PANIC! AT THE DISCO『PRAY FOR THE WICKED』(2018)
2018年6月にリリースされた、PANIC! AT THE DISCO通算6枚目のスタジオアルバム。初の全米No.1を記録した前作『DEATH OF A BACHELOR』(2016年)から2年半ぶりの新作で、引き続き今作も全米1位を獲得しています。
前作からブレンドン・ユーリー(Vo)のソロ体制となったPANIC! AT THE DISCOですが、そのアルバムではソロだからこそなし得た「エレクトロ+サンプリング+ソウルフルな歌モノ」という、過去のスタイルをより推し進めた新たな個性を確立。もはやバンドだとかエモだとか、そういった括りがどうでもよくなるほどにポップで親しみやすいサウンドへと進化し、初期のちょっとゴシックなスタイルはどこへやら……と、『A FEVER YOU CAN'T SWEAT OUT』(2005年)が大好きだったリスナー(自分含む)は置いてきぼりを食らうのです。
が、その後に観たライブ(2016年のサマソニ)では、ビジュアルこそ変化したものの、芯にあるスタンスは変わっていないことに気づかされたりもして。そこから再び『DEATH OF A BACHELOR』に触れるとなるほど、と納得させられる部分も多かったのでした。
この新作も基本路線は変わっていないように思います。いや、むしろ初期の『A FEVER YOU CAN'T SWEAT OUT』を愛聴していた層にもひっかかるフックが豊富に用意されているように感じられました。
古き良き時代のアメリカンポップスやスタンダードナンバーを現代的な解釈(サンプリングを用いることでモダンさとエヴァーグリーンな感覚を残す、かつエレクトロという現代的な要素も忘れない)でビルドアップし、それをブロードウェイミュージカルのような手法で提供する。これこそがPANIC! AT THE DISCOが本来やろうとしていたことではないでしょうか。
それを初期はバンドという形で表現しようとしたものの、あるタイミングに歪みが生じ、1人離れ、また1人離れ、気づけばブレンドン1人になった。結果、ブレンドンが本来やりたかったことを、作品ごとに適したブレインとともに具現化していく。特に今作は前作での成功を踏まえ、全体的にポジティブさに満ちているように感じられ、それがショーアップされたスタイルに散りばめられることでより一層多幸感に満ちた内容となった。前作よりも即効性が強いのはそこも影響しているのかな。そりゃあ売れるわけですよ。
正直、『PRETTY. ODD.』(2008年)以降のPANIC! AT THE DISCOに関してはどこか誤解していた(あるいは、表現する側の焦点がぼやけていた)ところもありましたが、この新作は一点の曇りもない極上のポップアルバムであり、気持ちよく楽しめる1枚です。
▼PANIC! AT THE DISCO『PRAY FOR THE WICKED』
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