カテゴリー「Marilyn Manson」の19件の記事

2022年3月19日 (土)

V.A.『SPAWN: THE ALBUM』(1997)

1997年7月29日にリリースされた、映画『スポーン』のサウンドトラックアルバム。日本盤は同年9月10日発売(日本盤はオリジナルアートワークを採用)。

本作は『JUDGEMENT NIGHT: MUSIC FROM THE MOTION PICTURE』(1993年)のように、当時旬のロック/メタルバンドと先鋭的なクラブミュージックアーティストを組み合わせた、コラボ曲のみで構成されたコンピレーションアルバムで、純粋なサウンドトラック盤とは異なる仕様となっています。また、『JUDGEMENT NIGHT: MUSIC FROM THE MOTION PICTURE』がメタル/グランジ系バンドとヒップホップアーティストとのコラボレーションが中心だったのに対し、この『SPAWN: THE ALBUM』ではメタル/グランジ/オルタナティヴロック/ニューメタル勢とエレクトロニカ/テクノ系アーティストとのコラボで構成されています。

楽曲の大半はジャンルの異なる2組との共作で制作されたものですが、中にはMETALLICA「For Whom The Bell Tolls」をDJスプーキーがリミックスしたテイクや、ORBITALの1990年のヒット曲「Satan」をカーク・ハメット(G/METALLICA)がギタリストとして参加した形での再録バージョンも含まれており、すべてが純粋な新曲とは言えません。ですが、いろんな変遷を経た2022年の耳で聴くとどれも非常に親しみやすいテイクばかりで、リリース当時よりも今のほうがフィットするような印象を受けます。

ロック系からの参加アーティストはFILTERMARILYN MANSON、カーク・ハメット、KORN、BUTTHOLE SURFERS、METALLICA、STABBING WESTWARD、MANSUNトム・モレロRAGE AGAINST THE MACHINE)、SILVERCHAIR、ヘンリー・ロリンズ、INCUBUSSLAYER、SOUL COUGHING。テクノ系からはTHE CRYSTAL METHOD、SNEAKER PIMPS、ORBITAL、THE DUST BROTHERS、モービー、DJスプーキー、ジョシュ・ウィンク、808 STATE、THE PRODIGY、ヴィトロ、ゴールディ、DJグレイボーイ、ATARI TEENAGE RIOT、ロニ・サイズとかなりバラエティに富んだ面々が揃っています。

FILTER×THE CRYSTAL METHOD「(Can't You) Trip Like I Do」やマンソン×SNEAKER PIMPS「Long Hard Road Out Of Hell」、KORN×THE DUST BROTHERS「Kick The P.A.」などはそれぞれのバンドのカラーが強く、このままオリジナルアルバムに入っていたとしても不識じゃない仕上がり。ドラムンベース調に味付けされたMETALLICA×DJスプーキー「For Whom The Bell Tolls (The Irony Of It All)」も当時は「……へっ?」と困惑したものの、今聴くと全然アリに思えるから不思議。当時全米1位を記録したノリノリのTHE PRODIGYは「One Man Army」でトム・モレロをギターに迎えたことで、非常にロック色濃厚なトラックを楽しむことができます。

かと思えば、当時はまだブレイク前だったINCUBUSは、早くも独特のテイストを持つ「Familiar」で個性を発揮しまくっているし、SLAYER×ATARI TEENAGE RIOTという最強&最狂の組み合わせによる「No Remorse (I Wanna Die)」では前のめりなアゲアゲドラムンベースを堪能できる。曲によって出来のまちまちはあるものの、全体を通して非常に気持ちよく“踊れる”ラウドロックアルバムではないかと思っています。

とはいえ、リリース当時は『JUDGEMENT NIGHT: MUSIC FROM THE MOTION PICTURE』ほどのインパクトは与えられず、かつメタル寄りリスナーからはあまり歓迎された記憶もなかったかな。チャート的にはBillboard 200(全米アルバムチャート)で最高7位まで上昇し、50万枚以上のヒットになっているので、ここ日本では“早すぎた”1枚だったのかもしれません。

