カテゴリー「Manic Street Preachers」の48件の記事

2023年11月21日 (火)

MANIC STREET PREACHERS / SUEDE@Zepp Haneda(2023年11月18日、19日)

2022年秋、当初は北米のみで実施されたMANIC STREET PREACHERSSUEDEのダブルヘッドラインツアーが羨ましくて仕方なかったんです。マニックスは2019年から来日が実現していないし、SUEDEに至っては2016年のサマソニ以来とんとご無沙汰。現在の国内での知名度を考えると、単独来日は難しいだけに、この2組で日本に来たらなんとかなるんじゃないか……なんて淡い期待を寄せていたら2023年秋にようやく実現。いやあ、よかったよかった。

東京2公演のみというなかなかシビアな状況ですが、これは2公演とも観ないわけにはいかないと、早々にチケットを確保。初日はフロア後方からまったり観察し、2日目は真ん中あたりで思い切り楽しもうと、それぞれ違った角度から2日間楽しみました。


■11月18日

Img_7844 この日は先行がマニックス。ステージ上のバックドロップが10数年前のベストアルバム『NATIONAL TREASURES - THE COMPLETE SINGLES』(2011年)のジャケット……あれ、最新作『THE ULTRA VIVID LAMENT』(2021年)中心じゃないのか……はい、この時点で萎えました。ただでさえ新作からの楽曲以外は対して変わり映えがないマニックスなので、これは良くも悪くもいつもどおりか、と。

実際、オープニングの「Motorcycle Emptiness」「Everything Must Go」という既視感の強い流れを、冷静に眺めていた気がします。もちろん、久しぶりに生で見れた喜びはありますが、素直に入り込めない。う〜ん。完全なる贅沢病。その後「1985」や「Die In The Summertime」なんてレア曲でアガり、新作からの「Still Snowing In Sapporo」や近作からの「Walk Me To The Bridge」あたりでは高揚感も味わえたかな。

中盤のジェームズ・ディーン・ブラッドフィールド(Vo, G)によるアコースティックパートでは、珍しく「Suicide Is Painless (Theme From MASH)」をセレクト。そして「Slash 'n' Burn」でバンド編成に戻り、「Enola/Alone」や「International Blue」を含むものの王道の流れでクライマックスへ。「Motown Junk」なしの約80分のセットで終了しました。冷静に考えれば選曲や演奏含め、鉄壁の内容なんだけど、デビュー時から夢中になってきたバンドだからこそ自分の中でハードルが上がってるのかな。「もっと無茶してほしい!」と思ってしまうんですよね。そういう意味では、この日の内容は平均点+αといったところでしょうか。

Img_7845 約30分のインターバルを経て、この日のトリであるSUEDEが登場。こちらは完全なる新作モードのライブをぶちかましてくれました。最新作『AUTOFICTION』(2022年)のラストを飾る「Turn Off Your Brain And Yell」から始まる変化球的オープニングも、いかにもひねくれてるし、そこから「Personality Disorder」「15 Again」と新曲を連発する流れも最高。ブレット・アンダーソン(Vo)は若干年齢を感じさせるものの、相変わらずマイクをブンブン振り回しながら暴れまくり。いいぞ、もっとやれ。

新曲3連発で空気を十分に作ったところで、「Trash」「Animal Nitrate」の名曲オンパレード。さらに「Killing Of A Flashboy」なんてレア曲や前作『THE BLUE HOUR』(2018年)収録の名バラード「Life Is Golden」も飛び出し、前半だけで大満足。その後も新作からの楽曲と往年のヒット曲を交えてライブは進行するのですが、すべてがパーフェクト。「The Wild Ones」ではブレットがギター弾き語りを披露し(トラブルもありましたが)、終盤はヒットシングルのオンパレードで大団円。公演が土曜開催ということで、あの名曲披露にも期待したのですが、残念ながらなし。それだけが心残りでした。

セットリスト

MANIC STREET PREACHERS
01. Motorcycle Emptiness
02. Everything Must Go
03. 1985
04. You Stole The Sun From My Heart
05. Still Snowing In Sapporo
06. Die In The Summertime
07. Walk Me To The Bridge
08. From Despair To Where
09. A Design For Life
10. Suicide Is Painless (Theme From MASH)
11. Slash 'n' Burn
12. Your Love Alone Is Not Enough
13. Enola/Alone
14. International Blue
15. Stay Beautiful
16. You Love Us
17. If You Tolerate This Your Children Will Be Next

SUEDE
01. Turn Off Your Brain And Yell
02. Personality Disorder
03. 15 Again
04. Trash
05. Animal Nitrate
06. Killing Of A Flashboy
07. Life Is Golden
08. She Still Leads Me On
09. Can't Get Enough
10. Shadow Self
11. The Wild Ones
12. Everything Will Flow
13. So Young
14. Metal Mickey
15. Beautiful Ones


■11月19日

Img_7852 この日は出演順が入れ替わり、トップバッターをSUEDEが務めたのですが……セトリ、大幅に変えてきやがった! 「She Still Leads Me On」「Personality Disorder」と『AUTOFICTION』の冒頭と同じ流れで、前日のダークな幕開けとは異なる装い。そこから前日にはなかった「The Drowners」(!)を挟んで「Trash」「Animal Nitrate」……気づいたらどんどんフロア前方に移動している自分がいました。そんなの興奮せずにはいられないってば。

