カテゴリー「Opeth」の14件の記事

2022年3月13日 (日)

GHOST『IMPERA』(2022)

2022年3月11日にリリースされたGHOSTの5thアルバム。

本国スウェーデンでの3作連続1位はもちろんのこと、全米3位や全英10位という高記録を樹立した前作『PREQUELLE』(2018年)から3年9ヶ月ぶりの新作。その間には二度目の来日公演(2019年3月の『DOWNLOAD JAPAN 2019』にて)が実現し、グラミー賞2部門にノミネートされるたほか、GUNS N' ROSESMETALLICAなどビッグアクトのオープニングアクトを経験するなど世界的な成功を収めています。

2020年のコロナ禍以降は楽曲制作に集中してきたトビアス・フォージ(Vo)。本作の制作期間は1年以上にも及び、同年後半になるとようやくジョン・カーペンター監督作品『ハロウィンKILLS』への楽曲提供や、METALLICAの『ブラックアルバム』(1991年)トリビュートアルバム『THE METALLICA BLACKLIST』(2021年)への参加で久しぶりに大きな話題を提供。その流れで、本作がついに登場することになります。

プロデュースを手がけたのは、3rdアルバム『MELIORA』(2015年)以来となるクラス・アーランド(マドンナ、ケイティ・ペリー、ブリトニー・スピアーズなど)が担当。ミックスには前作から引き続きアンディ・ウォレス(SLAYERLINKIN PARKFOO FIGHTERSなど)が起用され、文句なしの世界標準作に仕上げられています。また、前作ではトビアスは初期3作から続いた“パパ・エメリトゥス”から離れ、新たなビジュアルを用いたコピア枢機卿としてステージに立ちましたが、今作では2作ぶりにパパ・エメリトゥスが復活。過去3作を踏襲したパパ・エメリトゥス4世として、孤立と半神崇拝、空間と精神の植民地化をテーマに制作された楽曲を歌い継いでいきます。

アルバムはドラマチックなイントロダクション「Imperium」からスタート。この短い曲を経てなだれれ込む「Kaisarion」の開放感、爽快感の強さといったら……最高の幕開けではないでしょうか。さらに、「Kaisarion」は序盤のストレートなノリから、後半に入るとプログロック的に派手な曲展開を迎える。前作での“ダークながらもわかりやすい”作風からダークさを薄め、わかりやすさにより磨きをかけた、究極の1枚になりそうな予感はこの冒頭2曲からもしっかり伝わります。

そこから従来のGHOSTらしいメランコリックなメロディが魅力のハードロック「Spillways」が、予感を確信に変えてくれる。相変わらず楽曲の完成度の高さはお見事の一言で、それもそのはず、今作にはアヴィーチーの作品にやGHOSTのヒット曲「Dance Macabre」などを手掛けたヴィンセント・ポンターレとサレム・アル・ファキール、ザ・ウィーケンド作品への参加でも注目されるスウェーデン人ミュージシャンのマックス・グラーン、THE CARDIGASのギタリストでメインソングライターでもあるピーター・スヴェンソンなどの共同制作陣にクレジットされているのですから。特に「Spillways」は、「Dance Macabre」のソングライティングチームによるものということで、その充実度の高さにも納得です。

「Call Me Little Sunshine」では前3曲の開放感から一変、密教的なダークさを感じさせるヘヴィサウンドを展開。続く「Hunter's Moon」は昨年後半、映画『ハロウィンKILLS』のエンドロール曲として先行公開されていた“いかにもハリウッド・ホラー映画のエンドロールで流れそうなハードロック”ナンバーで、このアルバムのテイストにも見事に馴染んでいる。GHOSTの楽曲には往年の80's HR/HMを彷彿とさせるノスタルジックなものが多いですが、この曲もまさにそのひとつ。かつ、そこに味付けとしてモダンなアレンジを施すことによって現代的にブラッシュアップされ、今の耳で聴いてもまったく古臭いと感じることがない。このさじ加減が毎回絶妙なのですが、今作はそのセンスにさらに磨きがかかった印象を受けます。

