カテゴリー「Nirvana」の19件の記事

2022年4月16日 (土)

3RD SECRET『3RD SECRET』(2022)

2022年4月9日にデジタルリリースされた3RD SECRETの1stアルバム。現時点でのフィジカルリリース未定。

突如発表され、今週後半からさまざまなWEB媒体で騒がれ始めた3RD SECRET。VOID、SOUNDGARDENNIRVANAPEARL JAM、そしてGIANTS IN THE TREESとワシントン/シアトル・シーンの1980〜2010年代の歴史を象徴するようなアーティストたちが一堂に会したスーパーバンドなのですが、その存在はこれまで告知されることはなく、このリリースを持っていきなり我々の前に現れたわけです。

メンバーはクリス・ノヴォセリック(B/ex. NIRVANA、GIANTS IN THE TREES)、キム・セイル(G/SOUNDGARDEN、ex. AUDIOSLAVE)、マット・キャメロン(Dr/PEARL JAM、SOUNDGARDEN、HATER)という90年代のグランジ界隈を席巻した面々に、80年代前半のDCハードコア界伝説のバンドVOIDのババ・デュプリー(G/マット・キャメロンのHATERにも参加)、クリスのサイドプロジェクトGIANTS IN THE TREESの一員でもあるジリアン・レイ(Vo)&ジェニファー・ジョンソン(Vo)という6人編成。楽器隊のメンツからどんなエグい音が飛び出すのかとワクワクしつつも、女性ツインボーカルという構成からまったく想像がつかなくなったりと、非常に想像力を掻き立てるバンドなんです。しかも、アルバムの共同プロデューサー&エンジニアが、かのジャック・エンディノ(シアトルのバンドSKIN YARDのギタリストにして、SOUNDGARDEN『SCREAMING LIFE』、MUDHONEY『SUPERFUZZ BIGMUFF』、NIRVANA『BLEACH』などのプロデュースで有名)ですからね。期待しないわけがない。

いざアルバムに触れてみると……アルバム冒頭を飾る「Rhythm Of The Ride」のオルタナフォーク的世界観にいきなり打ちのめされます。なんぞ、このサイケデリック感!? ああ、確かにSOUNDGARDENにもNIRVANAにもこのタッチ、あったもんな。女性Voということもあり、どこかTHE VASELINESを彷彿とさせるものもあるし。予想の斜め上を行く意表をついたオープニングに呆気にとられるものの、続く「I Choose Me」での王道グランジ/オルタナロックサウンドに「そうそう、これこれ!」と膝を叩くのでした。

アルバムはこのように、オルタナフォークとグランジロックの二極で進行していきます。キム・セイルのドロドロしたギタープレイを存分に活かした「Lies Fade Away」のようにグランジリスナーを納得させるナンバーもありながら、むしろ印象に残るのは「Live Without You」のようにフォーキーでメロディアスな楽曲群。このスタイルも“あの時代”そのものなんですよね。何もダークでゴリゴリした音だけがグランジじゃないんです。

収録曲のメインソングライターはクリス&マットということもあり、2人のそれぞれのバンドの色もにじませつつも、彼らがサイドプロジェクトで進めてきたバンドやソロ活動からの影響がより濃厚に表れている印象。それらを個性の異なる2人の女性シンガーが歌い分けたり、ときに2人でハモったりすることで独特の空気を生み出していく。特にGIANTS IN THE TREESのシンガー2人が参加していること、アコースティック楽器もふんだんに取り入れられていることも影響し、個人的には「NIRVANAのキャッチーさとストレンジさ、SOUNDGARDENのサイケデリックさ、PEARL JAMやGIANTS IN THE TREESのアーシーさを程よいバランスでブレンドした、クリス&マット中心のポストグランジ/オルタナフォークバンド」というイメージかな。あと、クリス・コーネル急逝以降、SOUNDGARDENが止まってしまったことで他アーティストの客演でしか聴くことができなかったキムのギターを存分に味わえるという点においても、本作は非常に価値の高い1枚ではないでしょうか。

各メンバーが参加する歴代のバンドをイメージして聴くと、もしかしたらコレジャナイ感に面食らうのかもしれません。が、これはこれで全然アリだし、むしろすでに何度もリピートするほど自身に馴染んでいる。傑作や歴史的名盤の類とは異なるものの、忘れた頃に心の隙間を埋めてくれるような、そんな必要不可欠な1枚になりそうです。

