THE MOONEY SUZUKI『ELECTRIC SWEAT』(2002)
THE STROKESのイギリスでの大ブレイク以降、ご当地では英国産以外の「リフ・ロック」バンド‥‥THE HIVESだったりANDREW W.K.といったバンド達が知名度・セールス共に上々らしい。当然、ここ日本でも(特に英国での流行に敏感「らしい」某音楽雑誌を中心に)そういったバンド達がこの1年の間に人気を上げ、来日公演も大成功を収めているようだ。
しかしながら、こういった「リフ主体のロックンロール」、あるいは「R&B色の強いガレージロックバンド」というのは当然のことながらずっと前から細々と活動してきたわけで、例えば某雑誌ではあまり相手にされてないような気がする(最近は読んでないので、実際には話題に上ってるかもしれないが)THE HELLACOPTERSなんていうのは、それこそ同郷のTHE HIVESよりも前から活動してきたにも関わらず、シンガーが元デスメタルバンドのドラマーだという観点から、某HM誌で取り上げられることの方が多かったり、それこそ同じように某ロック誌からHELLOWEEN辺りと同じような扱いを受けていたTHE WiLDHEARTSとの繋がりからも、そういった方面のファンからの支持の方が強かったりしたようだ(最近は知らないけど)。
もっといえば、JON SPENCER BLUES EXPLOSIONだっていたわけだし、遡ればAC/DCのような偉大なバンドだっているのだ。その色やタイプは全く違うものの、俺はごく最近盛り上がりつつあるその手のガレージバンドやロックバンドを総じて「リフロックバンド」と呼ぶことにしている。かなり乱暴な呼び方だとは思うが、結局俺がそういったバンドに惹かれる点は、如何にカッコいいリフをぶちかますか、そこに耳がいってしまうからだ。そのジョンスペの新譜にしろ、今年の頭に出たHELLACOPTERSのアルバム未収録曲編集盤にしろ、そしてHIVESやANDREW W.K.にしろ‥‥みんな曲の頭でガツンと一発激しいリフをぶちかましてくれるからだ。こういうロックに出会ってしまうと、自分自身が本当にまだロックを聴き始めたローティーンの頃に戻ったかのように興奮してしまうのだから、全くロックンロールってやつはタチが悪い。
で先日、某外資系CDショップをぶらついていたら、あるオレンジ色のジャケットと出会った。THE MOONEY SUZUKIというちょっと冗談ぽい名前のバンドのアルバムだった。だって日本人からすれば、某「紙おむつ」の名称と「クラスにひとりはいそうな名字」を列ねたバンド名だ。高校生の頃「それってROLLING STONESとGUNS N'ROSESを掛け合わせただけじゃん!?」とツッコミを入れずにはいられなかったSTONE ROSES以来の衝撃だった‥‥とは言いがたいが、とにかくこのオレンジ地に白抜き文字、バンド名がこれ、そしてアルバムタイトルは「ELECTRIC SWEAT」‥‥「電気の汗」だぜ!? ジャケットには暑苦しそうな野郎が4人、ギター弾きまくってたり、ベース持って仰け反ってたり、何か叫びながらドラム叩いてたり‥‥そんな「ギャグ一歩スレスレ」なチープさ。ある意味、俺の中で久し振りに直感が働いたのかもしれない‥‥EMINEMのアルバムを買おうと思っていたが、あっさりとこのMOONEY SUZUKIのCDを手にとって俺はレジに並んだ。そう、音も聴かずに‥‥こんな無名の、ある意味B級バンドのアルバムを‥‥
家に帰ってから、ジャケット裏に載っていたオフィシャルサイトにアクセスして、いろいろと情報を得た。ニューヨークのバンドで結成は1997年らしい。現在までに自主制作でミニアルバム(6曲入りEP)を1枚と、2000年にファーストフルアルバム「PEOPLE GET READY」をリリースしていて、今回俺が買ったのは2002年4月にリリースされたセカンドアルバム。メンバー構成は、
Sammy James Jr (Vo/Rhythm Gt)
Graham Tyler (Lead Gt)
Michael Bangs (Ba)
Augie Wilson (Dr)
の4人。後は‥‥オフィシャルサイトのバイオグラフィーを読んでもらいたい(要するに和訳するのが面倒らしい)。
さて、音の方だけど‥‥上に挙げたような「リフロックバンド」だったと言っていいだろう。アルバムタイトルと同名の"Electric Sweat"なんて、HELLACOPTERSに通ずるものを持った、黒っぽい爆走ロケンロー。節回しなんてモロにニッケが唄いそうな歌メロだ。もう俺的にはこの1曲目でKO状態。左右に振り分けられたギターがまたカッコエーのなんのって。続く2曲目"In A Young Man's Mind"なんてちょっとモッズっぽい雰囲気の爆走ロック。ギターのファズ具合が、これまた好きな人にはたまらない加減だし、サビでのボーカルとバンドとの掛け合いコーラスもそれっぽくて‥‥うわ~、ギターの鳴りがホントにサイコー!(としか表現のしようがない)
