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カテゴリー「Mr. Big」の21件の記事

2022年5月20日 (金)

SKILLS『DIFFERENT WORLDS』(2022)

2022年5月13日にリリースされたSKILLSの1stアルバム。

このバンドはブラッド・ギルス(G/NIGHT RANGER)、ビリー・シーン(B/MR. BIGSONS OF APOLLOなど)、デヴィッド・ハフ(Dr/GIANT)、レナン・ゾンタ(Vo/ELECTRIC MOB)によって結成されたスーパーバンド。テクニック的に文句なしのブラッド、ビリーに安定したサポート力を誇るデヴィッド、そしてブラジルの気鋭シンガーという4人が揃ったことで、この「名は体を表す」ストレートなバンド名が用いられたのでしょうか(だとしたら、いろんな意味で嫌味にも取れますが)。

技巧派のストリングス隊が揃ったことで、テクニック至上主義かプログメタル的なスタイルを重視するのかと思いきや、意外にもその楽曲重視の姿勢に、まずアルバムを聴いて驚かされることでしょう。それもそのはず、ソングライターとしてアレッサンドロ・デル・ヴェッキオやピート・アルペンボルグといった強力な布陣が楽曲提供しており、Frontiers Records総出で「よし、メタルファンから小金ぶんどってやるぞ」という前向きな姿勢(笑)が伝わってきます。

まあ、冗談はさておき。いわゆる産業ロック/産業メタル的な作り込まれた楽曲(比較的哀愁味の強いナンバーばかり)を中心に、アレンジとして適度にテクニカルなギター(いかにもブラッドらしいフレーズやプレイ)を散りばめ、リズムは比較的地味めに曲を支える側に回り(その中でもビリーのベースは、その音色を聴けば彼とわかるほど個性的ですが)、その演奏の上を1970年代的なソウルフルシンガーが歌い上げる。なんなら、味付けとして心地よく響くオルガンも重ねちゃおう……ってなもんで、寸分の隙も感じられないほど、しっかり計算し尽くされた楽曲群がずらりと並びます。ヘヴィメタルというよりはハードロック、しかも70年代の香りをさせた1980年代の王道メロディアスハードロック。好きな人にはたまらない1枚ではないでしょうか。

どの曲も3〜4分台と、この手のバンドにしてはコンパクトで聴きやすいし、そこも含めて計算が伝わる。あまり「計算、計算」と言うとネガティブに捉えられるかもしれませんが、もちろん良い意味で使ってます。要するに、文句の付けどころがないんです。マイナーキーの楽曲続きのところ、中盤に用意されたメジャーキーのハードポップ「Show Me The Way」も良いアクセントになっていますし、王道のパワーバラード「Just When I Needed You」も非常に良曲。まったく破綻が感じられない優等生的な1枚だと断言しておきます。

でも、だからこそ物足りなさも感じるというのが正直な気持ち。良いことには違いないんだけど、このメンツだからこその“プラスアルファ”が欲しかったかな。そこがいわゆるメンバー主導のバンドと作られたバンドの違いなのかな(いや、作られたバンドかどうかは知らんですが)。せっかく随所に派手なプレイを用意しているのに、それが地味に聞こえてしまうぐらい全体のまとまり/バランスが良すぎて、あまり耳に残らない。なぜなんでしょうね、これ。

安定を求めるリスナーには100点満点な内容なんでしょうけど、今の自分には無難すぎてあまり強く響かなかった。その完成度の高さから万人を満足させそうですが、実は聴く人を選ぶ1枚かもしれません。

 


▼SKILLS『DIFFERENT WORLDS』
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2022年1月29日 (土)

STEVE VAI『INVIOLATE』(2022)

2022年1月28日にリリースされたスティーヴ・ヴァイの10thアルバム(1998年の『FLEX-ABLE LEFTOVERS』、2016年の『MODERN PRIMITIVE』含む)。日本盤は海外に先駆け、同年1月26日発売。

『PASSION AND WARFARE』(1990年)の25周年記念盤に同梱される形で発表された前作『MODERN PRIMITIVE』は、『PASSION AND WARFARE』制作当時から書き溜めていたアイディアを正式に形にすべく新たにレコーディングした新作音源集だったので、純然たる完全書き下ろしの新作となると『THE STORY OF LIGHT』(2012年)以来実に9年7ヶ月ぶり。ずいぶん空いたように映りますが、ヴァイはその間もライブアルバム&映像作品『STILLNESS IN MOTION: VAI LIVE IN L.A.』(2015年)や、トーシン・アバシ(ANIMALS AS LEADERS)、ヌーノ・ベッテンコート(EXTREME)、ザック・ワイルドBLACK LABEL SOCIETYOZZY OSBOURNE)、イングヴェイ・マルムスティーンによるGENERATION AXEのライブアルバム『THE GUITARS THAT DESTROYED THE WORLD: LIVE IN CHINA』(2019年)などで忙しくしていたので、正直10年も経ったという感覚はゼロなんですよね。