アルバム前半を締めくくる「Watcher In The Sky」も、前曲「Hunter's Moon」からの流れを汲むテイストですが、味付けでいったらモダンさがより強まっている。似たような方向性でも、こういった曲ごとのさじ加減によって喧嘩を生み出しているし、かつ演奏陣の生み出す多彩なサウンドにも大いに助けられている。特にギターに関しては、フレドリック・オーケソン(OPETH)のゲスト参加が非常に良いアクセントを生み出す結果につながったのではないでしょうか。

RPGのオープニングのような壮大さを感じさせる短尺SE「Dominion」を挟んで、アルバムは後半戦に。ここから第二部に突入するという合図のような1曲を経て始まる「Twenties」は、確かに前半までの世界観とは若干に違いを伝える作風です。冒頭のドラマチックな管楽器の重奏、そこからなだれ込むバリバリ変拍子のヘヴィなリズム、厚みのあるクワイアなどの要素が重厚な世界観を見事に演出。トビアスの歌う抑揚が少ないメロディラインにも、前半の色彩豊かな作風との差別化が図られているように感じられます。

続く「Darkness At The Heart Of My Love」では重厚な世界観は引き継がれつつ、ドラマチックさが徐々に増していく。シンプルなビートに重なるアコースティックギターの3連アルペジオ、引き続きフィーチャーされるクワイア、フレドリックによるエモーショナルなギタープレイなどシンプルなアレンジの中にも聴きどころが多く、ファンタジー色の強い映画のいち場面を思わせる世界を楽しむことができるはずです。

「Griftwood」は後方性には「Spillways」系統ですが、ちょっとしたタッチに違いを感じ取ることができる。このへんもアルバム前半/後半のテイストに沿ったアレンジが施されている気がします。特にこの「Griftwood」は、中盤にビートが2分の1になるアレンジがキモで、どことなくABBAあたりの北欧ポップスの流れを汲む印象を受けるのですが……それもそのはず、THE GARDIGANSのピーター・スヴェンソンがコライトで加わっているんですもの。ナイスサポートです。

そしてアルバムは、ギターのアルペジオのみで形成されたイントロダクション「Bite Of Passage」から「Respite On The Spitalields」へと続きクライマックスへ。不穏な音階を用いたこのミディアムナンバーは、曲の進行にあわせて激しさやドラマチックさが増していく。系統的にはパワーバラードの範疇に入るものですが、そこに一筋縄ではいかない味付けが加わることで見事にGHOSTらしい楽曲へと昇華。適度なプログロック感とヘヴィロックらしさ、さらに適度な北欧ポップス色も加わり、聴く人によって見え方/響き方が少しずつ異なる出色の仕上がりに。まさに第二章のクライマックスおよびアルバムのエンディングにふさわしい1曲ではないでしょうか。

以上、あまりの素晴らしさに1曲1曲丁寧に解説してしまいましたが、そうしたくなるほどの完成度/充実度の高いこのアルバム、世界的に高評価を獲得した前作『PREQUELLE』を軽く超えた傑作だと断言させてください。北欧やヨーロッパでは前作以上の成功を収めることは間違いないと思いますが、ロック低迷なアメリカでもぜひ前作並みのチャートアクション/評価を獲得することを願ってやみません。

 


▼GHOST『IMPERA』
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2021年6月30日 (水)

SOEN『IMPERIAL』(2021)

2021年1月29日にリリースされたSOENの5thアルバム。日本盤未発売。

SOENは2010年、マーティン・ロペス(Dr/ex. OPETH)を中心結成されたスウェーデン出身のプログレッシヴメタルバンド。初期には現TESTAMENTのスティーヴ・ディジョルジオ(B)も在籍していたようです。デビュー時からSpinefarm Recordsに所属するなど、今日に至るまで常にメジャーフィールドで活動しており、前作『LOTUS』(2019年)ではドイツでTOP30入り(最高22位)、Billboard Top Heatseekersで最高13位を記録する成功を収めています。

3rdアルバム『LYKAIA』(2017年)で初期からのスタイルを完成形に導き、続く4作目『LOTUS』で新たな方向性へと舵を切った彼らですが、この5作目は前作の延長線上にある1枚。テイストとしてのプログレッシヴロック感を随所に散りばめながらも、軸になっているのは2000年前後に勃発したニューメタル以降のモダンメタルということもあり、非常に聴きやすい内容と言えるでしょう。

