カテゴリー「King Crimson」の16件の記事

2023年1月10日 (火)

DAVID BOWIE『SCARY MONSTERS (AND THE SUPER CREEPS)』(1980)

1980年9月12日にリリースされたデヴィッド・ボウイの14thアルバム。

実験性の強かった“ベルリン三部作”は、その音楽自体に対する評価は非常に高かったものの、セールス的には決して大成功とは言い難く、特にシングルヒットに関して言えば「Sound And Vision」の全英3位、「Boys Keep Swinging」の同7位以外はTOP10入りを逃しています(かの「"Heroes"」でさえ最高24位ですし)。そのポップ嗜好が前作『LODGER』(1979年)あたりから少しずつ復調し始め、従来の実験性をポップ感が上回り始めたのがこの『SCARY MONSTERS (AND THE SUPER CREEPS)』となります。

共同プロデューサーにはトニー・ヴィスコンティ、レコーディングにカルロス・アロマー(G)やジョージ・マーレイ(B)、デニス・デイヴィス(Dr)といった鉄壁の布陣を迎えるも、過去3作でタッグを組んだブライアン・イーノ(Synth)は今作では不参加。代わりにロバート・フリップ(G/KING CRIMSON)、ロイ・ビタン(Piano)、ピート・タウンゼント(G/THE WHO)といった豪華な布陣が名を連ね、ボウイが思い描く新たなスタイル完成の手助けをしています。

オープニングを飾る「It's No Game, Pt.1」での日本語ナレーションをフィーチャーしたアバンギャルドさに不意を突かれるも、以降は前作で試みたニューウェイヴ的手法が見事に開花。ロバート・フリップらしさ万歳のギターフレーズを随所に散りばめた「Scary Monsters (And Super Creeps)」、自身の代表曲「Space Oddity」の主人公・トム少佐は実は宇宙飛行士ではなく単なるジャンキーだったと歌う「Ashes to Ashes」、王道感の強いミディアムロック「Teenage Wildlife」など、時代とリンクした楽曲群がズラリと並びます。

この中から「Ashes to Ashes」が、シングルとしては「Space Oddity」(1975年)以来となる全英1位を獲得(セールス面でも本国で70万枚近いヒットに)。続く「Fashion」も全英5位/全米70位と好成績を残し、さらに「Scary Monsters (And Super Creeps)」(全英20位)、「Up The Hill Backwards」(同32位)とスマッシュヒットを続けます。特に本作リリース後には、QUEENとのコラボ曲「Under Pressure」(1981年)の全英1位/全米29位という話題作もあり、この良い流れを続く『LET'S DANCE』(1983年)での最盛期へとつなげていくことになります。

実験性と大衆性を天秤にかけ、大衆性を若干強目に打ち出したことで、独自の先鋭的な個性を見事に保ちながら音楽的/セールス的にも成功を手にしたボウイ。『LET'S DANCE』では大衆性に全振りして旧来のファンを不安に陥れるものの、その采配含めてデヴィッド・ボウイ。僕は『LET'S DANCE』からボウイに入った世代ですが、この頃の空気感をリアルタイムで味わってみたかったなと思わせられる1枚です。

 


▼DAVID BOWIE『SCARY MONSTERS (AND THE SUPER CREEPS)』
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2023年1月 9日 (月)

DAVID BOWIE『LODGER』(1979)

1979年5月18日にリリースされたデヴィッド・ボウイの13thアルバム。当時の邦題は『ロジャー(間借人)』。

『LOW』(1977年)『"HEROES"』(1977年)と続いた“ベルリン三部作”の最終作。ただし、レコーディング自体はスイス・モントルーで行われており、制作にトニー・ヴィスコンティ(プロデュース)やブライアン・イーノ(Synth)らが参加していることから三部作のひとつと捉えられています。