特に近年は肩の手術やばね指発症による手術など、心配になる情報も多々ありましたが、そんな中でもサポーターを装着した状態で左手のフィンガリングのみでプレイする「Knappsack」(本作にも収録)の動画を公開し、その奇才ぶり健在をアピール。そんなこんなでようやく届けられたのが本作なわけです。

そもそもは「クリーントーンのギターによる作品」「通常の歪ませたギターによる作品」「8弦ギターを使ったヘヴィな作品」の3作品の制作を想定していたそうですが、コロナによるロックダウンを受け複数のミュージシャンでスタジオに集まることが困難になり頓挫。まずは「Candlepower」(2020年配信リリース)から取り掛かり、その後はボーカルアルバムを想定していたようですが、上記のように幾多のトラブルが発生し、紆余曲折を経て当初の3作品をひとつにまとめたような内容に仕上がったとのこと。ボーカルアルバムはまたこの次に……ということで、まずは今年予定されているツアーを想定したドライブ感があり、かつプログレッシヴで、ヴァイらしいサイケデリック感も強い1枚に仕上がりました。

レコーディングは曲ごとに異なるバンド編成で実施されており、そのメンツもベースはブライアン・ベラーやヘンリック・リンダー(DIRTY LOOPS)、ビリー・シーン(SONS OF APOLLOMR. BIGなど)、フィリップ・バイノー、ドラムはジェレミー・コルソン、テリー・ボジオ、ヴィニー・カリウタと名手ばかり。中でもテリー・ボジオとはVAI名義での『SEX & RELIGION』(1993年)以来の共演実現とって、非常にワクワクするものがあります。

オープニングを飾る「Teeth Of The Hydra」は、アルバムジャケットでヴァイが手にするトリプルネックの最新アックス“The Hydra”を用いた、まさにこのアルバムを象徴するような1曲。このThe Hydraは「7弦と12弦ギター、4弦3/4スケールのベース、13弦のハープ弦、シングルコイル、ハムバッキング、ピエゾ、MIDI、サスティナー・ピックアップ、フローティングおよびハードテイルのトレモロ・ブリッジ、フェイズ・スプリッターなど」を備えた想像を絶する1本(1本?)で、これひとつで1曲の中で非常に多彩なサウンドを響かせています。ホント、これを披露したいがために作ったアルバムなんでしょうね(笑)。

以降は、これまでのヴァイらしさを凝縮した多彩なナンバーがずらりと並びます。オリジナルバージョンは打ち込みだったところを新たにヘンリック・リンダー&テリー・ボジオのリズム隊で再録音した「Candlepower」や、気心知れたビリー・シーンとのハードドライヴィングナンバー「Avalancha」、ヴァイらしい味付けでブルースが展開される「Greenish Blues」、ムーディーなスローバラード「Sandman Cloud Mist」など、この手のギターインストアルバムがそこまで得意ではない筆者にしては最後までスルスル聴き進められ、バラエティ豊かな良作ではないでしょうか。

ヴァイのギタープレイは感情を揺さぶったりエモさを味わったりというタイプではなく、どちらかといえばそのテクニックを楽しむタイプの人なのかなと。その一方で、ソングライティングに関してはしっかりしている人でもあるので、毎回肩肘張らずに楽しむことができる。そういった意味では、今回も我々の期待を裏切らない1枚です。

 


▼STEVE VAI『INVIOLATE』
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2021年7月17日 (土)

MR. BIG『LEAN INTO IT (30TH ANNIVERSARY EDITION)』(2021)

2021年7月16日にリリースされたMR. BIGの2ndアルバム『LEAN INTO IT』のリイシュー盤。日本盤はありませんが、輸入盤に日本語解説を付けた日本仕様輸入盤が同日に発売されています。

オリジナル盤は1991年3月にリリースされ、「To Be With You」の全米No.1ヒットを生み出したことで知られるMR. BIG最大のヒットアルバム。全米15位まで上昇し、120万枚以上ものセールスを記録しました。その代表作が今年でリリース30周年ということで、アルバム本体に最新リマスタリングを施し、過去にシングルのカップリングなどで発表されてきたアルバム未収録曲や、今作のために用意された未発表曲や“マイナスワン”トラックなどを追加したボーナスディスクを追加した豪華仕様でのリイシューとなります(アルバム本編の内容に関しては、過去のレビューをご参照ください)。

本作は2010年の再結成時にもリマスター盤が発売されていますが、今回の最新リマスターと聴き比べてみると……2010年版のほうが全体のダイナミズム(高音を効かせた強弱の差など)がより強く感じられ、今回の2021年版はそれよりもコンプの効きが強いのか、なんとなく平坦に感じられます。「Never Say Never」のようなダイナミックなハードロックで聴き比べると、その差がわかりやすいのではないでしょうか。

個人的な好みでいうと、スピーカーを通して大音量で楽しむ場合は2010年版リマスターで、スマートフォンなどを通じてヘッドフォン、イヤフォンなどで聴くときは2021年版のほうが合っているような気がします。このへんはもう好みの範疇なので、最終的には聴いて判断してみてください。