どの曲も5分前後と、この手のバンドにしては比較的コンパクトにまとめられており、主張の強い演奏でグイグイ引っ張るというよりは曲/メロディの良さで勝負するという印象。ボーカルも中音域主体のメロディ作りで、クセが強すぎない歌唱法と相まって親しみやすさを覚えるものとなっている。旧来のハイトーンシャウトやデスメタル以降のスクリーム、グロウルに偏見を持つリスナー(あまりいないと思いますが)にもうってつけの1枚ではないでしょうか。

楽曲ありき、歌を届けるということに重きを置いていることもあってか、バンドとしてのクセや個性は過去作と比べて減退しているのが気になりますが、1枚のHR/HMアルバムとしては非常に優れた内容だと断言できます。

「Illusion」のように古き良き時代のプログレッシヴロックの香り(あくまで雰囲気モノですが)をさせる楽曲があるかと思えば、2000年前のニューメタルシーンを彷彿とさせる「Antagonist」みたいな曲もあったりで、そういった意味ではいかにも2000年代的な作品と言えなくもないですが、初期作にあったOPETHやTOOLからの影響が薄らいだ今、ここから先どういった強固な個性を確立させていくのかも気になるところ。出来は良いものの、バンドとしては過渡期にあるような気もするので、本当の勝負作は次の1枚なのかな。

 


▼SOEN『IMPERIAL』
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2021年6月29日 (火)

OPETH『BLACKWATER PARK』(2001)

2001年3月12日にリリースされたOPETHの5thアルバム。日本盤は同年5月23日発売。

初期3作をCandelight Records、前作『STILL LIFE』(1999年)を名門Peaceville Recordsから発表した彼らでしたが、今作からMusic For Nations Recordsへと移籍。日本では過去に2ndアルバム『MORNINGRISE』(1996年)がAvalonから1年遅れて発売された経験がありましたが、今作から本格的に日本リリースが復活。当時はVictorからの発売でしたが、のちにBMG / Sonyから再発されています。

前作まではフレドリック・ノルドストームなどエクストリームメタル界隈のプロデューサーが関わっていましたが、今作ではPORCUPINE TREEスティーヴン・ウィルソンとバンドが共同プロデュース。スティーヴンを起用した影響が大きいのか、今作では従来のデスメタルテイストと70年代的なプログレッシヴロックのテイストがバランスよく融合され、以降に続くスタイルが確立し始めます。

ボーカルワークは完全にデスメタル特有のグロウル中心で構成されていますが、そのサウンドやアンサンブルは“KING CRIMSON meets death metal”と呼ぶにふさわしい独特なもの。プログミュージック嗜好のメタルファンならば、オープニングを飾る「The Leper Affinity」でいきなりノックアウトされるはずです。しかもこの曲、中盤にクリーントーンボーカルがいきなり飛び込んできてメランコリックさを強調させているし、ギターソロにもメロディアスな要素を織り交ぜることでメロディックデスメタルとはまた異なる抒情性を楽しむことができる。ぶっちゃけ、この1曲に本作の魅力が体現されているといっても過言ではありません。

また、前作までプロデュースに携わったフレドリックは本作でエンジニアリング&ミキシングを手がけていることで、エクストリームメタル的側面を減退させることなく、前作までのファンも惹きつけることに成長。かつ、プログミュージック的側面を強めることでリスナー層を少しずつ広げ始めている。近作の王道プログミュージック感にはまだ程遠いですが、ヘヴィメタル/デスメタルの範疇における“プログレッシヴさ”においてはこれ以上ないと言えるほどの傑作ではないでしょうか。

“今のOPETH”という観点では、入門編にふさわしいのは8作目『GHOST REVERIES』(2005年)だと思いますが(自分もそうでしたしね)、ヘヴィメタルバンドとの解釈で最初に聴くべきなのは本作なのかなと。本作があったから、続く『DELIVERANCE』(2002年)、『DAMNATION』(2003年)の二部作が生まれ、出世作となる『GHOST REVERIES』へとつながるわけですからね。