 


▼3RD SECRET『3RD SECRET』
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2021年12月 7日 (火)

NIRVANA『NEVERMIND (30TH ANNIVERSARY SUPER DELUXE)』(2021)

2021年11月12日にリリースされた、NIRVANAの2ndアルバム『NEVERMIND』(1991年)発売30周年を記念したボックスセット。日本盤は同年12月1日発売。

本作は『NEVERMIND』の最新リマスター盤に加え、未発表のライブ音源CD4枚とライブ映像Blu-ray1枚、そして秘蔵写真満載のフォトブックなどで構成。『NEVERMIND』のリイシューは2011年の20周年のときにも豊富なアイテムが発表され、さすがにここで打ち止めだろ?と思わせておいて、さらに貴重な音源をぶっ込んでくるという鬼のような仕打ち。10年前、高額なボックスセットを購入した筆者にとっても悩ましいアイテムです(苦笑)。

さて、リマスターに関しては今回は割愛。もともと音の良いアルバムでしたし、正直20周年リマスターのときもそこまで大きな変化をしておらず、今回も聴き流す限りでは大きな変化は得られなかったので。

となると、気になるのは未発表ライブ音源の数々。今回は1991〜92年という『NEVERMIND』リリース以降のノリにノッた4公演をまるまる楽しむことができます。その内訳は、①オランダ・アムステルダム公演(1991年11月25日)、②アメリカ・カリフォルニア公演(1991年12月28日)、③オーストラリア・メルボルン公演(1992年2月1日)、④日本・東京公演(1992年2月19日)。Blu-rayにはこのうち、アムステルダム公演の映像がまるまる収められています。

アムステルダム公演からは「School」「Been A Son」「Lithium」「Blew」が、カリフォルニア公演からは「Drain You」「Aneurysm」「Smells Like Teen Spirit」がライブアルバム『FROM THE MUDY BANKS OF THE WISHKAH』(1996年)で過去に発表済みですが、今回はすべてのライブ音源が新たにリマスタリングを施されているとのこと。そういった意味では、すべての音源が初出みたいなものなのかな。

公演によって音の質感はまちまちですが、それぞれ臨場感は強く、特に『NEVERMIND』がチャートを駆け上って全米1位まで到達する時期の①と②のライブからは、バンドの勢いが思う存分に感じられるはず。そんな状況に対してカート・コバーン(Vo, G)が嫌悪感マシマシのスタンスになり始めた1992年初頭の③と④、中でも唯一の来日公演となった1992年2月のジャパンツアーから最終日の中野サンプラザ公演の模様は、間に挿入されるMCなどからもバンド(というかカート)の当時の姿勢が伝わってきます。

ここはやはり④の日本公演が音源化されたことがうれしい限り。音質的には4公演中もっとも良好とは言い難いものですが(そもそも①と②はラジオなどでのオンエアを目的に収録された音源ですしね)、その音質含めバンドのラフさが伝わるものになっており、一周回ってアリに思えてくるはず。ライブハウスではなく座席指定のホールでのライブというのもバンドにとって違和感のひとつだし(ダイブやモッシュ、クラウドサーフができませんしね)、観客に対しての警備の厳しさも同様だったみたいですね(このへんは当時音楽雑誌に掲載されたライブレポートなどで確認できます)。

僕はこの公演と2月17日のクラブチッタ公演のチケットを確保していたのですが、購入前後に確定したイギリス留学のため友人に託し、結局一度も彼らのライブを生で体験することはできませんでした。だからこそ、この④のライブを会場で目にしていたら、当時20歳の自分はどんなことを感じたんだろう?と思うのです。曲中に飛び込んでくる熱狂的な歓声のファン同様、僕も叫び散らしていたのかな。あるいは、前々日のチッタ公演で散々暴れられたのに、サンプラザでは身動き取れずにフラストレーションが溜まっていたとか。今となっては「if」の話ですが……。

さすがに商品として世に出せるライブ音源はもうほとんどないでしょうし、40周年の頃にはフィジカル自体がこの世から消えている可能性だってゼロではないので、こういったアニバーサリー商品はこれが打ち止めかな?という気がします。そういった意味では、何をしてでも確保しておくべきアイテムかもしれませんね。

 