レコーディングにはこのほか、カルロス・アロマー(G)、ジョージ・マーレイ(B)、デニス・デイヴィス(Dr)と過去2作の布陣に加え、エイドリアン・ブリュー(G/のちのKING CRIMSONに加入)、ロジャー・パウエル(Synth/当時UTOPIA)、サイモン・ハウス(Mandolin, Violin/当時HAWKWIND)が参加。作風的には『"HEROES"』の流れを汲むエモーショナルでソウルフルなロックサウンドと、ニューウェイヴにも通ずる多国籍感の強いポップチューンで構成された、過去2作とも若干異なる世界観が展開されています。

前作の延長線上にある「Fantastic Voyage」からスタートする本作は、アフリカンミュージック的ビートとコーラスワークを取り入れた「African Night Flight」、レゲエテイストと東欧的エキゾチックさを包括する「Yassassin」、浮遊感の強いプラスティックソウル「D.J.」など、かつてないほどのバラエティ豊かさを見せます。こういった作風が当時勃発し始めていたニューウェイヴ=アフター・パンクとも自然と重なり、改めてボウイがやろうとしていたことが時代と呼応していたという事実に驚かされることになります。

その後もパワフルさとエモーショナルさに満ち溢れた「Look Back In Anger」、80年代のスタイルとも重なる「Boys Keep Swinging」、イギー・ポップに提供した「Sister Midnight」(アルバム『THE IDIOT』収録)の別バージョン「Red Money」など、統一感よりも拡散方向を意識した楽曲が続きます。ジャーマンロック/クラウトロックにワールドミュージックを掛け合わせることで、さらに新たなジャンルを作り上げようとする攻めの姿勢は過去2作同様。ただ、その実験的な側面がより大衆性なものへとシフトし始めている印象も少なからず見受けられます。

そういった考えが、続く『SCARY MONSTERS (AND THE SUPER CREEPS)』(1980年)へとつながっていくのかなと考えると、実は“ベルリン三部作”のピークは2作目『"HEROES"』であり、すでにこの『LODGER』は次のステップへの過渡期に突入していたんだと気付かされます。本当にここまでのボウイの試行錯誤の繰り返しは、聴いていて面白くてたまりませんね。

 


▼DAVID BOWIE『LODGER』
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2023年1月 8日 (日)

DAVID BOWIE『"HEROES"』(1977)

1977年10月14日にリリースされたデヴィッド・ボウイの12thアルバム。当時の邦題は『英雄夢語り(ヒーローズ)』。

前作『LOW』(1977年)からそれほど間を置かずに制作/リリースされたこともあり、テイストや作風は『LOW』を踏襲したもの。プロデュースもトニー・ヴィスコンティが携わり、レコーディングもブライアン・イーノ(Synth)やカルロス・アロマー(G)、ジョージ・マーレイ(B)、デニス・デイヴィス(Dr)と前作と同じ布陣で臨んでいますが、ここに元KING CRIMSON(当時)のロバート・フリップ(G)が加わることで、より個性的なサウンドを生み出すことに成功しています。

歌モノ中心の前半(アナログA面)、実験的なインスト中心の後半(アナログB面)という構成は前作同様ですが、前作よりもロック色が強まっているのが今作の特徴か。また、前作の楽曲が『STATION TO STATION』(1976年)から引き継ぐヒンヤリ感でまとめられていたのに対し、今作は70年代前半のボウイが持っていたエモーショナルさが復調しており、実験性やアバンギャルドさを上回る王道感を高めることに成功しています。

特に前半パートはタイトルトラック「"Heroes"」をハイライトに、「Beauty And The Beast」「Joe The Lion」など、近作で会得したスタイルをより良い形に昇華。「"Heroes"」に関しては、ロバート・フリップのギターがいい味を出しており、楽曲自体がもつアンセム感をより強調させています。

一方で、アルバム後半は前作における「Speed Of Life」にあたる「V-2 Schneider」を導入に、続く「Sense Of Doubt」でより深みのあるダークなサウンドを展開。ジャーマンプログレ/テクノの影響下にあるダウナーなアレンジは、前半のエモさと対極にあり、この対比/緩急含め聴き応えのある構成を作り上げています。

