カテゴリー「Oasis」の20件の記事

2021年8月 1日 (日)

OASIS『FAMILIAR TO MILLIONS』(2000)

2000年11月13日にリリースされたOASISのライブアルバム。日本盤は同年11月15日発売。

OASIS初にして活動期間中唯一発表されたライブアルバムは、4thアルバム『STANDING ON THE SHOULDER OF GIANTS』(2000年)を携え実施されたワールドツアーの中から、そのハイライトとなった2000年7月21日のイギリスWembley Stadium公演を軸に収録したもの。レコーディングには参加していないものの、ツアーからメンバーとなったゲム・アーチャー(G/ex. HEAVY STEREO)、アンディ・ベル(B/ex. RIDE、ex. HURRICANE #1)にとって初のOASISの音源となります(スタジオ作品は5thアルバム『HEATHEN CHEMISTRY』より)。

できることなら初期メンバーでのフルライブアルバムも欲しかったなあと思うものの、ゲム&アンディが加わったことで演奏に安定感/安心感が加わったことでまとまったライブ作品の発表に踏み切ったというのもあるんでしょう。もちろん、かのWembley Stadiumをフルハウスにした歴史的ライブという要員も大きいでしょうけどね。

にしても、よりにもよって『STANDING ON THE SHOULDER OF GIANTS』を携えたツアーというのが……。まあ、ゲム&アンディがスタジオレコーディングに参加していないことから、「Go Let It Out」や「Who Feels Love?」はもちろんのこと、アルバムのハイライト的な長尺曲「Gas Panic!」もこの編成でしっかり楽しめるというのはありがたい限りですが。

ちなみに、本作での「Wonderwall」はボーカルテイクのみ同年3月に行われた横浜アリーナ公演から引っ張ってきたものなんだとか。これは、Wembley Stadium公演にてリアム・ギャラガー(Vo)がしっかり歌わなかったため、現存するテイクの中から横アリでのボーカルテイクが選ばれたんだそう。いやいや、横アリだって……ねえ?(苦笑) あと、ラストに収められたビートルズのカバー「Helter Skelter」は2000年4月16日、米・ミルウォーキー州Riverside Theatreからのテイク。貴重な1曲ですね。貴重といえばもうひとつ、本作にはニール・ヤングのカバー「Hey Hey, My My (Into The Black)」も収録されています。

いわゆる代表曲はほぼ網羅されているので、7万人の聴衆による大合唱をフィーチャーした「Wonderwall」や「Cigarettes & Alcohol」「Don't Look Back In Anger」「Live Forever」などもしっかり堪能できます。これを聴いちゃったあとに来日公演に足を運ぶと……特にフェスでは物足りなさを感じていたんですが、それも2005年以降はどんどん解消され、最後の来日となった2009年のフジロックでは大雨の中感動の涙を流したことを今でもよく覚えています。

なお、本作にはジャケット色違いの“ハイライト盤”と称したCD1枚モノの輸入盤も存在します。赤みがかったアートワークのC2枚組が通常仕様ですが、青みがかったアートワークのものは全18曲入りの通常盤から5曲カットした13曲仕様となっているので、ご注意を。さらに、同タイトルの映像版も発売されており、こちらは圧巻の客席の様子を併せてお楽しみいただけるはずです。

また、OASISのライブアルバムは単品では本作のみとなりますが、ベストアルバム『TIME FLIES... 1994-2009』(2010年)初回限定盤にはノエル・ギャラガー(Vo, G)脱退1ヶ月前(フジロックの約1週間前)の2009年7月21日に実施されたライブの音源が、ボーナスディスクCD1枚に収められています。フルスケールではないですが、こちらもオススメです。

 


▼OASIS『FAMILIAR TO MILLIONS』
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OASIS『DIG OUT YOUR SOUL』(2008)

2008年10月6日にリリースされたOASISの7thアルバム。日本盤は同年10月1日先行発売。

前作『DON'T BELIEVE THE TRUTH』(2005年)発表後、日本では同年8月(『SUMMER SONIC』ヘッドライナーおよび名古屋)と11月(代々木第一体育館、大阪城ホール)と1年に二度も来日公演を行ったOASIS。2006年には初のベストアルバム『STOP THE CLOCK』のリリース、ロードムービー『LORD DON'T SLOW ME DOWN』の公開、ノエル・ギャラガー(Vo, G)の単独来日(MySpaceの企画でアコースティックライブ実施)など、充実した濃厚な日々を送り続けました。