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2021年4月 5日 (月)

KURT COBAIN『MONTAGE OF HECK: THE HOME RECORDINGS』(2015)

2015年11月13日にリリースされた、カート・コバーンNIRVANA)のホームレコーディング・デモ音源集。

本作は2015年春に公開されたカートのドキュメンタリー映画『COBAIN:モンタージュ・オブ・ヘック』のサウンドトラック的位置付けの作品集。録音時期的には1987年から1994年までと幅広く、録音状態もまちまち。あくまでホームでもなので、過剰な期待をしないで接することをオススメします。

そもそも、本作に収録されている音源はカートが亡くならなければ、間違いなく世に出ることはなかったであろう習作ばかり。「Been A Son」や「Something In The Way」「Frances Farmer Will Have Her Revenge On Seattle」といった、のちにアルバムで完成版が収録されることになる楽曲のプロトタイプも収められているものの、大半はアコギでの弾き語りによる“サウンドメモ”のようなもの。「Reverb Experiment」みたいに“曲”とは言い難い断片や、「Montage Of Kurt」のようなサウンドコラージュも含まれており、カートの純粋なソロ作というよりも本当に映画のサウンドトラックとして制作されたものなんだな、というのが伝わる内容です。

いや、サウンドトラックなんて豪勢なものじゃないな。便所の落書きをまとめたら、こんなんできました……みたいなものか。芸術的価値は皆無。カート・コバーンという存在のすべてを知っておきたい、一部のコアマニアに向けた“おまけ”みたいなシロモノと断言させてください。

とはいえ、ビートルズ「And I Love Her」のダークなカバーが収められているなど特筆すべきポイントもあるんですよ(大半はマストで聴くべき音源とは言い難いものですが)。音楽ファン的には、本当にこれくらい。

映画用に目玉となるべき音源を漁ったものの、もはや残りカスのような音源しか残されていなかった、ということなんでしょう。NIRVANAらしいデモ音源は2004年発売のボックスセット『WITH THE LIGHTS OUT』で出し尽くした感がありますものね。NIRVANAというバンドにこだわるのであれば、『WITH THE LIGHTS OUT』だけで十分かと思います。

リリース当時は「カスみたいな作品だな」と思っていたWITH THE LIGHTS OUT』、本作を聴き終えたあとに久しぶりに再生してみたら、意外と良いじゃないか。いや、これは全然アリだ。と思えたのですから、そういう意識の変化を与えてくれたという意味では、この『MONTAGE OF HECK: THE HOME RECORDINGS』にも存在意義が少しはあったんだなと。そういう作品です(どういう作品だよ)。

カートの命日に、これをわざわざ聴くぐらいだったら、何万回とリピートしてきた「Smells Like Teen Spirit」を爆音で鳴らしてあげてください。きっとカートもそのほうが成仏するはずですから。

 


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2021年4月 4日 (日)

NIRVANA『LIVE AT THE PARAMOUNT』(2019)

2019年4月5日にリリースされたNIRVANAのライブアルバム。日本盤未発売。

本作は2011年に発売された同タイトルのライブ映像作品の映像版。アナログ盤およびデジタルのみでリリースされており、CDバージョンは同年発売の『NEVERMIND』スーパーデラックスバージョンに同梱されていました。現在では同バージョンのMP3ダウンロードや各種ストリーミングサービスのほか、『LIVE AT THE PARAMOUNT』単品での配信にて楽しむことができます。

本作で聴くことができるライブは1991年10月31日、シアトルにあるパラマウント・シアターで行われたライブを収録したもの。約2800人収容と、当時の彼らにとってはあなり大きな会場ですが、同年9月24日に2ndアルバム『NEVERMIND』(1991年)でメジャーデビューしたばかりのタイミングのパフォーマンスをたっぷり堪能することができる、貴重な内容となっています。

全19曲、約70分のフルスケールライブは、当時の最新作『NEVERMIND』に加え、1stアルバム『BLEACH』(1989年)からの楽曲も多数披露されているほか、数々の“当時はシングルのみでしか聴くことができなかった”レア曲(大半は1992年に発表されるコンピレーションアルバム『INCESTICIDE』に収録)や、次作『IN UTERO』(1993年)に収録されることになる「Rape Me」もプレイされています。

