MOUSE ON MARS『IDIOLOGY』(2001)
ドイツのエレクトロ・ユニット、MOUSE ON MARSが2001年初頭に発表した通算7枚目のアルバム。俺が彼等の音に触れたのは、同年末にリリースされた「エレクトログライド」のコンピレーション盤に収録された "Actionist Extension"(今回取り上げた「IDIOLOGY」1曲目の"Actionist Respoke"のリミックス)が最初で、それまでは名前こそ知ってるものの聴く機会がなかったんですね。で、その後のエレグラに行ったものの、一番ラストだったMOUSE ON MARSまで体力が保たず、結局観ないまま帰っちゃったんですよ。
で、帰宅後数日経ってから改めてそのコンピ盤を聴いて、観なかったことを後悔し‥‥要するに、それ1曲で俺は気に入ってしまったわけですよ。って観る前にちゃんと全部聴いておけ!って話ですが。そういうわけで、もう完全に後追いでこのアルバムに手を出したわけです。ホント、我ながら何やってんだよって感じ。
そんな感じで、このアルバム。当然何の知識もないまま聴いたわけですが‥‥歌モノもやってるんですね、そういうイメージがなかったもんでビックリ(それもそのはず、彼等が歌モノに積極的になったのはこのアルバムからなようで、過去のアルバムは基本的に歌ナシの方向らしいです。って未だに旧譜聴いてない俺。いい加減に他のアルバムも聴いてみようよ)。その歌も、いきなりヒップホップの要素を取り入れたエレクトロニカ風な"Actionist Respoke"ではエフェクトしまくりで、歌モノというより既に歌が楽器のひとつとして機能してるんですね。これは面白い。リミックスの方も良かったけど、完全に別物ですね。エレクトロニカっていうと気難しさや踊れないってイメージが強いと思うんですが(ダンスよりもリスニング重視って印象が強いし)、これはなんつーか‥‥踊る、っていうよりも暴れたくなる音ですよね。ちょっと毛色は違いますが、APHEX TWINに通ずるものがあるというか‥‥ま、この手の音楽に精通してる人から言わせれば「何言ってんの!?」な意見でしょうけど。
全てに歌が入っているというわけではなく、続く"Subsequence"は(恐らく)従来通りのインストもの。エレクトロ・ユニットとはいいながらも、生楽器‥‥ここではピアノやストリングス等‥‥が要所要所に登場し、聴いてるこっちがハッとすることが多いです。つうか単純に気持ちいい。サンプリングして挿入してるのではなくて、恐らく実際に演奏したものをそのまま要所要所に仕様してるんだと思いますが(ピアノのフレーズは判らないけど)、こういうのは新鮮ですよね。楽曲のノリは前曲のノリをそのまま受け継いでいるんだけど、高揚感を保ちつつもどこか安らぎを覚えるのは、やはりフルートやストリングスの音色によるものなんでしょうか。他にもスカのリズムを取り入れたナンバー("Do It")や爆裂しまくりなエレクトロニカ・ナンバー("First:break")等、とにかく多彩なサウンドが次から次へと飛び出します。
全体的に「ボーカルを取り入れたナンバー」数曲、「神経を苛立たせるようなエレクトロニカ・サウンド」、「跳ねるようなヒップホップ的要素」、「映画のサウンドトラックを思わせるようなストリングスや生楽器」(特に"The Illking"の美しさといったら)といったイメージが強いこのアルバム、他のエレクトロニカ/エレクトロ・ポップ勢とは明らかに異色な存在だと思います。最も俺もそんなに数を聴いてる方ではないですが、何故彼等が支持されるのかがよく判る1枚だと思いますよ。リリースから既に2年以上経ってしまったわけですが、未だに新鮮さ・斬新さを保っているのが面白い。テクノロジーの進歩によってどんどん新しいものが誕生するこの手のジャンルの中でも、これは珍しいことだと思うし、言い方を変えればそれだけこのユニットの音楽が独自性を持ったものであり、そして新しかったか、ということの表れだと思います。
これを機に、俺も古い作品にも目を向けてみたいと思います。まだ彼等の音を聴いたことがない人は、とりあえずこのアルバムから聴いてみるといいんじゃないでしょうか。きっと俺と同じように「何でもっと早く聴いてこなかったの?」って思うはずだし、そして同じように旧譜にも手を伸ばしてみようって気になると思うから。