現在のミクスチャーロック的スタンスを考えると、90年代に映画のサウンドトラックとして制作された『JUDGEMENT NIGHT: MUSIC FROM THE MOTION PICTURE』とこの『SPAWN: THE ALBUM』って、実は非常に重要な役割を果たした作品集だと思うんですよね。日本では評価は低いのかもしれないけど、このタイミングだからこそ改めて触れておきたい重要作だと断言しておきます。

 


▼V.A.『SPAWN: THE ALBUM』
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2020年9月13日 (日)

MARILYN MANSON『WE ARE CHAOS』(2020)

2020年9月11日にリリースされたMARILYN MANSONの11thアルバム。

デビュー時から在籍したInterscope Recordsを離れてからの3作(2012年の『BORN VILLAIN』、2015年の『THE PALE EMPEROR』2017年の『HEAVEN UPSIDE DOWN』)はどれも悪くないものの、往年の作品と比べると地味と言わざるを得ない内容でした。とはいえ、個人的には映画音楽を中心に手がけるタイラー・ベイツとタッグを組んだ直近2作のディープさは嫌いじゃなかったんですよね。でも、以前のように何度もリピートしたくなる作品でもなかった(前作はいい線いってたけど、数ヶ月で飽きてしまったし)。要は、MARILYN MANSONというバンド、そしてマリリン・マンソンというアーティストに何を求めるかで、近作の評価は大きく二分したのかもしれません。

で、前作『HEAVEN UPSIDE DOWN』から3年というスパンで届けられた本作は、新たなコラボレーターとしてシューター・ジェニングスを共同プロデューサーに迎えて制作した、心機一転の意欲作。シューターはカントリーやサザンロックを中心に手がけてきたアーティスト/プロデューサーですが、マンソンと彼はブライアン・イーノ期のデヴィッド・ボウイが好きという共通の趣味があり、そこで意気投合して2年前から本作に向けて準備を進めていたとのこと。楽曲制作およびレコーディングはコロナ禍に突入する前に終えており、内容的にはこの春以降の生活や環境は反映されていないようです。

さて、気になる内容ですが……リードトラック「We Are Chaos」がマンソンの諸作中もっともポップでキャッチーでわかりやすいという、異色の仕上がりだったので、おそらくそういう「わかりやすさ」に軸を置いた作品になるんだろうなと想像していたら、やはりそのとおりでした。オープニングの「Red Black And Blue」こそ従来のおどろおどろしさを残しているものの、全体的には先の「We Are Chaos」を中心にシンプルでわかりやすく、かつキャッチーな楽曲で占められています。とはいえ、そこはマンソンのこと、ヘヴィな音像やダークさはそのまま残されており、従来の「らしさ」は損なわれていません。むしろ、過去3作の延長線上にありながらキャッチーさだけを強めた、そんな印象すら受けます(ただ、地味さは過去イチですけどね)。

もはや90年代〜2000年代前半までのスタイルに戻ることはないようです。が、本作に限っては90年代の名作『MECHANICAL ANIMALS』(1998年)との共通点も至るところに見え隠れするんですよね。それが「イーノ期のボウイ」というキーワードでつながっているものなのかどうかはわかりませんが、あながち間違っていないような気もします。

あと、近作同様に本作もバンドの作品というよりはソロ色の強い作風かなと。特に日本盤ボーナストラックとして追加収録された「We Are Chaos」「Broken Needle」のアコースティックバージョンを聴くと、もはやマンソンはそれでいいような気がします。

願わくば、もう少し冒険的(というかアヴァンギャルド)なスタイルに挑戦してもらいたいところですが、昨年からのカントリー寄り/枯れたスタイルというのはもはや年齢的なものも大きいんでしょうか。ライブではあれだけバカやるんだから、音楽的にももうひと花咲かせてもらいたいんですが……なんて辛いことを言いながらも、本作はここ数作の中ではもっともリピートしそうな平均点以上、むしろ限りなく90点に近い高品質な1枚だと断言しておきたいと思います。初聴からこんなにリピートしたマンソンのアルバム、いつ以来だろう……。