しかも、この日はそれ以降がまたすごい。「We Are The Pigs」「Flytipping」「This Hollywood Life」「Filmstar」って流れはどうなのよ。さらに、「The Asphalt World」をニール・コドリング(Key, G)のピアノ伴奏で歌ってくれたり……翌年に控えた2ndアルバム『DOG MAN STAR』(1994年)30周年を前祝いするような選曲を前に、「やっぱり2日間来てよかった」と強く実感するのでした。

そういえば、この日はブレットが突然ステージ上で倒れる場面がありました。どうやら、ステージ上が濡れていて滑ったようですが、あっちゃんの件のあとだけにヒヤッとしたんですよね……その後も元気そうにマイクをブンブン振り回していたのでホッとしましたが。みんな元気に、長生きしてくれ。

Img_7859 SUEDEが前日以上の白熱ぶりを見せたあとだけに、セトリを変える印象のないマニックスは分が悪いなと、ちょっと気持ちが落ち着き始めていたのですが、マニックスはマニックスなりに頑張ってました。演奏はもちろん鉄壁、セトリも序盤は前日と一緒なのですが、この日は「Die In The Summertime」から「Little Baby Nothing」に差し替えるサービスぶりを見せます。おお、いいじゃないか。

さらに、ジェームズのアコースティックパートでは、なんと「(I Miss the) Tokyo Skyline」をワンコーラス披露してから「This Is Yesterday」へと続ける大盤振る舞い。SUEDEのパフォーマンスに対抗意識を燃やしてか、ライブ全体の熱量も前日以上でした。あと、自分の周りのお客さんが海外の方ばかりだったことも影響して、こちら側も気づいたら前日以上の熱気でステージと向き合っていた気がします。単純と言えば単純ですが、そういうシチュエーションも大事ですよね。

マニックスもSUEDEも、どちらも90年代から夢中になって追い続けてきたバンドで、当初はマニックスに肩入れしていたものの、近年はSUEDEに傾きつつある自分。この2日間のレポからもそれは十分に伝わることでしょう。しかし、大好物2つを目の前にして過ごした週末を終え、最終的には「みんな違ってみんないい」精神で両者優勝!でいいじゃないかと。そんなポジティブな気持ちを抱え、帰路に着いたのでした。

セットリスト

SUEDE
01. She Still Leads Me On
02. Personality Disorder
03. The Drowners
04. Trash
05. Animal Nitrate
06. We Are The Pigs
07. Flytipping
08. This Hollywood Life
09. Filmstar
10. Shadow Self
11. The Asphalt World
12. The Only Way I Can Love You
13. So Young
14. Metal Mickey
15. Beautiful Ones

MANIC STREET PREACHERS
01. Motorcycle Emptiness
02. Everything Must Go
03. 1985
04. You Stole The Sun From My Heart
05. Still Snowing In Sapporo
06. Little Baby Nothing
07. Walk Me To The Bridge
08. From Despair To Where
09. A Design For Life
10. (I Miss the) Tokyo Skyline
11. This Is Yesterday
12. Slash 'n' Burn
13. Your Love Alone Is Not Enough
14. Enola/Alone
15. International Blue
16. Stay Beautiful
17. You Love Us
18. If You Tolerate This Your Children Will Be Next

 

2022年7月22日 (金)

MANIC STREET PREACHERS『SLEEP NEXT TO PLASTIC』(2022)

2022年7月5日にデジタルリリースされたMANIC STREET PREACHERSのカバーアルバム。現時点でフィジカルおよび日本盤未発売。

マニックスはデビュー以来、自身のシングル/EPや外部コンピレーションアルバムに数々のカバー曲を提供しており、2003年には2枚組コンピレーションアルバム『LIPSTICK TRACES: A SECRET HISTORY OF MANIC STREET PREACHERS』のディスク2では初音源化音源も含むカバー曲たちをひとまとめにしておりました。それ以降もリアーナ「Umbrella」やTHE THE「This Is The Day」、ジョン・レノン「Working Class Hero」など定期的に印象的なカバー曲を発表しています。

前作から約20年ぶりとなるカバー集第2弾(カバーアルバム単品としては初)は、新録音源やBBCセッションズなどの未発表音源を中心に構成されたもの。曲目と原曲者名は下記のとおり。

01. Borderline [マドンナ]
02. Jean's Not Happening [THE PALE FOUNTAINS]
03. (Feels Like) Heaven [FICTION FACTORY]
04. Pennyroyal Tea [NIRVANA]
05. Let's Stay Together [アル・グリーン]
06. Vision Blurred [THE HORRORS]
07. Wake Up Alone [エイミー・ワインハウス]
08. Bright Eyes [アート・ガーファンクル]
09. In Between Days [THE CURE]
10. Sweet Child O' Mine [GUNS N' ROSES]
11. All Or Nothing [THE SMALL FACES]
12. Bring On The Dancing Horses [ECHO & THE BUNNYMEN]
13. Under My Wheels [アリス・クーパー]
14. The Instrumental [THE JUNE BRIDES]
15. Summer Wind [フランク・シナトラ]
16. The Endless Plain of Fortune [ジョン・ケイル]
17. Primitive Painters [FELT]

アート・ガーファンクル「Bright Eyes」とアリス・クーパー「Under My Wheels」は過去のシングルでも取り上げられていますが、相変わらずのとっ散らかりぶり、さすがマニックスといったところでしょうか。NIRVANAとGUNS N' ROESSを同時にカバーするセンスといい、そこにマドンナやフランク・シナトラ、さらにはFICTION FACTORYやTHE JUNE BRIDESなど比較的マニアックなバンドまで含めるとなると、これをやれるのは現状マニックスくらいじゃないかと思います。

