NINE INCH NAILS『THE SLIP』(2008)
2008年5月5日にリリースされたNINE INCH NAILSの7thアルバム。バンドのオフィシャルサイトで無料配信されたのち、同年7月22日に全世界25万枚限定でCD+DVD仕様が発売されました。
2008年3月にCD 2枚組のアンビエントアルバム『GHOST I-IV』を発表し、その独創性/実験性の高さでリスナーを驚かせたトレント・レズナー。そこから2ヶ月と間を空けずに届けられた今作は、同年4月に約3週間という短期間で制作/完成させた1枚です。
約6年ぶりの新作『WITH TEETH』(2005年)でバンドとしての“NINらしさ”を取り戻したトレントは、続く『YEAR ZERO』(2007年)ではその延長線上にありながらも、“個”としてアルバム作りと向き合った。その延長線上にありながらも、より実験性を強めたインスト大作『GHOST I-IV』を経て、トレントは再び“NINらしさ”と向き合うことになるのですが、ここでは過去のように長時間をかけて煮詰めることをせず、短い時間の中で“NINE INCH NAILSとは?”という命題と向き合い、導き出したのがこの10曲ということになるのでしょう。
マスタリングから1日強で先行配信された王道感の強いロックチューン「Discipline」や「1,000,000」、その後のツアータイトルにも用いられたゴシックテイストのピアノバラード「Lights In The Sky」など、その大半の楽曲がNINのパブリックイメージに沿った作風と言えるものばかり。そのシンプルな作りは過去の作品や楽興群と比較すると淡白に映り、聴く人によっては多少の物足りなさを感じるかもしれません。しかし、バンド/プロジェクトとしての初期衝動性を取り戻すという点においては、あの時期にこうしたトライは必要不可欠だったのかもしれません。
それ以上に、本作は制作期間3週間、マスタリングから数日でデジタル配信、しかもアルバムまるまる無料配信という画期的な試みこそが評価されるべき1枚なのかな。序盤の“らしさ”から「Lights In The Sky」以降のアンビエントな流れ(「Corona Radiata」「The Four Of Us Are Dying」)を経て、無機質なインダストリアルチューン「Demon Seed」で締めくくるという構成は、2000年代のどのアルバムよりも、実は90年代への回帰を彷彿とさせる流れだと思うのですが、いかがでしょう?
この作品を携え、一度はバンドとして活動を終了させたNIN。しかし、2013年には再始動をアナウンスし、8thアルバム『HESITATION MARKS』(2013年)とともに完全復活するのでした。
▼NINE INCH NAILS『THE SLIP』
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