MUDHONEY『EVERY GOOD BOY DESERVES FUDGE』(1991)
1991年7月26日にリリースされたMUDHONEYの2ndアルバム。日本盤は海外リリースから約1年後の1992年6月1日に、『良い子にFUDGE』(1998年の再発時は『良い子にファッジ』)の邦題を冠して発売。
Sup Pop Recordsから発表した1stアルバム『MUDHONEY』(1989年)から約1年9ヶ月ぶりの新作。セルフプロデュース作だった前作に対し、このアルバムでは前作でエンジニアを務めたコンラッド・ウノ(THE POSIES、THE PRESIDENTS OF THE UNITED STATES OF AMERICA、SONIC YOUTHなど)がプロデューサーとして携わり、以降数多くの作品に関わり続けることになります。
NIRVANAの『NEVERMIND』(1991年)以降に勃発する“グランジ・ムーブメント”前夜の1988年から活動し、Sup Pop Recordsの立役者の1組としても知られるMUDHONEYですが、本作はメジャー進出する前に発表された最後の1枚であり、その録音方法含めインディーズならではのこだわりが伝わる内容となっています。
まず、レコーディングは8チャンネルのミキサーを使った非常にローファイな手法で実施。非常にドライで生々しい質感は、まだまだウェル・メイドなサウンドが中心だった1991年の音楽シーンにとってはオルタナティヴな存在でした。でも、だからこそこの「無駄なものが一切存在しない音の真空パック」のようなアルバムはアンダーグラウンドシーンで高く評価され、初版で5万枚ものセールスを上げたのではないでしょうか。
当時の音楽誌では、本作に対して「BLACK SABBATHのような最重量ヘヴィメタルを少しだけスピードアップさせ、さらにユーモアを加える。それがMUDHONEY」というような評価がありましたが、この「BLACK SABBATHのような最重量ヘヴィメタルを少しだけスピードアップ」させたものこそのちのNIRVANA『NEVERMIND』であり、以降のグランジの軸になっていったのではないでしょうか。ところが、MUDHONEYがその他のグランジ勢と異なったのは、ユーモアセンスが備わっていたこと。どんなにダーク&ヘヴィな音像を表現しようとしても、そこには必ずといっていいほどの脱力感とユーモアも散りばめられていた。「だからMUDHONEYは苦手」というリスナーもいるかもしれませんが、逆にこのユーモアセンスのおかげで彼らは良くも悪くもグランジ・ムーブメントに飲み込まれることなく、今日に至るまでマイペースな活動を継続できているのではないかと思うのです。
軽快さとタイトさが程よく混在したクールなバンドサウンドと、マーク・ムーア(Vo, G)の最高にカッコいいんだけど“どこまでいってもカッコいいとは言い難い”ちょっと間の抜けたボーカルスタイル。実は緊張感あふれる楽曲なはずなのに、隙の多いアンサンブルを筆頭にハーモニカやオルガン、ピアノを交えたアレンジのおかげで、常にユルさがつきまとってくる。80年代後半のインディーシーンの良い点を引き継ぎつつ、(本人たちにはその気はまったくなかっただろうけど)90年代に新たなうねりを生み出そうとするその(音から伝わる)姿勢は、30年後の2021年でも最高にカッコよく感じられるものです。そりゃあ『死ぬまでに聴きたいアルバム1001枚』(同タイトルの書籍)にも選出されるわけですよ。
なお、2021年7月23日には本作の30周年アニバーサリー・エディションも発売に。多数のレアトラックが用意されているのですが、この中には24チャンネルミキサーで録音されたアルバム収録曲のデモも含まれています。バンドがあえて8チャンで正規レコーディングした理由が透けて見えてくるので、ぜひ聴きくらべてみることをオススメします。
アルバムの随所からNIRVANAなどに与えた影響も見え隠れするものの、本作はグランジというよりはガレージパンクの傑作として捉えたほうが評価を間違わないような気が。ジャンルやムーブメントを踏まえて接することも大切ですが、まずは1枚の良質なロックアルバムとして触れてみてはどうでしょう。
▼MUDHONEY『EVERY GOOD BOY DESERVES FUDGE』
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