そして、アルバムラストを歌モノ「The Secret Life Of Arabia」で締めくくるのもなお良し。実験性の強いインストのみで固めるのではなく、最後に再びセクシーなボーカルなナンバーを置くからこそ、単に「前半/後半と色の違うアルバム」だけでは終わらなかった。そこを含め、トータルバランスに優れた1枚ではないでしょうか。『LOW』と甲乙つけ難い完成度の傑作です。

 


▼DAVID BOWIE『"HEROES"』
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2022年7月 2日 (土)

PORCUPINE TREE『CLOSURE / CONTINUATION』(2022)

2022年6月24日にリリースされたPORCUPINE TREEの11thアルバム。

10thアルバム『THE INCIDENT』(2009年)に伴うツアーを経て、2010年以降は活動停止状態だった彼ら。以降、スティーヴン・ウィルソン(Vo, G)はソロ活動を活発化させ、2011年の2ndソロ『GRACE FOR DROWING』から昨年の6作目『THE FUTURE BITES』(2021年)まで5枚ものアルバムを発表。かつ、同作は全英4位、5作目『TO THE BONE』(2017年)は同3位とチャート的にも好成績を残しています。

そんなPORCUPITE TREEが2021年秋に突如活動再開を発表。ベーシストのコリン・エドウィンは未参加ながらも、スティーヴンとリチャード・バルビエリ(Key/ex. JAPAN)、ギャヴィン・ハリソン(Dr/KING CRIMSON、THE PINEAPPLE THIEF)の3人でこの11作目にあたるオリジナルアルバムを完成させます(レコーディングではスティーヴンがベースパートを兼務)。

バンドのセルフプロデュースで制作された本作は、7〜9分台の長尺曲が中心の全7曲/約48分といういかにも彼ららしいボリューム/バランス感。また、デラックスエディションにはさらに3曲が追加され、全10曲/約66分という2枚組アルバム級の大ボリュームに。日本盤やサブスクなどではこの10曲仕様がマストのようです。

実は、オープニング曲「Harridan」や一部の楽曲は、前作『THE INCIDENT』が完成してすぐに取り組んでいたものなんだとか。何度かバンドとしての新作に取り組もうというタイミングがあったようですが、最終的にこのタイミングになってしまったと。それもあってなのか、「Harridan」は良い意味で“あのPORCUPINE TREEが帰ってきた!”というスリリングでダーク(そしてムーディ)なサウンドを思う存分に楽しむことができる。ちょっと比較するのは違うかもしれませんが、僕の感覚的にはTOOL久々の新作『FEAR INOCULUM』(2019年)に初めて触れたときと同じ感覚に陥りました。

もちろん、ただ同じことの繰り返しをしているわけではなく、メロディや奏でられるサウンド、バンドのアンサンブルや随所に散りばめられたフレーズなどに以前との違い(というか成長)を感じ取ることもできる。ダークな「Rats Return」があるかと思えば、穏やかな雰囲気の「Of The New Day」や「Dignity」では独特の浮遊感や解放感が味わえるし、「Walk The Plank」ではエレクトロ色の強い不思議な空気を味わうこともできる。そして、アルバムラストには10分近くにもおよぶエピカルな「Chimera's Wreck」が配置されている。僕は決して熱心なこのバンドのファンとは言えませんが、ここで展開されている楽曲、サウンドにはファンが望むものすべてが詰まっていると同時に、この10数年にスティーヴンやリチャード、ギャヴィンが経験したことすべてが凝縮されているような気がしてなりません。

往年のYESGENESISとの共通点が見つけられると同時に、90年代以降のオルタナティヴな感覚も添えられており、これらが2022年版にアップデートされたのが本作『CLOSURE / CONTINUATION』と考えると、全英チャート2位という過去最高ランキングを獲得したことも頷けるものがあります(途中まで1位獲得か?と期待されていただけに、ちょっとだけ残念)。ドイツなどでは初の1位も獲得しており、アメリカ以外では大健闘といったところでしょうか。サブスクよりもフィジカルが格段に数字を稼いでいるあたりにも、どういった層が彼らの音楽のメインターゲットなのかもなんとなく想像できますしね。