 


▼MARILYN MANSON『WE ARE CHAOS』
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2020年5月 1日 (金)

MARILYN MANSON『HOLY WOOD (IN THE SHADOW OF THE VALLEY OF DEATH)』(2000)

2000年11月にリリースされた、MARILYN MANSONの4thフルアルバム。

グラムロック路線へとシフトし全米1位を獲得した前作『MECHANICAL ANIMALS』(1998年)から2年ぶり、同作を携えたツアーの模様を収めたライブアルバム『THE LAST TOUR ON EARTH』(1999年)から数えても1年ぶりと、この時期のマンソンはかなり精力的なイメージがあります。

ただ、1999年4月にアメリカで起こったコロンバイン高校銃乱射事件の影響(犯人の2人がマンソンのファンだったというデマ)もあり、さまざまなメディアやキリスト教保守派から糾弾されるというネガティブキャンペーンもあり、その音楽が正当な評価をされなかったのもこの時期の特徴かなと。

そんな時期に制作された本作は、『ANTICHRIST SUPERSTAR』(1996年)から始まった三部作構想のラストを飾る1枚。物語的には本作を起点にさかのぼっていく形になりますが、サウンド的には過去2作(『ANTICHRIST SUPERSTAR』『MECHANICAL ANIMALS』)のいいとこ取りという、おどろおどろしさを残しつつも全体的にはキャッチーという仕上がりです。

元々はアルバムに基づき、サブタイトルにある『IN THE SHADOW OF THE VALLEY OF DEATH』と題した映画を制作する予定もあったようですが、上記のようなトラブルに巻き込まれたこともあり、映像化は断念。とはいえ、トゥイギー・ラミレズ(B)やジョン5(G)といったメンバーの尽力もあり、1曲1曲がコンパクトな仕上がりで親しみやすく、楽曲面ではかなり恵まれていた印象があります。事実、シングルカットされた「Disposable Teens」(映画『ブレアウィッチ2』主題歌)や「The Fight Song」、「The Nobodies」はどれもキャッチーで、現在までライブの定番曲として親しまれているものばかりですしね。

アルバムは4つのパートから構成されているのですが、個人的にはディープさを増していく第2パート「D: The Androgyne」(M-5「Target Audience (Narcissus Narcosis)」〜M9「A Place In The Dirt」)、そして第3パート「A: Of Red Earth」(M-10「The Nobodies」〜M-14「Burning Flag」)あたりが本作のキモかなと思っており、『MECHANICAL ANIMALS』大好きマンとしては同作の流れを良い形で引き継いだこのあたりのパートは大好物だったりします。

本作をキャリア最高峰のひとつに挙げるリスナーも多いようですが、過去2作の良い部分をバランスよく内包するという意味では確かにそのとおりかと。個人的には好みの問題で、前作のほうが一歩上だったりするものの、この三部作は3枚まとめて楽しむことで見えてくるものも多いので、ぜひマストで聴いていただきたいところです。

ちなみに、本作は最初に書いたネガティブな流れもあってか、全米13位とチャート的にはかなり数字を落とす結果に。続く5thアルバム『THE GOLDEN AGE OF GROTESQUE』(2003年)では再び全米1位を獲得していることを考えると、つくづく不憫なアルバムだなと悲しくなってしまいます。

 


▼MARILYN MANSON『HOLY WOOD (IN THE SHADOW OF THE VALLEY OF DEATH)』
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2019年1月23日 (水)

POWERMAN 5000『TONIGHT THE STARS REVOLT!』(1999)

POWERMAN 5000が1999年7月に発表した、メジャー2作目のオリジナルアルバム(通算3作目。といっても、1997年のメジャー1作目『MEGA!!! KUNG FU RADIO』は、1995年にインディーズから発表した『THE BLOOD-SPLAT RATING SYSTEM』に曲追加&曲順変更したものなので、今作は事実上の2ndアルバムなのですが)。

