44MAGNUM『IGNITION』(2002)
「日本のMOTLEY CRUE」も今は昔……そんな風に呼ばれ、鳴り物入りでデビューした'80年代初頭。あれから20年近く。解散から数えても10数年。まさか21世紀に44MAGNUMがオリジナルメンバーで復活するとは思ってもみませんでした。いや、誰が想像したよ? そもそも需要があるのか?って話ですが‥‥個人的には「ほほぉ~、面白いじゃない。一体何をやろうってぇの??」と、ちょっと意地悪な期待の仕方をしてたんですね。
ご存じない人の方が多いと思うので、改めて説明。このバンドは'80年代初頭にデビューした国産ヘヴィメタルバンド。当時、LOUDNESSやBOW WOW(後のVOW WOW)、EARTHSHAKERといったヘヴィメタルバンドが続々とメジャーデビューを果たしていく中、このバンドも同じムーブメントで括られてデビューしたわけです。そのルックスやストレートなハードロックサウンドから、「日本のMOTLEY CRUE」なんて呼ばれることもしばしば。メンバーはPAUL(Vo)、JIMMY(Gt)、BAN(Ba)、JOE(Dr)の4人。'83年にアルバム「DANGER」でデビュー後、'89年の解散までに6枚のアルバムを発表しました。アルバム毎に変化していく音楽性は、徐々にヘヴィメタル/ハードロックの枠から飛び出していき、最終的にはダンサブルなポップロック路線にまで手を出す始末。最後は再びハードロックの世界へと戻っていくのですが、その過程でメンバーの脱退→解散となってしまうのです。その後メンバーはライナセロス(PAULが元爆風スランプの江川ほーじんと結成したファンクポップロックバンド)、TOPAZやSPEAD(JIMMYが参加)、ZIGGY(JOE)等で活躍します。尚、JOEは他にもDIAMOND☆YUKAIやhideのバンドメンバーとしても活躍してきました。最後のひとり、BANだけはその後音楽界から足を洗い、全く別の業界で普通に働いています(今回の再結成も、彼のスケジュールに合わせて活動してるみたいですし)。
‥‥とまぁ、こんな感じでよろしいですか? そういうわけで、彼等は'01年に再結成するわけです。最初はPAULとJIMMYが合流し、一緒に新しい音楽を作っていたわけですが、最終的にそれらを「44MAGNUM」名義で発表するわけです。この名前を使うということは即ち、BANやJOEの了承を得る、あるいは彼等も参加して初めて「44MAGNUM」と名乗れるわけです。PAULとJIMMYが選んだのは‥‥あくまで「PAUL、JIMMY、BAN、JOEの4人での44MAGNUM」という至極当たり前の答えでした。というわけで、全員のスケジュールに合わせてレコーディングを行った結果、'01年の再結成発表から‥‥いや、PAULとJIMMYとの二人作業から数えれば約2年近くもの歳月をかけて制作されたようです。
現役自体も常に変化を重ねてきた44MAGNUM。この通算7枚目のオリジナルアルバムでも、その変化は更に続いています。短いインスト"ENTER"から実質1曲目"FAR PLANET"へと流れていくわけですが‥‥曲が始まった瞬間「‥‥はぁ~‥‥」という深い溜息をついてしまいました。44よ、お前もか‥‥
所謂モダンヘヴィネス、ラウドロック、ラップメタル的要素をそこはかとなく感じさせるオープニング、そして明らかに第一声はラップボーカル‥‥RAGE AGAINST THE MACHINEやLIMPBIZKIT以降の音。確かに元祖・MOTLEY CRUEも'90年代半ばにそっちへシフトチェンジしましたが‥‥しかし落胆したのはほんの束の間。ラップボーカルはほんの数小節で、その後は一聴して「44MAGNUMだ!」と判るPAULのハイトーンボイス。確かにアレンジは現代風ですが、メロディは節回しは昔のまんま‥‥とまでは言わないものの、それにかなり近い作りになっていて、一安心。ただ、'80年代の王道路線を期待してたオールドファンには厳しい内容かと思われます。
モダンへヴィンス風、インダストリアル風の味付けがメインで、今回はハードディスクレコーダーを駆使したというだけあって、生のバンドサウンドを加工してるのが耳につきます。打ち込みとの同期だったり、ドラムサウンドをぶつ切りしたりエフェクトかけまくったり、ギターリフもただ普通に弾くのではなくてサンプリングだったり。お堅い方々が聴いたら血管ブチ切れそうな勢いで否定しそうなサウンド。こんなの44でもなきゃメタルでもねぇ!とお怒りかもしれません。
しかし、暫くメタルの世界から離れていた俺からすれば、ここで表現されているもの、これらは間違いなくヘヴィメタルそのものですよ。若手バンドによるモダンヘヴィネスとは一線を画する内容だと思いますね。それはサウンドの肌触りだったり匂いだったり味付けだったり。そしてそういった装飾だけでなく、根本にあるもの‥‥つまり4人が「新しい44MAGNUMを表現する」という気持ちで向き合って制作したという事実だけでも十分に「これはメタルだ」と言い切るに値すると思いますね。
確かにこれよりも優れたラウドロックや若手バンドは沢山いるでしょう。けど、個人的にはこれを「PAUL、JIMMY、BAN、JOEの4人での44MAGNUM」で制作したということに意味を感じてるので、「40オヤジ共、頑張ってるなぁ」と嬉しくなっちゃうんですよね。だってさ、同じく再結成された他の同期‥‥LOUDNESSやEARTHSHAKERやANTHEMと比べて、これだけ過去に拘らずに前進する20年選手、どれだけいるよ!?
近々、このアルバムはヨーロッパやアジア諸国でもリリースされると聞いています。あの頃('80年代)44MAGNUMが活躍したことを覚えている海外の人達がこの新しいサウンドにどう反応するか、そして普段ラウドものを聴き慣れてる若いロックファンにどうアピールするのか、非常に気になるところです。
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