2007年夏から次作の制作に突入したバンドは、デイヴ・サーディを再度プロデューサーに起用。サポートドラマーにザック・スターキー、キーボーディストに2002年のツアーからサポート参加するジェイ・ダーリントン(ex. KULA SHAKER)を迎え、『DON'T BELIEVE THE TRUTH』で到達したスタイルの“次”を提示する意欲作を完成させます(ザックはツアーには不参加)。

前作ではノエルとの共同プロデュースでしたが、今作ではデイヴがひとりでプロデュース/ミックスを手がけたこともあってか、非常にモダンな音像なのが印象的です。その影響もあり、楽曲のスタイルもどこか目新しさが感じられ、リアム・ギャラガー(Vo)、ノエル、アンディ・ベル(B/ex. RIDE、ex. HURRICANE #1)、ゲム・アーチャー(G/ex. HEAVY STEREO)体制で早くもネクストステップに突入したことが伺えます。これを吉とするか無しとするかで、評価は大きく異なるのではないでしょうか。

ソングライティングに関してはノエルが全11曲中6曲を手がけており、「Bag It Up」「The Turning」「Waiting For The Rapture」「The Shock Of The Lightning」(全英3位)と冒頭4曲がノエル曲で占められているのも印象的。かつ、6曲目「(Get Off Your) High Horse Lady」と7曲目「Falling Down」(同10位)もノエル曲なので、アルバムの前半がほぼノエル色で染められていることになります。過去のOASISと比べたら比較的地味な部類に入るものの、モダンな音像と相まって同時代のガレージロックにも匹敵する豪快さが感じられるはずです。

他メンバーが書いた楽曲も良曲揃いで、リアムは「I'm Outta Time」(同12位)、「Ain't Got Nothin'」「Soldier On」の3曲を提供し、普段ノエルが提示していたセンチメンタルなカラーを補っている。アンディは「The Nature Of Reality」、ゲムは「To Be Where There's Life」と、やはりノエルにない色をそれぞれ提供しており、この対比が非常に面白いなと。バンドとして相互関係がしっかり築かれていることが、こういったクレジットからも透けて見えるような気がしてきます。

チャート的には全英1位、全米5位とひさしぶりに成功したように映りますが、売り上げ的には前作の半分程度まで落ち込み、1stアルバム『DEFINITELY MAYBE』(1994年)以来となる“全英1位シングルを含まないアルバム”という不名誉な記録を打ち立てることに。そして、2009年3月には東名阪と札幌を回るアリーナツアーを行い、同年7月には『FUJI ROCK FESTIVAL』初日ヘッドライナーとして再来日。しかし、その翌月にノエルが脱退を表明し、OASISは解散することになります。

結果として本作がラストアルバムとなってしまいましたが、ここには終わりを目前にした悲壮感もなければ、メンバー間の不和によるズレも見つからない。むしろ、“第3期OASIS”を確立させていこうとするポジティブさが伝わり、もしあのときノエルが脱退を思いとどまっていたら、幻の8thアルバムでどんなサウンドを聴かせてくれていたのか……なんて、たら・れば話を今さらしたくなってしまいます。

だからといって、彼らの再結成を望んでいるのかと言われると、実はまったくそんなことは思っておらず(苦笑)。あの時系列での続きが見たかっただけで、今のリアム&ノエルがまたOASISを再開させてもね……と思ってしまうわけです。それよりは、もっと気合いの入った双方のソロ作を聴きたいです。あと、アンディはRIDEで頑張っているので足引っ張らないで!(笑)

 


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2021年7月27日 (火)

OASIS『DON'T BELIEVE THE TRUTH』(2005)

2005年5月30日にリリースされたOASISの6thアルバム。日本盤は同年5月25日に先行発売。

リアム・ギャラガー(Vo)、ノエル・ギャラガー(Vo, G)、アラン・ホワイト(Dr)にアンディ・ベル(B/ex. RIDE、ex. HURRICANE #1)、ゲム・アーチャー(G/ex. HEAVY STEREO)という新編成で“第2のデビューアルバム”ともいえる前作『HEATHEN CHEMISTRY』(2002年)を制作し、大ヒットにつなげたOASIS。しかし、2004年に10年近くにわたりバンドに在籍したアランが脱退してしまい、早くも新編成が崩壊します。