なお、2021年7月16日には『BLACKWATER PARK』の20周年アニバーサリー・エディションも発売されます。CDでの購入を考えている方にはこちらの最新エディションをオススメしておきます。

 


▼OPETH『BLACKWATER PARK』
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2020年11月12日 (木)

BIFF BYFORD『SCHOOL OF HARD KNOCKS』(2020)

2020年2月21日にリリースされた、ビフ・バイフォード(SAXON)の1stソロアルバム。日本盤未発売。

ご存知のとおり、ビフは1977年から現在にいたるまでポール・クィン(G)とともにSAXONを守り続けているオリジナルメンバーのひとり。約43年におよぶキャリアの中で、初めて個人名義でのアルバムをこのタイミングに発表しました。

プロデュースはビフ自身が担当。レコーディングにはフレドリック・オーケソン(G/OPETH)、フィル・キャンベル(G/PHIL CAMPBELL AND THE BASTARD SONSMOTÖRHEAD)、ガス・マクリコスタス(B/FUTURE SHOCKなど)、ニッブス・カーター(B/SAXON)、クリスチャン・ルンドクヴィスト(Dr/ex THE POODLES)、アレックス・ホルツヴァルト(Dr/TURILLI、LIONE RHAPSODY)、ニック・バーカー(Dr/VOICES)、デイヴ・ケンプ(Key, Sax/WAYWARD SONS)といったメンツが参加。大半の楽曲のベーシックトラックはフレドリック、ガス、クリスチャンが担当し、ビフは一部でベースもプレイしているようです。

内容的にはポップさが際立つ80年代後半以降のSAXON的ハードロックと、ここ数作で目立つアグレッシヴなSAXON的メタリックさが融合した1枚といったところでしょうか。序盤2曲(「Welcome To The Show」「School Of Hard Knocks」)がまさに前者の代表的楽曲群で、アルバム聴き始めで「なるほど、ソロではこっち側なのね」と思わせておいて、1分少々のインターバル「Inquisitor」を挟んで「The Pit And The Pendulum」「Worlds Collide」で後者路線でパワフルに攻める。

かと思えば、サイモン&ガーファンクルでおなじみの名曲「Scarborough Fair」でしっとり聴かせるスタイルも提示。序盤こそ原曲に近いアコースティックアレンジで、齢69歳のビフが渋みの増したボーカルを響かせますが、途中からバンドが加わり、フレドリックのムーディなギターソロとともに味わい深いアレンジで楽しませてくれます。

アルバム後半も、これぞというタイトルのパワーメタル「Pedal To The Metal」や「Hearts Of Steel」、トーンの落ち着いたメタルバラード「Throw Down The Sword」、アコースティック色の強い「Me And You」、目の前が開けるような壮大さのあるミディアムナンバー「Black And White」とバラエティに富んだ楽曲が並びます。要は「昨今のSAXONでのスタイルを軸に、もうちょっと幅の広いこともできるんですよ、そういう歌が歌えるんですよ」ということを提示した、バンドの延長線上のある1枚なのかな。『THUNDERBOLT』(2018年)のようなストロングスタイルのアルバムの後だけに、バンドではそのスタイルを崩すのを避け、ソロで“プラスα”に挑んだということなんでしょうかね。でも、それでいいと思います。

ビフの言葉によると、本作は彼の人生を振り返るようなものであると同時に、イングランドの歴史を踏まえた伝統的なものなんだとか。「Scarborough Fair」のような英国民謡をピックアップしたのも、その一環なのでしょう。

なんにせよ、年明けで70歳になるビフがこのタイミングに自身の半生を振り返るソロアルバムを発表したことは、NWOBHM40周年を迎えた2020年にとっては非常に重要なことではないでしょうか。非常によく作り込まれた王道ハードロックアルバム、オススメです。

 


▼BIFF BYFORD『SCHOOL OF HARD KNOCKS』
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2020年3月31日 (火)

WHITE STONES『KUARAHY』(2020)

2020年3月上旬に発表されたWHITE STONESの1stアルバム。日本盤は約1ヶ月遅れ、同年4月上旬にリリース予定です。

このバンドはOPETHのベーシスト、マーティン・メンデスによるソロ・プロジェクトで、メンバーは彼のほかエロイ・ボウシェリー(Vo)、ジョルディ・ファッレ(Dr)という布陣。マーティンはベースのほか、ギターもプレイしており、ソロパートのみゲストとしてOPETHのフレドリック・オーケソンが担当しています(「The One」のみBLOODBATHやKATATONIAのメンバーだったパー・エリクソンがプレイ)。