「Harridan」や「Chimera's Wreck」みたいな曲を聴いてしまうと、断然ライブが観たくなるわけでして。僕が彼らを生で観たのは2006年11月の昭和女子大学人見記念講堂でのライブが最初で最後なわけですが、次にチャンスが訪れたときは必ず会場に足を運ぼう……そう強く思わせてくれた良質な1枚です。

 


▼PORCUPINE TREE『CLOSURE / CONTINUATION』
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2021年5月25日 (火)

FROST*『DAY AND AGE』(2021)

2021年5月14日にリリースされたFROST*の4thアルバム。日本盤は同年5月26日発売予定。

前作『FALLING SATELLITES』(2016年)から丸5年ぶりの新作アルバム。その間には5曲入りEP『OTHERS』(2020年)の発表もあり、またストリーミングサービス中心に過去作のリマスターバージョンやレアトラック集『THIS AND THAT』(2020年)の配信もあったので、意外と時間が経っていないように感じていたのですが、そうか、そんなに空いていたんですね。

バンドに約10年在籍した前任ドラマーのクレイグ・ブランデルが、スティーヴ・ハケットのバンドに加入するため2019年に脱退。これを受けて、今作ではパーマネントのドラマーを擁することなく、カズ・ロドリゲス 、ダービー・トッド(OUT OF THIS WORLD、MARCELLOなど)、パット・マステロット(KING CRIMSON、ex. MR. MISTERなど)の3人をゲストプレイヤーとして迎えてレコーディングしています。ロンドンを中心に活動するセッションドラマーのカズ、プログメタル寄りHR/HMプレイヤーのダービー、そして過去20数年のプログシーンで重要な役割を果たしたパットという3人の参加は、リズムという点において本作に多彩さを与えているのではないでしょうか。

作風的には各プレイヤーの技量を活かしたテクニカルなプログメタル的志向よりも、全体でプログロックのムードを作り上げていく楽曲志向が強まった印象を受けます。オープニングを飾る約12分もの大作「Day And Age」こそ従来のプログロック的なイメージを引き継ぐ作風ですが、「Waiting For The Lie」や「The Boy Who Stood Still」「Island Life」といった楽曲群およびこの並びは、80年代前半のJAPANやTHE POLICEなどにも通ずるものが感じられ、個人的には新しさよりも懐かしさを強く感じました。もちろん、それは良い意味での例えで、終始安心して楽しめるということを示しています。

テイストは異なるものの、LEPROUSの近作……特に最新作『PITFALLS』(2019年)にも通ずるポップさ、同じ方向性を見出したのは僕だけでしょうか。同じInsideOut Music所属ということも多少は影響しているのでしょうか、僕自身『PITFALLS』という作品が大好物だっただけに、この『DAY AND AGE』という力作も大変好みの1枚であります。

全8曲中半数が6分超え、かつ2曲が10分前後の大作とあって、ビギナーにはとっつきにくい1枚かもしれませんが、最初の難関である「Day And Age」を一度乗り越えてしまえば、あとはたまらなく魅力的な濃厚世界が待っているのみ。なお、海外盤CDおよびデジタル版(ストリーミング含む)はアルバム本編のインストバージョンと「Day And Age」の5分エディットバージョンを収録したボーナスディスク付き。実はこのインスト版のほうがよりプログロック的に感じられたのが、個人的には大きな収穫でした。やっぱり歌メロが強いアルバムだなと。

 


▼FROST*『DAY AND AGE』
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2021年4月23日 (金)

LIQUID TENSION EXPERIMENT『LTE3』(2021)

