NELSON『AFTER THE RAIN』(1990)
マシュー(Vo, B)&ガナー(Vo, G)のネルソン兄弟(双子)を中心に結成されたバンド、NELSONが1990年夏にリリースした1stアルバム。当時の他のメンバーはブレット・ガースト(G)、ジョーイ・キャスカート(G)、ポール・ミルコヴィッチ(Key)、ボビー・ロック(Dr)という布陣。ネルソン兄弟が著名カントリーシンガーのリッキー・ネルソンの息子、かつ父親の若い頃にそっくりの甘いルックスということで注目を集めました。特に父リッキーは1985年に45歳でお亡くなりになったこともあって、その面影をネルソン兄弟に求めたアメリカ国民も多かったのかもしれません。
HR/HMブーム末期に、いわゆるソフトサイドのハードロックサウンドをアレンジとして用いた本作。どの曲も適度にハードながらも非常に耳障りが良く、一度聴いたら忘れられないような良メロ美メロばかりで、それが心地よいハーモニーとともに奏でられるわけですから悪いわけがない。オープニングトラックにして最大のヒット曲(全米1位)「(Can't Live Without Your) Love And Affection」や、2ndシングルとして大ヒット(全米6位)したアルバムタイトルトラック「After The Rain」はまさにその代表例と言える楽曲でしょう。
また、土着的なアメリカンロック「I Can Hardly Wait」、ワイルドさを強調した「More Than Ever」(こちらはシングルカットもされ、全米14位を記録)、シャッフルビートがズシリと響く「(It's Just) Desire」のようなアメリカンロックバンド的側面の強い楽曲もあれば、アルバムのラストを盛大に締めくくる「Will You Love Me?」みたいにバンドのテクニカルさを前面に打ち出した楽曲、ピアノとストリングスのサウンドが気持ち良く響く「Only Time Will Tell」(全米28位)、影のあるアレンジが印象的な「Everywhere I Go」というバラードもしっかり用意されている。基本的にはミドルテンポ中心で、ハードロック特有のアップテンポなファストチューンは皆無。それよりも、いかに気持ち良く聴かせるか、気持ち良く楽しませるかを重視した作品と言えるかもしれません。
もちろん、彼らは単なる“リスニング専門”バンドではなく、本作を携えて長期にわたるワールドツアーも実施。ここ日本にも、本国の大ヒットから遅れること1年強の1991年12月、ついに初来日公演が実現。この頃には「宝酒造 純」のCMに出演し、新たに書き下ろした「Too Many Dreams」が使用されたことでも話題となりました。
その後、レーベルとのゴタゴタで新作が5年も出せなかったり、不景気になって大々的なワールドツアーが縮小傾向になったり、HR/HMの衰退とグランジの台頭があったりと、シーンが大きく変化していく中でNELSONはたった1枚のアルバムだけで“過去の遺物”扱いされるように。当初2ndアルバムとして制作された『IMAGINATOR』(ゴタゴタを経て、別レーベルから1996年に3rdアルバムとして発表)がちゃんと1993年ぐらいにリリースされていたら……大きなヒットにはならなかっただろうけど、もうちょっとバンドとして評価されたのではないかと、今でも残念に思うことがあります。それくらい、デビューの仕方やバックボーン、ルックスなどで誤解され、過小評価されている存在ではないかと個人的には思っています。
今だからこそ、こういう良作に対してフラットに接してほしいと願うばかりです。