バンドは新たなドラマーとして、リンゴ・スター(ex. THE BEATLES)の実子ザック・スターキー(THE WHOなど)をサポートメンバーに迎え、レコーディングに突入。プロデューサーのひとりにデイヴ・サーディー(HELMETSLAYERSYSTEM OF A DOWNなど)が参加した本作は一聴すると地味に映るものの、実は“『(WHAT'S THE STORY) MORNING GLORY?』(1995年)再び”という精神性と、“バンド”感を再び取り戻そうとする気概が入り混じった非常に意欲的な1枚ではないかと思うのです。

まず、アルバムの冒頭を飾る「Turn Up The Sun」がアンディの楽曲という時点で“ノエル一強体制”が終焉したことを匂わせているし、さらにアンディはもう1曲「Keep The Dream Alive」を提供している。ゲムも単独で書いた「A Bell Will Ring」のほか、リアムとの共作「Love Like A Bomb」も用意。リアムも単独で「The Meaning Of Soul」「Guess God Thinks I'm Abel」を提供しており、ノエル楽曲はリードシングル「Lyla」(全英1位)や「The Importance Of Being Idle」(同1位)、「Let There Be Love」(同2位)など5曲にとどまっており、全キャリア中もっともノエル色の薄い1枚と言えるのではないでしょうか。

冒頭2曲が非常に地味なこともあり、リリース当時はあまり印象がよくなかった本作。実はアルバムとしての充実度は中後期でもっとも高い力作ではないかと確信しています。アンディ曲はHURRICANE #1色濃厚ながらも、リアムが歌うことでしっかりOASIS化しているし、ゲムの曲もしかり。そして、リアムが書いたアルバムの中で良いスパイスとなっており、OASISの新たな可能性をしっかり提示している。

この色彩豊かさ、“『(WHAT'S THE STORY) MORNING GLORY?』再び”を無意識のうちに狙ったものだったんだろうな。きっとその想いは、ノエルではなくほかのメンバーが漠然としてイメージしていたものだったのかも……というのは言い過ぎでしょうか。

OASIS現役期間中で、個人的にはもっとも聴く頻度の低かったアルバムですが、実はここ5年くらいで一番リピートする機会が増えたのが本作。古き良きブリティッシュロック(ブリットポップに非ず)を2000年代にリバイバルさせ、かつ90年代半ばの自身をもう一度よみがえらせようとした挑戦の1枚。ぜひ偏見なしに触れてみることをオススメします。

 


▼OASIS『DON'T BELIEVE THE TRUTH』
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OASIS『HEATHEN CHEMISTRY』(2002)

2002年7月1日にリリースされたOASISの5thアルバム。日本盤は同年6月26日に先行発売。

前作『STANDING ON THE SHOULDER OF GIANTS』(2000年)リアム(Vo)&ノエル(Vo, G)のギャラガー兄弟、アラン・ホワイト(Dr)というイレギュラーな編成で完成させたOASIS。アルバム完成後にはアンディ・ベル(B/ex. RIDE、ex. HURRICANE #1)、ゲム・アーチャー(G/ex. HEAVY STEREO)という“Creation Recordsオールスターズ”が参加して、ツアーを敢行します。

2001年秋から新体制で初のアルバム制作に突入したOASISは、バンドのセルフプロデュースのみならず、リアムやアンディ、ゲムも楽曲提供するなどバンドらしさをさらに強める結果に。アルバムは全英1位を獲得し、セールス的にも前作以上を記録。「The Hindu Times」(同1位)、「Stop Crying Your Heart Out」(同2位)、「Little By Little」(同2位)、「Songbird」(同3位)とヒットシングルも多数生まれました。

新編成で約1年にわたりツアーを重ねた結果、バンドとしてのまとまりの強さを確かなものとし、そこからアルバム作りに入ったことから前作以上にバンドのグルーヴ感が存分に楽しめる1枚と言えるのではないでしょうか。かつ、リアムのソングライターとしての成長がアルバムに広がりを与えており(本作では「Songbird」をはじめ3曲提供)、ゲム(「Hung In A Bad Place」)やアンディ(1分強のインスト「A Quick Peep」)はまだまだバンドへの貢献度は低いものの、ソングライターが4人に増えたことで初期3作とは異なる“OASIS第2章”の序章にふさわしい内容に仕上がったと言えます。