2021年4月16日にリリースされたLIQUID TENSION EXPERIMENTの3rdアルバム。日本盤は同年4月14日に先行発売。

LIQUID TENSION EXPERIMENTは1997年にDREAM THEATERのジョン・ペトルーシ(G)と、当時DREAM THEATERのメンバーで現在はSONS OF APOLLOなど多方面で活躍するマイク・ポートノイ(Dr)、KING CRIMSONピーター・ガブリエルとの活動で知られるトニー・レヴィン(B, Chapman Stick)、そして本作での共演を機に後々DREAM THEATERに加入することになるジョーダン・ルーデス(Key)により結成されたインストゥルメンタル・プログレッシヴメタルバンド。1999年までに2枚のアルバムを発表しますが、ジョーダンがDTに正式加入したため「DTとの差別化が難しくなる」との理由で活動休止に。その後、2010年にはマイクがDTを脱退し、さらに再始動は難しいかと思われましたが、ここ数年はマイクとジョーダン、マイクとジョンがそれぞれ共演を果たしていることから「タイミングさえ合えば」再始動もまんざらではない、というところまで復縁できていたようです。

そして、復活の大きなきっかけとなったのが2020年のコロナ禍……海外ではロックダウンという緊急事態に陥ったことで、4人のツアーや制作スケジュールの大半が白紙に。これにより、2020年7月に4人揃ってセッションを行うことができ、実に22年ぶりの再始動が実現したわけです。

前2作はプログ・ロック名門レーベルMagna Cartaからのリリースでしたが、今作はDTが所属するInside Out Musicからの発売。CDはボーナスディスクが付いた2枚組仕様で、DISC 1がアルバム本編『LTE3』で8曲収録、DISC 2は『A NIGHT AT THE IMPROV』と題したボーナスディスクで前5曲収録。2枚トータルで13曲、117分という超大作となっています。長っ! と最初は思ったのですが、これがね、不思議とスルスル聴き進められて、気づいたら最後の曲まで到達していて2時間経過しているんですよ。

DISC 1はアルバム本編ということもあり、セッションを軸にしながらも要所要所にしっかり作り込まれた形跡も見受けられ、そういった創意工夫がアルバムの聴きやすさにもつながっている。ヒリヒリした緊張感が漲っていた過去2作と比べると、その辺のテンション感は若干薄めではあるものの、ぶっちゃけ……DTの近作よりも良いんじゃないか、と思えたほど(あまり声を大にして言いたくはないですが)。これがマイク参加による功績なのかどうかはわかりませんが。

冒頭2曲「Hypersonic」「Beating The Odds」を聴くと、ここに歌メロが乗ったら……なんて想像を勝手にしてしまうのですが、もちろん歌がなくても十分に通用するカッコよさ、気持ちよさに満ち溢れているし、ジャズでお馴染みのジョージ・ガーシュウィン作「Rhapsody In Blue」のカバーも4人の個性がしっかり感じられる、遊び心に満ちたアレンジです(この曲、13分超の大作ながらもまったくダレませんしね)。

一方、『即興の夜』と題したDISC 2はジャムセッションの中から抜き出された素材が、そのまま使用されています。なので、「Blink Of An Eye」のようにフェードインから始まるものもあるし、エンディングも締まりが感じられないテイクも存在する。音質的にもDISC 1の完成されたものと比較すると、どこか生々しさが強い。完成品にまで至らなかったものの、バンドのジャムセッションの空気感を追体験できるという点においては、非常に興味深い内容ではないでしょうか。

後世に残す完成度の高い作品性(DISC 1)と、バンド本来の即興性(DISC 2)を同時に味わえる本作。22年待たされた甲斐があるよね、ってくらいに大満足の出来。DTファンやプログ・ロックのリスナーのみならず、多少なりとも楽器をかじったことがある方にも聴いていただきたい良質な作品集です。

 


▼LIQUID TENSION EXPERIMENT『LTE3』
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2019年9月17日 (火)

KING CRIMSON『THRAK』(1995)

1995年4月上旬にリリースされた、KING CRIMSONの11thアルバム。日本では1ヶ月前倒しの同年3月初頭に発売されています。

前年秋にダブル・トリオ編成では初音源となるミニアルバム『VROOOM』(1994年)を発表し、その新たな実験を世の音楽ファンに知らしめた新生クリムゾン。とはいえ、『VROOOM』はあくまで処女作/テスト作であり、本当のデビュー作はこのフルアルバムなのです。