時期的にはまだNIRVANAがオーバーグラウンド浮上以前ということもあり、地元のローカルヒーロー的な存在だったNIRVANAが力むことなく、また(主にカート・コバーンが)病むことなくライブを満喫している様子が音からも伝わってきます。超代表曲「Smells Like Teen Spirit」ひとつとっても、楽曲と真摯に向き合ってプレイしているのがわかりますし、なによりもデイヴ・グロール(Dr)参加後のNIRVANAが『BLEACH』収録曲を『NEVERMIND』と同じテンション/演奏力で表現している。録音状態など含めチープさが際立った『BLEACH』収録曲の真の魅力に気づける、絶好の機会と言えるのではないでしょうか(もっとも、あのチープさ込みで良かったりもするんですけどね。ここでは良き演奏と良きサウンドで楽しめるという点において、楽曲本来の良さが味わえるはず)。

1992年以降のNIRVANAは、良くも悪くも神格化されてしまい、それが時に奇跡的な瞬間を生み出し、それ以外ではクソみたいなトピックを豊富に提供することになってしまいます。そう考えると、この「1991年後半」という短い期間はバンドにとって(いろんな意味で)最良のシーズンだったのかもしれません。そんな確変の瞬間をぜひ音で、あるいは映像で楽しんでもらいたいところです。

 


▼NIRVANA『LIVE AT THE PARAMOUNT』
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2020年4月 5日 (日)

NIRVANA『NIRVANA』(2002)

2002年10月下旬にリリースされた、NIRVANAのベストアルバム。日本盤は1週間ほど遅れて、同年11月初旬に発売されました。

1994年4月のカート・コバーン逝去後、『MTV UNPLUGGED IN NEW YORK』(1994年)『FROM THE MUDDY BANKS OF THE WISHKAH』(1996年)という2枚のライブ作品が発表され、ともに全米1位を獲得。特に前者はオリジナル作品と並ぶほどのセールス(全米のみで800万枚)を記録しました。とはいえ、これら2作品はライブアルバム。前者はMTVで放送されたものを音源化したもので、後者はライブ・コンピレーション作品ということで、スタジオ音源の未発表楽曲はこれまで発表されていませんでした。

ところが、2000年代に突入してからカートが亡くなる直前に行われたレコーディング・セッション(1994年1月)の音源の扱いについて、ボックスセットの一部として発表したいデイヴ・グロール&クリス・ノヴォセリック側とシングル・ディスクのベスト盤収録曲として売り出したいコートニー・ラヴ側とで揉め始めます。結局、コートニー側の主張が認められて2002年秋、シンプルに『NIRVANA』と題されたベストアルバムがリリースされ、未発表曲「You Know You're Right」が世に出ることとなるわけです。

そもそもNIRVANAはオリジナルアルバムを3枚しか発表していないし、いわゆるシングルヒットと呼べる楽曲も「Smells Like Teen Spirit」(全米6位)と「Come As You Are」(同32位)ぐらい。『NEVERMIND』(1991年)全曲に『BLEACH』(1989年)『IN UTERO』(1993年)からそれぞれ数曲ずつ追加すればそれでいいんじゃないかと思うのですが、カートの死から8年経ち、NIRVANAやグランジ・ムーブメントを知らない世代も増え始めた時期ということもあって、このベストアルバムは全米3位まで上昇、現在までに200万枚以上もの売り上げを残しています(思ったよりも売れてないのね)。

これまでに正式リリースされたオリジナルアルバム、ライブアルバム、およびコンピ盤『INCESTICIDE』(1992年)を所有している人にとっては、目当ては「You Know You're Right」ぐらい。あとはシングルのみで発表された「Been A Son」スタジオテイク(インディ盤「Blew」収録)と、「Pennyroyal Tea」のシングルミックスぐらいでしょうか。

その「You Know You're Right」は、いかにもNIRVANAらしい強弱のダイナミズムを効果的に用いたミドルナンバー。『IN UTERO』以降の流れを汲む楽曲で、適度なキャッチーさを備えた“らしい”1曲で、一応シングルカットもされ全米45位まで上昇しました。