「Borderline」のように新たにスタジオ録音されたテイクもありますが、その多くはこれまで録音されていたものの未発表だったもの(中には一時期紛失していたマスターテープに含まれていた音源)、BBCセッションズにて録音されたものなど、レコーディング状況はまちまち。なので、アルバムとしての統一性は求めるべくもないですが、『LIPSTICK TRACES』ディスク2を素直に楽しめた方なら文句なしで気に入るはずです。

最新オリジナルアルバム『THE ULTRA VIVID LAMENT』(2021年)の徹底された作り込みと比べると、非常に粗が目立つ録音/作風ですが、逆にそこが初期の彼らっぽくて良いと感じる方も少なくないはず。特に冒頭の「Borderline」には初期のマニックスらしさを見出すこともできるでしょうから。

ちなみに、ガンズ「Sweet Child O' Mine」は“Live at Cardiff Castle”と記載されているので、おそらく2019年6月29日の同会場でのライブから(最後にちょっとだけ残されている「La tristesse durera (Scream To A Sigh)」へと続く流れ的にも、同日のライブで間違いないでしょう)。イントロのリフだけは初期から何度も披露されていますが、ここ最近のカーディフでのライブでは常にフルコーラス、しかもストレートなアレンジでカバー(というかコピー。笑)しており、サビで大合唱するオーディエンスがいい感じのアリーナロック感を引き出しています。やっぱり嫌いになれないよな、この純粋さ。

こういった作品は彼らのオリジナルアルバムを聴いたことがないビギナーには敷居を高く感じるかもしれませんが、逆に「自分が知っている曲」をいくつか取り上げていて、それがどういう味付けでカバーされているかに興味を見出せるなら、触れて見る価値は高いと思います。個人的には新作『THE ULTRA VIVID LAMENT』へとつながるヒントも多数見つけられる、同作の副読本的な重要アルバムだと考えています。

 


▼MANIC STREET PREACHERS『SLEEP NEXT TO PLASTIC』
(amazon:MP3

 

 

 

なお、Spotifyでは同作に過去のカバー曲を加えた全37曲からなる同名プレイリストも公開中。マニックスのカバー曲に初めて触れる方は、こちらから入ってもいいかもしれませんね。

 

2022年1月 1日 (土)

2021年総括

昨日のエントリー(2021年総括:HR/HM、ラウド編)にも書いたように、2021年は前年から引き続き新型コロナウイルスの影響が響いた1年でした。夏くらいまでは一喜一憂の日々を過ごしてきたものの、ワクチン接種など少しずつ動きもあったことで、秋から年末にかけて感染者数も1年前と比べると少し落ち着きを見せています。そういったポジティブな要素が影響し、エンタメ界も少しずつ明るい兆しを見せ始めています。もちろん、2年前と比べたら明らかに違った日常にはなってしまいましたが、それでも新たなスタンダードを確立させようと我々も日々奮闘し続けているところ。さて、この状況が春、そして夏場のフェスシーズン、年末までにどう変わっていくのか、じっくり見届けたいと思います。

2021年の総括に関してです。今年も昨年同様に「アルバム/シングル/楽曲と枠にこだわらず、20作品に縛る」形でまとめさせてもらいました。また、サブスクの普及により、数年がかりでヒットする(リスナーにまで浸透する)ケースも顕著になってきているので、セレクトする作品に関しても特に2021年発売には拘っておりません。それと、ヘヴィ/ラウド系は先に紹介したエントリーにて総括しているので、こちらでは省いております。

こちらも特に順位付けをせず、アルファベット→50音順で掲載しております。

 

ABBA『VOYAGE』(Apple Music)(アルバム/レビュー

 

THE ANCHORESS『THE ART OF LOSING』(Apple Music)(アルバム/レビュー

 

ARLO PARKS『COLLAPSED IN SUNBEAMS』(Apple Music)(アルバム)

 

BTS「Butter」(Apple Music)(楽曲)

 

DAVE GAHAN & SOULSAVERS『IMPOSTER』(Apple Music)(アルバム/レビュー

 

FAYE WEBSTER『I KNOW I'M FUNNY HAHA』(Apple Music)(アルバム)

 

Liella!「始まりは君の空」(Apple Music)(楽曲)

 

Little Glee Monster「REUNION」(Apple Music)(楽曲)

 

MÅNESKIN「I Wanna Be Your Slave (with IGGY POP)」(Apple Music)(楽曲)

 

MANIC STREET PREACHERS『THE ULTRA VIVID LAMENT」(Apple Music)(アルバム/レビュー

 

SUPER BEAVER『アイラヴユー』(Apple Music)(アルバム)

 

WAVVES『HIDEAWAY』(Apple Music)(アルバム)

 

WEEZER『OK HUMAN』(Apple Music)(アルバム/レビュー

 

ウマ娘「うまぴょい伝説」(Apple Music)(楽曲)

 

からあげ姉妹「1・2・3」(Apple Music)(楽曲)

 

楠木ともり『narrow』(Apple Music)(EP/レビュー

 

櫻坂46「流れ弾」(Apple Music)(楽曲)

 

鞘師里保『DAYBREAK』(Apple Music)(EP)

 

ドレスコーズ『バイエル』(Apple Music)(アルバム)

 

22/7「ヒヤシンス」(Apple Music)(楽曲)