このアルバムを聴く際、まずはスピーカーを通さずにヘッドフォンもしくはイヤフォンで聴いてもらいたいんです。要するにこれ、左右それぞれにトリオ編成の演奏を振っているわけです。

わかりやすいのが、オープニングの「VROOOM」〜「Coda Marine 475」かな。リズムだけ取り出すと、L(左)がシンプルにリズムキープをしていて、R(右)のドラムはオカズを入れまくっている。これ、片方ずつ聴くだけでも新鮮な気持ちでそれぞれの楽曲に向き合えると思います。

そういった演奏面・録音面のみならず、本作は楽曲自体も非常に興味深いものが多い1枚でもあります。いわゆる“メタル・クリムゾン”の代表作『RED』(1974年)と、『DISCIPLINE』(1981年)をはじめとする“ニューウェイヴ・クリムゾン”3部作のいいとこ取りといった内容で、先の「VROOOM」「Coda Marine 475」はメタル・クリムゾンの延長線上、「Dinosaur」はメタルとニューウェイヴの掛け合わせ、「Walking On Air」はニューウェイヴ期の進化系とそれぞれ言えるんじゃないでしょうか。

と同時に、本作の歌モノ楽曲群からはビートルズの影響が見え隠れするんですよね。「Dinosaur」のAメロや「Walking On Air」、あるいは「One Time」といったメロウなナンバーからは、ジョン・レノンの幻影が浮かび上がってきますし。特に「One Time」はリズム感やアレンジこそ現代的ですが、メロディが持つ切なさは初期のエモーショナルさにも通ずるものがあるのでは? そう言ってしまいたくなるほど、過去のクリムゾンのいいとこ取りな1枚なわけです。

しかし、この時期のクリムゾンの良さを本当に知りたいのなら、このスタジオ作品だけでは十分に伝わらないかもしれません。そう、本当に凄みはライブにこそあるのですから。当時は『B’BOOM』(1995年)と題した2枚組ライブアルバムもリリースされており、こちらではアルバム収録曲に加え「Frame By Frame」や「Elephant Talk」、さらには「Red」や「Larks' Tongues In Aspic Part II」も披露されているので、気になる人はぜひ中古盤などでチェックしてみてください(ストリーミングサービスでは配信されていないので……)。

 


▼KING CRIMSON『THRAK』
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2019年8月 4日 (日)

KING CRIMSON『DISCIPLINE』(1981)

1981年9月にリリースされた、KING CRIMSON通算8作目のオリジナルアルバム。

ロバート・フリップ(G)、ジョン・ウェットン(Vo, B)、ビル・ブルーフォード(Dr)のトリオ編成を軸に、デヴィッド・クロス(Violin)、メル・コリンズ(Sax)、イアン・マクドナルド(Sax)などをゲストに迎えた、70年代クリムゾンのラスト作『RED』(1974年)をもってその活動を一旦終了させたクリムゾン。しかし、80年代に入りロバート・フリップ&ビル・ブルーフォードにエイドリアン・ブリュー(Vo, G)、トニー・レヴィン(B, Stick)を加えた4人編成で再始動。このアルバムで新生クリムゾンの全貌が明らかとなりました。

初期のフリーキーなスタイル、後期のメタリックなサウンドなど時期によって表現方法や奏でるサウンドに大きな変化が生じるクリムゾンですが、80'sクリムゾンは過去のどの時期とも似ていない新たなスタイルを確立。時期的なものもあるのでしょうが、非常にニューウェイヴにも似た、ダンサブルなサウンドが展開されています。

まず、聴いていきなり驚くのが「Elephant Talk」での像の鳴き声を真似たエイドリアン・ブリューのギタープレイ。かなり昔、日本のテレビCMでも動物の鳴き真似プレイを目にすることができましたが、かつそのベースとなるサウンドが非常にダンサブルでメタルのメの字はおろか、プログレのプの字すら皆無のヘロヘロサウンド&ボーカルに最初は「?っ」とひっくり返ったものです(といっても、僕自身はリアルタイムではなく、発売から10年以上経ってからの初聴だったのですが)。