フロントマンのスパイダー・ワン(Vo)がロブ・ゾンビの実弟であることでおなじみのこのバンド。初期はファンクメタル、ラップメタル的スタイルでしたが、この『TONIGHT THE STARS REVOLT!』で“らしさ”を確立したといっても過言ではないでしょう。リードトラックとしてMVも制作された「When Worlds Collide」のヒットもあり、アルバムは全米29位まで上昇。セールスも100万枚を超え、彼らの代表作となりました。

打ち込みを同期させた適度なインダストリアルサウンドと、当時主流になり始めたニューメタルサウンドが融合した彼らのスタイルは、ROB ZOMBIEのそれにかなり似たものがあるものの、かといってまったく一緒というわけではない。POWERMAN 5000のほうがラップメタル的なボーカルスタイルやバンドアレンジが強めなこともあって、うまく差別化ができていたのかなと思います。

とにかく、「When Worlds Collide」の完成度が尋常じゃない。こりゃウケるわ……って今聴いて思うぐらいに、本作の中でも飛び抜けている。このキャッチーさ、何者にも変えがたいですよね。

かと思えば、「Blast Off To Nowhere」のハードコアとサイケデリックをミックスしたモダンなテイストの楽曲もある。この曲、ロブ・ゾンビがゲスト参加しており、らしいシャウトを聴かせてくれます。そのほかにも、THE CARSのカバー「Good Time Roll」にはLIMP BIZKITのDJリーサルがスクラッチで、「Watch The Sky For Me」には当時MARILYN MANSONのドラマーだったジンジャー・フィッシュがピアノでそれぞれ参加。さらに、アメリカの俳優マラキ・スローンは「An Eye Is Upon You」と「Watch The Sky For Me」でナレーションを聞かせてくれます。無駄に豪華だな。

実は本作、プログラミングおよびミックスでスコット・ハンフリーが参加しているんですよね。スコットといえば、WHITE ZOMBIEやROB ZOMBIEでバンドの良き理解者として手腕を発揮しているアーティスト/エンジニア。このへん含め、周りが本気でこのバンドを売ろうとしているのが伺えます。実際売れてよかったね。

……なんて書いてきたけど、実はこのバンドに対しては本気で「When Worlds Collide」のイメージしかなくて。アルバムも20年ぶりに聴き返したけど、初めて聴くような錯覚に陥ったほど。それくらい印象が薄かったんですよ、ハハハ……。

けど、このバンドの場合、ここで個性が固まったと思ったのに、これ以降毎回そのスタイルを変化させるのがいけなかった。次作『ANYONE FOR DOOMSDAY?』(2001年)なんて、チャートインすらしなかったからね。実兄の幻影を追わず、どんどん新しいことにトライしていく姿勢はよかったんだけど。



▼POWERMAN 5000『TONIGHT THE STARS REVOLT!』
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2019年1月13日 (日)

祝ご成人(1998年4月〜1999年3月発売の洋楽アルバム20選)

新成人の皆さん、おめでとうございます。2014年度に初めて執筆したこの“洋楽版成人アルバム”企画、今回で5回目となります。毎年この時期にこの企画をやることで、温故知新というよりは「自分の20年前の音楽ライフはどんなだったか」を思い返す上で非常に重要なコンテンツになりつつあります。

しかも、今回は当サイトの前身サイトがスタートした時期(1998年12月)が被っていることから、選出時もいろいろ感慨深いものがあります。いやあ、長く続けるもんだ。

さて、この企画の説明です。この1月に成人式を迎えたの皆さんが生まれた年(学年的に1998年4月〜1999年3月の期間)にリリースされた洋楽アルバムの中から、個人的思い入れがある作品のうちSpotifyやApple Musicで試聴可能な作品を20枚ピックアップしました。今年度は残念ながら、選出した20枚すべてがSpotifyおよびApple Musicに揃っているものではありませんでした(各サービスともに1枚足りないという)。

でも、どれも名盤ばかりですし、もしまだ聴いたことがないという作品がありましたら、この機会にチェックしてみてはどうでしょう。特に、現在20歳の方々は「これ、自分が生まれた年に出たんだ」とかいろいろ感慨深いものがあるような気もしますし。ちなみに、作品の並びはすべてアルファベット順です。(2014年度の新成人編はこちら、2015年度の新成人編はこちら、2016年度の新成人編はこちら、2017年度の新成人編はこちらです)