デスメタル期であった1997年にOPETH加入という、ミカエル・オーカーフェスト(Vo, G)に次ぐバンド在籍歴を持つマーティン。ウルグアイ出身の彼はOPETH加入前もデスメタルバンドに在籍しており、当時はボーカルも担当していたんだとか。そんな経歴の持ち主の彼が、OPETHの12thアルバム『SORCERESS』(2016年)に伴うツアーを終えたあと、遊びでデスメタル・ナンバーを1曲制作。その勢いで数曲完成させると、当初はそれらを自身で歌うプロジェクトとしてこのアルバム制作に取り掛かり始めたそうです。

が、スペインのブラックメタル/デスメタルバンドVIDRES A LA SANGのシンガーであるエロイと出会ったことで、考えを一変。彼にボーカルのすべてを任せることで、WHITE STONESの大枠が完成することになります。

本作で展開されているサウンドは、スラッシュメタルやスピードメタルの延長線上にあるデスメタルではなく、ミドルテンポ中心のドゥーミーでグルーヴィーなスタイルがメイン。ギターも思ったより歪んでおらず、そういった要素が80年代後半以降のデスメタルというよりも、さらにルーツとなるBLACK SABBATHやその周辺の“プログレッシヴな展開を信条とした、ダークな嗜好のハードロックバンド”を彷彿とさせるものとなっています。

とはいえ、エロイのボーカルはデスメタルそのもので、容赦ないグロウルが全編で展開されています。無骨なバンドアンサンブルはときにプログレッシヴな展開を見せ、それらは2000年代前半のOPETHにも通ずるものがあるのではないでしょうか。「Rusty Shell」や「Guyra」「Ashes」などで聴けるツーバス連打で突き進むパートでは、まさにそういった風景が脳内に投影されますしね。

そんな楽曲の上に、フレドリックの流麗なギターソロが乗ると世界観が一変。この切り替わりの気持ち良さがハンパないんですよ。また、アームプレイを多用したパーのプレイもなかなかのものがあり、ゴツゴツしたサウンドとの対比が非常に面白いです。

1曲1曲が4分前後というコンパクトさも本作の聴きやすさに拍車をかけており、全10曲41分があっという間に感じられるはず。OPETHが包括するいち要素をピックアップし、別の形に仕立て上げたと捉えることもできる本作は、単なるデスメタル・アルバムとして以上の意味を持つ重要な1枚と言えるでしょう。

 


▼WHITE STONES『KUARAHY』
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2019年12月31日 (火)

2019年総括:③HR/HM、ラウドロック編

一昨年秋から『リアルサウンド』でスタートした、HR/HMやラウドロックなどエクストリーム・ミュージックの新譜キュレーション記事を連載しているのですが、2019年のまとめ記事となる年間ベスト10紹介エントリー「西廣智一が選ぶ、2019年ラウドロック年間ベスト10 BMTH、Russian Circles、Slipknotなど意欲作が気になる1年に」が12月26日に公開されております。

年明け発売の雑誌『ヘドバン』最新号でも同様の企画にアルバム10選をお送りしているのですが、こちらでは『リアルサウンド』の記事で紹介した10枚に加えて、次点となった10枚とあわせて紹介できたらと思います。

まずは、すでに公開済みの上位10作品について。こちらはあえて記事執筆時と同じままで進めたいと思います。

01. BRING ME THE HORIZON『amo』(レビュー
02. TOOL『FEAR INOCULUM』(レビュー
03. RUSSIAN CIRCLES『BLOOD YEAR』(レビュー
04. LEPROUS『PITFALLS』(レビュー
05. KILLSWITCH ENGAGE『ATONEMENT』(レビュー
06. SLIPKNOT『WE ARE NOT YOUR KIND』(レビュー
07. BARONESS『GOLD & GREY』(レビュー
08. GATECREEPER『DESERTED』(レビュー
09. MAMIFFER『THE BRILLIANT TABERNACLE』(レビュー
10. ALCEST『SPIRITUAL INSTINCT』(レビュー