まあ、リマスター効果の良し悪しによって作品自体の評価はそんなに大きく変わりませんけどね。1stアルバム『MR. BIG』(1989年)以上に聴き込んだ1枚で、そらで歌える楽曲ばかりですが、30年経ってもいいものはいいなと。以上です。

……嘘です。ボーナスディスクについても触れておきます。

「Stop Messing Around」と「Wild Wild Women」は本作のために用意された未発表曲。『LEAN INTO IT』のプロデューサー、ケヴィン・エルソンが本作のためにしっかりマスタリングを施しており、アルバム本編の楽曲と同じ質感で楽しめるはずです。両者ともアルバムに入っていてもおかしくなさそうな、ソウルテイストのハードロックですが、もうひと捻り欲しかったかな。なんとなくアルバム本編から外れたのも納得というところでしょうか。

そのほかには映画『ネイヴィー・シーズル』(1990年)に提供したアルバム未収録曲の「Shadows」「Strike Like Lightning」(どちらもバンドのメンバーが一切関わっていない外部提供曲ですが、後者がとにかくカッコいい!)や日本初版ボーナストラックだった「Love Makes You Strong」、ヒットシングル「Just Take My Heart」アコースティックバージョンや「Alive And Kickin'」「Green-Tinted Sixties Mind」のアーリー・バージョン、「To Be With You」のレゲエ・バージョンといった2010年リイシュー版にも収められていたでもトラックもまとめられています。

そして、今作ならではの新規トラックとして、「Daddy, Brother, Lover, Little Boy (The Electric Drill Song)」「Green-Tinted Sixties Mind」のギター抜き、「Love Makes You Strong」「Daddy, Brother, Lover, Little Boy (The Electric Drill Song)」のベース抜きバージョンを用意。これ、ギター&ベースプレイヤーが練習用に使う“マイナスワン”トラックというやつで、楽器を弾かない人にとってはほぼ有り難みの感じられない代物なのですが……ギターがないことでビリー・シーンのベースがよく聴き取れたり、その逆にポール・ギルバートのギターがよく聴き取れるという利点もあったりで。手数の多いプレイヤー陣だけに、そういった意味では種明かし的なトラックとも言えるのではないでしょうか。

パット・トーピー(Dr)が亡くなって以降、バンドとしては完全に時が止まってしまったMR. BIG。ビリーやポールは個人の活動で忙しそうですが、エリック・マーティン(Vo)はこれといって表立った大きな活動は行っていません。パットのいないMR. BIGを続けろとは言わないけど、せめて元気な歌声をまた聴かせてほしいところです(できればハードロックアルバムでね)。

 


▼MR. BIG『LEAN INTO IT (30TH ANNIVERSARY EDITION)』
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2021年4月 9日 (金)

OCTAVISION『COEXIST』(2021)

2021年3月24日にCDリリースされたOCTAVISIONの1stアルバム。

OCTAVISIONはギタリスト&コンポーザーとして活躍するホヴァク・アラヴェルディアンを中心とした、プログレッシヴメタル・プロジェクト。2016年に動画配信サイトに公開された、9分半にもおよぶインスト大作「Three Lives」が一部界隈で注目を集めました。同曲にはジャズ/フュージョン界で知られる超絶ベーシスト、ヴィクター・ウッテンが参加していたことでも反響を呼び、このプロジェクトの全貌を求める声は日々高まっていきました。

そして、2020年12月には各種配信サイトにて本アルバムをデジタルリリース。これに続き、日本のみで本作のフィジカルリリースが今年3月に実現したわけです。

このアルバムにはホヴァクやヴィクターのほか、MR. BIGSONS OF APOLLOなどで活躍するビリー・シーン(B)、Roman Lomtadze(Dr)、Murzo(Key)、Avo Margaryan(Blul/アルメニアの伝統的なフルート)といったプレイヤーたちが参加。さらに、タイトルトラック「Coexist」と「Apocalyptus」にはジェフ・スコット・ソート(Vo/SONS OF APOLLO、SOTOなど)もゲスト参加しております。

全体的に各プレイヤーの技巧的プレイを大々的にフィーチャーした、クラシカルな要素とモダンヘヴィネス以降のヘヴィメタルを融合させたサウンドが特徴。ベーシックな部分は“DREAM THEATER以降”と言えますが、随所に仰々しいクワイアなども取り入れられている。しかし、このプロジェクトの魅力はそこというよりは、むしろアルメニアの伝統的な管楽器Blulや中東のミステリアスな旋律を織り交ぜた「Mindwar」や「Three Lives」のような楽曲にこそ独特の個性が表れている。そういった旋律をホヴァクのテクニカルなソロプレイで、あるいはキーボードとのユニゾンプレイで表現されており、そういったところで独自性を強くアピールしています。

さらに、デジタルエフェクトも効果的に用いられており、「Mindwar」のような楽曲では2000年代以降のモダンテイストも伝わってくる。そういったところでも異色さや独特の個性も、しっかり醸し出せているのではないでしょうか。