「Frame By Frame」でのポリリズムを用いたギターアンサンブルやバンドアレンジに、かろうじてプログレの匂いを感じることができますが、続くストーナンバー「Matte Kudasai」の平和な感じはちょっと……と、頭3曲に肩を落としたこと、今でもよく覚えています(笑)。

ところが、4曲目「Indiscipline」でその雰囲気が一変。そうそう、これが聴きたかったんだ!という重厚なアンサンブルが突如繰り広げられるのです。これこそ、プログレッシヴロックのクリムゾンだ!と。ボーカルの軽薄さだけはどうにもなりませんが(笑)、この1曲にどれだけ救われたことか。

後半も再びダンサブルな「Thela Hun Ginjeet」や、当時のテクノポップの影響を受けたかのような(シンセ・ギターの影響も大きいのでしょうね)「The Sheltering Sky」、ダンサブルなプログレ・クリムゾンという「Descipline」と、かなりバラエティに富んだ内容になっています。

最初こそ面を食らった1枚ですが、実は今ではトップクラスで好きな1枚でもあります。それは、リアルタイムで体験した90年代のクリムゾンはこの“ニューウェイヴ期”なくしては語れないから。これがあったから、僕の好きな90年代のクリムゾンが存在するんだ、ここにいろんなヒントが隠されているんだと思いながら聴き返していたら、いろんな発見があったし、どんどん好きになっていった、と。『クリムゾン・キングの宮殿』(1969年)の頃とはまったく異なる存在ではありますが、これもクリムゾン。仰々しいプログレ時代が苦手という人にこそ、一度は触れてもらいたい「気軽に聴けるクリムゾン」なのです。

 


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2019年7月 2日 (火)

BAD COMPANY『BAD COMPANY』(1974)

FREEポール・ロジャース(Vo)&サイモン・カーク(Dr)、元MOTT THE HOOPLEのミック・ラルフス(G)、元KING CRIMSONのボズ・バレル(B)によって結成されたBAD COMPANYによる、1974年6月発売のデビューアルバム。

今でいう“スーパーバンド”のはしりですよね、これ。しかも、リリース元はLED ZEPPELINが設立したSwan Song Recordsで、全米1位/全英3位まで上昇。アメリカでは500万枚を超えるセールスを記録し、「Can't Get Enough」(全米5位/全英15位)、「Movin' On」(全米19位)というヒットシングルも生まれている。どちらかというと、本国イギリスよりもアメリカでのウケが良かったんですね。

FREEではアメリカでもそこそこのヒットを飛ばしていたポール・ロジャースですが、このBAD COMPANYを通じてその歌唱力・表現力の高さを幅広い層にまで届けることに成功。彼のキャリアを通じても最大のヒット作となっているだけに、ポールを語る上では欠かせない1枚と言えるでしょう。

FREEのように楽器隊がテクニカルで主張が強いわけではない、あくまでキャッチーな楽曲をポールという稀代のシンガーが歌い、楽器隊はそれを前面に打ち出すためにバックに徹する。このアルバムにはそういう印象が付きまとっており、個人的には初めてきいた10代後半にはそこまで響かない作品でした。

その中でプレイヤー陣が強い主張を出していない、なんならシンガーもそこまで強く自身を誇示していない。そんなだから、一聴しただけでは曲が素晴らしいだけで終わってしまう。が、聴き込めば聴き込むほどにご理解いただけると思うのですが、実は1曲1曲に隙がないんですよね。無駄に完成度が高い。ソウルやブルースをベースにしたロック/ハードロックって、どうしても過剰に歌い上げたり、ギターが泣きまくったりすることが多いんですが、ここではそういった自己主張が皆無。とにかく曲の素晴らしさをアピールすることに専念している。このある意味でのクセのなさが、幅広い層にまで行き届く結果につながった……と考えることはできないでしょうか。

要するに、純粋なポップソングと同じ域にまで到達させることができたという表れだと思うんですよね。ただ、一方でメンバーが過去に在籍したアクの強いバンド群との比較で、より地味に見えて/聴こえてしまった。デビュー作からの大成功はラッキーでしたが、と同時に最大の失態も犯してしまっていた。難しいですね。