ASIAN DUB FOUNDATION『RAFI'S REVENGE』(1998年11月発売)(Spotify

AT THE DRIVE-IN『IN/CASINO/OUT』(1998年8月発売)(Spotify)(レビュー

BEASTIE BOYS『HELLO NASTY』(1998年7月発売)(Spotify

BLUR『13』(1999年3月発売)(Spotify)(レビュー

BOARDS OF CANADA『MUSIC HAS THE RIGHT TO CHILDREN』(1998年4月発売)(Spotify

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2018年10月31日 (水)

MARILYN MANSON『SMELLS LIKE CHILDREN』(1995)

1995年10月にリリースされた、MARILYN MANSONのEP。デビューアルバム『PORTRAIT OF AMERICAN FAMILY』(1994年)と、続くメガヒット作『ANTICHRIST SUPERSTAR』(1996年)をつなぐという意味でも、またバンドがブレイクを果たすという点においても非常に重要な1枚となっています。

EPとはいいながらも、16曲(トラック)も用意されており、トータルランニングは54分超え。ボリューム的には完全にフルアルバムのそれなのですが、なぜ本作をEP扱いにしたのか、その理由は16トラック中歌モノが8トラック、うち4トラックが前作『PORTRAIT OF AMERICAN FAMILY』収録曲のリミックス、1トラックは『PORTRAIT OF AMERICAN FAMILY』収録曲のリテイクバージョン、残り3トラックは新録のカバー曲という内訳だから。ほかの8トラックは曲をつなぐSEやコラージュ的インストとなっています。

ですが、これがオリジナルアルバム並みに楽しめる内容でして。どんよりとしたダークさが全体を覆い、SEを多用したことにより聴きようによってはホラー映画のサウンドトラックのようにも聞こえる。その作風がMARILYN MANSONというバンド、およびマリリン・マンソン(Vo)のキャラクターを見事に表しており、本作で日本デビューを飾ったという点においてはそのイメージ作りに大きな貢献を果たしたのではないでしょうか。

そうそう、本作には現在まで必ず演奏されているEURYTHMICS「Sweet Dreams (Are Made Of This)」の名カバーが収録されているほか、初期のライブには欠かせなかったパティ・スミス「Rock 'N' Roll Nigger」、スクリーミン・ジェイ・ホーキンス「I Put A Spell On You」と、ダークで彼ららしいアレンジが施されたカバーが楽しめます。

リミックスも原曲を知らなければ「こういうものなんだ」と思ってしまうほどに自然な作り。新録のカバー曲含め、MARILYN MANSONの次章が大いに期待できるものであることが、この1枚から存分に感じられるはずです。

それもこれも、デビュー時からのプロデューサーであるトレント・レズナー(NINE INCH NAILS)とのコラボレーションが見事にハマったからこそ。のちの不仲を考えると、このあたりから『ANTICHRIST SUPERSTAR』くらいまでがまさに奇跡のタイミングだったのかもしれませんね。

本作はEPながら全米31位という好記録を樹立(前作はチャートインせず)。ミリオンセールスを記録しています。続く『ANTICHRIST SUPERSTAR』での大ブレイクへの下地が、ここで完全に出来上がったわけです



▼MARILYN MANSON『SMELLS LIKE CHILDREN』
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2018年3月15日 (木)

2WO『VOYEURS』(1998)

ロブ・ハルフォードが1998年3月(日本では2月)、2WO(=TWO)名義でリリースしたアルバム。JUDAS PRIEST脱退後、“PANTERA以降”を彷彿とさせるサウンドのFIGHTでスタジオアルバム2枚を発表後、自然消滅。その延長として、トレント・レズナー(NINE INCH NAILS)をエグゼクティブプロデューサーに迎え制作された本作は、トレントが主宰するNothing Recordsからリリースされました。

