3RD SECRET『3RD SECRET』(2022)
2022年4月9日にデジタルリリースされた3RD SECRETの1stアルバム。現時点でのフィジカルリリース未定。
突如発表され、今週後半からさまざまなWEB媒体で騒がれ始めた3RD SECRET。VOID、SOUNDGARDEN、NIRVANA、PEARL JAM、そしてGIANTS IN THE TREESとワシントン/シアトル・シーンの1980〜2010年代の歴史を象徴するようなアーティストたちが一堂に会したスーパーバンドなのですが、その存在はこれまで告知されることはなく、このリリースを持っていきなり我々の前に現れたわけです。
メンバーはクリス・ノヴォセリック(B/ex. NIRVANA、GIANTS IN THE TREES)、キム・セイル(G/SOUNDGARDEN、ex. AUDIOSLAVE)、マット・キャメロン(Dr/PEARL JAM、SOUNDGARDEN、HATER)という90年代のグランジ界隈を席巻した面々に、80年代前半のDCハードコア界伝説のバンドVOIDのババ・デュプリー(G/マット・キャメロンのHATERにも参加)、クリスのサイドプロジェクトGIANTS IN THE TREESの一員でもあるジリアン・レイ(Vo)&ジェニファー・ジョンソン(Vo)という6人編成。楽器隊のメンツからどんなエグい音が飛び出すのかとワクワクしつつも、女性ツインボーカルという構成からまったく想像がつかなくなったりと、非常に想像力を掻き立てるバンドなんです。しかも、アルバムの共同プロデューサー&エンジニアが、かのジャック・エンディノ(シアトルのバンドSKIN YARDのギタリストにして、SOUNDGARDEN『SCREAMING LIFE』、MUDHONEY『SUPERFUZZ BIGMUFF』、NIRVANA『BLEACH』などのプロデュースで有名)ですからね。期待しないわけがない。
いざアルバムに触れてみると……アルバム冒頭を飾る「Rhythm Of The Ride」のオルタナフォーク的世界観にいきなり打ちのめされます。なんぞ、このサイケデリック感!? ああ、確かにSOUNDGARDENにもNIRVANAにもこのタッチ、あったもんな。女性Voということもあり、どこかTHE VASELINESを彷彿とさせるものもあるし。予想の斜め上を行く意表をついたオープニングに呆気にとられるものの、続く「I Choose Me」での王道グランジ/オルタナロックサウンドに「そうそう、これこれ!」と膝を叩くのでした。
アルバムはこのように、オルタナフォークとグランジロックの二極で進行していきます。キム・セイルのドロドロしたギタープレイを存分に活かした「Lies Fade Away」のようにグランジリスナーを納得させるナンバーもありながら、むしろ印象に残るのは「Live Without You」のようにフォーキーでメロディアスな楽曲群。このスタイルも“あの時代”そのものなんですよね。何もダークでゴリゴリした音だけがグランジじゃないんです。
収録曲のメインソングライターはクリス&マットということもあり、2人のそれぞれのバンドの色もにじませつつも、彼らがサイドプロジェクトで進めてきたバンドやソロ活動からの影響がより濃厚に表れている印象。それらを個性の異なる2人の女性シンガーが歌い分けたり、ときに2人でハモったりすることで独特の空気を生み出していく。特にGIANTS IN THE TREESのシンガー2人が参加していること、アコースティック楽器もふんだんに取り入れられていることも影響し、個人的には「NIRVANAのキャッチーさとストレンジさ、SOUNDGARDENのサイケデリックさ、PEARL JAMやGIANTS IN THE TREESのアーシーさを程よいバランスでブレンドした、クリス&マット中心のポストグランジ/オルタナフォークバンド」というイメージかな。あと、クリス・コーネル急逝以降、SOUNDGARDENが止まってしまったことで他アーティストの客演でしか聴くことができなかったキムのギターを存分に味わえるという点においても、本作は非常に価値の高い1枚ではないでしょうか。
各メンバーが参加する歴代のバンドをイメージして聴くと、もしかしたらコレジャナイ感に面食らうのかもしれません。が、これはこれで全然アリだし、むしろすでに何度もリピートするほど自身に馴染んでいる。傑作や歴史的名盤の類とは異なるものの、忘れた頃に心の隙間を埋めてくれるような、そんな必要不可欠な1枚になりそうです。
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