GHOST『IMPERA』(2022)
2022年3月11日にリリースされたGHOSTの5thアルバム。
本国スウェーデンでの3作連続1位はもちろんのこと、全米3位や全英10位という高記録を樹立した前作『PREQUELLE』(2018年)から3年9ヶ月ぶりの新作。その間には二度目の来日公演(2019年3月の『DOWNLOAD JAPAN 2019』にて)が実現し、グラミー賞2部門にノミネートされるたほか、GUNS N' ROSESやMETALLICAなどビッグアクトのオープニングアクトを経験するなど世界的な成功を収めています。
2020年のコロナ禍以降は楽曲制作に集中してきたトビアス・フォージ(Vo)。本作の制作期間は1年以上にも及び、同年後半になるとようやくジョン・カーペンター監督作品『ハロウィンKILLS』への楽曲提供や、METALLICAの『ブラックアルバム』(1991年)トリビュートアルバム『THE METALLICA BLACKLIST』(2021年)への参加で久しぶりに大きな話題を提供。その流れで、本作がついに登場することになります。
プロデュースを手がけたのは、3rdアルバム『MELIORA』(2015年)以来となるクラス・アーランド(マドンナ、ケイティ・ペリー、ブリトニー・スピアーズなど)が担当。ミックスには前作から引き続きアンディ・ウォレス(SLAYER、LINKIN PARK、FOO FIGHTERSなど)が起用され、文句なしの世界標準作に仕上げられています。また、前作ではトビアスは初期3作から続いた“パパ・エメリトゥス”から離れ、新たなビジュアルを用いたコピア枢機卿としてステージに立ちましたが、今作では2作ぶりにパパ・エメリトゥスが復活。過去3作を踏襲したパパ・エメリトゥス4世として、孤立と半神崇拝、空間と精神の植民地化をテーマに制作された楽曲を歌い継いでいきます。
アルバムはドラマチックなイントロダクション「Imperium」からスタート。この短い曲を経てなだれれ込む「Kaisarion」の開放感、爽快感の強さといったら……最高の幕開けではないでしょうか。さらに、「Kaisarion」は序盤のストレートなノリから、後半に入るとプログロック的に派手な曲展開を迎える。前作での“ダークながらもわかりやすい”作風からダークさを薄め、わかりやすさにより磨きをかけた、究極の1枚になりそうな予感はこの冒頭2曲からもしっかり伝わります。
そこから従来のGHOSTらしいメランコリックなメロディが魅力のハードロック「Spillways」が、予感を確信に変えてくれる。相変わらず楽曲の完成度の高さはお見事の一言で、それもそのはず、今作にはアヴィーチーの作品にやGHOSTのヒット曲「Dance Macabre」などを手掛けたヴィンセント・ポンターレとサレム・アル・ファキール、ザ・ウィーケンド作品への参加でも注目されるスウェーデン人ミュージシャンのマックス・グラーン、THE CARDIGASのギタリストでメインソングライターでもあるピーター・スヴェンソンなどの共同制作陣にクレジットされているのですから。特に「Spillways」は、「Dance Macabre」のソングライティングチームによるものということで、その充実度の高さにも納得です。
「Call Me Little Sunshine」では前3曲の開放感から一変、密教的なダークさを感じさせるヘヴィサウンドを展開。続く「Hunter's Moon」は昨年後半、映画『ハロウィンKILLS』のエンドロール曲として先行公開されていた“いかにもハリウッド・ホラー映画のエンドロールで流れそうなハードロック”ナンバーで、このアルバムのテイストにも見事に馴染んでいる。GHOSTの楽曲には往年の80's HR/HMを彷彿とさせるノスタルジックなものが多いですが、この曲もまさにそのひとつ。かつ、そこに味付けとしてモダンなアレンジを施すことによって現代的にブラッシュアップされ、今の耳で聴いてもまったく古臭いと感じることがない。このさじ加減が毎回絶妙なのですが、今作はそのセンスにさらに磨きがかかった印象を受けます。
アルバム前半を締めくくる「Watcher In The Sky」も、前曲「Hunter's Moon」からの流れを汲むテイストですが、味付けでいったらモダンさがより強まっている。似たような方向性でも、こういった曲ごとのさじ加減によって喧嘩を生み出しているし、かつ演奏陣の生み出す多彩なサウンドにも大いに助けられている。特にギターに関しては、フレドリック・オーケソン(OPETH)のゲスト参加が非常に良いアクセントを生み出す結果につながったのではないでしょうか。
RPGのオープニングのような壮大さを感じさせる短尺SE「Dominion」を挟んで、アルバムは後半戦に。ここから第二部に突入するという合図のような1曲を経て始まる「Twenties」は、確かに前半までの世界観とは若干に違いを伝える作風です。冒頭のドラマチックな管楽器の重奏、そこからなだれ込むバリバリ変拍子のヘヴィなリズム、厚みのあるクワイアなどの要素が重厚な世界観を見事に演出。トビアスの歌う抑揚が少ないメロディラインにも、前半の色彩豊かな作風との差別化が図られているように感じられます。
続く「Darkness At The Heart Of My Love」では重厚な世界観は引き継がれつつ、ドラマチックさが徐々に増していく。シンプルなビートに重なるアコースティックギターの3連アルペジオ、引き続きフィーチャーされるクワイア、フレドリックによるエモーショナルなギタープレイなどシンプルなアレンジの中にも聴きどころが多く、ファンタジー色の強い映画のいち場面を思わせる世界を楽しむことができるはずです。
「Griftwood」は後方性には「Spillways」系統ですが、ちょっとしたタッチに違いを感じ取ることができる。このへんもアルバム前半/後半のテイストに沿ったアレンジが施されている気がします。特にこの「Griftwood」は、中盤にビートが2分の1になるアレンジがキモで、どことなくABBAあたりの北欧ポップスの流れを汲む印象を受けるのですが……それもそのはず、THE GARDIGANSのピーター・スヴェンソンがコライトで加わっているんですもの。ナイスサポートです。
そしてアルバムは、ギターのアルペジオのみで形成されたイントロダクション「Bite Of Passage」から「Respite On The Spitalields」へと続きクライマックスへ。不穏な音階を用いたこのミディアムナンバーは、曲の進行にあわせて激しさやドラマチックさが増していく。系統的にはパワーバラードの範疇に入るものですが、そこに一筋縄ではいかない味付けが加わることで見事にGHOSTらしい楽曲へと昇華。適度なプログロック感とヘヴィロックらしさ、さらに適度な北欧ポップス色も加わり、聴く人によって見え方/響き方が少しずつ異なる出色の仕上がりに。まさに第二章のクライマックスおよびアルバムのエンディングにふさわしい1曲ではないでしょうか。
以上、あまりの素晴らしさに1曲1曲丁寧に解説してしまいましたが、そうしたくなるほどの完成度/充実度の高いこのアルバム、世界的に高評価を獲得した前作『PREQUELLE』を軽く超えた傑作だと断言させてください。北欧やヨーロッパでは前作以上の成功を収めることは間違いないと思いますが、ロック低迷なアメリカでもぜひ前作並みのチャートアクション/評価を獲得することを願ってやみません。
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