それにしても、Blulをフィーチャーしたプログレッシヴメタルというのは、なんとも新しい。フルートなどを取り入れた旧世代のプログレは過去にも存在しましたが、音圧の高いメタリックなサウンドにこうした管楽器が取り込まれるのは、なんとも不思議なものが感じられます。一方で、ジェフのボーカルをフィーチャーした2曲は彼のパワフルな歌声と相まって、一聴した限りではSONS OF APOLLOを彷彿とさせるものがあります(こればかりは仕方ないですね)。ただ、メロディの運びや旋律は確実に差別化ができているので、聴いているうちに別モノだと理解できる。特に10分にもおよぶ超大作「Apocalyptus」は、その構成美/構築美含め圧倒的な個性を放っています。

とはいえ、やはりこのプロジェクトの魅力はインストゥルメンタルパートでの多彩さ/テクニカルさ/非凡さにあるので、歌モノはおまけといったところかな。全7曲で54分というボリュームは、この手の作品としては比較的程よいものなので、初心者でも意外と楽しめるのではないでしょうか。DREAM THEATERやSONS OF APOLLOを筆頭に、昨今のプログミュージック/プログレッシヴメタルに多少なりとも興味があるリスナーなら、触れておいて損はしない1枚です。

 


▼OCTAVISION『COEXIST』
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2020年10月 2日 (金)

ACE FREHLEY『ORIGINS VOL.2』(2020)

2020年9月18日にリリースされた、エース・フレーリーのカバーアルバム第2弾。

スタジオ作品としては『SPACEMAN』(2018年)から2年ぶりの新作となるこのアルバムは、2016年発売の『ORIGINS VOL.1』の続編。第1弾にはエースのルーツにあたるロックバンド/アーティストのカバーに加えKISS時代のセルフカバー3曲を含む全12曲が収録されていましたが、今回KISSナンバーはボーナストラックとして切り分けられ、本編11曲ではLED ZEPPELINDEEP PURPLECREAMTHE BEATLESTHE ROLLING STONES、THE KINKS、MOUNTAIN、HUMBLE PIE、ジミ・ヘンドリクス、PAUL REVERE & THE RAIDERS、THE ANIMALSといった(一部、日本人には印象の薄いものが含まれていますが)ロッククラシックと呼ぶにふさわしい名曲たちを取り上げています。

ボーナストラックを含む全12曲中、エースがメインボーカルを務めるのは10曲。前作ではKISS時代の盟友ポール・スタンレーがゲストボーカルとして参加していましたが、今回はリタ・フォードが「Jumpin' Jack Flash」で、ロビン・ザンダー(CHEAP TRICK)が「30 Days In The Hole」でそれぞれ“らしい”歌声を聴かせてくれます。そのほか、前作から引き続きジョン・5(G/ROB ZOMBIE、ex. MARILYN MANSON)が「I'm Down」「Politician」、エースと同じく元KISSのブルース・キューリック(G)が「Manic Depression」、ピーター・フランプトンやSIMON & GARFUNKELとの演奏でも知られるロブ・サビーノ(Organ)が「Space Truckin'」がゲスト参加。本編11曲ではMR. BIGのサポートなどで知られるマット・スター(Dr)がプレイしています。

セレクトされているアーティストの前作との被りを見ると、エース自身がそこまで広く、いろんなジャンルを聴いているわけではないことが伺えますし、視点を変えればクラシックロックと呼ばれる60〜70年代の音楽にそれだけ強く影響を受けたという現れなのでしょう。まあ、エースが今さらパンク以降の音楽をカバーしても説得力がありませんけどね。

おなじみのヘタウマ・ヘロヘロボーカルはここでも健在で、激ウマシンガーが歌うことで知られる「Good Time Bad Times」や「Space Truckin'」でもこれまで同様に歌うことで自身の個を強くアピール。もはや伝統芸能の域に達しつつあります。逆に脱力系「I'm Down」は、これはこれでいい味を出しているんじゃないかと。そう、味は深いんですよ。なので、テクよりも感性に訴えかけるシンガーなんだと思います(たぶん)。

リタ・フォードは前作にも参加していたので割愛しますが(するなよ)、注目のロビン・ザンダーは相変わらずの説得力でMR. BIGファンにおなじみの「30 Days In The Hole」を歌唱。ぶっちゃけ、エリック・マーティンよりも(以下割愛)。最近カバーづいているCHEAP TRICKおよびロビン・ザンダーですが、ここまできたら一度カバー集を制作してみるというのはいかがでしょうか。まあそれはそれで普通すぎるか。

個人的に気になった(気に入った)のが、終盤3曲……ジミヘン「Manic Depression」、PAUL REVERE & THE RAIDERS「Kicks」、THE ANIMALS「We Gotta Get Out Of This Place」の流れ。前半〜中盤の大衆的な選曲/仕上がりと比べると、この3曲にはエースの真髄/魂がより濃く表現されている気がしてなりません。この3曲のためだけに本作をゲットすべしと断言したいくらいです。だからこそ、ボーナストラック扱いのKISS「She」セルフカバーは蛇足な気がするのですが(だからボートラなんだろうけどね)。

第1弾ほどのインパクトはないものの、KISSファンやCHEAP TRICKファン、そしてクラシックロック・リスナーには十分に楽しめる内容だと思います。

 


