PLACEBO『NEVER LET ME GO』(2022)
2022年3月25日にリリースされたPLACEBOの8thアルバム。日本盤未発売。
ライブアルバム『MTV UNPLUGGED』(2015年)やEP『LIFE'S WHAT YOU MAKE IT』(2016年)&ベストアルバム『A PLACE FOR US TO DREAM』(2016年)のリリースはあったものの、純粋なオリジナルアルバムとしては『LOUD LIKE LOVE』(2013年)以来8年半ぶり。随分と待たされたものです。前任ドラマーのスティーヴ・フォレストが2015年に脱退して以降、バンドは今日までブライアン・モルコ(Vo, G)&ステファン・オルスダル(B)というオリジナルメンバー2人(にサポートメンバーを加えた編成)で活動を続けています。
デュオ編成になって初のアルバムは、前作から引き続き参加のアダム・ノーブル(BIFFY CLYRO、リアム・ギャラガー、DEAF HAVANAなど)とバンドの共同プロデュース作。レコーディングにはツアーメンバーのマシュー・ラン(Dr)やウィリアム・ロイド(Key, Programming)のほか、ピエトロ・ギャローネ(Dr)などが参加。2019年からじっくり時間をかけて制作した、実にPLACEBOらしい充実の仕上りです。
楽曲スタイル、サウンド面に関してはPLACEBOのパブリックイメージ通りの、グラムロックやニューウェイヴを通過した妖艶なオルタナティヴロックそのもの。ブライアン・モルコの爬虫類系ボーカルも健在で、アルバム冒頭を飾るミディアムテンポの「Forever Chemicals」からして王道のPLACEBO節炸裂といったところでしょうか。
シンセのリフがどことなく80年代的な香りを漂わせるリードトラック「Beautiful James」は、新しいといえば新しいし、らしいといえばらしいという1曲。かと思えば、彼ららしいダークな「Hugz」、ただひたすら美しい「The Prodigal」、エモーショナルさが際立つ「Sad White Reggae」、ポストパンク(というかディスコパンクか)色の強い「Twin Demons」など、新鮮さが伝わる楽曲も豊富です。
本作を聴いて改めて感じたことですが、アクの強いシンガーを擁するバンドの場合、その人が歌えばたとえどんな楽曲でもそれらしく聴こえてしまうんだということ。時にそれが足を引っ張るケースもあるものの、PLACEBOに関してはそこが最大の武器であり、本作のようにカラフルで多様性に富んだ作品に強い統一感を与える結果を生み出している。お見事としか言いようがありません。
しかし、本作の魅力はそういったサウンド面以上に、歌詞やメッセージの側面なのでしょう。事前に公開されたプレスリリースによると、例えば「Beautiful James」は「現代の会話に散見されるようになった、より目立ち始めた無知な派閥への反感をしっかりと表現」しており、ブライアン・モルコは「もしこの曲が四角四面な人たちや堅苦しい人たちを刺激するようになれば、それはそれで喜ばしいことだと思う」とコメントを寄せています。また、そのほかの楽曲に関しても現代社会に対する警告のようなメッセージが綴られており、そういった面が本国でウケている理由なのかもしれません。非英語圏の日本で彼らの評価が中途半端に感じられるのは、そういう歌詞に対する理解も影響しているのかな。
とはいえ、上記に挙げたような楽曲に加え、冷ややかさに人力ドラムンベース調リズムを加えた「Surrounded By Spies」や、どことなく往年のNEW ORDERを思わせる「Chemtrails」(この曲のみならず、本作にはそういった楽曲が複数存在)、繊細なピアノとメロディが切なく響く「This Is What You Wanted」、ドラムレス編成だからこその打ち込みビートを用いた「Fix Yourself」など聴きどころ満載。全13曲/約58分とじっくり吟味するまでに時間を要しそうですが、捨て曲なしの力作ですので、こちらも真摯に向き合いたいと思います。ホント、長く待たされた甲斐がありました。
▼PLACEBO『NEVER LET ME GO』
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