以前はこれ1曲のためにCDを買うというカロリーの高さが気になりましたが、その後デジタル主流になったことで、この曲のみダウンロード購入したりストリーミングで手軽に聴くことができるようになりました。NIRVANA初心者は普通にオリジナルアルバムから手を出せばいいと思いますが、本作の日本盤にはボーナストラックとして「Something In The Way」と「Where Did You Sleep Last Night」の“MTV UNPLUGGED”バージョンが追加されているので、もしCD購入するなら日本盤をオススメします(ダウンロード&ストリーミング版はUS仕様なので、これら2曲は含まれていないので)。

 


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2019年4月 5日 (金)

NIRVANA『LIVE AT READING』(2009)

2009年11月に同名の映像作品DVDとともにリリースされた、NIRVANAの秘蔵ライブアルバム。

メジャーデビュー作品『NEVERMIND』(1991年)のバカ売れ後の1992年8月30日、イギリスで開催された『READING FESTIVAL』のヘッドライナーとして出演した際のパフォーマンスを完全収録(DVDのみ/CDは「LoveBuzz」とMCをカット)したファン待望の1枚。これまでブートレッグで死ぬほど世に出回ったこの映像/音源がカートの死後から15年以上、実際のフェス開催から17年を経てようやくキレイでオフィシャルな形で発売されたわけです。

この時期のカート・コバーン(Vo, G)は予想だにしなかった空前のメガヒットを前に、かなり斜に構えたスタンスで観客やメディアの前に姿を現していたタイミング。このレディングでも金髪の長髪ヅラをかぶり車椅子に乗って登場するなど、どこまで本気でどこからが冗談なのか……というオープニングで客を引かせてから、鋭いギターリフの「Breed」からライブをスタートさせます。

聴いてもらえばわかるように、決して演奏的技術がうまいわけでもないし見ストーンも多い。バカ売れした「Smells Like Teen Spirit」なんて誰もがアルバムと同じ音を求めて来ているのに、わざと音を外す。プロとしてはあってはならないし、人によっては「客をバカにしてる!」と憤慨するんでしょうけど、逆にカートとNIRVANAの面々が、1992年という“醒めた”時代にこれをやることに意味があり、だからこそカッコよかったんだよ……と思うわけです。

当時も存分にカッコいいと思っていたし、あれから20年近くを経た今観ても明らかにカッコいい。本当、真似できないカッコよさですよね。ただ、このカッコよさが成立するのって、デイヴ・グロール(Dr)という鉄壁のリズムが存在したからだとも思うわけでして。特にこれには後年になってから、より強く感じるようになりました。改めてこの人のドラミング(リズムキープやフレージング、パワー含め)、非ハードロック的な時代において実はかなりハードロック的なんですよね。そのアンバランスさが、ハードロック耳の自分にもハマったんだろうなと改めて思います。

もちろん、リズムだけじゃなくて曲の良さも大きい。特に『NEVERMIND』の収録曲はパンクとかオルタナを通り越して、ポップスとしての側面もかなり強いし、その前夜であった『BLEACH』(1989年)の楽曲にも存分に片鱗が感じられる。このライブでは翌年秋に正式リリースされる3作目のアルバム『IN UTERO』(1993年)の楽曲も数曲披露されていますが、『NEVERMIND』と『BLEACH』の中間といった印象でいろいろ舐めきっているのもまた良いです。

もう二度と帰ってこないこの時代、この演奏、このバンド。だからこそ、この1枚の存在は非常に大きい。音源としてももちろんですが、ぜひ映像付きで楽しんでもらいたい作品です。

 


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2018年8月31日 (金)

FOO FIGHTERS『ONE BY ONE』(2002)

前作『THERE IS NOTHING LEFT TO LOSE』(1999年)をデイヴ・グロール(Vo, G)、ネイト・メンデル(B)、そして新加入のテイラー・ホーキンス(Dr)の3人で制作し、ツアーを前にクリス・シフレット(G)が加わったことで現在まで続くベースの4人が揃ったFOO FIGHTERS。『THERE IS NOTHING LEFT TO LOSE』を携えたツアーを経て、この4人で初めて制作したのが、2002年10月発売の4thアルバムです。

プロデューサーに前作を手がけたアダム・カスパー(SOUNDGARDENQUEENS OF THE STONE AGEPEARL JAMなど)と、ニック・ラスクリネクツ(ALICE IN CHAINSKORNMASTODONなど)、そしてバンド自身がクレジットされている本作は、FOO FIGHTERS史上もっともヘヴィな1枚と言えるでしょう(もっとも、カスパー・プロデュース曲は「Tired Of You」1曲にとどまり、残りは当初からエンジニアとして携わってきたラスクリネクツとバンドの手によるもの)。

