのかな。本国ではアルバムが最高14位、シングルは「Don't Go」(全英51位)、「Hot Rockin'」(同60位)と低調気味でしたが、アメリカではアルバム最高39位と前作と同程度、シングルでは「Heading Out To The Highway」がBillboard Mainstream Rock Songs(当時はRock Albums & Top Tracks)で最高10位まで上昇と、それなりの成功を収めています。

こういった戦略が、続くアルバム『SCREAMING FOR VENGEANCE』(1982年)と、翌1983年アメリカで開催された歴史的野外フェス『US Festival』での成功につながるわけです。そういった意味では、本作は中継ぎとしてそれなりの役割を果たしたわけですね。その功績含め、たまには本作のことも思い出してあげてください。なにせ「Hot Rockin'」という名(迷)MVを生み出した歴史的価値の高い1枚なんですから……(笑)。

 


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2021年10月 7日 (木)

KK'S PRIEST『SERMONS OF THE SINNER』(2021)

2021年10月1日にリリースされたKK'S PRIESTの1stアルバム。

その名からもわかるように、このバンドは元JUDAS PRIESTのギタリスト、K.K.ダウニングが2020年に結成した新バンド。当初のメンバーはティム・“リッパー”・オーウェンズ(Vo/SPIRITS OF FIRE、A NEW REVENGE、ex. JUDAS PRIEST、ex. ICED EARTH、ex. YNGWIE MALMSTEEN'S RISING FORCEなど)、レス・ビンクス(Dr/ex. LIONHEART、ex. TYTANなど)といった元JP組を含むこと、バンド名に“PRIEST”のワードを含むことから、K.K.が何をしたいのか想像に難しくなかったと思います。

その後、レスが手首を怪我したことでドラマーがショーン・エルグに交代。トニー・ニュートン(B)、A.J.ミルズ(G)の5人でこのデビューアルバムを完成させます。レスは現在70歳と高齢ですい、今作で表現されているサウンド/演奏を考えたら、このメンバーチェンジはある意味必然だったのかもしれません。

聴いていただければおわかりのように、本作で表現されているのは80年代〜90年代初頭のJUDAS PRIESTを彷彿とさせるクラシカルなヘヴィメタル。まんまと言ってしまえばそれまでですが、ロブ・ハルフォード(Vo)の後釜として“まんま”なボーカルを聴かせたティムと、JP時代もソングライターのひとりとしてバンドに貢献してきたK.K.がいるんですから、そりゃそうなるでしょうね。

ここ数作でモダンさよりもクラシックロック的な側面を強調し続けているJPですが、このKK'S PRIESTも比較的そのラインにいると言えるでしょう。中には「Sermons Of The Sinner」のように、あからさまに「Painkiller」や「Exciter」の冒頭を意識した楽曲もありますしね。この曲といい、“怒りの一撃”的な(SE「Incarnation」に続く)オープニングトラック「Hellfire Thunderbolt」といい、JP時代のカッコよさをうまい形にディフォルメしているように感じました。

……そう、“ディフォルメ”なんですよ。もっと言っしまえば、パロディ。JPっぽいんだけど、やっぱり別モノ。ここにいるのは、あくまでソングライターの3分の1なわけで、そりゃ本家より薄まるのでディフォルメせざるを得ない。そう考えると……なんか余計な要素がチラついて、どうにも素直に楽しめない自分もいるんですよね。

1枚のヘヴィメタルアルバムとしては非常に高品質で、新しさや斬新さは皆無だけど安心して楽しめる。90点に近い良作だと思うのですが、変にJPをちらつかせることで「ああ、大丈夫です……」と気持ちが引いてしまう。「今のJPより良い!」という声もわるのもわかります。そりゃそうでしょう、そこそこ若いメンバーもいるでしょうから、そういった若手からのインプットも多少はあるでしょうから(今のJPにおけるリッチー・フォークナー(G)みたいにね)。

ここまでの完成度で中身も最高。でも、もしこれを“JPを想像させないバンド名”で発表していたら、もうちょっと違った結果や評価が得られたんじゃないか。JP50周年のタイミングに被せてくるのも、アレですし。「Metal Through And Through」とか「Hail For The Priest」「Return Of The Sentinel」とかせっかくの良曲なのに、本当にこのタイトルで良かったのかな……とかいろいろ含めて、相対的に悩ましい1枚です。

 


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2020年8月 8日 (土)

JUDAS PRIEST『BRITISH STEEL』(1980 / 2010)