選出した理由は『リアルサウンド』のエントリーにてご確認を。ちなみに、『ヘドバン』のほうではあるアルバムの代わりにOPETH『IN CAUDA VENENUM』を選出しております(順位は若干の変動あり)。

続いて、選に漏れた次点10作品もご紹介。

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2019年11月21日 (木)

OPETH『IN CAUDA VENENUM』(2019)

2019年9月末にリリースされた、OPETHの13thアルバム。前作『SORCERESS』(2016年)からちょうど3年ぶりに発表されており、前作の成功には及びませんでしたが本国スウェーデンで12位、ドイツで5位、イギリスで13位、アメリカで59位という数字を残しています。アメリカではここ4作でTOP30入りを果たしていただけに、最近の“ロック離れ”がこういった形で影響するとは……。

いや、これって単にアメリカ人がロックから離れているというよりは、アメリカ人には難解な内容だったのではないか? そんな気がしてきました。というのも、本作は英詞で歌われたオリジナル盤に加え、母国語であるスウェーデン語で歌ったバージョンの2形態を用意(バックトラック自体は一緒)。バンド結成30周年を前に、OPETHの面々……というより、フロントマンのミカエル・オーカーフェルト(Vo, G)が自身のルーツに立ち返った結果、こういった“濃い”作風になったのかもしれません。

ここ数作では初期のデスメタル的要素を排除し、70年代のプログレッシヴロックを彷彿とさせるメランコリックかつドラマチックな作品を発表してきた彼ら。本作も基本的作風は前作の延長線上にあるものの、ヘヴィさがここ数作の中ではもっとも高まっている印象を受けます。そういった意味では、特にこの2作(2014年の『PALE COMMUNION』、前作『SORCERESS』)でのオールドスクールなプログレッシヴロック路線を苦手としていたリスナーには入っていきやすい1枚と言えるでしょう。

こういった原点回帰……といってもデスメタル期まで戻るのではなく、現在の彼らの原点的1枚である『GHOST REVERIES』(2005年)を起点とした回帰路線は、まもなく結成30周年を迎える彼らが自身のキャリアを総括する意味も込められているのかもしれません。かつ、原点回帰を経て次の10年へ新たな橋を渡す。そういった意味も込められた、非常に重要な役割も用意されているのではないでしょうか。

それは、母国語で歌われた別バージョンが初めて用意されたことに象徴的です。同バージョンの制作は、本作制作に入る前にミカエルが子どもたちを学校に連れて行く間、バイリンガルのアルバムを作るとうアイデアを急に思いたし、即行動に移したことから実現したもの。英詞で歌われたオリジナルバージョンのわかりやすさは言うまでもありませんが、一方で耳慣れないスウェーデン語で表現された別バージョンもまた、このバンドが持つ神秘性を一気に高めることに成功しています。ストリーミングサービスでは両バージョンが個別配信されているので、言語の違いから受ける印象の変化含め、ぜひ2枚あわせて楽しんでもらいたいところです。

主にここ10年ほどのOPETHの集大成と言える、知的でメランコリックで攻撃的で神秘性が強くてトリッピーな側面の強い1枚。彼ららしさてんこ盛りの傑作。大半の楽曲が6〜8分と長尺ですが、緊張と緩和をうまく使い分けることで聴き手を決して飽きさせることのない、その技量の素晴らしさを存分に味わってみてください。繊細な音楽を楽しむことに長けた、日本人にこそ触れていただきたい1枚ですからね。

 


▼OPETH『IN CAUDA VENENUM』
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2019年9月19日 (木)

OPETH『SORCERESS』(2016)

2016年9月末にリリースされたOPETHの12thアルバム。前作『PALE COMMUNION』(2014年)から2年ぶりの新作にあたり、本国スウェーデンでは最高7位、全米24位/全英11位という好成績を残しています。