▼ACE FREHLEY『ORIGINS VOL.2』
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2020年2月20日 (木)

BLACK SWAN『SHAKE THE WORLD』(2020)

BLACK SWANが2020年2月中旬に発表したデビューアルバム。日本盤は海外に数日遅れでリリースされています。

BLACK SWANはロビン・マッコーリー(Vo/MICHAEL SCHENKER FEST、ex. MCAULEY SCHENKER GROUPなど)、レブ・ビーチ(G/WINGERWHITESNAKEなど)、ジェフ・ピルソン(B/FOREIGNER、ex. DOKKENなど)、マット・スター(Dr/MR. BIGエース・フレーリーなど)という80年代以降のHR/HMシーンにてたびたび名前を目にする名手たちが一堂に会した“スーパーバンド”のひとつ。昨年の今頃、ジェフがこのバンドについて言及する場面があったそうで、もともとはロビン、レブ、ジェフの3人で進めていたプロジェクトからマットに声がかかり、その数日後にはレコーディングに参加したとのこと(すでにドラム以外のパートはレコーディング済みだったそう)。

ソングライティングは上記のようにマット以外の3人で進めたのでしょう。一体この3人でどんな曲/音が作れるのか……要はMSGとWINGERとDOKKENですからね。80年代的なスタジアム・ハードロックを想像した人、ある意味正解です。けど、思ったよりも湿り気の強いメロディの正統派HR/HMだったのは、良い意味で予想を裏切ってくれてうれしかったな。

ロビンの哀愁味が強い歌声を前面に打ち出しつつ、メジャー感の強いHR/HMを表現する。もちろん、親しみやすい歌メロを備えつつ、楽器隊(主にギター)の派手さを見せることも忘れない。BON JOVIやWHITESNAKE、DEF LEPPARDなどがヒットチャートを席巻した80年代後半のUSメタルシーンを彷彿とさせる楽曲群はどれもクオリティが高いもので、ぶっちゃけ2020年の今これをやる必要があるのか?と疑問を感じることもゼロではありませんが、“やれる”人たちが“やるべきこと”をやっただけのこと。逆に、“やれる”人たち今これをやっていないから、彼らがやったと考えればいいわけで、こういったバンドが今誕生してこういうアルバムを世に放ったことは必然だったのです。

マイナーキーのミドルナンバー中心ながらも、シャッフルビートが心地よい「Big Disaster」、疾走感の強い「Shake The World」や「Unless We Change」、HEARTにも通ずるポップバラード「Make It There」、じっくり聴かせるスローナンバー「Divided/United」など楽曲も緩急に富んでいる。全11曲(日本盤ボーナストラック除く)で約57分と決して短くなないトータルランニングながらも、最後まで飽きずに楽しめるのは1曲1曲の完成度の高さや個性が際立っているからこそ。さすが職人!と納得してしまう高品質の1枚です。

ロビンはMSFではゲイリー・バーデンやグラハム・ボネットに次ぐ3番手だし、レブはWHITESNAKEでは常に2番手的扱いで、ジェフは現在のFOREIGNERでも裏方的印象が強い。マットもMR. BIGではパット・トーピーのサポートという意味合い濃厚だったので、全員が現在のシーンの中で“日陰”的存在なわけです。そういった人たちがBLACK SWAN(=黒い白鳥、コクチョウ。「予測できないことが出来事が起こる」の意)という名前で再び日陽に飛び出していく。そりゃ応援したくなりますよね。各メンバーとも自身のメインバンドでの活動が忙しいので、ツアーや来日公演などは今のところ望めそうもありませんが、ぜひ機会があったら一度ライブを観てみたいものです。きっとそのときは、各バンドのカバーもあるでしょうしね(笑)。

 


▼BLACK SWAN『SHAKE THE WORLD』
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2019年4月22日 (月)

浜田麻里 The 35th Anniversary Tour Gracia@日本武道館(2019年4月19日)

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圧巻の一言。それ以上でもそれ以外でもなく。

10代の頃に初めてライブを観て、それから30年近くの間に何度か拝見していますし、特にここ5年くらいは単独以外にもフェスなどでも目にするチャンスがあった浜田麻里。デビュー35周年、武道館は26年ぶりということで、これは行かないわけにはいかない……そう思っていたら、友人がチケットをダブつかせていたので便乗。2階の上のほうでしたがかなり観やすく、じっくり腰を据えて楽しむことができました。

昨年の最新アルバム『Gracia』を携えたツアーには足を運ぶことができなかったので、そことの比較はできませんが、同ツアーからツアーメンバーが一部交代。BABYMETALの神バンドメンバーでもあるBOHさん(B)、ISAOさん(G)といった7〜8弦ギターや6弦ベースの使い手、原澤秀樹(Dr)というまだ30代半ばのテクニカルな若手ドラマーをフィーチャーしたバンドサウンドは、以前と比べてかなりフレッシュ感が強く、攻撃性が増したここ最近の楽曲にもフィットしていました。特にジェントっぽさを醸し出す「Disruptor」みたいな楽曲には今の編成はぴったりなんじゃないでしょうか。