ノエルのソングライターとしての才能は相変わらずですが、多少“第2のデビューアルバム”を意識したのか、大人になったノエルが初期衝動を取り戻そうとしている感も伝わってくる。オープニングを飾るストレートな王道ロック「The Hindu Times」はまさにその象徴的な存在ではないでしょうか。と同時に、前作での実験もなかったことにせず、「Force Of Nature」で昇華させている。さらに、過去と次作以降をつなぐ「(Probably) All In The Mind」や「Better Man」も用意されており、ある意味ではバンド後期へと向けたもうひとつの過渡期的作品と言えなくもないのかな。

とはいえ、ロックバンドとしての躍動感と高揚感は満載だし、ガキンチョだった初期から大人の階段を登り始めたギャラガー兄弟の成長が窺えるという点でも魅力的な1枚ではないでしょうか(余談ですが、「(Probably) All In The Mind」のギターソロ、「Born On A Different Cloud」のスライドギター、「Better Man」のギター&バックボーカルでジョニー・マーがゲスト参加しています。UKロックファンはそこも聴きどころかなと)。

 


▼OASIS『HEATHEN CHEMISTRY』
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2021年3月29日 (月)

OASIS『THE MASTERPLAN』(1998)

1998年11月3日にリリースされたOASISのコンピレーションアルバム。日本盤は同年10月28日に先行発売。

全英1位/全米2位/日本3位(オリコン総合チャート)という好成績を残した3rdアルバム『BE HERE NOW』(1997年)を経て、続く4thアルバムまでのつなぎ且つ1998年のクリスマス商戦に向けたアイテムとして制作された、既出のシングルBサイド曲で構成された内容。ファン投票の結果を踏まえ、ノエル・ギャラガー(G, Vo)によって決定した14曲が収められており、「隠れた名曲が多いアルバム未収録曲」による“裏ベスト”的1枚となっています。

本作にはライブでの定番曲だった「Acquiesce」や「Talk Tonight」、ビートルズのカバー「I Am The Walrus」のライブテイクなど、耳馴染みのある楽曲も多数収録されています。当時のOASISファンにとって、毎回アルバム未収録の新曲が複数用意されたシングルはマストアイテム。なので、新曲や未発表曲皆無の本作はある意味スルー案件ではあったものの、こうやってアルバム1枚にまとめられると手軽に楽しめるので重宝した、なんてファンも少なくないはずです。

録音時期や録音環境(スタジオ/ライブテイク)、録音メンバーも異なるため、アルバムとしてのトータルクオリティはオリジナルアルバムには及びませんが、それでも捨て曲なしの本作はOASISに多少なりとも興味があるリスナーなら、避けては通れない1枚。上記のような楽曲に加え、「Underneath The Sky」「Going Nowhere」「Rockin' Chair」「Stay Young」「Headshrinker」、そしてタイトルトラック「The Masterplan」とノエル・ギャラガーの才能が遺憾無く発揮された名曲がたっぷり用意されているのですから。このクオリティでアルバムから漏れるんだ……と当時は驚かされたものです。

あと、ノエルVo曲が多いのも本作の特徴かな。この当時はまだ、アルバム本編では抑え気味だったノエルのシンガーとしての側面は、シングルのBサイドナンバーで発揮されていたわけで、本作では全14曲中5曲(うち「Acquiesce」はリアム・ギャラガーとのツインVo)でノエルの歌を楽しめます。その中でも特筆すべき1曲が、先にも挙げた「The Masterplan」。これ、なんで『BE HERE NOW』から漏れたんだろうと頭を抱えるほど出色の完成度で、あの時期の創作意欲はバンドとしてもピークに達しつつあったことが理解できるんじゃないかと。それこそ「Stay Young」も『BE HERE NOW』期のBサイド曲ですしね。

本作りリースからしばらくして、初期メンバーのボーンヘッド(G)とギグジー(B)が相次いで脱退。残されたリアム&ノエルと、1995年に加入したアラン・ホワイト(Dr)の3人で4thアルバム『STANDING ON THE SHOULDER OF GIANTS』(2000年)を完成させることになります。結果として本作は、初期OASISの節目を飾る1枚となってしまいましたが、ありきたりなシングルコレクションではなく、こうした裏ベストで第1期を締めくくったのも実にOASISらしかったのではないでしょうか。

 


▼OASIS『THE MASTERPLAN』
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2021年3月28日 (日)