トレントのプロデュースというだけで、生粋のメタルファンは嫌な予感しかしないわけですが、聴いてもらえばおわかりのように本作は完全なるインダストリアルメタルアルバム。NINE INCH NAILSのような変態性も過激さもなく、ギターを軸にしつつもダークでモダンな味付けが施された平坦な楽曲を、ロブが低〜中音域のみで歌うという、メタラーにはある種FIGHT『WAR OF WORDS』(1993年)よりも拷問的な1枚。

が、しかし。NINE INCH NAILSやMARILYN MANSONなどを当時から普通に愛聴していた自分のような偏った人間には、このアルバムはそこまで悪いものには思えなかったんですよね。そりゃあ聴く頻度はFIGHTやJUDAS PRIESTの諸作品より明らかに低かったですけど、発売から20年経った今聴くと「……あれ、そこまで悪くないかも?」と思えるのですから、本当に不思議です。

アルバムを直接的にプロデュースしたのは、以降もロブのソロ活動に関わるボブ・マーレットと、SKINNY PUPPYやMARILYN MANSONとの仕事で知られるデイヴ・オギルヴィの2名。なるほど、音を聴けば納得のいく布陣ですね。で、アルバムでギターを弾いているのがジョン・オウリーなる人物。この人、本作をリリースしたしばらくあとにMARILYN MANSONに加入し、ジョン・5と名乗るようになります……そう、今やROB ZOMBIEなどで活躍中のあのジョン・5です。それを知ると、本作がなるべくしてこうなったというのが頷けるはずです。

ですが、ロブ自身は本当にこれをやりたくて……やりたかったんでしょうね、なんだかんだで新しモノ好きですから。思えば、80年代半ばにストック・エイトケン・ウォーターマンをプロデューサーに迎えようと考えたのもロブですし、いち早くPANTERAの面々とレコーディングして初ソロ曲「Light Comes Out Of Black」を発表したりするような人ですから。ロブが当時NINE INCH NAILSやトレントが手がけるMARILYN MANSONを聴いてないわけがない。

グランジ以降のヘヴィロック「I Am A Pig」を筆頭に、NIN的ないかがわしさを持つ「My Ceiling's Low」、ドラムンベース的テイストを含む「If」、90年代半ばに流行ったオルタナロック的な「Deep In The Ground」、ダークなインダストリアルナンバー「Bed Of Rust」など風変わりな曲もいくつか含まれているものの、全体的にはデジタル風味のヘヴィロック。それをロブが落ち着いた歌い方で聴かせるから、メタルファンには不評なんでしょうけど、当時のMARILYN MANSONの諸作を楽しむ耳で聴けば本当にすんなり入っていける。うん、今聴くと20年前よりも素直に楽しめるんですよ。まあ完全に珍味ですけどね。

本家プリーストも『JUGULATOR』という珍味を発表した1997〜98年というタイミング、ある意味では変革期だったんでしょうけど、あれはあれで面白かったなぁと最近改めて実感しているところです。ゴスメイクして打ち込みバックに歌うロブ御大、観てみたかったなぁ。



▼2WO『VOYEURS』
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2018年3月 7日 (水)

A PERFECT CIRCLE『THIRTEENTH STEP』(2003)

2003年9月に発表された、A PERFECT CIRCLEの2ndアルバム。ご存知のとおり、このバンドはTOOLのメイナード・キーナン(Vo)が、バンドのギターテクを勤めていたビリー・ハワーデル(G)という才能と出会ったことで誕生し、TOOLが所属レーベルとの裁判で思うように活動的なかった2000年に1stアルバム『Mer de Noms』を発表しています。その経緯などについては、2003年10月に執筆した同作のレビューに詳しいので、そちらに譲ります。

さて、前作レビューを執筆したあと、この2ndアルバムについて書くことができなかったので、14年ぶりの新作が今年4月に発売されるこのタイミングに改めて書いてみたいと思います。

前作のときにも書いたように、A PERFECT CIRCLEはメイナードの“ソロプロジェクト”ではないし、TOOLとは完全に別モノ。むしろ、ビリーという才能の塊と遭遇したことで、メイナードの創作意欲がTOOLとは別の形で爆発した、新しいバンドと受け取るほうが正しい解釈だと思っています。