で、浜田麻里大先生のお歌が、近年観た中でもベストに近い状態でして。無駄に前に出過ぎず、それでいて存在感は圧倒的。歌詞がしっかり聴き取れて、声量もあって高音の伸びもハンパない、しかも音圧の高いバックの音像にも埋もれていない。これって簡単なようでなかなかできることじゃない。ミキシングのテクニックでどうにでもできるんじゃ……なんて言われそうだけど、そういう問題じゃないし、そういうレベルの話じゃない。

で、もっとすごいのがコーラスの絵里さん(浜田麻里の実妹)。キーだけでいったら姉上よりも高いところを難なく歌っているんだけど、だからといってリード(姉)を潰すようなこともない。姉妹だからこその相性はもちろんだけど、長年培ってきたハーモニーバランスがここ武道館で完璧な形で表現されていたように思います。

選曲に関しては下記のセトリを参考にしていただき。一部楽曲(シングル曲やライトサイドの楽曲)はいわゆる“ワンハーフ”だったりメドレー形式だったんだけど、それでもやらないよりはマシ。むしろ、ご本人としてはここ10年くらいのメタル路線を前に打ち出して、そこで勝負している印象。そういった楽曲は歌うのも難しいものが多いし、演奏との息含め一歩間違えばグズグズになってしまってもおかしくないのに、それが一糸乱れぬ完璧なアンサンブルで繰り出される。不快さなんてこれっぽっちもない、常に気持ち良い音圧とサウンドが繰り出される2時間半。これに7000円とか8000円って、正直安いもんですよ。

途中、ビリー・シーンが出てきたときは隣にいた友人に「ビリーっ! ビリーだよ! MR. BIGの!」と叫んでしまったほど興奮(セッティング時にミントグリーンのベースが見切れていて、一部には事前にバレていたようですが)。そのビリーのプレイ含め、歌や演奏の技術の高さで人をここまで興奮させ、感動させる音楽って本当にすごいと思う。別にテクニック至上主義の人間ではないし、下手なモノの中にも素晴らしいもの、輝いているものはたくさんあるけど、こういう音楽の素晴らしさに感動できるのもまた事実。1曲終わるごとにため息が溢れるし、また1曲新たに始まるごとに拳を振り上げる(実際には振り上げなかったけど)。それくらい興奮していたと思います。

本当の意味で圧巻だったのは、本編ラストの「Zero」。20数名のストリングス隊をこれ1曲のためだけに準備し、ドラマチックな歌と演奏でライブを大々的に締めくくるわけですが、最後の最後、麻里さんのロングトーンに鳥肌……気づいたら涙が流れてました。感情がグワーっと持って行かれましたね……どんな気持ちなのか表現しがたい、グチャグチャにかき乱された状態でした。あんな経験、初めてですよ。

聴きたい曲はまだまだ山ほどあったし、「Stay Gold」を聴けなかったのは残念以外のなにものでもないけど、それはまた次回以降に。にしても、現在56歳の彼女……まだまだ活動を続けていくと宣言していましたが、このスタイルでどこまで更新し続けられるのか。その鍛錬も相当な大変さを要するだろうし、もしそれができなくなったときの恐怖といったら……ロブ・ハルフォードもある意味そっち側の人間であり、ギリギリのラインで戦っていますが、この人もきっと同じ孤独な道をひとり突き進むんだろうな。

いやあ。にしてもね、もっともヘヴィな楽曲が最新アルバム『Gracia』の楽曲って、どういうことだろうね。「Black Rain」や「Disruptor」「Zero」のカッコよさと言ったら……。

<セットリスト>
01. Right On
02. Disruptor
03. Blue Revolution
04. Carpe Diem
05. Return to Myself 〜しない、しない、ナツ。〜
06. No More Heroes
07. Nostalgia
08. Memory in Vain
09. Cry For The Moon
10. Promise In The History [Acoustic]
11. Canary [Acoustic]
12. Mangata
13. Sparks [feat. Billy Sheehan]
14. In Your Hands [feat. Billy Sheehan]
15. Dark Triad
16. Jumping High
17. Black Rain
18. Historia
19. Orience
20. Zero [with Orchestra]
--ENCORE--
21. Forever 〜
  All Night Party 〜
  Heart and Soul
22. Heartbeat Away From You
--ENCORE--
23. Momentalia
24. Tomorrow

 

2017年11月26日 (日)

SONS OF APOLLO『PSYCHOTIC SYMPHONY』(2017)

ヘヴィメタルが世界的に大きなヒットを飛ばした80年代後半になると、“スーパーグループ”と呼ばれるような組み合わせの新バンドがいくつか結成され話題になりました。MR. BIGなんてまさにそれでしょうし、BLUR MURDERBAD ENGLISHもそう呼べるでしょう。90年代に入りメタルシーンが低迷し始めると、解散したバンドのメンバーが集まって新しいバンドを組み始める。必然的にそれらは“スーパーバンド”と呼ばれても不思議じゃないメンツになっており、もはや「“スーパー”とは?」とスーパー感がごく当たり前になってしまったことで有り難みが薄れてしまった。それは2017年になった現在、より強まっているのではないでしょうか。