OASIS『(WHAT'S THE STORY) MORNING GLORY?』(1995)

1995年10月2日にリリースされたOASISの2ndアルバム。日本盤は同年10月10日発売。

1stアルバム『DEFINITELY MAYBE』(1994年)がイギリスのみで200万枚を超える大ヒット作となり、デビューしていきなりスターバンドへと昇格したOASIS。約1年1ヶ月という非常に短いスパンで届けられたこの2作目のアルバムはその1作目をさらに上回るセールスを記録し、イギリスのみで約500万枚を突破。その勢いはアメリカにまで飛び火し、最高4位/400万枚という快挙を成し遂げます。また、本作からは「Some Might Say」(全英1位)、「Roll With It」(同2位)、「Wonderwall」(全英2位/全米8位)、「Don't Look Back In Anger」(全英1位/全米55位)というヒットシングルも生まれ、そのほかにも「Morning Glory」や「Champagne Supernova」がオーストラリアでシングルカットされともにTOP30入りを記録しました。

久しぶりに現れた破天荒なロックバンドで、リアム・ギャラガー(Vo)&ノエル・ギャラガー(G, Vo)のビッグマウスぶりがゴシップ誌で取り沙汰されることも多い。だけど楽曲は非常にポップ&ロックでわかりやすく、幅広い層にアピールする。そういったトピックがすべて良い方向に作用し、『DEFINITELY MAYBE』というアルバムで最初のピークを迎えるわけですが、それはあくまでイギリスや日本において。続く今作ではそういった話題が世界規模にまで拡大し、国民的バンドから「今、世界でもっとも人気のアイコン」にまで登り詰めることになるのですが、それもこれも楽曲の完成度、アルバムとしてのわかりやすさ/親しみやすさあってこそだと思うのです。

1stアルバムは処女作らしく尖った部分や(良い意味で)未完成/未発達な部分も随所に見受けられましたが、この2ndアルバムではトゲを適度に残しつつも、未開拓だった部分がまったく見つからないほどの鉄壁さを手に入れた。前作にも迷いはまったく感じられませんでしたが、本作でのそれは1作目の比ではなく、無敵さを獲得したからこその「有無を言わさぬ説得力」が備わっているのです。

1曲1曲の出来については僕がここで書くまでもなく、聴いてもらえば重々おわかりいただけるはずです。すべての楽曲がアンセミックな輝きを放っており、気づけば一緒に歌えてしまう。その輝きはリリースから25年以上経った今聴いても、まったく色褪せていないし、もっと言えば古さすら感じられない(そもそもが、最初から時代を先取りした新しい音ではなかったですしね。笑)。エヴァーグリーンってこういうことを示すんだなと、改めて実感させられます。

絶対的なポピュラリティを保ちつつ、随所にマニアックさも散りばめられている。万人を唸らせる王道さがありながらも、実はロックマニアが食いつくような要素も用意されている。この絶妙なバランス感こそ、ブリットポップというブームを超越して広く行き渡った要因ではないでしょうか。もっと言えば、そのバランス感がもっとも保たれているOASISのアルバムって、実は本作くらいなんじゃないかな。本作と前後して発表された1作目と続く3作目『BE HERE NOW』(1997年)はそのバランス感が若干いびつですし、それ以降の作品は良くも悪くもそのバランスを取り戻そうとする感が伝わるし。そういった意味でも、本作は奇跡的な1枚なのかもしれません。だからバカ売れしたんでしょうね。

※追記(2021/3/29):本作を含むOASISのアルバム初期3作やTHE VERVE『URBAN HYMNS』(1997年)などのアートワークを手がけた英国のグラフィックデザイナー/アートディレクターのブライアン・キャノンが3月28日にお亡くなりになりました。このタイミングの訃報に驚きを隠せません。ご冥福をお祈りいたします。 

 


▼OASIS『(WHAT'S THE STORY) MORNING GLORY?』
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2019年9月 1日 (日)

OASIS『DEFINITELY MAYBE』(1994)

1994年8月末に発売された、OASISの記念すべき1stアルバム。ここ日本では約1週間遅れて9月初頭にリリースされています。

ここ日本でも同年初夏ぐらいから音楽誌を中心に、その名前を多く目にするようになっていたイギリスの新人バンドOASIS。とはいえ、実際に音を耳にしたのは7月に日本盤リリースされたEP『SUPERSONIC』でのことでした。同作には英シングル「Supersonic」「Shakermaker」収録曲が1枚にまとめられており、僕自身も冒頭2曲(「Supersonic」「Shakermaker」)で惹きつけられ、早くも同年秋に決定していた来日公演のチケットをどうにか手配した記憶があります(すでに複数枚確保していた友人から譲ってもらったんだっけ)。

