KOOK『the beautiful scum』(2000)
KOOKという名前を挙げてみても、多分誰も知らないでしょうね‥‥一時期、そう、今から3年前に当サイトの旧掲示板でちょっとだけ話題になったアーティスト。俺もこの年‥‥2000年1月にリリースしたシングル "junk" と "lady lay" は当時ラジオで耳にしていたので、その存在自体は知っていました。と同時に、非常に気になるアーティストのひとりであったわけですが‥‥
日本人です。ソロアーティストです。所謂「自作自演系」です。楽曲からプロデュース、殆どの楽器演奏等も含め、全てひとりでこなしています。しかもそのサウンドがド直球ストレートのグラムロック。どの程度グラムかというと‥‥'70年代のデヴィッド・ボウイやデビュー当時のsuedeくらいグラマラスなサウンドを聴かせてくれるわけです。ねっ、これだけで気になったって人、多いんじゃないの?
ギターが思ってた以上に歪んでてラウド。リズムもズッシリくるし(ま、殆どのドラムはスタジオミュージシャンが叩いてるわけですが)、何よりもこの人の特徴は‥‥霧がかかってるかのような夢見心地なエフェクト(深めのディレイ&リバーブ)と、そこにのる歌声‥‥全部日本語で歌ってるはずなのに、どう聴いても英語にしか聞こえない歌い方。声もボウイやブレット・アンダーソンよりも線が細い印象ですが、逆にこの無骨なサウンドに合ってるんじゃないかって気さえします。セクシーでドリーミー。正にそんな感じです。
楽曲がポップなのがいいですね、この人。決してマニアック過ぎず、そのサウンドは何度も言うけど直球で正統派。'70年代的ともいえるけど、個人的には'90年代のブリットポップ以降の流れを組んだサウンドだと思います。抽象的且つ耽美な世界を歌った歌詞はちょっと難解でもあるわけですが、それはまぁ雰囲気モノってことで。大体歌詞カード見なかったら本当に何歌ってるか判らないもん。ラジオで初めて聴いた時も、絶対に英語詞の楽曲だと思ってたし(でその後にDJが「今のは全部日本語で歌われてますのでお間違いなく!」と注釈入れたので、軽くショック受けました)、歌詞カードを目にした今でも‥‥全然日本語っぽく聞こえないんだから。そりゃ意識すりゃ日本語に聞こえますよ。けどこれはもう、完全にKOOKの勝利ですね。
これまでも日本からはボウイ's チルドレンなアーティスト/バンドは沢山登場しました。しかしここまで本家を超えて、ある意味独自性を確立してしまった日本人アーティストは他にはいないんじゃないですかね?
クセは強いです。けど、一度ハマってしまえば二度と抜け出せなくなる世界。ロックンロールをよくセックスに例える人がいますが、確かに近いものがありますよね。どちらも自己主張が強すぎてひとりで突っ走り過ぎると、ただのオナニーになってしまう。このアルバムで披露されている世界も、ある種公開オナニーなのであって、けどただ傍観するだけに終わらず、気づくと観ていた(聴いていた)自分も抜け出せなくなる程ドップリとハマッてる。それが現実なのか幻想なのか、判断がつかなくなる程に。強烈に愛聴するか、強烈に否定するか。ボウイにしろsuedeのファーストにしろ、そして初期のROXY MUSICにしろ、本当にグラマラスなロックンロールってそういう危険を孕んでいるものなのではないでしょうか?
'97年に東芝EMIから一度デビューし、シングルとアルバムをそれぞれ1枚ずつリリースした後メジャーシーンから姿を消し、'00年に2枚のシングル("junk" と "lady lay")で再びシーンに返り咲いたものの、同年9月にこのアルバムを発表と同時にエピックとの契約を終了。その後、元BLANKEY JET CITYの照井利幸のユニットに参加したりもしましたが、この11月にようやくKOOKはシーンに戻ってきます。enamel the evening callsという新しいバンドを引っ提げて。しかもボーカル&ギターとパーカッションという2人組編成という辺りに、思わずニヤリとしてしまったりして‥‥11月に戻ってきますよ。それまではこのアルバム聴いてドップリあっち側の世界に浸かっちゃっててください!
▼KOOK『the beautiful scum』
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