 

海外アーティストに関しては、メタル/ラウド以外は相変わらず女性ボーカルものを聴く機会が多く、あとは旧譜のリイシューばかり。最新のポップスはヒットチャートものをまとめたプレイリストなどで触れているものの、やっぱり耳に残ったのはBTSと、それ以外だとMÅNESKINあたりかな。DRY CLEANING『NEW LONG LEG』は最後までギリギリ入れるか悩みましたが。

特に国内アーティストに関してもいろいろ悩みましたが、こんな感じでしょうか。楠木ともりさんは上半期総括では2nd EP『Forced Shutdown』をセレクトしましたが、常に最新作がベストを更新している印象もあるので(かつ年末のライブも素晴らしかったので)3rd EPを選出。日向坂46「君しか勝たん」もギリギリまで悩みましたが、それ以外の楽曲/アルバムが素晴らしすぎてこういう結果となりました。ここから漏れた作品だとGuilty Kiss『Shooting Star Warrior』(アルバム)、INORAN『ANY DAY NOW』、鈴木愛奈『Belle révolte』、矢野顕子『音楽はおくりもの』、和田彩花『私的礼讃』、楽曲単位だとOfficial髭男dism「Universe」、toku「ずるいよ、桜 feat. 神田沙也加」、アネモネリア「巣立ちの歌」、伊藤美来「No. 6」、乃木坂46「最後のTight Hug」などなど。

明日は、本サイトのエントリーにおける総括を実施予定。年末年始はこういう形の更新で、ここ1年を振り返ることができたらと思います。

 

2021年12月11日 (土)

MANIC STREET PREACHERS『I LIVE THROUGH THESE MOMENTS AGAIN AND AGAIN: DUETS 1992-2021』(2021)

2021年11月30日に公開されたMANIC STREET PREACHERSのオフィシャルプレイリスト。Spofifyのみで配信中。

メジャーデビュー30周年という記念すべきタイミングであった2021年、マニックスは最新オリジナルアルバム『THE ULTRA VIVID LAMENT』をリリースするのみにとどまりました。しかしその結果、同作は『THIS IS MY TRUTH TELL ME YOURS』(1998年)以来23年ぶりに全英1位を獲得することとなりました。

そういったアニバーサリーイヤーに記念碑的作品を生み出すことができたバンドは、あえてフィジカルアイテムを制作するのではなく、サブスクリプションサービスのプレイリストを複数制作するという今ならではの手法で30年のまとめに入ることになります。

その1作目として発表されたのが、このデュエット曲/コラボ楽曲をひとまとめにしたコンピレーションアルバム的プレイリスト。1stアルバム『GENERATION TERRORISTS』(1992年)における「Little Baby Nothing」(withトレイシー・ローズ)を筆頭に、THE CARDIGANSのニナ・パーソンを迎えたヒット曲「Your Love Alone Is Not Enough」やECHO & THE BUNNYMENのイアン・マカロックをフィーチャーした「Some Kind Of Nothingness」、最新作からの「The Secret He Had Missed」や「Blank Diary Entry」(前者はジュリア・カミング、後者はマーク・ラネガンが参加)など、バンドの歴史をコラボレーションという側面から総括する内容に仕上がっています(収録曲の詳細はオフィシャルサイトにて確認を)。

この中には、マニックスのオリジナルアルバム未収録だった貴重なテイクも複数存在します。その中にはトム・ジョーンズのアルバム『RELOAD』(1999年)でジェイムズ・ディーン・ブラッドフィールド(Vo, G)がゲスト参加した「I'm Left, You're Right, She's Gone」、サラ・クラックネルのアルバム『RED KITE』(2015年)でニッキー・ワイヤー(B, Vo)が客演した「Nothing Left To Talk About」といったマニックスの作品外の楽曲や、SUPER FURRY ANIMALSのグリフ・リース(Vo)がリードボーカル&アコースティックギターで参加したライブ音源「Let Robeson Sing」のようなレアテイクも含まれており、アルバム以外にまで手を伸ばせなかったライト層にもうれしい内容となっています。

この中には特筆すべき1曲も含まれています。それが、ウェールズ人アーティストのグウェノーをフィーチャーした「Spectators Of Suicide」です。同曲はもともと1991年のシングル「You Love Us」のHeavenlyバージョン(インディーズ盤)に含まれていたもので、のちに『GENERATION TERRORISTS』で別アレンジにて収録されています。今回のコラボバーバージョンは昨年12月に海外で出版された書籍『BELIEVE IN MAGIC: THE FIRST 30 YEARS OF HEAVENLY RECORDINGS』のために新たにレコーディングされた音源で、このプレイリスト公開にあわせてサブスクでも聴けるようになりました。この非常にレアな再録バージョンを聴けるだけでも、本プレイリストの価値はかなり高いと言えるでしょう。

 


▼MANIC STREET PREACHERS『I LIVE THROUGH THESE MOMENTS AGAIN AND AGAIN: DUETS 1992-2021』

 

 

 

マニックスはこれ以外にも、最新作『THE ULTRA VIVID LAMENT』のイスパイア元となる楽曲を集めたプレイリスト『THE ULTRA VIVID LAMENT - INSPIRATIONS & INFLUENCES』も公開中。ABBAやラナ・デル・レイ、THE GO-BETWEENS、サイモン&ガーファンクル、BIG THIEF、ニーナ・シモン、NICK CAVE & THE BAD SEEDSなどバラエティに富んだ28曲を楽しむことができます。こちらも新作の副読本として、あわせて楽しんでおきたいところです。

