VANDENBERG『2020』(2020)
2020年5月下旬にリリースされたVANDENBERGの4thアルバム。
エイドリアン・ヴァンデンバーグ(G)は2010年代に入ってからVANDENBERG'S MOONKINGSをメインバンドとして、スタジオアルバム2枚とアコースティックアルバムを1枚発表しています。が、ここにきてVANDENBERG名義では『ALIBI』(1985年)以来35年ぶりの新作を完成させました。
しかし、参加メンバーはロニー・ロメロ(Vo/LORDS OF BLACK、RAINBOW)、ルディ・サーゾ(B/ex. QUIET RIOT、ex. WHITESNAKEなど)、ブライアン・ティッシー(Dr/ex. PRIDE & GLORY、ex. WHITESNAKEなど)と、エイドリアン以外は80年代の編成とはまったく異なる布陣です。え、再結成とは?
しかも、アルバムで鳴らされている楽曲の大半が往年のVANDENBERG節とは異なる、MANIC EDENやVANDENBERG'S MOONKINGSにも通ずる ブルース・ハードロック路線。いや、VANDENBERGにそこは求めていないのでは……。
で、オープニングの「Shadows Of The Night」や続く「Freight Train」や「Hell And High Water」を聴いて思ったんです……これ、エイドリアンがWHITESNAKE時代にやりたかったことなんじゃないか、と。言ってしまえばこれ、『SLIP OF THE TONGUE』(1989年)の続編なんですよ。
ブルースベースのハードロックという曲調はもちろん、ロニーの歌唱スタイルや節回しも手伝ってデヴィッド・カヴァーデイルが歌っている姿が容易に想像できる楽曲群。しかも、バックを支えるのがルディ&ブライアンという、年代こそ異なるものの歴代のWHITESNAKE在籍メンバーなんですから……最初から何がやりたかったのか、明白ですよね。
ただね、楽曲の完成度は非常に高い。ぶっちゃけ、『SLIP OF THE TONGUE』で展開されたモダンなハードロック路線よりもWHITESNAKEらしいですし、もとはカヴァーデイルのソロアルバムとして制作された『RESTLESS HEART』(1997年)よりも「リスナーが求めるWHITESNAKE像」を具現化できている。しかも、それを実力派ミュージシャンたちと一緒に表現してるわけですから、悪いわけがない。ぶっちゃけ、本家の最新作『FLESH & BLOOD』(2019年)よりも「ファンが聴きたいWHITESNAKE像」を形にできていると思いますよ。
でもね。だからこそ不思議なんですよ。これをVANDENBERG名義で出そうと思った理由がわからない。申し訳程度にセルフカバーした「Burning Heart」の所在なさといったら……。大人の事情を感じずにいられません。
第3期DEEP PURPLEが演奏したらハマりそうな「Hell And High Water」や、RAINBOWのフロントマンであるロニーが歌うことで輝く「Ride Like The Wind」など、良曲揃いの本作。どの視点で本作に触れるかで評価は大きく異なるかもしれませんが、純粋に内容は素晴らしい1枚。この1月に66歳の誕生日を迎えたエイドリアンのギタープレイもキレと枯れが適度なバランスでミックスされており、彼が携わった近作の中でもベストワークだと思います。
ちなみにこの編成はアルバムレコーディングのみということで、ツアーにはエイドリアンとロニー、ランディ・ファン・デル・エルセン(B/TANK)、コーエン・ヘルフスト(Dr/EPICAツアーメンバー)という編成で挑むんだとか。このVANDENBERG'S MOONKINGSではなく、再びVANDENBERGを選んだ彼が、果たして再び成功することができるのか……。
▼VANDENBERG『2020』
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