前作「REAL」から3年7ヶ月振りのオリジナルアルバムとなる、通算9作目(ベスト盤除く)「SMILE」。2001年春にシングル曲を中心としたベスト盤をリリース、同年秋に映画サントラ曲となる「活動休止」前最後のオリジナル曲 "Spirit dreams inside" をリリースし、その後は‥‥皆さんご存知の通り、それぞれがソロ活動に突入するわけです。
俺が昨年初頭に『願・2003年ラルク復活』というようなことを書いた「REAL」レビューをアップしたすぐ後に、3枚同時のベスト盤リリースが発表になり、それに合わせ6月に代々木体育館で7回の復活ライヴを行うことを発表。新曲一切なし、ある意味これまでの活動を総括するような内容だっただけに、ライヴ最終日には解散発表があるのでは‥‥なんて憶測まで飛ぶ中、最後の最後で発表されたのが『2004年春、新作発表』という朗報でした。ファンのみならず、その後の日本の音楽シーンをも動かすであろうニュース。さて、L'Arc-en-Cielはこの時代にどう立ち回るのか‥‥
その後、各メンバーのソロ活動も平行して行われる中、秘密裏に新作制作が行われ、'04年に突入した頃、2月に復活第一弾シングル "READY STEADY GO" が、3月に第二弾シングル "瞳の住人" がそれぞれリリースされ、同月末には本格的な復活を告げるアルバム「SMILE」がリリースされることが発表されるのでした。
初めて "READY STEADY GO" という曲を聴いた時、「やけにシンプルな曲だなぁ~」と思ったものです。いや、俺だけじゃなく恐らく多くのファンの方々もそう感じたんじゃないでしょうか? 音数もそんなに多い方じゃなく、被さるシンセもシンプルなもの、バンドの演奏はシンプルな中にもタイトさを感じさせる、とてもブランクのあるバンドとは思えないようなもの‥‥いや、だからこそこの曲を復活第一弾に選んだろうな、と思わせるような勢い一発の初期衝動性が強いチューンでした。
一転して第二弾シングル "瞳の住人" は如何にもtetsuというようなメロウなバラード。しかも歌うのが過去最高に難しそうな超高音ファルセットを要する1曲で、hydeも見事にそれをこなしているんだからさすがというか。良くも悪くもこれらの2曲というのは、これまでのパブリックイメージを崩さない、ある意味期待通りで「ファンが求めるラルク像」を見事に演じ切った、と言えなくもない楽曲でした。その時点においてはまだアルバムがどういったものになるのか(従来通りの路線なのか、あるいはこれまでのソロ活動を包括したような新境地なのか、等)全く判りませんでした。事実、シングルにはこれら2曲以外の楽曲はカップリングされてませんでしたしね(第一弾には各パートレスのテイクが、第二弾にはhyde以外のメンバーが歌う "READY STEADY GO" 別テイクをそれぞれ収録。ま、バンドの重要性というか「この4人の誰かひとりが欠けては成り立たないのが今のラルク」という事実を外に認識させ、また本人達が再認識するという意味では非常に興味深い内容でしたけどね)。
さて。そういった流れの中で誕生したアルバム。過去で最もシンプルなアルバムジャケット(これまでのアーティスィックな路線とは一線を画するポップな路線)に、ラルクに合ってるのか合ってないのか微妙な「SMILE」というタイトル。ある意味、これまでと違ったものを狙っているのは理解できるでしょう。
その中身は‥‥恐らく、メンバーの4人自身が「L'Arc-en-Ciel」という枠に縛られながらもその事実を楽しみつつ、尚かつ手探りでバンドとしての次のステップを探し彷徨っているといった印象を受けました。バンドの演奏やアレンジ自体はこれまでで一番シンプルなもので、例えば仕上げ次第では過去の楽曲に肩を並べる名曲になり得たであろう「原石」がゴロゴロしてる‥‥そんなイメージが強い、けどだからといって決してこれまでの作品よりも劣るとも言い切れない新たな魅力を感じさせる前半と、明らかにこれまでのラルクの延長線上にあるのにどこか違った空気を感じさせる後半、というふたつのパートに分けることができるのではないでしょうか。ありそうでなかったタイプの楽曲が多いのも特徴で、恐らく各メンバーのソロでだったら耳にできたかもしれないタイプの楽曲をラルクの4人で料理することでまたソロとも過去のバンドとも違った印象を受ける‥‥1曲目の "接吻" にしろ、シングルになった "READY STEADY GO" にしても過去にあってもおかしくないはずなのに、どこかこれまでと違うイメージを受ける。