前作でペル・ヴィベリ(Key)からヨアキム・スヴァルベリに交代し、ミカエル・オーカーフェルト(Vo, G)、フレドリック・オーケソン(G)、マーティン・メンデス(B)、マーティン・アクセンロット(Dr)との現編成で2作目となる今作では、10thアルバム『HERITAGE』(2011年)で迎えた“脱デスメタル”路線をさらに推し進め、60〜70年代的なプログレッシヴ・ロックのスタイルをより強めることに成功しています。

『PALE COMMUNION』でのスタイルが気に入った人なら十分に受け入れられる作風だと思いますが、8thアルバム『GHOST REVERIES』(2005年)までのゴリゴリしたサウンドが好みだったリスナーにはちょっと退屈に聴こえるかもしれません。とはいえ、過去2作と比較するとメタル度はかなり高く、『HERITAGE』でOPETHから離れてしまったリスナーにも存分にアピールするものがあるはずです。

には若干メタリックなカラーが残されていますが、全体的にはアシッドフォーキーにも通ずる穏やかな作風がより強まっているんじゃないかなと。かと思えば、そこからの揺れ戻しのようにプログレメタル的なヘヴィさも随所に用意されており、その緩急の巧みさは過去2作以上。メタリックなカラーが強く反映されたタイトルトラック「Sorceress」や、ギター&キーボードによるソロバトルがフィーチャーされた「Chrysalis」なんて、DREAM THEATERあたりが好きな人にもピンとくるものがあるのではないでしょうか。

ミカエルのボーカルも完全に脱デス声しており、ノーマルなクリーントーンで淡々と歌い上げられている。ソロプレイを含むフレドリック・オーケソンによるギターフレーズもメタルのそれというよりは、どことなくフュージョン的な方向に寄っており、それが80年代以降の末期PINK FLOYD的な空気を作り上げています。そりゃあ嫌いになれるわけ、ないわな。

オープニングとエンディングにそれぞれ1〜2分程度の単尺インストを用意しているものの、それ以外の楽曲のほとんどが5分以上。7分前後以上の長尺ナンバーは3曲含まれていますが、意外とそこまで長いとは感じさせない工夫がしっかり施されているので、全11曲56分がスルスル聴き進められるはずです。

なお、本作のCD2枚組限定盤には本編未収録の新曲2曲と、オーケストラをフィーチャーしたライブテイク3曲を追加収録。アルバム本編とは一線を引いたように別ディスクに収録されていますが、こちらも方向性的には『SORCERESS』の延長線上にあるので、続けて楽しめるのではないでしょうか。

もはや5thアルバム『BLACKWATER PARK』(2001年)でのスタイルは再び望めませんが、今作の完成度の高さはそういった好みとは別のところにあると思っているので、そこはちゃんと評価していただきたいところです。

 


▼OPETH『SORCERESS』
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2018年9月19日 (水)

SPIRITUAL BEGGARS『AD ASTRA』(2000)

2000年春にリリースされた、SPIRITUAL BEGGARSの4thアルバム。もともと、CARCASSを脱退したあとにマイケル・アモット(G/ARCH ENEMYBLACK EARTH)が最初に結成したのがこのバンド。当初はトリオ編成でしたが、現在はシングルギター&キーボード(OPETHのペル・ウィベルイ)を含む5人編成で活動を続けています(ARCH ENEMYのベーシスト、シャーリー・ダンジェロも参加)。

この『AD ASTRA』の頃はアモットやペルのほか、現在も在籍するオリジナルメンバーのラドウィッグ・ウィット(Dr)、そしてスパイス(Vo, B/2001年脱退)という4人編成でした。プロデュースは“北欧メタルにこの人あり”なフレドリック・ノルドストローム(ARCH ENEMY、IN FLAMES、HAMMERFALLなど)が担当。フレドリックは「Let The Magic Talk」でシンセサイザーも担当しています。また、「On Dark River」ではマイケル・アモットの実弟、クリストファー・アモットがスライドギターでゲスト参加。普段の彼とはまた異なるプレイがー楽しめます。

こういうサウンドはジャンル的にストーナーロックに括られるのでしょうか……それにしてはメタリックなので、普通にハードロック/ヘヴィメタルでいいような気がしますが。実際、アモットもストーナーロックやろうぜ!と思ってこのバンドを始めたわけではないでしょうし。