 

2021年9月23日 (木)

MANIC STREET PREACHERS『NATIONAL TREASURES - THE COMPLETE SINGLES』(2011)

2011年10月31日にリリースされたMANIC STREET PREACHERSのコンピレーションアルバム。日本盤は同年10月26日発売。

本作は『FOREVER DELAYED: THE GREATEST HITS』(2002年)『LIPSTICK TRACES: A SECRET HISTORY OF MANIC STREET PREACHERS』(2003年)に続く3作目のコンピアルバム。1作目は1stアルバム『GENERATION TERRORISTS』(1992年)から10年のタイミングに発表されたシングルコレクション、2作目はアルバム未収録のシングルカップリング曲をオリジナル/カバーで分けて収録した2枚組コンピでしたが、今回はバンドの知名度を(良くも悪くも)広める結果となった記念碑的シングル「Motown Junk」(1991年)から数えて20年という節目に制作された、文字通り“コンプリート・シングル集”となっております。

……が、いきなりですが。本作、すべてのシングル曲を網羅しているわけではありません。例えば、「Motown Junk」の前に発表しているEP『NEW ART RIOT』(1990年)や、正真正銘の1stシングル「Suicide Alley」(1989年)はスルーされていますし、「You Love Us」の“Heavenly Version”と呼ばれるインディーズバージョン(1991年)、「Love's Sweet Exile」との両A面曲「Repeat」(1992年)、「Faster」との両A面曲「P.C.P.」(1994年)や、日本限定シングルの「Further Away」(1996年)、「Nobody Loves You」(1998年)、突如無料配布された幻のEP『GOD SAVE THE MANICS』(2005年)、デジタル配信された「Underdog」(2007年)なども除外されています。要は、「全英チャートにランクインしたフィジカルシングル、かつ両A面曲の場合はリードトラックとなる1曲目」という基準で選ばれたようですね(本作のツアーではここらへんの楽曲もサービスでプレイされていましたが)。

というわけで、本作には「Motown Junk」や「Stay Beautiful」といった初期の楽曲から当時の最新シングル「Postcards From A Young Man」まで、および本作のために用意された新録曲「This Is The Day」(THE THEのカバー)の計38曲が収録された2枚組CDとなっています。本作からのリード曲として「This Is The Day」もシングル化されているので、結果収録曲すべてがシングル曲ということになるわけですね。なお、日本盤のみボーナストラックとして新曲「Rock 'n' Roll Genius」を追加収録。この曲はシングル「This Is The Day」HMV限定盤にのみ収録されていた貴重な1曲で、今作のストリーミング/デジタル盤には未収録。迷わず日本盤CDを手に入れておきたいところです。

ですが、このベスト盤。海外盤には2CD+DVDというデラックス盤も用意されていて、こちらの付属DVDには2CDに収められた全38曲のMV+ボーナス映像(「You Love Us (Heavenly Version)」「Autumn Song (Alternative Version)」、そして未シングル曲「Jackie Collins Existential Question Time」)を網羅。現在では希少価値の高いコレクターズアイテムとなっていますが、こちらもぜひとも手に入れておきたいところです。

『FOREVER DELAYED: THE GREATEST HITS』では一部楽曲がシングルエディットで収録されていましたが、こちらはたっぷり2枚組ということもあり、すべてオリジナルバージョン(アルバムサイズ)で楽しむことができます。すべてのアルバムを楽しんできたコアなファンには不必要っちゃあ不必要かもしれませんが、特に2000年代前半まではアルバムごとにスタイルを変化させ続けてきたマニックスの音楽的変遷を、時代を追って楽しめる手軽な内容ではないでしょうか。「マニックスの代表曲を押さえておきたい」というビギナーにはうってつけの入門盤だと断言しておきます。

ここ10年でシングルの価値がほぼなくなり、カップリングという言葉自体が死後となりつつある中、今年でメジャーデビュー30周年を迎えるマニックスが今後それを祝したベスト盤を制作するのかどうかは不明です。が、もし可能ならCD3枚組くらいでシングル曲/リードトラックを網羅した“真のコンプリート・シングルズ”に期待したいところです。

 


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2021年9月12日 (日)

MANIC STREET PREACHERS『THE ULTRA VIVID LAMENT』(2021)

2021年9月10日にリリースされたMANIC STREET PREACHERSの14thアルバム。当初は9月3日発売予定でしたが、制作上の都合で世界的に1週間遅れでリリースされることになりました。

オリジナルアルバムとしては『RESISTANCE IS FUTILE』(2018年)から約3年半ぶりの新作。この期間には5thアルバム『THIS IS MY TRUTH TELL ME YOURS』(1998年)20周年記念盤(2018年)および同作を伴う来日公演(同年)、2ndアルバム『GOLD AGAINS THE SOUL』(1993年)デラックスエデション(2020年)などアニバーサリー企画が複数あったので、意外と空いた感覚がないんですよね。それに、ジェイムズ・ディーン・ブラッドフィールド(Vo, G)の2ndソロアルバム『EVEN IN EXILE』(2020年)もありましたしね。

レコーディングは2020〜21年にかけて、長年のコラボレーターであるデイヴ・エリンガととも実施。その後、デヴィッド・レンチがミックスを手がけることで完成に至っています。本作に対して、ニッキー・ワイヤー(B, Vo)は事前に「Like The Clash playing Abba」「The Clash when you felt they play in any style」というキャッチフレーズを掲げていました(そのへんについてはリード曲「Orwellian」発表時のレビューにてご確認を)。

