2001/09/16

PARADISE LOST『HOST』(1999)

今回のテーマは「DEPECHE MODE や初期NINE INCH NAILS等エレポップ/ゴス好きにもアピールするHM/HR」ということで、イギリスのバンドPARADISE LOSTの'99年作品「HOST」を取り上げたい。

イギリス出身の、元はデスメタルバンドだったPARADISE LOSTはイギリス/ヨーロッパのメタルシーンで絶大な人気を保持している。それはインディーバンドだった彼らのトリビュートアルバムまでもがリリースされていることが物語っている。彼らはアルバムをリリースし続けるうちに、次第とゴスの要素を取り入れるようになり、そこから派生した「ゴシック・メタル」なんて呼び名のジャンルの第一人者となる。いまいちその意味が判らないんだけど、要するにゴスの要素を持ちながら、その表現方法はデスメタルってことなのだろう(ってまんまだが/笑)。で、そのデスメタルからも脱却したのが'97年リリースの「ONE SECOND」という作品。HM/HRの範疇にありながら、そのサウンドは初期のTHE CULTやSISTERS OF MERCYをも彷彿とさせるゴシックサウンド。本来なら「猿メタル」的にはこっちなんだろうけど‥‥今回は賛否両論も多かったメジャー進出第1弾「HOST」を敢えて選んだ。

このアルバムの特徴は‥‥もう既にHM/HRではない点だろう(笑)。アルバムトップの"So Much Is Lost"を聴いて、多くのファンが驚いたように、メタルに疎い人でも驚くに違いない‥‥「これってメタルなんですか?」と。打ち込みリズムに耽美なシンセサウンド、エフェクトかけまくったギター。デヴィッド・シルヴィアン(JAPAN)やデイヴ・ガーン(DEPECHE MODE)ばりの囁くような低音ボーカル。DEPECHE MODEの新曲とか言われても信じてしまう程、そのサウンドにはHM/HRの欠片もない。エレポップの要素を前面に打ち出し、尚かつバンドが愛して止まないゴスのテイストを嫌味にならない程度に撒き散らす。これもある意味、HM/HRの進化したひとつの姿なのだ。

ボーカルにギター2人(ひとりはキーボード兼務)、ベースにドラムというありがちな編成にも関わらず、アルバムではこの編成をも無視したアレンジを施したり(ドラムが完全に打ち込みだったり、ギターが1本だけだったり、ベースさえも打ち込みだったり、女性ボーカルやバイオリンが入ったり)、プロデューサーにメタル系以外の人(初期DEPECHE MODEを手掛けたスティーヴ・ライオン)を起用したり、メタル的シャウトやデス声がなかったり、と‥‥多くのメタルファンにとっては、もはやこれは「あちら側」の音なのだろう。保守的なものにも素晴らしい作品は沢山ある。しかし、そんなのはほんの一握りだ。多くのバンドが同じスタートラインから出発し、途中で挫折していく。そんな中、独自の路線や方法論を手にしたバンドこそが生き残る。このPARADISE LOSTの変化は必然だったのだ。確かにこの作品の受けが良くないのは知っている。しかし、時代もこのアルバムの音を必要としていたのではないだろうか?

'90年代に登場した多くのデスメタルバンドは、その後必ずといっていい程、転換期を迎えている。スタート時こそコアなデスメタルサウンドだったSEPULTURAもその後、モダンヘヴィネスや自国ブラジルのトライバルサウンドを取り入れる事によって「ROOTS」というアルバムで頂点を迎える。イギリスのCARCASSも残虐なサウンドから一転し、IRON MAIDENやHELLOWEENといったバンドが得意とするツインリードを取り入れた様式的サウンドを構築し、「メロディック・デス」なるジャンルを築く第一人者となる。このPARADISE LOSTもゴスとデスメタルを融合させた「ゴシック・デスメタル」を経て、その本質にどんどんと迫り、結果自身のルーツといえるDEPECHE MODEやSISTERS OF MERCYを彷彿とさせるサウンドを手に入れる。時代が時代だったからこそ可能だった変化。'90年代末という混沌の時代だったからこそ成せた技なのかもしれない。俺はこのアルバム、上のようなゴス好き、エレポップ好き、そして更にはヴィジュアル系(特に元LUNA SEAのSUGIZOやラルク)を愛する人にこそ聴いてもらいたい。変化球的内容かもしれないが、絶対にオススメの1枚である。

最後に。PARADISE LOSTはこのアルバムリリース後、今年(2001年)春に新作「BELIEVE IN NOTHING」という作品をリリースしている。プロデューサーにNINE INCH NAILSのファースト「PRETTY HATE MACHINE」やDEPECHE MODEの初期作品を手掛けたジョン・フライヤーを迎えたこの新作は、サウンド的には打ち込みよりもバンドサウンドをメインとしたものになっていて、「HOST」よりもゴシック色は薄いかもしれない。シンセサウンドも所々登場するが、メインというよりは飾り程度で、ゴリゴリのディストーションギターが復活している。この「HOST」が旧来のファンに拒絶されたが故の変化なのか、「HOST」を経たからこその進化なのか‥‥それはメンバー自身にしか判らない。けど、俺は「HOST」は駄作だと思わないし、むしろメタルバンドが作り出した1枚としては最高にイカしてると信じている。



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投稿: 2001 09 16 03:15 午後 [1999年の作品, Paradise Lost] | 固定リンク