それに、ストーナーロックにしてはギター、弾き過ぎですしね。ギターソロの音数、本当に多いですし(笑)。

ストーナーロックというよりは、90年代以降の感覚で70年代の埃っぽいハードロックを表現してみたら、こうなりました……そのほうが近い気がします。当時のBLACK SABBATHDEEP PURPLEよりも“らしい”楽曲なんだけど、それを構築するサウンドや楽器のプレイは完全に現代的。その落差が面白いし、だからこそリリース当時も普通に楽しめたわけですよね。

アモットは自身のルーツをできる限りここで表現しようと、かなりそれっぽいフレージングを聴かせてくれるんだけど、ときどき素が出てしまう(=速弾きをかましてしまう)というお茶目な一面も見せています。まあ、だからこそモダンなんですけど。

あと、スパイクというボーカリストが歌うことで変にサバスっぽくもパープルっぽくもなっていないところも大きいのかな。だって、これをリー・ドリアンが歌ったらCATHEDRALになっちゃいそうだし(苦笑)。アクが強過ぎないというのも大事なんですね。

彼らの作品の中ではこれと、ひとつ前の『MANTRA III』(1998年)をよく聴きました。近作ももちろん聴いてはいますけど、お気に入りとなるとやっぱりこのへんになります。特に本作はひたすら爆音で楽しみたい、2000年代前半の名盤のひとつです。



▼SPIRITUAL BEGGARS『AD ASTRA』
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2018年6月27日 (水)

IHSAHN『ÁMR』(2018)

ノルウェーが誇る伝説のブラックメタルバンドEMPEROR。そのフロントマンであるイーサーン(Vo, G)による通算7作目のソロアルバム。前作『ARKTIS.』(2016年)からちょうど2年ぶりの新作となります。

4作目の『EREMITA』(2012年)以降の作品同様、本作もドラム以外のパートをほぼイーサーンひとりで担当し、そのドラムのみトビアス・アンダーソンが叩いております。また、本作では2曲目「Arcana Imperii」のみギターソロでフレドリック・オーケソン(OPETH)、「Where You Are Lost And I Belong」のドラム打ち込みをAngell Solberg Tveitanなる人物が担当しています。

これまでの作品同様、ブラックメタル的スタイルを残しつつも、シンフォニックメタルやプログレッシヴロック的手法も大々的に取り入れられており、EMPEROR後期の延長線上にありながらも、その作風をさらにモダンにしたスタイルが展開されている、と言ったほうが正しいのでしょうか。イーサーンのボーカルこそデスボイスとクリーンボイスが混在する手法で、そこにEMPERORの名残が感じられるかもしれませんが、例えば2000年代半ば以降のOPETHあたりが好きな人になら間違いなくアピールする1枚だと思います。

冒頭の2曲「Lend Me The Eyes Of Millennia」「Arcana Imperii」やラストの「Wake」は“EMPERORのイーサーン”をイメージさせる作風ですが、「Sárm」や「Twin Black Angels」のエモーショナルさ/穏やかさはどこか往年のプログレを彷彿とさせ、本作の中でも程よいフックになっています。こういう楽曲で全体に起伏をつけているからこそから、ダークでアグレッシヴな「Wake」が最後に来ることでドラマチックさが強調される。そんな印象を受けました。

ギターの歪み方もブラックメタルのそれとは一線を画するし、ドラムのチューニングもふくよかさを感じさせ、とてもメタルのそれとは思えない。また、要所要所にフィーチャーされるストリングスサウンドも非常に効果的で、イーサーンのクリーンボイスによるハーモニーとの相性も抜群です。そういった健やかな要素が、暗雲立ち込めるブラックメタル・マナーの合間に飛び出すことで、ハッと現実に引き戻される感覚。そこが気持ち良いんですよね。

11曲で60分近くあった前作『ARKTIS.』と比べて、本作は全9曲で約43分(デラックス盤ボーナストラック「Alone」を除く)というトータルランニングも聴きやすさ、聴いたときの心地よさに拍車をかけている気がします。彼のソロ作はどれも好きですが、今の自分に一番フィットするという点においては、今作は過去のアルバムの中で一番好きな作品。個人的な年間ベストに入れておきたい、2018年における重要な1枚です。



▼IHSAHN『ÁMR』
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