ここ20年くらいのマニックスにはABBA的要素、そしてTHE CLASH的な音楽的編成は当たり前のように存在していました。しかし、なぜここでABBAという名前を改めて挙げたのか。その理由のひとつとして、楽曲制作時に使った楽器の大半がギターではなくピアノだったころが挙げられるでしょう。ジェイムズがピアノを覚えたことで、そのまま作曲にも用いられたことで、メロディやコードの運びはこれまでのギター中心の楽曲群と異なる形に。結果として、全体を通して穏やかで優しく、温かみの強いアルバムに仕上がったような気がします。

マニックスもメジャーデビューして今年で30年。もはや初期のようなパンキッシュな音楽スタイルを求めることはありませんが、ここからは「どう枯れていくか」がポイントになると思っています。そんな中で、あえて「ただ枯れる」のではなく、大人になったからこその懐の深さ、豊かさを前提に、「老いていくのも悪くない」と提示していく。それがここ数作のマニックスだったような気がします。

そして、その境地……50代に入り「生きること、年を取ることは悪いもんじゃない」と高らかに宣言したのがこの14作目なのかなと。しかも、その過程で曲作りの手法をちょっと変えることで、さらなるフレッシュさも手に入れた。こうなったのは昨今のコロナ禍も少なからず影響しているとはいえ、これは良い進化ではないかと個人的にも感じています。

とにかく、どの曲もメロディがより練り込まれていて、ライブ云々よりも音源としての作品性が高いものばかり。コロナ禍でツアーが思うようにできなくなったこともあり、スタジオにこもってじっくり制作と向き合えたことも、この完成度の高さに大きな影響を与えていることは間違いありません。

歌詞は相変わらずただ甘いだけではない、現在の社会情勢を見据えた上での50代の彼らの目線が刻まれています。もちろん、ただ甘ったるいだけのアルバムを彼らに求めることはありませんし、だからこそこのスウィートなメロディに辛辣な歌詞が載るのもいかにもマニックスだなと。うん、いつもどおりすぎ(笑)。

そんな中で、オープニングを飾る「Still Snowing In Sapporo」が醸し出すセンチメンタルさには胸を締め付けられます。これがオープニングトラックか……と最初に聴いたときはびっくりしましたが、このタイミングにリッチー・エドワーズ(G)を含む編成での最後のジャパンツアー(1993年)に訪れた札幌のことを歌にするなんて……オッサンたち、ノスタルジーに浸ってるんじゃねえよ(笑)。最高かよ。

近年は90年代の初期6作のアニバーサリー関連での来日が続き、純粋なニューアルバムのサポートツアーでの日本公演は皆無。アニバーサリー抜きの純粋なライブ、2014年のフジロックが最後じゃないでしょうか。このご時世でなかなか難しいものはありますが、できることなら早くこの新曲群を生で聴きたいものです。そして、「A Design For Live」「You Love Us」を大合唱できる日はいつ戻ってくるのでしょうか……2022年、少しでも状況がよくなっているといいな。

 


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2021年5月15日 (土)

MANIC STREET PREACHERS『ORWELLIAN』(2021)

MANIC STREET PREACHERSの通算14作目となるニューアルバム『THE ULTRA VIVID LAMENT』が、9月3日に海外でリリースされることが決定しました。今のところ日本盤の情報は確定していないものの、おそらく同日かその少しあとには国内でも発売されるのではないかと思っています。

この3年半ぶりの新作発売アナウンスにあわせて、同作からのリードトラック「Orwellian」がデジタルリリース。各配信サービスでのデジタルリリース&ストリーミングに加え、YouTubeにはリリックビデオも公開中です。

今年4月、音楽誌『MOJO』に掲載されたニッキー・ワイヤー(B)のインタビューでは、(当時制作途中だった)ニューアルバムに対して「Like The Clash playing Abba」というキャッチフレーズを掲げていました(「The Clash when you felt they play in any style」という補足を付けて)。ここでニッキーが掲げるTHE CLASHは初期ではなく、間違いなく中後期の彼らであることは想像に難しくなく、またABBAを挙げるのも想定の範囲内。さらに、インタビューには「It's the usual thing, miserable lyrics and great pop」という言葉も見つけられ、個人的には「ああ、いつもどおりのマニックスだな(笑)」と安心したことを覚えています。

今回りリースされた「Orwellian」という楽曲も、前作『RESISTANCE IS FUTILE』(2018年)の流れを汲む落ち着いたポップチューン。連作となった11thアルバム『REWIND THE FILM』(2013年)および12thアルバム『FUTUROLOGY』(2014年)以降、落ち着いた作風とデジタル色を散りばめたロックをバランスよく配合させ、前作でそのスタイルがひとつ完成の域に達した感がありましたが、今作もその延長線上にあるスタイルになりそうなことは、この新曲と前後して公開されたトレーラー映像(で断片を耳にすることができる新曲群)からも想像に難しくありません。

ジョージ・オーウェルが著作で描いた極端な監視社会を意味するタイトルが、もはや近未来的というよりも現在とリンクするリアリティの強いものになっているのは皮肉以外の何ものでもありませんが、リリックビデオに掲載された歌詞もまたニッキーらしさに満ち溢れた内容で、メジャーデビュー30周年を迎えた現在もなお変わらぬ姿勢を貫いていることが窺えます。そうそう、これだよこれ。

