PAUL STANLEY'S SOUL STATION『NOW AND THEN』(2021)
2021年3月19日にリリースされたPAUL STANLEY'S SOUL STATIONの1stアルバム。
このバンドはKISSのポール・スタンレー(Vo, G)がここ数年の間にスタートさせた、15人編成のR&B/ソウルミュージック・バンド。過去の偉大な名曲群に敬意を表してカバーしており、2018年には日本のブルーノートでの来日公演も実現しています。ある種、KISSを終えた後のライフワークにしようとしているのが見えますね。
今回制作されたデビューアルバムは、ポールのソロワークとしては『LIVE TO WIN』(2006年)以来約15年ぶりの新作。全14曲のうち、9曲が60年代前後のR&B/ソウルの往年の名曲カバーで、5曲が今作のためにポールが書き下ろしたオリジナル新曲となります。制作開始当初はカバー曲のみで構成される予定だったアルバムでしたが、ポール曰く「バンドも曲も、過去だけに頼っていてはいけないと思い始めたんだ。それで、過去と現在とを継ぎ目なく滑らかに結び付けるような曲を書くことを目標に、新曲作りに着手した」そうです。
アルバムで取り上げられたカバー曲はTHE SPINNERS「Could It Be I'm Falling In Love」、SMOKEY ROBINSON & THE MIRACLES「Ooo Baby Baby」、FIVE STAIRSTEPS「O-O-H Child」、THE TEMPTATIONS「Just My Imagination (Running Away With Me)」、スモーキー・ロビンソン「The Tracks Of My Tears」、アル・グリーン「Let's Stay Together」、THE DELFONICS「La-La – Means I Love You」、THE STYLISTICS「You Are Everything」、FOUR TOPS「Baby I Need Your Loving」とロックリスナーにも比較的わかりやすいセレクト。アレンジも特にヘンテコな味付けをすることなく、ゴージャスなバンドセクションにより原曲の魅力を大切にカバーされています。
で、その間に配置されたオリジナル新曲の数々ですが、これらの仕上がりも先のカバー曲に引けを取らないものばかり。ぶっちゃけカバーの原曲を知らない人が聴いたら、どれがオリジナルでどれがカバーか気づかないくらい違和感なく楽しめるものばかりです。かつ、“あのKISSのポール・スタンレー”が書いたと納得できる、KISSの匂いが節々から感じられる内容と言えるでしょう。もともとポールの書くKISSナンバーには、初期からソウルの影響が感じられるメロディラインや節回しが多かったですし、そういった意味でも想定内の完成度だと言えます。
KISSやロックテイストのソロ作では必要以上に力み過ぎた歌唱で、逆にそれが爽快感につながっていました。が、時々聴かせるファルセットなど繊細な表現も彼の魅力のひとつであり、このSOUL STATIONではその側面をより強調させた作風となっています。楽曲や演奏は悪いわけがない、ボーカルも御年69歳のわりに張りがありながらも穏やかさが伝わる、非の打ちどころがないゴージャスな1枚。刺激的な内容ではないけど、ずっと楽しめる良作です。
▼PAUL STANLEY'S SOUL STATION『NOW AND THEN』
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