冒頭の「All My Life」から「Low」への流れは、硬派なハードロックをイメージさせるサウンドで、とてもグランジシーンから生まれたバンドとは思えないほど。従来の彼ららしい「Have It All」や「Time Like These」みたいにメロディアスな楽曲もしっかり含まれているものの、全体のトーンは非常にシリアスでヒリヒリした感覚で覆われています。

実は彼ら、このレコーディング中にもメンバー間での衝突があり、一時は解散寸前にまで追い詰められたそう。しかし、そういった困難を乗り越えた末にこのアルバムにたどり着く。大半の楽曲はその後レコーディングし直されたそうで、そういうタフな状況良い意味でバンド内の緊張感が伝わる攻めの作風へと昇華させた。そう考えると、この方向性はしかるべきものなのかもしれません。

もちろん、ここで展開されるスタイルは以降のアルバムにも反映されており、現在のスタジアムロックテイストはここから始まったといっても過言ではないわけです。ここまでくると、もはや「元NIRVANA」の肩書きは必要ないし、むしろあの頃グランジを毛嫌いしていたHR/HMファンにこそ率先して聴いてほしい、強力なアメリカンハードロックアルバムではないでしょうか。

本作はこの時点で過去最高となる全米3位を獲得。過去3作同様にミリオンセールスを記録し、「All My Life」(全米43位)、「Time Like These」(全米65位)というスマッシュヒットシングルも生まれています。さらに、2003年の来日公演では神戸ワールド記念ホール、幕張メッセという大会場でのライブも実現。本作は名実ともにトップバンドの仲間入りを果たす、起死回生の1枚となりました。

ちなみに、本作にはQUEENブライアン・メイが「Tired Of You」にギターで、デイヴとのNIRVANA時代の盟友クリス・ノヴォセリックが「Walking A Line」にコーラスで、デイヴ・リー・ロスのバンドで知られるグレッグ・ビソネットが「Danny Says」にドラムでゲスト参加。次作『IN YOUR HONOR』(2005年)の片鱗を、早くもここで見せています。

 


▼FOO FIGHTERS『ONE BY ONE』
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2018年4月 5日 (木)

NIRVANA『IN UTERO』(1993)

1993年9月にリリースされた、NIRVANA通算3作目のオリジナルアルバムにして最終作。天文学的メガヒット作となった前作『NEVERMIND』(1991年)はメジャーデビュー作ということもあり、もともとカート・コバーン(Vo, G)自身も「売れるアルバムを作る」という意識のもと制作されたことで、ああいう“ダークでカオス”と“ポップでキャッチー”が共存した奇跡的な1枚に仕上がりました。

しかし、あそこまでバカ売れするとは当の本人も想像してなかったんでしょうね。結果的にあの1枚が大きな足枷となり、バンドの活動のみならずカート自身の精神をも蝕んでいくことになります。

そういった混沌を経て、カートとバンドがたどり着いた結論がアンダーグラウンドへの回帰。プロデューサーにUSオルタナ/インディ界の鬼才スティーヴ・アルビニを迎えて制作されたのが、この異色作『IN UTERO』なわけです(ちなみに、アルビニはプロデューサーとクレジットされることを嫌い、本作でもエンジニアとして記されています)。

アルバムの収録曲数が一緒だったり構成が比較的近いことから、ある程度は『NEVERMIND』を意識した作風に仕上げられています。が、冒頭からギターが奏でる不協和音であることから、「Smells Like Teen Spirit」の二番煎じを狙って作られたものではないことは明白。歌メロは淡々としているものの、そこかしこにメロディメイカーとしてのカートの才能がにじみ出ており、ぶっきらぼうで聴く者を選ぶ作風ながらも軸にはポップさがしっかり残されていることも伺えます。

まあとにかく、冒頭3曲(「Serve The Servants」「Scentless Apprentice」「Heart-Shaped Box」)を聴けば、このアルバムでカートがやりたかったことはなんとなく伺えるのではないでしょうか。「Smells Like Teen Spirit」的フォーマットで作られた楽曲に「Rape Me」なんてタイトルを付けたり、シンプルなリズムにノイズと呟き&絶叫を乗せた「Milk It」みたいな曲があったりと、確かにパッと聴いたところキャッチーさは皆無かもしれません。ですが、メロディ自体は上で述べたとおり、意外とキャッチーさを兼ね備えている。そういった意味では、1stアルバム『BLEACH』(1989年)に通ずるものがあると言えます(それも「アンダーグラウンドへの回帰」の意味するところかもしれませんが)。