しかし、そんな自分ですら「そうきたか!」と思わせられた最新の“スーパーバンド”が、今回紹介するSONS OF APOLLO。マイク・ポートノイ(Dr)、デレク・シェリニアン(Key)、ロン・“バンブルフット”・サール(G)、ビリー・シーン(B)、ジェフ・スコット・ソート(Vo)という80〜90年代のHR/HMファンなら誰もが一度は名前を耳にしたことがあるであろう面々ばかり。マイクとデレクは90年代後半にDREAM THEATERで一緒だったし、ビリーは現在MR. BIGのみならずTHE WINERY DOGSではマイクと活動をともにしている。バンブルフットは元GUNS N' ROSESで現在はART OF ANARCHYのメンバーだし、ジェフは初期YNGWIE MALMSTEEN'S RISING FORCEのシンガーで、一時はJOURNEYにも在籍していた。過去に在籍したバンドをカードに勝負することがあったら、間違いなく“勝てる”組み合わせです。

そんな彼らが組んだSONS OF APOLLOのデビューアルバム『PSYCHOTIC SYMPHONY』は、このメンツから想像できる音=プロヴレッシヴメタルが展開されています。DREAM THEATER的でもあり、昨今のヘヴィ/ラウドロック的でもある。ボーカルがジェフという時点でDREAM THEATERに似ないことはわかっていましたが、ここまでオリジナリティに満ちあふれた存在感を打ち出すかと、一聴して驚かされました。

80年代以降のDEEP PURPLE的な側面もあり、90年代以降のプログレメタルのカラーもしっかり受け継いでいる。それでいて現代にも通用するラウド感を持ち合わせているんだから、強いったらありゃしない。

楽曲もいきなり11分超の大作「God Of The Sun」から始まり、中盤に9分超えの「Labyrinth」を配置しながら、ラストは11分近いインストナンバー「Opus Maximus」で幕を降ろす。その間には4分前後のコンパクトな楽曲が配置されており(それでも十分に“プログレ”してるんですが)、とにかく情報量と聴きどころ詰め込みすぎな印象。すべてを理解するには、3回、4回と何度も聴き込む必要があります。

けど、最近のアルバムって数回聴いて「しばらくいいか」と思ってしまうようなものも少なくないので、こういう密度が高くて「もっと理解したい!」と思わせてくれる力作との出会いは正直嬉しくもあるんですよね。

5人の個性と技術が克明に打ち出されたこのデビュー作をもって、彼らは2018年に本格的なツアーを行うそうです。これ、ライブで観たら本当にどうなっちゃうんだろう……今からドキドキとワクワクが止まらない、そう久しぶりに感じさせてくれた1枚です。

 


▼SONS OF APOLLO『PSYCHOTIC SYMPHONY』
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2017年7月 1日 (土)

MR. BIG『DEFYING GRAVITY』(2017)

苦しい環境下で最善を尽くした前作『...THE STORIES WE COULD TELL』(2014年)から3年ぶりに発表された、MR. BIG通算9作目のスタジオアルバム。ツアーではパーキンソン病で体が思うように動かなくなってきたパット・トーピー(Dr)に替わり、マット・スターがサポートで参加。もちろんパットもパーカッションとコーラスでライブに加わり、新たな5人編成というスタイルでツアーを完遂します。

で、そこから今作に向かっていくわけですが、今回のプロデューサーは初期4作を手がけてきたケヴィン・エルソン。バンドとしても来年で結成30周年を迎えることもあり、ここで改めて原点に戻ろうという思いがあったのかもしれません。ドラムトラックは前作のようにプログラミングではなく、パットが方向性を指示しながらマットがプレイ。楽曲制作にはもちろんメンバー4人が中心となり、これまで同様の外部ライターを迎えて書き下ろされていくのですが……。

なんですか、この突き抜け方は!? 1曲目「Open Your Eyes」のオープニングでは、1stアルバム『MR. BIG』(1989年)のオープニングに収められていたエンジニアの声がそのまま流用され驚いたところで、そのまま軽やかにスタート。かと思えば、続いて爽やかなパワーポップチューン「Defying Gravity」が飛び出す。さらに、ブギーのリズムが気持ち良い「Everybody Needs A Little Trouble」、カントリー調のミディアムナンバー「Damn I'm In Love Again」、ど頭のギター&ベースによるテクニカルなフレーズに驚かされる「Mean To Me」、どこか影のあるソウルバラード「Nothin' Bad ('Bout Feelin' Good)」と良曲が続くこの構成……再結成後の2枚(『WHAT IF...』『...THE STORIES WE COULD TELL』)がバンドの原点である「ブルージーでソウルフルなHR」に立ち返ったかと思っていたら、今作ではその一歩先にある『LEAN INTO IT』(1991年)で見せた“開け方”が存在する。そう、バンドが今回目指した“原点”は最大のヒット作となった『LEAN INTO IT』期に立ち返ることだったのかもしれません。