で、決定打になったのが第3弾シングルの「Live Forever」。確か当時フジテレビで金曜深夜に放送されていた音楽番組『BEAT UK』で同曲のMVを観て、完璧にノックアウトされたのです(これ、アルバムを購入した後だったか来日公演後だったか、それともその前だったかの記憶が曖昧なのですが)。そこからのアルバム〜初来日公演だったので、そりゃあのめり込まないわけがない。

正直、ブリットポップだとかそんな言葉をまだ認識する前の出来事で、BLURに関しては先に発表されていた3rdアルバム『PARKLIFE』も普通に聴いて楽しんでいたし、それより前にデビューしたRADIOHEADSUEDEも普通に楽しんで聴いていた。OASISに関しても「懐古主義っぽいけど、なんだか面白いバンドがマンチェスターから出てきたぞ」くらいの認識だったと思います。

だって、オープニングからいきなり「Rock 'n' Roll Star」ですからね(笑)。同年春にカート・コバーン(NIRVANA)が自殺し、ようやく「アンチ・ヒロイズム」の時代が幕を降ろすのか……そう思っていたタイミングにこれですから(笑)。しかも、そう高らかに宣言するこの曲のドライブ感たるや。最高じゃないですか。

以降もサイケでグルーヴィーな「Shakermaker」、名曲「Live Forever」と続く。この頭3曲だけで完全に勝利ですよね。そこからもアップテンポの「Up In The Sky」があったり(当時の日本盤はその前に「Cloudburst」が入っていたんですよね。その流れがもはや当たり前になっているんですが)、「Columbia」「Supersonic」というズシリと響く曲が並んでいたり(当時の日本盤はその間に「Sad Song」が挿入されており……って、もうこの説明いらない?苦笑)。その後もハードな「Bring It On Down」やドーピング・グラムロック「Cigarettes & Alcohol」があり、軽快な「Digsy's Dinner」があり、泣き曲「Slide Away」があり、最後はリラックスムードの「Married With Children」で締めくくり。

オリジナル盤は11曲で50分ちょいの程よい長さですが、日本初出時のCDはプラス2曲(全13曲)で62分くらいの長尺作だったんですよ。当時はそこまでシングルも追っていたわけではなかったので(結局、「Whatever」以降英国盤シングルまでチェックするようになるわけですが)、曲の多い日本盤を重視していましたが、コンパクトで内容もギュッと締まっている英国オリジナル盤のほうが今は聴きやすいです。ま、日本盤の13曲バージョンも今聴くといろんな思い出がよみがえってきて、それはそれで懐かしいんですけどね。

良くも悪くも、その後の英ロックや日本のインディーロックシーンに多大な影響を与えた1枚(続く2ndアルバム『(WHAT'S THE STORY) MORNING GLORY?』もか)。リリースから25年も経ってしまいましたが、この勢いと衝撃と完成度を超えるデビュー作がその後どれだけ世に送り出されたのか……いや、本当に数えるほどしかないですよね。そういう意味でも、この先も語り継いでいきたい名盤のひとつです。

 


▼OASIS『DEFINITELY MAYBE』
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2019年4月24日 (水)

THE CHEMICAL BROTHERS『SURRENDER』(1999)

本国イギリスで1位、アメリカでも最高14位という好記録を残した前作『DIG YOUR OWN HOLE』(1997年)に続いて、1999年6月にリリースされたTHE CHEMICAL BROTHERSの3rdアルバム。本国では引き続き1位、セールス的にも前作の倍近いダブルプラチナムを記録する大ヒット作となりました。

基本的には前作の延長線上にある作風といっていいかもしれません。が、いわゆる“デジロック”的なゴリっとしたテイスト(ビッグビート的スタイル)は後退し、より(広い意味での)テクノに接近した1枚なのかなと。それが1999年という世紀末感にフィットしたのでしょうかね、今振り返ると。