なので、そのサウンドもTOOLのようにプログレッシヴな展開をするものとは別次元で展開されており、特に本作はヘヴィな印象が強かったデビュー作『Mer de Noms』とは若干異なるカラーを打ち出し始めています。

ちなみに、当時のバンドメンバーはメイナード、ビリーのほか、ジョシュ・フリース(Dr)、当時MARILYN MANSONを脱退した“トゥイギー・ラミレズ”ことジョーディー・ホワイト(B)、元THE SMASHING PUMPKINSのジェイムズ・イハ(G)。イハはレコーディング後にバンドに合流しており、レコーディングにはNINE INCH NAILSなどで知られるダニー・ローナー(G)が参加しています。

このメンツから想像できる音……ではないかもしれません。特に本作は美しさや優しさの側面が強まっているため、ダイナミックかつヘヴィなアンサンブルを得意とするこのメンバーの特徴を抑えめに、あくまで曲の持つ世界観を再現することに徹したのではないかと思われます。

だからといって、ヘヴィなサウンドが皆無かというとそんなことはありません。8分近くにおよぶオープニングトラック「The Package」は序盤こそ穏やかですが、曲が進むにつれて影に隠れていたヘヴィさが顔を見せ始めますし、不穏なギターリフが印象的な「Pet」のような曲も含まれていますしね。それ以外にも、各曲の至るところにそういった要素は散りばめられているので、前作から激変したというわけではありません。

でも、本作の軸になる部分は“そこ”ではない、と。浮遊感の強いサウンドメイキングやアレンジ、TOOLでは聴くことができないメイナードの異なる表情(声)、そして鬼才ビリー・ハワーデルのソングライティング。これらが三位一体となってリスナーの前に姿を現す。油断してると魂を持っていかれそうになるけど、信用して心を預けてみたら予想外の気持ち良さが味わえる、そんなアルバムではないでしょうか。非常に抽象的な表現が多い気がしますが、そういう抽象的なものこそがA PERFECT CIRCLEというバンドには合っているような気がします。

 


▼A PERFECT CIRCLE『THIRTEENTH STEP』
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2017年10月25日 (水)

MARILYN MANSON『HEAVEN UPSIDE DOWN』(2017)

前作『THE PALE EMPEROR』(2015年)から約2年10ヶ月ぶりに発表された、MARILYN MANSON通算10作目のオリジナルフルアルバム。プロデュースは前作からバンドに携わるようになった、映画音楽をメインに手がけるタイラー・ベイツが担当しており、曲作りも前作同様にタイラーがすべてを手掛けております。残念ながら、トゥイギー・ラミレズ(B)は今作も制作には携わっていないようです。

今回はマンソンの名を良くも悪くも一躍有名にした名盤『ANTICHRIST SUPERSTAR』(1996年)『MECHANICAL ANIMALS』(1998年)をミックスしたような、ヘヴィかつグラマラスな内容。前作が地味で落ち着いていて、どこかデヴィッド・ボウイ的なソロアルバムテイストだったこともあり、このある種の原点回帰は喜ばしい限り。とはいえ、完全に過去2作を踏襲したものかと言われると……ニュアンス的なものといいましょうか、サウンドの方向性や質感が過去2作のそれを踏まえたもの、という言い方が正しいのかもしれません。

どの曲もダークで攻撃的ではあるものの、基本となるのはミディアム〜スローナンバー。ダークの質感は90年代のものというより、現代的と呼んだほうがいいのかな。そしてメロディは非常にキャッチーで、そのへんは『ANTICHRIST SUPERSTAR』というよりは『MECHANICAL ANIMALS』に近い……んだけど、あそこまで作り込まれたポップ感はないかも。どこか突き放した感の強いメロディという点では、前作の延長線上にあると思います。

とはいえ、近年でもっともわかりやすい内容だし、我々がイメージするMARILYN MANSON像にもっとも近い1枚かな。ヘヴィでグラマラスでゴシック、そしてポップ。思えばあれから20年経ってるんだもの、マンソンだってあと2年もすれば50代に突入ですよ。そこも踏まえつつ、本作は時代が求める音と真正面から向き合きながら、自身の加齢ともしっかり向き合った意欲作なんじゃないかと思います。

