THE OFFSPRING『LET THE BAD TIMES ROLL』(2021)
2021年4月16日にリリースされたTHE OFFSPRINGの10thアルバム。
2014年にBAD RELIGIONやPENNYWISEのカバー曲で構成されたEP『SUMMER NATIONALS』を発表しているものの、純粋な新作アルバムとしては2012年の『DAYS GO BY』以来約9年ぶり。その間にオリジナルベーシストのグレッグ・Kが脱退し、長年ツアーでサポートギタリストを務めたトッド・モースがベーシストとして正式加入。本作がデクスター・ホーランド(Vo, G)&ヌードルズ(G)の初期メンバー、2007年から参加するピート・パラダ(Dr)との新編成での最初の作品となります。
プロデューサーには8thアルバム『RISE AND FALL, RAGE AND GRACE』(2008年)から3作連続でボブ・ロック(METALLICA、MOTLEY CRUE、AEROSMITH、BON JOVIなど)が担当。レコーディング期間は2013年から2019年に及んだこともあり、トッドはレコーディングには参加しておらず、デクスターが代わりにプレイ。また、タイトルトラック「Let The Bad Times Roll」と「We Never Have Sex Anymore」ではジョシュ・フリース(Dr/THE VANDALS、ex. A PERFECT CIRCLE、ex. NINE INCH NAILSなど)がドラムを叩いております。
アルバムには全12曲(日本盤ボーナストラック除く)が収録されていますが、このうち「Coming For You」は2015年にシングル発売済み、「Gone Away」は4thアルバム『IXNAY ON THE HOMBRE』(1997年)収録曲の新バージョンだし、「In The Hall Of The Mountain King」はメタル界ではお馴染み、エドヴァルド・グリーグ作「山の魔王の宮殿にて」のカバーだし。既発曲やインストカバーを含む構成でトータル33分という短い尺に、最初こそ若干の物足りなさを覚えますが、リピートして慣れてみるとこれがちょうどいい塩梅なんですよね。飽きが来る前にサラッと聴き終えられ、物足りないと思ったらもう一度再生する。またサラッと聴き終え、物足りなくてもう一度聴く……これを繰り返しているうちに、自然とハマってしまう1枚なんです。
作風的には『IGNITION』(1992年)や出世作『SMASH』(1994年)、そして『IXNAY ON THE HOMBRE』の3作あたりを彷彿とさせるものがあり、「We Never Have Sex Anymore」みたいな曲こそあれど全体的にはパーティ色薄め。『AMERICANA』(1998年)あたりの陽気さを求めるリスナーには硬派に映るかもしれませんが、このシリアスな作風とボブ・ロックならではの硬質なサウンドメイキングが見事に合致して、2021年という時代にフィットした1枚に仕上がったように感じます。要するに、ここ最近の作品の中では一番好きってことです。
そのシリアスさをより強めているのが、終盤の2曲……ピアノアレンジで生まれ変わった「Gone Away」と、ストリングスをフィーチャーした1分少々のショートチューン「Lullaby」の存在。どうせなら最後までガッツリと攻めて欲しかった気もしますが、これはこれで味のある締め括り方ではないでしょうか。
以前のような疾走感の強い楽曲は少なく、どちらかといえばミドルテンポ中心の内容ですが、それでもTHE OFFSPRINGならではパンク魂は十分に伝わります。制作に6年もかけていることから「THE OFFSPRING流『CHINESE DEMOCRACY』」なんて揶揄する声も聞こえてきますが、これはこれで全然アリ。ただ、半年後、1年後も同じ気持ちで楽しめているかどうかは……そのときになってみないとわからないかな。そういう刹那的な1枚になってしまうのかどうか、しばらくリピートして見極めたいと思います。
あと、本作は日本盤が異常に高いのが玉に瑕。下手すると輸入盤と1000円以上の差がついてしまい、なんなら国内アーティストのアルバムと同じ値段かそれ以上だったりする。これではフィジカルがよりコレクターズアイテム化の道をたどることになりそうで、店頭でその事実を知ったときはゾッとしました……。
▼THE OFFSPRING『LET THE BAD TIMES ROLL』
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