聴いていて前向きになれるような音楽ではないです。仮に『NEVERMIND』が街中で流れていたとしてもどこか馴染んでしまうと思いますが、こと『IN UTERO』に関しては違和感しか残さないし、拒絶以外の言葉は思い浮かびません。

そんな“試される”1枚ですが、当時の人気・勢いもあって本作は全米初登場1位を記録。『NEVERMIND』の全米1000万枚には及ばないものの、それでも500万枚以上を売り上げている不思議な作品なのです。

“NIRVANAらしさ”という点においては『NEVERMIND』の右に出るアルバムはないと思いますが、“カート・コバーンらしさ”という点ではこの『IN UTERO』がもっとも色濃い作品なのかもしれません。そういった意味でも、NIRVANAおよびカートを理解する上で『NEVERMIND』と『IN UTERO』は切っても切り離せない関係と言えるでしょう(もちろん、『BLEACH』も同じくらい重要ですけどね)。

本作のリリースから約半年を経た1994年4月5日、カートは自ら命を絶つことですべてに終止符を打つことになります。このアルバムが何かを予兆していた、なんてことは言いたくないですが、当時の彼の精神状態が反映された作品という意味ではいろいろ感じることの多い1枚かもしれません。



▼NIRVANA『IN UTERO』
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2017年8月15日 (火)

FOO FIGHTERS『FOO FIGHTERS』(1995)

1994年4月、カート・コバーン(Vo, G)の自殺によりNIRVANAは事実上の解散。メンバーのデイヴ・グロール(Dr)はNIRVANAのツアー中などに書き溜めた楽曲を同年秋からレコーディング。ドラムのみならずギター、ベース、そしてボーカルまですべてをデイヴ自身が手がけた純粋なソロアルバムを完成させました。そしてそれは、FOO FIGHTERSというバンド名のもと、1995年初夏に正式リリースされたのでした。

確かにデイヴはNIRVANA時代にもシングルのカップリングに曲を提供したり、歌ったりしていましたが、正直そこまで印象に残るものではなく。なので、こういったプロジェクトを立ち上げたと知り、ぶっちゃけ「大丈夫かよ?」と不安視したのをよく覚えています。

が、完成したアルバムは“NIRVANAのフォーマット”をうまく用いつつ、アメリカンハードロック的な“陽”の空気に満ちた作品集でした。冒頭2曲(「This Is A Call」「I'll Stick Around」)の突き抜け感、ポップでキャッチーな「Big Me」。正直、この3曲を聴いただけで完敗でした。「やるじゃん、デイヴ」と。

ただ、聴き進めるうちに、やはり心のどこかでNIRVANAと比較してしまう自分がいたのも事実。「カートならこんなアレンジにしないだろうな」とか「カートならこんなギターフレーズにしてたはず」とか「カートならここはこう歌てったんじゃ」とか。

いやいや、歌ってるのカートじゃないし。カートまったく関係ないから!

でも、当時は無理だったんですよ。亡くなってから1年ちょっとしか経っておらず、NIRVANAの時間が止まったのと相反して、SOUNDGARDEN『SUPERUNKNOWN』でバカ売れし、PEARL JAM『VITALOGY』という新たな傑作を世に放った1994年。いろんな場面でカートの不在を実感し、そのたびに遺作となった『IN UTERO』(1993年)ばかり聴いていたものです。

というわけで、FOO FIGHTERSのデビュー作を素直な気持ちで聴けるようになったのは、2ndアルバム『THE COLOUR AND THE SHAPE』(1997年)がリリースされてから。完全な“バンド”となった同作で、ようやく僕らもNIRVANAの呪縛から解き放たれた気がします。

今や完璧なスタジアムロックバンドにまで成長したFOO FIGHTERSですが、その原点は間違いなく本作。現在の質感とは異なるものの、デイヴ自身もNIRVANAの呪縛、グランジの呪縛から解き放たれようと必死で本作と向き合ったんでしょうね。完全には抜けきれてないこのアルバムを聴くと、なぜひとりで全部作らなくちゃいけなかったのかが、なんとなく理解できたりして。