あと、個人的には今後の彼に「Saturnalia」みたいなBAUHAUS路線(路線っつうか、まんまですが。笑)にもどんどんトライしてもらいたいな。今のテイストとすごく合ってると思うので、下手に過去の遺産を引っ張り出すよりも、こっち側で極端に地味でダークな作品にトライするのもありかと。

最近はライブ中、事故に遭遇したりと踏んだり蹴ったりのマンソン先生。このアルバムを携えて、また元気に竹馬に乗る姿を日本のファンにも見せてほしいところです。

P.S.
……なんてことを書いた数時間後に、トゥイギー・ラミレズ解雇というニュースが。理由が理由だけに……嗚呼。

 


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2017年9月30日 (土)

MARILYN MANSON『THE PALE EMPEROR』(2015)

2015年1月に発表された、MARILYN MANSON通算9作目のスタジオフルアルバム。今作から新たなパートナーとして、映画音楽(特にアクションやホラー)を中心に手がけてきたアーティスト、タイラー・ベイツを迎えて制作。全作曲とドラム以外の大半の楽器を彼が手がけ、ドラマーはTHE DILLINGER ESCAPE PLANなどで活躍したギル・シャロンが担当しています。つまり、“永遠の相棒”ことトゥイギー・ラミレズ(B)が本作には不参加なのです(彼は本作制作時、別の活動で忙しかったんだとか)。

正直、最初に聴いたときの感想は「非常に地味」。これはマンソン自身が作曲にノータッチというのも大きいのでしょうが、楽曲自体が過去のマンソンの作品と比べて非常にブルーステイストが強いというのも大きいのかもしれません。

そのシンプルさが、例えば90年代のもっとも派手だった時期の作品と比べて違和感を生み出しているのは確か。では、本作が駄作なのかと言われると、それもちょっと違う。落ち着いた印象だけど、これも間違いなくMARILYN MANSONの作品なんですよね。

マンソンはかつて『EAT ME, DRINK ME』(2007年)というアルバムを発表していますが、同作はそれまでの彼の作品の中でももっとも“ソロアルバム”的趣向が強かったもの。ジョン・5という片腕的スーパーギタリストが抜けたあとの作品というのもあって、やはり地味というイメージが強い1枚でした。

で、今作『THE PALE EMPEROR』はその『EAT ME, DRINK ME』を聴いたときの印象に、非常に似ているのです。もちろんあの頃と状況はまったく別ですし、やろうとしていることも異なるはず。なのに、こんなにもイメージが近いのは、きっとマンソン自身が現在進もうと考えている方向が、『EAT ME, DRINK ME』のときと似ているのかも……なんて思ったりして。考えすぎでしょうかね。

マンソンが初組み合わせのソングライター、しかも映画音楽を手がける作曲家が書いた楽曲を歌うという企画。それ自体は非常に面白い試みです。もし本作が、何か架空の映画やショートムービーのサウンドトラック、あるいはイメージソング集として制作されていたら、また評価は変わったかもしれません。けど、そんな妄想を抜きにしても本作は“意外とクセになる”良盤だと思います。

デラックス盤にはボーナストラックが3曲追加されており、それぞれアルバム本編に収録された「Third Day Of A Seven Day Binge」「The Mephistopheles Of Los Angeles」「Odds of Even」のアコースティックバージョンになります。こっちを聴くと、実はマンソンはこれがやりたくて本作を作ったんじゃ……なんてことを邪推したくなりました。それくらい、オマケにしておくには勿体ない仕上がりかなと。

それと、本作のオープニングトラック「Killing Strangers」は昨年秋にNHK BSプレミアで放送されたドラマ『獄門島』のテーマソングとして使用されました。僕もこの番組は観ましたが、リメイクされた『獄門島』の世界観にぴったりだったと思います。歌詞のテーマ的にも、あの物語に合うものがあるんですよね。

 


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