MR. MISTER『WELCOME TO THE REAL WORLD』(1985)
80年代半ばに活躍したアメリカの4人組バンド、MR. MISTERが1985年秋にリリースした2ndアルバム。デビュー作に当たる『I WEAR THE FACE』(1984年)が全米170位とヒットし損ねたのに対し、本作は全米1位を獲得したほか、シングルカットされた「Broken Wings」「Kyrie」がともに全米1位、「Is It Love」が全米8位にランクインし、名実ともにトップバンドの仲間入りを果たすきっかけを作った出世作となりました。
もともとスタジオミュージシャンたちが集まったAOR寄りバンドPAGESの一員だったリチャード・ペイジ(Vo, B)とスティーヴ・ジョージ(Key)により結成されたMR. MISTERは、ギターよりもシンセを前面に打ち出したポップ寄りのロックバンドでした。ドラムサウンドもどこか人工的で、トリガーなどを使ってかなりエフェクトが加えられている(あるいは打ち込みが採用されている)。ギターも適度にハードでエッジが効いているものの、ボーカルより前に出ることはない。各プレイヤーが自分の役割を心得ているあたり、スタジオミュージシャンの集まりなんだなと実感しました。
本作のプロデュースを手がけているのはポール・デヴィリアーズという人で、YESのライブアルバム『9012LIVE: THE SOLOS』(1985年)や『BIG GENERATOR』(1987年)のエンジニアを務めたり、KING CRIMSONに携わっている人とのこと。クリムゾンは別として、いわゆる“90125 YES”関係というのを知ってからこの『WELCOME TO THE REAL WORLD』を聴くと、意外と頷けるものがあるのではないでしょうか。
あと、リリースは本作よりもあとですが、DEF LEPPARDの『HYSTERIA』(1987年)にも通ずるものがありますよね。サウンドプロダクションをもっと派手に(リバーブ深めに)したら、かなり近いものがあるんじゃないかと。楽曲の質感もどこか近いものがあるし、90125 YES 〜 MR. MISTER 〜 DEF LEPPARDと並べてみると、実はMR. MISTERを中心にみんなつながるんじゃないかと。そんなことにも気づかせてくれる1枚です。
まあとにかく、後半のヒットシングル畳み掛けは圧巻です。前半のヒンヤリとしたアーバンポップ/ロックも独特の色があるけど、やはり「Kyrie」「Broken Wings」の強さといったら。特にこの2曲は今聴いても色褪せない魅力があるなと思いました。
結果として彼らは次作『GO ON...』(1987年)で再び失速。1989年に制作していたものの、未発表のまま解散してしまった4thアルバム『PULL』も2010年にWEB限定で発表され、最近では国内初リリースも実現しました。この2枚も決して駄作ではないので、本作が気に入ったらぜひチェックしてみてはどうでしょう。
ちなみに、MR. MISTER解散後、ギターのスティーヴ・ファリスは一時期WHITESNAKEのツアーに参加。ドラムのパット・マステロットは90年代以降のKING CRIMSONに参加し、レコーディングやツアーで活躍しているのはご存知のとおり。リチャード・ペイジもソロアーティストとして、またリンゴ・スターのツアーメンバーとして活動中です。
▼MR. MISTER『WELCOME TO THE REAL WORLD』
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