METALLICA『72 SEASONS』(2023)
2023年4月14日にリリースされたMETALLICAの11thアルバム。
オリジナルアルバムとしては前作『HARDWIRED... TO SELF-DESTRUCT』(2016年)から6年5ヶ月ぶり。とはいえ、その間には3rdアルバム『MASTER OF PUPPETS』(1986年)や4th『...AND JUSTICE FOR ALL』(1988年)、5th『METALLICA』(1991年)のデラックス版(それぞれ2017年、2018年、2021年に発売)、アナログ版とデジタルのみで発表したアコースティックライブアルバム『HELPING HANDS... LIVE & ACOUSTIC AT THE MASONIC』(2019年)、再びオーケストラと共演した『S&M2』(2020年)、ブラックアルバム収録の12曲を53組が1曲単位でカバーしたコンピレーションアルバム『THE METALLICA BLACKLIST』(2021年)と、とにかく話題目白押し。かつてほど飢餓感はなかったのですが、本作から最初のリードシングル「Lux Æterna」が2022年11月末に公開されたときは、さすがに興奮しました。
ここまでの流れは先の「Lux Æterna」、そして2023年に入って順次公開されていった「Screaming Suicide」、「If Darkness Had A Son」、「72 Seasons」の項目を読んでいただき……ここからはリリース当時のメモを元に、発売1周年を機に改めて本作の魅力を振り返ってみたいと思います。
本作のタイトルに用いられた「72 Seasons(72の季節=18年)」という表現は、古代中国で考案された季節を表す方式のひとつで、日本でも古くから自然の変化を知らせるのに使われているものなんだそう。ジェイムズ・ヘットフィールド(Vo, G)はこのタイトルについて「ひとつの人生の最初の18年、つまり“本当の自分”や“偽りの自分”を形作っていく年月のことを指している」、要するに「ひとつのキャラクターが確立される上で非常に重要な期間が最初の18年なのだ」と説明しています。アメリカでは多くの州で18歳が成人と認められ、ここ日本でも成人年齢が20歳から18歳に引き下げられたばかり。人間が大人として認められるひとつの節目が18歳であり、物事の考え方や趣味嗜好もこれくらいの年齢で固まってくると言われます。メンバーの多くが60歳前後になったこのタイミングに、人生の第1形成期を振り返るような作品をドロップすることは、かつてはロック/メタルシーンの兄貴分だった彼らが今や親世代やそれ以上の存在になったという事実の表れでもあるのかな。そう考えると、デビュー40周年を迎えたこのタイミングに改めて40年という歳月の重みがダイレクトに伝わるはずです。
そんな本作。リリース数週間前に一度試聴させていただき、のちにリリース日にCDが届いてからじっくり聴き込んだわけですが(発売日0時のストリーミング解禁は我慢)、正直言って期待以上の出来でした。とはいえ、この1年の間にほかの魅力的な作品に触れるに連れ、「さすがに今年はMETALLICAを年間ベストに入れることはないかな」と消極的になることもありましたが、結果はご存知のとおり。2024年に入ってからしばらく経ちましたが、昨年末以来に大音量でじっくりと再生しておりますが、やっぱり良い。
リリース時の雑誌クロスレビューで「ここに収められた12曲はメタルというよりもハードロックと呼んだほうがしっくりくる作風」と書きましたが、その思いに対しては今も変わりはありません。だって、それはMETALLICAがメタルという鎧を捨て去ったわけではなく、彼らなりのヘヴィメタルを追求した結果、“深化”の先にあったのが自身のルーツ(=人生最初期の18年)と向き合った音を奏でることだっただけなのですから。
オープニングを飾るタイトルトラックを筆頭にどの曲もリフ、リフ、リフの嵐。特にアップとミドルを交互に繰り返す曲構成といい、怒りや葛藤、迷いなどと真正面から向き合った歌詞といい、安定感と瑞々しさが混在する楽曲の数々はどこからどう聴いても前作の延長線上にある、これまでのMETALLICAを総括する作風そのもの。ただ、同時に前作との違いも要所要所から感じ取ることができます。
その筆頭に挙げられるのが、ギターの歪みや音色をはじめ全体的にサウンドがまろやかなこと。なんだけど、全体的に音のきめ細やかさだったりクリアさ、重さが気持ち良い仕上がりで、この手の作品にしては異常に音が良いことに気づかされます。また、楽曲のテンポ感もメタルというよりはハードロックのそれに近いんだけど、かといって古臭いかと言われるとそういうわけでもなく、しっかりとモダンさを感じ取ることができる。その点においては、深化よりも進化と受け取ることもできます。
その一方で「72 Seasons」や「Lux Æterna」「Too Far Gone?」などは、彼らにとって重要なルーツであるNWOBHM(New Wave Of British Heavy Metal)時代のバンド群がフラッシュバックしそうな、オールドスクールな作風。そこに80年代後半の彼らと印象が重なる「Shadows Follow」、『LOAD』(1996年)&『RELOAD』(1997年)の空気をはらんだ「Sleepwalk My Life Away」や「Inamorata」、ブラックアルバム路線をモダン化させた「You Must Burn!」や「Chasing Light」と、活動前期=デビューからの18年間を強くイメージさせる楽曲が並ぶことも興味深い。
そういった楽曲群を自身が強く影響を受けた「10代の頃に夢中になったルーツミュージック」のテイストでまとめ上げるのですが、そこには先のNWOBHMのみならずTHIN LIZZYやBLACK SABBATH、あるいはUFO(およびマイケル・シェンカー)など70年代から活躍するバンドたちの色も見え隠れして、どこか10代の少年たちがスタジオに入ってセッションを楽しんでいるようにも映ります。カーク・ハメット(G)のギターワーク(主にメロウなソロ)も、どこか往年のハードロックを彷彿とさせるものがありますしね。あと、バラード調楽曲を排除した姿勢もそうした傾向とつながるかもしれない。そういった意味では、今作って「“Garage Days”の続き」もしくは「Back To “Garage Days”」と受け取ることもできないでしょうか。
ジェイムズの書く歌詞は非常にシリアスかつネガティブな傾向が強いものばかりですが、これも裏を返せば「影があるから光がある」という「Lux Æterna」のテーマにもつながるし、そんな「Lux Æterna」を真っ向から否定するような歌い出しの「Chasing Light」にはギョッとさせられる。でも、この歌詞もしっかり読み解けば逆説的に希望を持たせる内容であることに気づかされる。ネガティブな側面を入り口に聴き手との距離を縮め、吟味していく中で真の意味を理解させるその手法は、兄貴というよりは親目線に近く、これも今の彼らの年齢に合ったやり方なのかもしれません。
メタルを捨てた問題作とか過去の焼き直しとか、否定的に解釈することは簡単です。とはいえMETALLICAは『MASTER OF PUPPETS』以降、常に問題作を提供し続けてきたバンド。作品を重ねるごとにファンベースの広がりやリスナー数の増大などの違いはありますが、この姿勢自体は平常運転なはずなんですよね。ロック低迷と言われるアメリカにおいて、ブラックアルバムからの6作連続1位記録は途絶えてしまいましたが(最高2位。イギリスやドイツなどでは1位獲得)、メジャー感のあるヘヴィなロックにおける基準は本作で更新されたことは間違いないはずです。
あとは、2013年を最後に実現していない来日公演が実現すればいいのですが(新作を伴うツアーとなると、2010年が最後)、こればかりは難しそうですね……。
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