前作はアルバムリリースまでに数ヶ月かけて新曲を小出しに配信しましたが、今作でも4曲前後の新曲を月イチペースで届けてくれそうな気がしています。あと、トレーラー映像では女性シンガー(SUNFLOWER BEANのジュリア・カミング)の歌声も耳にできるので、こちらにも注目したいところです。

 


▼MANIC STREET PREACHERS『ORWELLIAN』
(amazon:MP3

 

2021年3月16日 (火)

THE ANCHORESS『THE ART OF LOSING』(2021)

2021年3月12日にリリースされたTHE ANCHORESSの2ndアルバム。日本盤(輸入盤の国内流通仕様)は3月31日発売予定。

THE ANCHORESSはウェールズ出身のマルチ・インストゥルメンタリスト、キャサリン・アン・デイヴィスのソロプロジェクト。2013年から同名義での活動を開始し、2016年には初のアルバム『CONFESSIONS OF A ROMANCE NEVELIST』をリリースし、音楽誌『Prog』主催の音楽賞で新人賞を受賞しました。また、2017年にはポール・ドレイパー(ex. MANSUN)の1stアルバム『SPOOKY ACTION』で5曲を共作したほか、エンジニアとしても同作に参加。2018年にはキャサリン・AD名義でSIMPLE MINDSにも加入し、『WALK BETWEEN WORLDS』(2018年)でアルバムデビューも果たしました。

特に日本の音楽ファンの間で彼女の名前をよく目にする機会となったのが、彼女が長年にわたり熱狂的ファンだと公言してきたMANIC STREET PREACHERSの最新アルバム『RESISTANCE IS FUTILE』(2018年)収録曲「Dylan & Caitlin」にフィーチャリング・アーティストとして名を連ねたことでしょう。昨年は元SUEDEバーナード・バトラーとのコラボアルバム『IN MEMORY OF MY FEELINGS』(2020年)も発表しており、個人的にも大好きなMANICSやSUEDE、そしてMANSUNに関連するアーティストということで、その名前を常に意識していました。

プログ・ミュージック専門レーベルKscope Recordsから発表された本作は、キャサリン自身のプロデュースに加え、MANICSでお馴染みのデイヴ・エリンガと、マリオ・マクナルティ(デヴィッド・ボウイプリンス、MANICS)の2名をミキシングエンジニアに迎えて制作。全体的にダークさの漂う、ニューウェイヴ以降のアーティスティックなプログ・ロック/ポップという印象の1枚に仕上がっています。

レコーディングにはDURAN DURANやデヴィッド・ボウイとの共演で知られるスターリング・キャンベル(Dr)や、彼女が敬愛するMANICSのジェイムズ・ディーン・ブラッドフィールド(Vo)がゲスト参加。ジェイムズの歌は「The Exchange」にてしっかり楽しむことができます。シンセを多用したキラキラしたニューウェイヴ風ポップと、ピアノや弦楽器などの生音を全面に打ち出した耽美な楽曲が共存する世界観は、広意義でプログ・ロック/ポップと呼ぶに相応しい内容。かつ、90年代以降のオルタナロック/ブリットポップに触れてきたリスナーにはしっくり来る、「一聴して難しそうなことをやっているのに、実は非常に親しみやすい」楽曲で埋め尽くされており、良い意味で聴き手を選ばない1枚と言えるのではないでしょうか。

キャサリンの歌声も適度な色気と気だるさが共存しており、非常に心地よく響く。刺々しさこそ皆無ですが、不思議と刺さるものがあるのは、その洗練されたサウンドによるものが大きいのかもしれません。先に触れたMANICSやMANSUN(およびポール・ドレイパー)、そしてバーニー在籍時の初期SUEDEを通ってきたリスナーなら、間違いなくハマる1枚だと断言できます。中でもMANICSファンは同じウェールズ出身アーティストということもあり、必ず引っかかるものがあるはずです。

このアルバムでさらに知名度を高めることになるであろう傑作、ぜひこのタイミングに一度触れてみてほしいです。

 


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2020年8月22日 (土)

JAMES DEAN BRADFIELD『EVEN IN EXILE』(2020)

2020年8月14日にリリースされた、MANIC STREET PREACHERSジェイムズ・ディーン・ブラッドフィールド(Vo, G)の2ndソロアルバム。日本盤未発売。

2017年に映画『THE CHAMBER』のオリジナル・サウンドトラックをリリースしているジェイムズですが、あちらはインスト盤ということで、歌モノ・アルバムは2006年に全英22位のヒットを記録した『THE GREAT WESTERN』以来、実に14年ぶり。こちらのサイトでも取り上げた配信シングル「There'll Come A War」「Seeking The Room With The Three Windows」を6月末に発表したかと思うと、続いて7月初頭には「The Boy From The Plantation」を配信リリース。そこから1ヶ月強を経て、満を辞してのアルバム発売となりました。

本作は新たに立ち上がったレーベルMontyRayからの第1弾作品。ディストリビュートはインディーズのThe Orchardが行なっており、だから日本盤が出ないのか……と思ったのですが、よくよく調べるとこのThe Orchard、親会社はSonyのようなので、日本盤発売も夢ではないのかな?