3曲目"Oh Sweet Susanna"は、ちょっとスワンプ調のロケンロー。こういうのを聴くと、ああやっぱりアメリカのバンドなんだなぁと妙に納得。ジョンスペ辺りがやってもはまりそうな1曲。4曲目"A Little Bit Of Love"はサビのオールディーズっぽいメロがもう爆涙モノ。爆裂する演奏に絡みつくアコギのストローク。こういうアコギが被さってるロケンローにはウルサイのよ、俺は(ストーンズにしろエアロにしろガンズにしろハノイにしろ、バックにアコギがうっすらと被さるのがまたカッコイイのよ!)。それにしても本当にギターが泣きまくってて、気持ちいい。続く5曲目"It's Not East"もそんなアコギが絡むロックナンバー。イントロでのドラムの派手具合なんてキース・ムーンだし。つうかさこのバンド、合いの手のように入るコーラスが滅茶苦茶ツボなんだけど‥‥この微妙な「黒さ」を出せるバンドが少ないんだよ、マジで。
アルバムはCDのくせして、しっかりジャケットには「Side One」「Side Two」という風に全10曲を前後5曲ずつ分けている。で、「Side Two」は6曲目の"Natural Fact"からスタート。いきなりイントロから泣きのマイナーコード。ここのリードギタリスト、グラハム・タイラーは本当にいいソロ/フレーズを弾くよ。そしてボーカルの歌メロ、この泣き具合は俺の中ではHELLACOPTERSのそれに匹敵するんだわ。聴いてて時々ゾクゾクするもの。7曲目"It's Showtime Pt II"はオルガンが入ったインストナンバー。シンプルな構成ながら、聴かせ所満載。残念ながらオルガンが暴れまくる曲はこれ1曲のみなんだけど、これがまたカッコイイ。所々に入る「ウッ!」だとか「Bring On!」とかいった掛け声がこれまたセクシー。曲構成は本当に単調なんだけど、こういう勢い一発でジャムりましたってのは、バンドの力量が試されるものとなるので、こうやって聴くとやっぱりいいバンドだなぁ‥‥なんて妙に納得してしまう。ライヴ観たいよなぁ、マジで。
8曲目"I Woke Up This Mornin'"はありがちなリフを持った前のめりロックなのだけど、やっぱりバンドの勢いが勝っているのが、聴いててそのテンションにやられちゃうんだわ。ここまでの流れ、本当にテンションが高すぎて、聴いてるこっちも手に汗握りっぱなし。
そして9曲目にしてようやく流れが変わる。"The Broken Heart"というありがちなタイトルのバラードナンバー。これもひねくれ度皆無。直球のロッカバラード。この辺の直球さはジョンスペにも通ずるよな‥‥なんて何度も書いてるけど、このバンドは俺の中でジョンスペやHELLACOPTERSに匹敵する「テンション」と「黒さ」を持ったバンドだと思う。とにかくね、リードギターがいいのよ‥‥実際に動いてるところは観たことないので何ともいえないけど、もしかしたらHELLACOPTERSのストリングスに匹敵するソロイストかも(まぁストリングスは容姿とプレイ共に完璧だけどさ)。
最後は再び勢いを取り戻したインストナンバー"Electrocuted Blues"で爆裂しまくって幕を閉じる。ここでもリードギター暴れまくり。確かにジョンスペ程の「非現実的」なテンションはここにはないのかもしれないけど、けどこの暴れ具合は必聴に値すると思う。このロックンロールの定義に則った1曲をどれだけのバンドが体現できるかどうか‥‥マジで10曲35分があっという間に終わる。で、気付くとリピートしてるんだから‥‥
何か終始「かっけー」「サイコー」「ジョンスペみたい」「ヘラみたい」を連呼してたような気がするが、それだけ俺の中では「大当たり」だったってことなんだわ。ジャケ買い自体、もう何年もしてないわけで、それこそ今は聴くべき作品が毎月沢山リリースされるもんだから、こういった冒険自体をしなくなっていたんだが‥‥やっぱりこういう出会いって大切だよね? 本当にそう思い知らされた1枚だった。これはマジで買いの1枚。爆走ロケンローが好きな方々(当然北欧モノに拘らない人)、買って損はないと思うよ? ルックス的にはANDREW W.K.にいそうな小汚いメンバーだけど、そこがまた如何にもニューヨークらしいというか(偏見?)。STROKES以降、アメリカからもいろんなタイプのバンドがイギリスでブレイクしつつあるけど、これのその候補に入れてもらいたい。だってカッコイイもの、理屈抜きで。