1980年4月にリリースされたJUDAS PRIESTの6thアルバム。

日本公演の模様を収めたライブアルバム『UNLEASHED IN THE EAST』(1979年)を最後にレス・ビンクス(Dr)が脱退。新たに元TRAPEZEのデイヴ・ホーランド(Dr)が加入し、同ライブアルバムを手がけたトム・アロムがそのままプロデューサーを担当し完成したのが、のちにバンドを代表するこの歴史的名盤になります。

ブルースベースでプログレッシヴなハードロックを展開した初期のスタイルから、前作『KILLING MACHINE』(1978年)で見え隠れし始めたコンパクト&シンプルな作風へと完全移行した今作は、ギターリフの強度を強めることでハードロックからヘヴィメタル的スタイルへと見事に進化。これが当時イギリスのアンダーグラウンドで勃発し始めた「New Wave Of British Heavy Metal(NWOBHM)」ムーブメントと見事に合致し、シーンから好意的に受け入れられ、全英4位という過去最高記録を樹立することになります。特に本作からは「Living After Midnight」(全英12位)、「Breaking The Law」(同12位)、「United」(同26位)とヒットシングルを連発したことも、アルバムの成功を導いたと言えるでしょう。

スピード感の強い「Rapid Fire」でスリリングさを演出したかと思うと、バンドにとって大きな意味を持つテーマソング「Metal God」、キャッチーなアップチューン「Breaking The Law」、ヘヴィさとキャッチーさを併せ持つ「Grinder」や「United」など、すべての楽曲が2〜3分台で構成された聴きやすい構成でアルバム前半はあっという間に終了。「You Don't Have To Be Old To Be Wise」から始まる後半もポップさの際立つ「Living After Midnight」やレゲエを思わせるイントロからヘヴィなサウンドへと移行するアレンジが魅力的な「The Rage」、圧巻のスピードメタル「Steeler」など、聴きどころ満載で全9曲というコンパクトな尺と相まって、興奮して気づいたら終わってる……みたいな1枚と言えるのではないでしょうか。とにかく捨て曲なし。ロブ・ハルフォード(Vo)のボーカルパフォーマンスもノリにノッてるし、バンドのヒリヒリした演奏&アレンジも最高の一言。カミソリをイメージしたサウンドは確かに切れ味抜群なんだけど、同時にポップ&キャッチーさも備わっていることを忘れてはいけません。

オリジナル盤および現行盤はアナログA面が「Rapid Fire」から「United」までの5曲、B面が「You Don't Have To Be Old To Be Wise」から「Steeler」までの4曲という構成なのですが、僕が初めて聴いた80年代半ばは1曲目が「Breaking The Law」に変更され、2曲目から「Rapid Fire」「Metal God」「Grinder」「United」、アナログB面が「Living After Midnight」「You Don't Have To Be Old To Be Wise」「The Rage」「Steeler」という構成で、今とは異なるものでした。これ、実はUS盤の曲順とのことで、この流れに慣れ親しんでしまったものですから、のちにオリジナル盤の曲順に戻ったCDを聴いたときに違和感がしばらく残ったものでした。まあ、シングル曲を各面の頭に置く構成にした意味もわからないではないですけどね。

とにかく、プリーストを語る上で真っ先に挙がるであろうHR/HMの教科書的1枚。80年代のHR/HMシーンが新たな幕開けを飾る、その象徴と言える傑作です。

 


▼JUDAS PRIEST『BRITISH STEEL』
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なお、本作のリリース30周年を記念して2009年には同作完全再現パートを含むワールドツアーが実施され、この模様を収めたライブDVDを同梱したアニバーサリー・エディションも2010年に発売されています。この記念盤、国によっては最新ライブDVDから「Prophecy」を除いた15曲入りライブCDが追加された3枚組仕様も販売されています。こちらのライブディスクはiTunes Storeや一部ストリーミングサービスでも配信されているので、気になる方はぜひチェックしてみてください。

プリーストは同ツアーで、2009年10月に行われた『LOUD PARK 09』の初日ヘッドライナーとして来日しており、これがK.K.ダウニング(G)を含む編成での最後の来日となってしまいました。この際、僕は『TV Bros』の表紙および特集の一環としてロブ・ハルフォードにインタビューしており、当日はこの『BRITISH STEEL』のジャケTシャツを着て臨んだことをよく覚えています(ロブもかなり喜んでくれました)。インタビューはライブ当日午後に都内で行い、そのまま幕張入りして夜にはライブ……自分の人生にとっても忘れられない1日になりました。そういった意味でも、このアルバムは自分の音楽人生にとって大きな思い出の1枚でもあります。

 


▼JUDAS PRIEST『BRITISH STEEL: 30TH ANNIVERSARY EDITION』
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