少ない音数とチープな電子音で構築されたオープニングトラック「Music:Response」は当時TV CMにも起用されたので覚えている方も少なくないかも。この曲からアッパーな「Under The Influence」、バーナード・サムナー(NEW ORDER)のボーカル(バックボーカルではPRIMAL SCREAMのボビー・ギレスピーも参加)をフィーチャーした「Out Of Control」へと切れ目なく続く3曲の流れは圧巻。これだけでも、本作は“勝った”と実感できる内容かもしれません。

そこからブレイクビーツ/ヒップホップ色濃厚な「Orange Wedge」を経て、ノエル・ギャラガー(当時OASIS)が前作の「Setting Sun」に続いて参加したキャッチーな「Let Forever Be」、8分半にも及ぶ一大抒情詩「The Sunshine Underground」とサイケデリックゾーンへ。前者は二匹目のドジョウを狙ったらより濃いものが生まれてしまったある種偶然の産物(?)でもあり、後者は「俺らが本気出せばこんなもんよ?」的な気合いが感じられる。オープニングからピークの連続みたいな作品ですが、間違いなくこの中盤はこのアルバムのクライマックスと言えるでしょう。

ホープ・サンドヴァル(MAZZY STAR)の気怠い歌声がチルな空気にぴったりな「Asleep From Day」、ブラックミュージックと同じくらいYMOからの影響も見え隠れする「Got Glint?」で少し落ち着いたところで、アゲアゲ(死語)のクラムアンセム「Hey Boy Hey Girl」で再び潮目が変わると、ポップさが際立つ「Surrender」、ジョナサン・ドナヒュー(MERCURY REV)のボーカル/アコギ/ピアノを前面に打ち出した“涅槃からのささやき”的エンドロールナンバー「Dream On」という豪華な構成でアルバムを締めくくります。

久しぶりに聴いても、やっぱりその内容/完成度は随一。ロックサイドからの入門編的には前作『DIG YOUR OWN HOLE』がとっつきやすいかもしれませんが、THE CHEMICAL BROTHERSの本質を知る上では本作から入るのがベストではないでしょうか。リリースから20年経った今も、最強のダンスミュージックアルバムです。

 


▼THE CHEMICAL BROTHERS『SURRENDER』
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2019年3月12日 (火)

THE CHEMICAL BROTHERS『DIG YOUR OWN HOLE』(1997)

1997年4月にリリースされた、THE CHEMICAL BROTHERSの2ndアルバム。前年9月に発売された、ノエル・ギャラガーOASIS)をフィーチャーしたシングル「Setting Sun」が全英1位を獲得(アメリカでも80位まで上昇)。続くアルバムからのリードシングル「Block Rockin' Beats」も全英1位に輝いたことで、アルバム自体も初登場1位という大記録を達成。アメリカでも最高14位/50万枚を売り上げる好成績を残しています。

前作『EXIT PLANET DUST』(1995年)での路線を踏襲しつつ、よりロック色を強めたこと。そして、前作でのティム・バージェス(THE CHARLATANS)やベス・オートンをフィーチャーした歌モノを、“時のバンド”だったOASISのノエル・ギャラガーを(さらには引き続きベス・オートンも)起用することで作品自体のメジャー感を強めることに成功した結果が、この1位という数字に表れているのかなと思います。

とはいえ、昨日取り上げたTHE PRODIGYの『THE FAT OF THE LAND』(1997年)同様に、このアルバムもシンプルでわかりやすく、かつロックファンにも訴求する魅力的な内容なんですよね。

ただ、それはビート的なお話であり、楽曲の構成としてはテクノならではの1コードで延々引っ張るスタイルがベース。THE PRODIGY以上にそういう側面が強いことから、全体的にデジロックと括るのはちょっと違うかなという気がします。まあ「Block Rockin' Beats」はデジロックと言われたらそうかもしれないけど、「Elektorobank」や「The Private Psychedelic Reel」あたりは違いますしね。

あと、THE PRODIGYは1曲1曲がコンパクトなものが多く、そのへんもロック的と捉えることができるかもしれないけど、THE CHEMICAL BROTHERSは4〜5分台の曲もあるにはあるけど、先の「Elektorobank」は8分台、「The Private Psychedelic Reel」にいたっては9分半もありますから。そういった点においても、リスナーの嗜好が分かれそうな気がします。

このアルバムや続く『SURRENDER』(1999年)が素直に楽しめるなら、“こっち側”にもすんなりと入っていけるんじゃないかな。個人的にはこの人たちの持つサイケデリックテイストが本当に大好きで、アルコールを入れて爆音で聴く「The Private Psychedelic Reel」や「Piku」「Where Do I Begin」あたりは気持ちいいって言葉だけでは片付けられないくらいの魅力と効力があるので。