先にも挙げたように、曲は文句なしに素晴らしいです。MOTT THE HOOPLEのカバーでもある「Ready For Love」、僕はバドカン・バージョンのほうが好きですし、シングルカットされた2曲や「Bad Company」、そしてソウルフルな「The Way I Choose」など、どれも出来が素晴らしい。で、ここでの経験を経てバンドらしさをより強く打ち出したのが、次作『STRAIGHT SHOOTER』(1975年)という最高傑作なのかなと思います。こちらの作品については、また別の機会に。

 


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2019年5月27日 (月)

KING CRIMSON『RED』(1974)

1974年10月にリリースされた、KING CRIMSONの7thアルバム。ロバート・フリップ(G)、ジョン・ウェットン(Vo, B)、ビル・ブルーフォード(Dr)のトリオ編成を軸に、デヴィッド・クロス(Violin)、メル・コリンズ(Sax)、イアン・マクドナルド(Sax)などをゲストに迎えた、70年代クリムゾンのラスト作となります。

前作『STARLESS AND BIBLE BLACK』(1974年)から約半年という短いスパンで発表された本作ですが、リリース時点ですでに解散を発表済み。バンドの終焉を感じさせるメランコリックな楽曲(「Fallen Angel」「Starless」)も用意されているものの、本作で注目される機会が多いのはタイトルトラック「Red」や「One More Red Nightmare」といったヘヴィな作風の楽曲でした。

特に「Red」は歪みまくったギターサウンドを用いたヘヴィなリフを用いた、重厚感のあるミドルナンバーで、それまでのクリムソンとは一線を画する1曲と言えます。しかも、約6分半におよぶこの曲はボーカルなしのインストゥルメンタルナンバー。ドラマチックとは言い難い不穏な展開を含め、クリムゾンのメタルサイドなんて声もよく耳にします。そしてこの曲、90年代のクリムゾンサウンドの指針になっているはずで、これがなかったらあのダブルトリオ編成で奏でるメタリックなサウンドは生まれなかったのではないか、そう思っております。

また、「One More Red Nightmare」は「Red」にも通ずるヘヴィなリフを用いているものの、ボーカルが入ると急にキャッチーさが増す異色の1曲。プログレだとかメタルだとかカテゴライズが難しいものの、その後のロックに多大な影響を与えたことは間違いありません。

かと思えば、8分にもおよぶインプロビゼーションが繰り広げられる「Providence」という彼ららしい1曲も用意。この曲はライブテイクをそのまま使っているようで、バンドとデヴィッド・クロスのバイオリンとのセッションからはほかのスタジオテイクとは異なる緊張感を味わうことができます。

そして、叙情性の強い歌モノ2曲(「Fallen Angel」「Starless」)のうち、特に「Starless」は初期の「Epitaph」「The Court Of The Crimson King」(ともに1stアルバム『IN THE COURT OF THE CRIMSON KING』収録)にも匹敵する名曲。前半のドラマチックな泣メロと、後半の即興演奏を含む展開という12分にもおよぶ2部構成は、これぞクリムゾンと胸を張って言えるもの。ある種の集大成感も漂っております。

全5曲で約40分。6分以下の楽曲が皆無という“プログレあるある”作品の代表的な1枚ですが、1stアルバム同様に初心者も入っていきやすい内容ではないでしょうか。特に楽器の経験があるリスナーなら、ここで展開されているプレイは存分に楽しめるはず。聴けばこれが45年前のアルバムだなんて、とても信じられないと思いますよ。

ご存知のとおり、クリムゾンの諸作品はデジタル配信およびストリーミング配信がされておらず、まもなく海外ではサブスクリプションサービスでの配信がスタートするという話もあります。日本ではまだまだ先のようですが、こういった名盤が誰でも手軽に楽しめるようになると、今みたいなカルト的人気とはまた異なる広まり方もするのでは……なんて思うのですが、いかがでしょう。

 


▼KING CRIMSON『RED』
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