事実、本作には「To Be With You」が全米1位を獲得した時期を振り返る「1992」という楽曲も存在します。これなんてメロディに「Green-Tinted Sixties Mind」の匂いが感じられますしね。もちろん、すべてがあの頃の焼き直しではありません。あのアルバムから26年後のエリック・マーティン(Vo)、ポール・ギルバート(G)、ビリー・シーン(B)、そしてパット・トーピーの姿がここには存在するのですから。

唯一、難癖をつけるとしたら……やはり1曲目はギター&ベースのユニゾンバリバリのファストチューンでキメてほしかったな、と。まぁそれをやらないからこそ、「2017年のMR. BIG」なわけで、それも重々理解できるんですけど……たぶん、それをやらないというのも彼らなりの意地なのかもしれません。本当はそんな意地、捨ててほしかったんですけどね。

まぁ苦言は本当にそれくらいで、あとはもうひたすら楽しくて聴き応えのある、いかにもこのバンドらしい作品集だと思います。そして、このアルバムに触れてから過去2作を聴き返すと、また違った聴こえ方をしてくるから本当に不思議。30周年を前にネクストレベルに到達しそうな、そんな力作。ここ日本だけでなく、久しぶりに海外でもヒットしてほしいな。



▼MR. BIG『DEFYING GRAVITY』
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2017年6月24日 (土)

MR. BIG『...THE STORIES WE COULD TELL』(2014)

2014年9月にリリースされた、通算8枚目のオリジナルアルバム。再結成後としては、2010年末に発表された前作『WHAT IF...』から3年9ヶ月ぶり。ここまで時間が空いたのには理由があり……ご存知のとおり、パット・トーピー(Dr)のパーキンソン病が発覚。また、ポール・ギルバート(G)の難聴が悪化したことや、ビリー・シーン(B)がリッチー・コッツェン(Vo, G)、マイク・ポートノイ(Dr)と新たに結成したバンド、THE WINERY DOGSの活動が好調だったことが、制作の遅れにつながったと言われています。

さて、そうなると誰がバンドの新作制作を引っ張るのか。意外にも、その役割を引き受けたのがエリック・マーティン(Vo)でした。エリックは全13曲中(ボーナストラック除く)11曲にクレジットされ、プロデューサーのパット・リーガンとともに根気よく作業を続けたようです。そこには、病気でドラムが叩けなくなったパット・トーピーが自身がプログラミングしたドラムトラックを採用するという、気の遠くなる作業も含まれているのですから……。

そういう難産の末完成した本作ですが、評価は前作ほど高くないのも事実。ドラム云々は抜きにしても(実際、シンバルなど金モノ系を集中して聴かない限り、プログラミングしたドラムトラックとは気づかないのでは?)、なんとなくバンドが完璧に噛み合ってない印象を受けるのです。

楽曲自体は前作の延長線上にあり、メロディラインなど比較的優れたナンバーが多いのですが、ギターとベースが遠慮がちというか。このへんはポールの病気の影響も大きいのかもしれませんが、それに引っ張られるようにベースもボトムを支えることに専念している印象を受けます。そこにパットの件が加わるもんだから……言い方は悪いけど、「エリック・マーティンのソロアルバム(MR. BIG寄り)」と感じてしまうのです。

いえ、エリックはそうならないよう、しっかりMR. BIGというバンドのことを意識して作業に当たったと思うんです。しかしエリック以外のメンバーが地味すぎるがために、結果エリックの個性のみが突出してしまう。それが先の「バンドが完璧に噛み合ってない」につながるわけです。

改めて聴き返してみても、決して悪いアルバムではないんですよ。だけど、地味さが前面に出てしまい、前作よりも聴く頻度が落ちてしまった。悲しいかな、そういう残念な1枚であります。

また、本作は日本盤の初回限定盤のみ、初期編成で発表した4枚のアルバムからのベスト選曲を再録音したボーナスティスク付き。なぜこのタイミングで再録ベスト?と思ったけど、実はこれ、パットが過去の楽曲でプログラミングの練習をしたってことなんじゃないでしょうか。ここでの“リハーサル”があったから、オリジナル新作では違和感のない“ドラミング”を披露することができた。そう思うと、この『...THE STORIES WE COULD TELL』というアルバムがいかに難産だったかが理解できると思います。

もうひとつ残念なのは、新作本編よりもこっちのボーナスディスクのほうが聴く頻度が高かったということ。声域が若干低くなったエリックに合わせて半音下げで再録された名曲の数々は、原曲よりテンションが落ちるものではありますが、曲によっては大人の色気を感じるものも含まれており、まったくナシではないかな。とはいえこれ、単なるオマケなのであまり高い評価は付けないでおきます。

本作を携えたツアーでは、パットもステージ上に姿はあるものの、基本的にはサポートドラマーのマット・スターがプレイ。パットはタンバリンを叩いたりコーラスを入れたりしつつ、限られた楽曲でドラムを披露してくれました。ここでの変則編成がメンバー的にもお気に召したようで、新たな未来へとつながっていくわけです。



▼MR. BIG『...THE STORIES WE COULD TELL』
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