それこそ初期ラルクにありそうなken作の "Lover Boy" もこれまで以上に生々しい印象を受ける。そして‥‥ある意味このアルバムで一番の異色作では?と思える2曲‥‥"Feeling Fine" と "Time goes on"。多分、これが今のラルクなんだろうな、と感じましたね。ファンが望もうが望まなかろうが、こういった楽曲を彼らが作り演奏したのは必然だったんだろうな、と。ある意味では「REAL」というアルバムの後にこのアルバムが並ぶのは違和感を感じさせない流れであり、そしてある意味では「だからこそ」3年半以上ものブランクが必要だったのかな、とも思うわけで。勿論これらの憶測は結果論でしかありませんが‥‥改めて彼らのアルバムをリリース順に通して聴くと、嫌でもそう思えてしまうわけです。
そういった意味も踏まえて後半の従来路線に近い楽曲達‥‥"Coming Closer" や "永遠" といった楽曲を聴くと、非常に感慨深いものを感じるわけです。彼らは決して過去を葬るために変化を要したのではなく、単純に「その時その時やりたいことを全部やった」結果がこれだったんだろうな、と。ただ新しいことをやるだけでなく、バンドのパブリックイメージというものを気にしつつ(そしてそれを愛しつつ)その「枠内」にあるものも楽しむ。じゃなけりゃ "Lover Boy" や "Time goes on" や "REVELATION" や "瞳の住人" といったタイプが全く異なる楽曲が同じ枠(=L'Arc-en-Cielのアルバム)の中に収まるわけないですよ。いや、そう考えないとやってられないもん、こっちも。
復活作ってことで聴く側は結構構えて臨んだんですが、意外とあっさりした作風だったこともあり、最初は肩すかしを食らったんですが、2度3度と聴き返していくうちにいろんなものが見えてくる、非常に味わい深い作品ではないかな、という気がします。個人的には「HEART」以降の作品の中で一番気に入ったかも。いや、アルバムのトータル性や完成度という意味では「HEART」に一歩譲るとして‥‥少なくともあの「シングル連発」「アルバム2枚同時リリース」といった怒濤の日々を経て、更に個々のソロ活動の延長線上に出来たアルバムとして考えれば、予想以上に素晴らしい作品だと思いますよ。
でも‥‥まだこんなもんじゃないよね?とも思うわけでして‥‥贅沢言わせてもらえば、このくらいはまだまだ序の口でしょ?と。肩ならしというか、数年間まともに活動を共にしてなかった4人がリハビリの意味で作り上げた‥‥そんな印象も感じられるというか。バンドとしてはずっと続いていたのかもしれないけど(だからこそ、活動休止前のシングル "Spirit dreams inside" が含まれてるんですよね。普通だったらベスト盤に入れちゃうもん、活動休止までをひと括りとして考えてるんだったら。そう考えてないから、「REAL」に続く作品というイメージがあったから、この曲を持ってきてるんですよね?)、このアルバムを引っ提げたツアーを経験したことで、更にこのバンドは量産体制に入って(と同時にソロもこなすんだろうなぁ、今の彼らは)第二、第三のピークを迎えるんだろうなぁ‥‥そんな気がします。
最後に。このアルバムはレーベルゲートCD(CCCD)です。しかし、この6月にアメリカのインディーレーベル「TOFU RECORDS」からUS盤(非CCCD。つまり普通のCD)がリリースされたことによって、幸運にもこの作品を購入して聴くことができ、このような形で取り上げることができました。海の向こうで日本のアニメが局地的に人気を得ていること("READY STEADY GO" は某アニメの主題歌でしたからね)、それが切っ掛けでアルバムがアメリカでリリースされ、ライヴまで決まったこと。正直な話、そういったことはどうでもいい‥‥というかそこまで興味のある話じゃないんですが、聴ける機会を得ることができたという意味で、素直に感謝したいと思います。
※追記
本作国内盤は現在、通常のCDDA形式で再発されています。

▼L'Arc-en-Ciel『SMILE』
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