さて、肝心の内容について……作品の成り立ちや概要はシングルのレビューで触れているので割愛。全11曲中1曲のみ、アルバムの題材となったヴィクトル・ハラの「La Partida」がカバーされています。また、本作は先の「There'll Come A War」を筆頭に「Under The Mimosa Tree」「La Partida」とインストナンバーが複数収録されているのも特徴で(厳密には完全なるインスト曲ではなく、〈Ah Ah Ah〉などのコーラス入り。歌詞・歌がないという意味でのインスト曲と捉えていただければ)、かつラテンやフォルクローレの要素が強い。これもヴィクトル・ハラの音楽性を考えれば至極納得のいく流れだと思います。

そういわれると、マニックス経由のリスナーは「ちょっとハードルが高いのでは?」と不安に駆られるかもしれません。心配ご無用、ちゃんとジェイムズらしさやマニックスの香りは存分に残されております。オープニングを飾る「Recuerda」や「The Boy From The Plantation」からは『EVERYTHING MUST GO』(1996年)『THIS IS MY TRUTH TELL ME YOURS』(1998年)を筆頭に、2000年代半ば前後のマニックス的要素が存分に感じられ、ちょっとしたフレージングやハーモニーに「あ、マニックス!」とニンマリできるはずです。

だって、マニックスのメロディメイカーが作っているんだもん。そこから外れるわけがない。シングルレビューにも書いたように、要所要素の味付けに70年代末のニューウェイヴからの影響が感じられるのも、マニックスでいったら『LIFEBLOOD』(2004年)前後の感触を思い出させることでしょう。と同時に、しっかりソロとしての前作『THE GREAT WESTERN』との共通項も見つけられる。思えば、この1stソロアルバムがあったから、その後のマニックスが『SEND AWAY THE TIGERS』(2007年)へとたどり着いたわけですから、すべてがつながっているわけですよ。

ヴィクトル・ハラの生涯に触発された楽曲はもちろんですが、できることならニッキー・ワイヤー(B)の実兄パトリック・ジョーンズが書いた歌詞もじっくり理解したいところです。そういう意味でも、ぜひ対訳の付いた日本盤発売に期待したいところですが……いつまでも待っています!

ミュージシャンとして、ソングライターとして、そしてボーカリストとしてさらなる成熟期を迎えたジェイムズ。こんなディープで味わい深い傑作を経て、次はバンドでどんな作品を届けてくれるのか。コロナ禍もあり、おそらく新作は来年以降になるかと思いますが、少なくともこのソロアルバムを聴いたらみんな無駄に期待したくなるんじゃないでしょうか。うん、素晴らしい1枚です。

 


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2020年6月28日 (日)

JAMES DEAN BRADFIELD『THERE'LL COME A WAR / SEEKING THE ROOM WITH THE THREE WINDOWS』(2020)

MANIC STREET PREACHERSのフロントマン、ジェイムズ・ディーン・ブラッドフィールドの最新デジタルシングル。

ジェイムズはこれまでソロとして、歌モノアルバム『THE GREAT WESTERN』(2006年)と2016年公開のサバイバル映画『THE CHAMBER』(原題)のサウンドトラックアルバム(2017年)を発表しており、『THE GREAT WESTERN』に続く2ndソロアルバムを今年後半にリリース予定。このデジタルシングルに収められた2曲は、その新作アルバムからのリードトラックになるそうです。

事前情報によると、今回の2ndソロアルバムはMANICSでの盟友ニッキー・ワイヤー(B)の実兄であり、有名なウェールズ出身の詩人および劇作家のパトリック・ジョーンズが作詞を担当し、その他の楽曲制作やプロデュースはジェイムズが担当。アルバムはチリのミュージシャンであり演劇家・演出家、政治活動家のビクトル・ハラの生涯に触発されたもので、今回リリースされた2曲についてジェイムズは「ひとつはビクトル・ハラの喜びを示し、もうひとつは彼の恐れを示している」と語っています。

「There'll Come A War」はピアノの印象的なフレーズを軸に進行していく非常にシリアスな作風で、楽曲の質感やサウンドのテイストを過去のMANICS作品で示すと『LIFEBLOOD』(2004年)にもっとも近いのかなと。前作『THE GREAT WESTERN』は、続くMANICSの『SEND AWAY THE TIGERS』(2007年)に与えた影響が大きかったですし、ここでのスタイルがその後のMANICSにとっての大枠になったことを考えると、その対比も興味深いものがあります。ジェイムズも声を張り上げて歌うというよりは、厳かなサウンドスケープをバックに、囁くように歌う。大人になったというか、良い意味で“老いた”、“老成した”ジェイムズを味わうことができると思います。

一方、「Seeking The Room With The Three Rooms」はバンドサウンドとシンセのメロディが印象的なインストナンバー。このへんはMANICSのアルバムにポツンと置かれていても違和感なさそうなテイストですが、ジェイムズらしい直線的なギターロックとニューウェイヴ経由のひねくれ感、彼ならではのポップでキャッチーなメロディ(をギターで奏でる)、この3つが融合することで70年代後半のデヴィッド・ボウイ的な印象も与えてくれます。

この2曲だけでも、新作がかなり意欲的な内容であることが伺えます。2ndソロアルバムの正式なリリース日程は今のところ明かされていませんが、おそらく9〜10月くらいになるのかなと。てっきりMANICSの新作に取り掛かると思い込んでいたので、このソロ新作はうれしい誤算。無駄に期待を大きくして、リリースを待ちたいと思います。

 


▼JAMES DEAN BRADFIELD『THERE'LL COME A WAR / SEEKING THE ROOM WITH THE THREE WINDOWS』
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