間もなく4年ぶりの新作『NO GEOGRAPHY』がリリースされ、夏にはフジロックで再来日。ライブではハズレが一度もない彼らのこと、きっと今回も最高な“あっち側”を見せてくれるはずです。



▼THE CHEMICAL BROTHERS『DIG YOUR OWN HOLE』
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2018年9月25日 (火)

OASIS『STANDING ON THE SHOULDER OF GIANTS』(2000)

リアム・ギャラガーのソロ活動も、そしてノエル・ギャラガーのHIGH FLYING BIRDSも、おそらくこのアルバム以降の音楽性がベースになっているんじゃないか、と勝手に思っています。ということで、名盤中の名盤である初期2作を差し置いて、このアルバムをピックアップします。

2000年2月にリリースされた、OASIS通算4作目のオリジナルアルバム『STANDING ON THE SHOULDER OF GIANTS』。ボーンヘッド(G)もギグジー(B)も脱退し、残ったのはリアム(Vo)&ノエル(G, Vo)のギャラガー兄弟と、2枚目『(WHAT'S THE STORY) MORNING GLORY?』(1995年)から参加のアラン・ホワイト(Dr)のみ。この3人が中心となって(ノエルがベースを兼務)、新たなプロデューサーとしてマイク・スパイク・ステント(U2ビョークDEPECHE MODEマドンナなど)を迎えて制作された、従来のイメージを覆すような(それまでのファンからしたら)異色作。

前作『BE HERE NOW』(1997年)で顕著になり始めたサイケデリック感が急増。中期ビートルズ感をさらに強めることに成功しただけでなく、適度に打ち込みと同期させることで当時主流だったダンスミュージック側にも接近し、“遅れてきたマッドチェスター”感なんかもにじみ出しちゃったりして、「僕たち、思いっきり売れちゃったから好き放題しまーす」的な意思表示にも感じられる。そんなやりたい放題なアルバムが、この4作目なんじゃないかなと。

だって、5人だったバンドが3人になり、もはやギャラガー兄弟のイエスマンしか残っていない状況なんですから(まあそれ以前も似たようなもんでしたが)、前の3枚である意味一生分稼いだわけだし、ここからは趣味としてOASISを続けていけばいいや……と思ったかどうかは知りませんが、もし本当にそうだとしたら良くも悪くもプレッシャーを一切感じさせない内容に思えてきませんか?

オープニングのインスト曲「Fuckin' In The Bushes」から自信に満ち溢れており、続くシングル曲「Go Let It Out」「Who Feels Love?」での“らしさ”と“新しさ”の融合。前作でのドーピング感を引き継ぐハードロック「Put Yer Money Where Yer Mouth Is」「I Can See A Liar」、リアムが初めて書き下ろしたオリジナル曲「Little James」、6分超えのプログレッシヴな「Gas Panic!」や「Roll It Over」に、ノエル印の哀愁バラード「Where Did It All Go Wrong?」に新境地的アレンジの「Sunday Morning Call」と、聴けば真新しさだけでなく今までのOASISらしさもしっかり残されている。なんだ、ちゃんと気を遣ってるんじゃないの?と思ったり思わなかったり。

まあ、確かに初期2作と比べればパンチが弱いですし、尺の長い曲ばかりで濃厚な前作のあととなると薄味といった印象の本作ですが、それでも嫌いになれない。彼らのアルバムの中でも比較的上位に入るくらい好きな1枚です。

きっと、本作の印象が悪いのはこのアルバムでの来日時のリアムの行動(全然声が出てない→それによるライブ短縮、もしくは5曲で離脱→残りを全部ノエルが歌う)が記憶に強く残っているからかもしれませんね(詳しくは当時のライブレポート参照)。

あ、追記。アルバム完成後に元HEAVY STEREOのゲム・アーチャー(G)と、元RIDE&元HURRICANE #1のアンディ・ベル(B)が加入。このメンツでツアーを重ねることで、次作『HEATHEN CHEMISTRY』(2002年)で再びバンドらしさが復活することになります。

 


▼OASIS『STANDING ON THE SHOULDER OF GIANTS』
(amazon:国内盤CD / 海外盤CD / MP3

 

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