OF MICE & MEN『ECHO』(2021)
2021年12月3日にリリースされたOF MICE & MENの7thアルバム。日本盤未発売。
前作『EARTHANDSKY』(2019年)から2年2ヶ月ぶりのフルアルバム。バンドは2021年に入ってから、デビュー以降所属していたRise RecordsからShapTone Recordsへの移籍を発表。これに伴い、2月発売の第1弾『TIMELESS』、5月発売の『BLOOM』、そして12月3日発売の『AD INFINITUM』とそれぞれ3曲の新曲(『AD INFINITUM』のみ新曲3曲にCROSBY, STILLS, NASH & YOUNGのカバー「Helplessly Hoping」を追加)が収録された3枚のEPを発表してきました。今回のフルアルバムにはそのEP3部作に収められた楽曲がすべて収録されており、かつシンプルにリリースされた順に並べられています。
レコーディングにおいても過去作のように著名なプロデューサーを立てるのではなく、完全セルフプロデュースでミックス&マスタリングをメンバーのアーロン・ポーリー(B, Vo)というのはコロナ禍ならではと言えるでしょう(おそらく、全員が集まって録音したのではなく、リモートで作業を進めたはず)。実際、このアルバムについてアーロンは「本作は昨年から今年前半にかけての、自分たちの人生のスナップショットのようなもの。喪失と成長、人生と無常、愛、そして無限……人間の経験においてもっとも素晴らしく、そしてもっとも悲劇的な部分がどのように絡み合っているかを表している」と説明しています。
アルバムという体をなしてはいるものの、実際には2020年以降にコロナ禍に制作された新曲をテーマ別に振り分けたEPを3枚出し、それを単にまとめた総集編と呼ぶのが正しいのかもしれません。実際、最後のEP『AD INFINITUM』はアルバムとリリース日が一緒だったものの、アルバム前半の6曲は今年前半に既出のものだったわけで、ちゃんと聴いてきたリスナーには新鮮味皆無なわけですから。
そういった事実を踏まえつつ、本作に触れてみましたが……各EPごとの作風に多少なりとも統一性のようなものが感じられ、キャッチーさの目立つ『TIMELESS』、ダウナー&ヘヴィさが際立つ『BLOOM』、メロウなメタルコアへと復調していく『AD INFINITUM』と、ブロックごとのまとまりと大きなうねり(流れ)のようなものもしっかり伝わります。
そのうねりこそ、実は2020年から2021年にかけての世界の流れと、それに直面した人間の感情の揺れ動きとリンクしたもので、「Timeless」(=時代を超越)から始まり「Helplessly Hoping」(=どうにもならない望み)で終わるという構成は非常に計算されたもののように映ります。かつ、すべての楽曲タイトルを読み上げていくと、実はこの1年半にわたる我々人類と満ちなるウイルスとの関わりが透けて見えてくるような気がします。
はじめからアルバムとしての構成(レコーディングした10曲をこのような順番で聴かせ、かつ3枚のEPに分けられるように3曲、3曲、4曲というブロック分け)を意識していたのかは不明ですが、EPとして聴いたとき以上の充足感は(すでに何度も耳にしていた曲とはいえ)十分に伝わりますし、特に後半4曲はこのアルバムで初めて触れたこともあり、馴染みのある6曲を経て新鮮な未発表曲へと到達する流れは、個人的には心地よいものを感じました。
と同時に、このアルバムを何度か聴き返すうちに「絶対にこの流れでなくてはいけない」とも実感しました。やっぱり最初から計算されてるよね、これ。
アーロンを選任リードボーカルに据えた4人編成も、本作で3作目。完全にこの形も板に付き、ようやくOF MICE & MENとしての第2章も起承転結の「転」あたりに到達したのかな。個人的にも過去2作と比較して進化が感じられるし、その上でもっとも好きな1枚だと断言できます。もっと広まっていいはずの良作です。
これまでの作品からすると斬新なアートワーク、サブスクを意識してEPとしてある程度まとまった楽曲群を定期的にリリースしていく手法含め、バンドとしての攻めの姿勢が十分に伝わる一連の流れ、支持したいと思います。
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