実質1stアルバムではあるものの、その後の活動スタンスを考えたら本作は“プレデビュー盤”という位置付けがぴったりかもしれませんね。

 


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2017年8月14日 (月)

NIRVANA『NEVERMIND』(1991)

NIRVANAが1991年9月に発表した通算2作目にしてメジャーデビューアルバム。発売直後はそれほど大きな話題となりませんでしたが、年明け1992年くらいから一気に注目が集まり、気づけば全米1位、全英5位まで上昇。アメリカでは現在までに1000万枚以上、全世界で3000万枚以上も売り上げたメガヒット作であり、同作と同時期に発表されたPEARL JAMのデビューアルバム『TEN』とともに“グランジ・ムーブメント”を一気にブレイクさせた起爆剤です。

思えばNIRVANAを前年末〜同年初頭くらいに知り、西新宿を何度もさまよってついに見つけた1stアルバム『BLEACH』(1989年)を聴くも、そのチープなサウンドと、やりたいことが整理しきれていない作風にギョッとしたのですが、まさかそれから1年経たずに2枚目のアルバムが到着し、その作品にグッと心をわし摑みにされるなんて、当時は考えてもみませんでした。

とにかく1曲目「Smells Like Teen Spirit」からラストの「Something In The Way」まで(さらにその後のシークレットトラック「Endless, Nameless」まで)、一寸の隙もない完璧なハードロックアルバム(と、あえて呼ばせてもらう)。スタイルとしてはパンクなんだろうし、本作がアメリカで初めて1位を獲ったパンク作品というのも頷ける。けど、展開されている楽曲そのものはハードロックだと思うんです。カート・コバーンには悪いけど。

そもそも本作のサウンドメイキングは完全にハードロックのそれだし、前作発表後にバンドに加わったデイヴ・グロール(Dr)の豪快でパワフルなドラミングはHR/HMそのもの。そんな彼がNIRVANA解散後、FOO FIGHTERSで徐々にハードロック色を強めていったのも納得ですね。

だからリリース当時、無条件で本作に手を出し絶賛したメタルファンは少なくなかった。少なくともリリース直後(1991年秋〜冬)、自分の周りにいたメタラーはみんなこのアルバムを気に入っていたよ。

でも、売れに売れて、“グランジ”なるものがそれ以前のメタルシーンを駆逐したことで、状況は一変しちゃったんだけどね。そういう意味では1992年以降しばらくは旧来のメタルファンにとって踏み絵的な作品だったのかもしれない。今じゃそんなことまったくないんだけどさ。

歌詞については、国内盤に付属の対訳やネット上に溢れている翻訳サイトにてご確認を。実際どれが正しい歌詞なのかは不明だし、そもそもが難解なものばかりなので、どこまでカートの意図したものに近いかは不明ですが。

ここで展開された音、歌、歌詞、そしてカートの生き様。あれから26年経った今触れてみても、何かを突き動かすほどのパワーと可能性を秘めた強烈な作品だと思います。本当、僕がここで改めて語るまでないけどね。

最後に余談。当時僕はこのアルバムをまず輸入盤で購入。その後、友人が国内盤を購入したので、ライナーノーツを読みに彼の家に行って、本作を聴いていたんですが……「Something In The Way」終了後に10分の空白があり、そのあとにシークレットトラック「Endless, Nameless」が始まるんだけど、当時の僕はこれにびっくりして。だって、自分が持ってる輸入盤にはこの曲、入ってなかったんだもん。てっきり日本盤だけのボーナストラックなのかと思ってたら、実はファーストプレスにはこのシークレットトラックは未収録だったとのこと。

というわけで、現在我が家には輸入盤ファーストプレス(シークレットトラックなし)、のちに購入した国内盤(シークレットトラックあり)、1992年前半イギリス滞在中に現地で購入したカセットテープ(シークレットトラックなし)、2011年にリリースされたリマスター盤デラックスエディション、そしてアナログ盤の5仕様が存在します(苦笑)。これから聴こうって人は、リマスター化された1枚モノか、貴重なデモ音源や当時シングルなどで聴くことができた定番曲などをまとめた2枚組デラックスエディションをオススメしておきます。



▼NIRVANA『NEVERMIND』
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